っておい

シロ

文字の大きさ
85 / 92
三、調査は進行して・・・いない!?

3ー24、人影はない。

しおりを挟む
 七海公園は事務所から歩いて三十分くらいのところにある小さな公園だ。滑り台とブランコの他には丈の高い木が生えているが、子供が上らないように手の届きそうな枝は切ってあった。真夜中なため人影はない。人の気配も。
「変だな」
「ああ、確かに変だ」
気配がなさすぎる。気配を隠しているにしても呼び出しておいてそれはないのではないか。
「おい、いるだろ。約束通り、来てやったぞ」
「全員、が約束の条件だったはずでしたが?」
木の陰から男が現れた。孟起はもちろんのこと、雲長にも見覚えがあった。そう、白馬 趙雲だ。雲長にとってその顔は兄者と共に葬式に出た時に見た顔だった。そう、棺桶の中で目を閉じていた。葬式で始めて顔を見た人と再会することは人間よりも長生きしている雲長でも驚きが隠せなかった。
「おまえは・・・・・・」
「時界崩壊以来になります。お久しぶりです副隊長殿」
「セイ・シリュウ、か」
雲長の言葉に子龍は静かに頷いた。
「それは昔の名前です。今は白馬 子龍と申します」
「きさま、やっぱり覚えてたな」
「すみません。少し訳ありで」
そう言って困ったような笑みをうかべた。
「念のために聞いておく。おまえは二ヶ月前に・・・・・・」
「はい、二ヶ月前父の追っていた組織の者に射殺されました」
「なら、何故今生体でここにいる」
「それは色々とありまして・・・・・・閻魔様との約束でもありますし」
「それは、何だと言うのだ」
「えっと、・・・参りましたね」
「答えろ、シリュウ!」
「すみません、無理です」
雲長(人型)の喝でも子龍は言おうとしなかった。お互い何も言わないまま睨み合いとなる。
「言い難いことか」
「ハズレですよ」
孟起の言葉に答えたのは女性の声だった。ただし、子龍の後ろにそれらしき姿は見当たらない。
「さっき事務所に電話してきた女か」
「まぁ、よく覚えていましたね。感心しました」
雲長の額に怒りの四つ角が一つ現れる。
「正解は『言えない』。彼には幾つかの禁忌が枷られてありますから」
禁忌ね。
「と、言っても言葉で説明しきれないものがほとんどですよ。簡単なのでしたら、心魂の状態を他人に話すことでしょうか。だから、彼がどうして生き返ったかは私に質問してくださいね」
「じゃあ、そっくりそのまま質問を返す前に姿を現せ。無礼であろう」
「先程からいますよ。そちらの虎さんの方がとても無礼ですよ。ただそちらが見えてないだけです。子龍、悪いですけど身体を持ち上げてください」
子供なのかと思った。もしくは、獣人族の小動物タイプかドワーフかと。
しかし、子龍が持ち上げたのは確かに小さいことは小さいが、手の平サイズだった。手の平サイズの・・・・・・・水色の布で作られたドラゴンのぬいぐるみ。子龍がはぐらかすのは得意でも嘘が苦手だと知っている雲長も一瞬何かの冗談かと思ったほど意外な物だった。孟起も意外すぎて吸っていたタバコを落としてしまった。
「「・・・・・・」」
二人がリアクションに困っているとぬいぐるみの腕が動いた。子龍が動かしたのかと思ったが、彼の手はどちらもぬいぐるみの足元にある。よって、二人はぬいぐるみが動いたと認めざるを得なかった。
「二人とも私と会うのは初めてですよね。はじめまして、セイユンと言います。漢字で表したいのなら青にさんずいをつけた清に空に浮かぶ雲を使ってください。それ以外は受け付けませんので」
妙なところにこだわる奴である。
「雲長、先に俺が質問していいか。どうしても聞いときたいことがあるんだ」
「・・・・・・わかった。その真剣な眼差しに免じて先を譲ろう」
「・・・サンキュー」
何でそう偉そうなんだよ、と口から出なかっただけ偉い。出たら、子龍たちを無視して喧嘩が始まっていたかもしれない。マジで。
「おまえ」
「はい」
「女か?」
雲長の頭の中で何かが音を立てて切れた。
「それのどこが大事な質問だ!」
「俺にとっては何よりも重大だ!」
「女と答えたら口説く気か!!」
「人外に手を出すほど困っちゃいねーよ!!!」
「「で、どっちだ?」」
「私ですか。男ですが?」
「ちょっと待て、何故帰ろうとする!!!」
「オカマと関わりになりたくないだけだ!!!!」
「変声期前の少年かもしれん。失礼だろうが!!!!!」
「どう聞いても大人の女の声だろうが!!!!!!」
などと、漢蜀の二人が怒鳴り合っている側で。
「子龍、オカマとは何ですか?」
「彼の言い様だと女装した男性のことでしょうね」
「女装とは?」
「簡単に言えば、女性用の服を男性が着ることでしょうか。逆に男性用の服を女性が着ることを男装と言います」
「まぁ、こちらでは性別によって服が違うのですか?」
「ええ、体格差もありますし。区別せずに着用される方もいらっしゃいますが、基本的には。下着はかなり異なりますね。そちらにはなかったのですか?」
「私たちって男女の体格差はないから。それぞれ着たい物、自分に似合う物を着てましたよ。北の山でもそうでしたね」
方や喧々轟々、方やほのぼの。内容は当初の目的とはかけ離れたもの。そして、無意味な会話を止める者はこの場に一人もいなかった。


                                      続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

処理中です...