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一、Boy(?) Meets Girl(?)
1ー12、事実は事実だ。
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校庭に着地したタイラはある窓の下の方から薄っすらと何かが光っていることに気がついた。そばにいっても壁と猫の背丈のため何があるのか全然見えないが、光源がこの壁の向こうにあるのだけはわかった。
「壁を破ったら怒られるでござるな」
誰からか。もちろん尊敬する父、雲長からである。先生からと思いつきもしないところがタイラらしい。
尻尾をチョイと振って、隙間風で窓の鍵と窓自体を開けた。サッシに飛び乗り、誰もいないことを確認するとタイラは廊下に下りた。
そこには学校で雇ったとは思えないほどの警備員が山積みに折り重なっていた。光源はそばに転がっている懐中電灯の一つだったようだ。調べてみると皆、一撃で倒されて、引きずった跡はあっても争った形跡は皆無と言っていい。首筋のみに薄い痣。実に見事である。
「ただの泥棒ではないでござるな」
普通の(?)泥棒ならここに来たときに気配を察知できた。だが、再度気を張り巡らしても生人の気配は一つ、孟起のものしかない。
つまり、自分たち以外の侵入者はタイラに読めないほど気配をきれいに消せる者、かなりの実力者ということになる。
しかし、それ程の者が懐中電灯を消し忘れるだろうか。おそらく、何か意図があってそのままにしておいたのかもしれない。例えば、タイラのような他の侵入者にさっさと引き返せと忠告するために。
「敵でなければいいでござるが」
心底の願いを小さく呟きながら軽い身のこなしでタイラは階段を上がった。彼が探しているのは女子の間で噂になっている例の少年の霊だ。
しかし、探索開始から1時間経過。校庭や校舎内をこれだけうろついても一向に見つからない。霊が通ると微粒の霊気が跡に残る。タイラはそれも目印に探しているのだが、見つける霊気は他の霊のものばかり。お爺さんの浮遊霊の長話につき合わされ、先生の幽霊に怒られ、子供の幽霊に追い掛け回され、ボールの幽霊を追い掛け回し・・・・・・・ハタと本能に負けていることに気が付くタイラ。ちょっと情けなくなった。
走り回って辿り着いたのはコンピューター教室だった。パソコン教室は教育棟や実習棟と別にあり、一階が視聴覚教室、三階には物置と渡り廊下があり、教育棟三階と繋がっている。三角の耳を澄ませると中からカタカタと小さなタイピングの音がする。ドアを前足で少しだけ開くと他より新しいからかガラガラと喧しい音はしなかった。
開いた隙間から覗き見ると一番奥、それも左端のパソコンが起動しているのか、画面から光が出ている。
「・・・・・・まさか、本当にでたのでござるか?」
傍から見ればタイラもれっきとした妖怪なのだが、人間としての生活が長いためか本人はあまり自覚していないようだ。
少々引けてしまった腰を気力でもち返すと気配を消し、忍び足でゆっくり近づく。中ほどまで来たとき、パソコンの前に誰かが座っているのが見えた・・・・・・と思った次の瞬間に見失った。慌てて辺りを見回すが、それらしき人影はどこにもない。
もう一度パソコンのほうを向いた時、温かな感触と共にタイラの体が上へ上がる。手足や尻尾を振り回して暴れるが、首の後ろを掴まれてはリーチの短い手足では触れることができない。こうなればと力を使おうとしたまさにその時だった。
優しく喉を撫でられ、あまりに気持ち良さため、タイラは無意識にゴロゴロと喉を鳴らした。全てがどうでもよくなる夢見心地の中、ほとんど無意識に顔を上げるとドキッと胸が鳴った。
非常に愛らしい少女が自分の頭を微笑みながら撫でているのだ。高鳴らないわけがない。雪のように白い肌。背を流れる黒髪はどこか銀波に似ている。瞳は長く伸びた前髪に隠れて見ることが出来ない。不規則に伸びている後ろ髪は特に長い部分のみ白い紐で一纏めに括っている。そこにいるのにその場にいないような雰囲気を持つ幻影のような少女だ。髪を整えれば更に美しさが倍増するだろう。
「あの、君は・・・」
その時だった。偶然窓から入ってきた夜風で顔を隠していた髪が揺れ、一瞬だけ見えた澄んだ黒曜石の瞳。ただの黒ではなかった。薄っすらと青みのかかった深海の色だ。背中を撫でる細い指が大丈夫ですかと言っている。心地よさにタイラは目を細めた。
初対面にここまで身を許したのは、実は彼女の容姿、気質共々タイラの好みにピッタリ一致、ビンゴしていたからだ。百七十四にして初めて来た春だ。一気に舞い上がってしまったため、放課後に女子生徒たちが話していた内容が一部頭からロストされてしまった。
一通り撫で終えると、少女はタイラを窓のそばの台に下ろした。温もりが離れ、少しガッカリしたのかタイラの尻尾が机を撫でた。少女は窓を開けてからもう一度優しく喉を撫でると窓の外を指した。ここから出て行ったほうがいいといっているようだった。
タイラが机の上から動かないでいると、少女は例のパソコンを操作し始めた。タイプを打つ姿を観ているうちにタイラは自分がとんでもない勘違いをしていたことに気がついた。
身に着けているのは白のカッターシャツに黒のズボン。座っているイスには黒の上着が掛けてある。そう、西華学園の男子用制服だ。つまり、学ランである。そして脳裏を駆け巡る放課後に聞いた少女たちの会話。
「つまり、拙者は・・・・・・」
それ以上考えるのが恐ろしくてタイラは強く首を振り、必死に否定しようとする。
しかし、事実は事実だ。
続く
「壁を破ったら怒られるでござるな」
誰からか。もちろん尊敬する父、雲長からである。先生からと思いつきもしないところがタイラらしい。
尻尾をチョイと振って、隙間風で窓の鍵と窓自体を開けた。サッシに飛び乗り、誰もいないことを確認するとタイラは廊下に下りた。
そこには学校で雇ったとは思えないほどの警備員が山積みに折り重なっていた。光源はそばに転がっている懐中電灯の一つだったようだ。調べてみると皆、一撃で倒されて、引きずった跡はあっても争った形跡は皆無と言っていい。首筋のみに薄い痣。実に見事である。
「ただの泥棒ではないでござるな」
普通の(?)泥棒ならここに来たときに気配を察知できた。だが、再度気を張り巡らしても生人の気配は一つ、孟起のものしかない。
つまり、自分たち以外の侵入者はタイラに読めないほど気配をきれいに消せる者、かなりの実力者ということになる。
しかし、それ程の者が懐中電灯を消し忘れるだろうか。おそらく、何か意図があってそのままにしておいたのかもしれない。例えば、タイラのような他の侵入者にさっさと引き返せと忠告するために。
「敵でなければいいでござるが」
心底の願いを小さく呟きながら軽い身のこなしでタイラは階段を上がった。彼が探しているのは女子の間で噂になっている例の少年の霊だ。
しかし、探索開始から1時間経過。校庭や校舎内をこれだけうろついても一向に見つからない。霊が通ると微粒の霊気が跡に残る。タイラはそれも目印に探しているのだが、見つける霊気は他の霊のものばかり。お爺さんの浮遊霊の長話につき合わされ、先生の幽霊に怒られ、子供の幽霊に追い掛け回され、ボールの幽霊を追い掛け回し・・・・・・・ハタと本能に負けていることに気が付くタイラ。ちょっと情けなくなった。
走り回って辿り着いたのはコンピューター教室だった。パソコン教室は教育棟や実習棟と別にあり、一階が視聴覚教室、三階には物置と渡り廊下があり、教育棟三階と繋がっている。三角の耳を澄ませると中からカタカタと小さなタイピングの音がする。ドアを前足で少しだけ開くと他より新しいからかガラガラと喧しい音はしなかった。
開いた隙間から覗き見ると一番奥、それも左端のパソコンが起動しているのか、画面から光が出ている。
「・・・・・・まさか、本当にでたのでござるか?」
傍から見ればタイラもれっきとした妖怪なのだが、人間としての生活が長いためか本人はあまり自覚していないようだ。
少々引けてしまった腰を気力でもち返すと気配を消し、忍び足でゆっくり近づく。中ほどまで来たとき、パソコンの前に誰かが座っているのが見えた・・・・・・と思った次の瞬間に見失った。慌てて辺りを見回すが、それらしき人影はどこにもない。
もう一度パソコンのほうを向いた時、温かな感触と共にタイラの体が上へ上がる。手足や尻尾を振り回して暴れるが、首の後ろを掴まれてはリーチの短い手足では触れることができない。こうなればと力を使おうとしたまさにその時だった。
優しく喉を撫でられ、あまりに気持ち良さため、タイラは無意識にゴロゴロと喉を鳴らした。全てがどうでもよくなる夢見心地の中、ほとんど無意識に顔を上げるとドキッと胸が鳴った。
非常に愛らしい少女が自分の頭を微笑みながら撫でているのだ。高鳴らないわけがない。雪のように白い肌。背を流れる黒髪はどこか銀波に似ている。瞳は長く伸びた前髪に隠れて見ることが出来ない。不規則に伸びている後ろ髪は特に長い部分のみ白い紐で一纏めに括っている。そこにいるのにその場にいないような雰囲気を持つ幻影のような少女だ。髪を整えれば更に美しさが倍増するだろう。
「あの、君は・・・」
その時だった。偶然窓から入ってきた夜風で顔を隠していた髪が揺れ、一瞬だけ見えた澄んだ黒曜石の瞳。ただの黒ではなかった。薄っすらと青みのかかった深海の色だ。背中を撫でる細い指が大丈夫ですかと言っている。心地よさにタイラは目を細めた。
初対面にここまで身を許したのは、実は彼女の容姿、気質共々タイラの好みにピッタリ一致、ビンゴしていたからだ。百七十四にして初めて来た春だ。一気に舞い上がってしまったため、放課後に女子生徒たちが話していた内容が一部頭からロストされてしまった。
一通り撫で終えると、少女はタイラを窓のそばの台に下ろした。温もりが離れ、少しガッカリしたのかタイラの尻尾が机を撫でた。少女は窓を開けてからもう一度優しく喉を撫でると窓の外を指した。ここから出て行ったほうがいいといっているようだった。
タイラが机の上から動かないでいると、少女は例のパソコンを操作し始めた。タイプを打つ姿を観ているうちにタイラは自分がとんでもない勘違いをしていたことに気がついた。
身に着けているのは白のカッターシャツに黒のズボン。座っているイスには黒の上着が掛けてある。そう、西華学園の男子用制服だ。つまり、学ランである。そして脳裏を駆け巡る放課後に聞いた少女たちの会話。
「つまり、拙者は・・・・・・」
それ以上考えるのが恐ろしくてタイラは強く首を振り、必死に否定しようとする。
しかし、事実は事実だ。
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