っておい

シロ

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二、違いにご用心

2ー1、思考が彼そっくりだったそうだ。

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 学校幽霊と魔物の騒動の翌日、騒ぎの間に十二時を過ぎた為翌日と記すのは甚だ疑問だが、混乱しそうなのであえて翌日ということにしよう。
翌日、タイラは朝から授業に全然身が入ってなかった。それどころかどの先生が何度注意してもまるで上の空。頭の中では昨日の香月先生との会話が何回も反復される。
『何度か会ったけど、詳しくは知らないわよ。あの子、自分のこと話さないから』
話す理由がない時、必要な事項がない時、それ以外の時も常に彼女は黙っていた。お喋り好きではなさそうなので普段から会話数が少ないのは容易に推測できる。
『昼間の授業を受けていたし、この学校の生徒であることは確かよ』
時界一の閉鎖的空間と称されるカーレントの少年風幽霊が単語単語であったが、一般には存在すら知られていない異時界エターナニルの共通語を話せたのか?時空の歪によって跳ばされたと考えられなくもないが、それなら同じ言葉で返したタイラを同族であるとすぐに察したはずなのでそれなりの反応をするはずだ。帰りたくないのなら別だが。
しかし、彼が授業を忘れるほど真剣に思い悩ませているのは仕事に直結している部分ではなかった。ある意味、今後の行動における悩みの種ではあったが。
『えっと、確かこの学年の・・・・・・いた、この子よ』
「二年E組って今日拙者らが編入したクラスでござる」
「女子生徒だとよ。よかったな」
この部分である。気が気になって気が気でなかった。
朝早くまだ先生もいないうちに登校し、一番に教室に入った。本を読むふりをしながら入ってくる生徒を一人一人確認した。もちろん、彼女を探すために。
しかし、クラスメートが全員揃い、担任の先生が入ってきて点呼を取り出してもサードに似た風貌の少女は見つからなかった。
夜の学校内で起きた一件で知り合った時、タイラは彼女の気はしっかりと念入りにしっかりと脳に焼き付けた。ウェルダンを通り越して焦げるくらいガッチリと。あんな独特の気を忘れるはずがない。そうでなくとも、助けられたときから彼女の心の強さに惚れ込んでしまい、明日学校での再会を夢見て帰ってから全く眠れなかった程だ。タイラにとって忘れようにも忘れられない気なのだ。
動機としては少々不純な気もしないでもないが、タイラはいつもよりも張り切って探査していた。張り切り過ぎて登校前に怒る事は会っても気にかけることは少ない父親から心配された程に。
だが、未だにそれらしき気すら見つけられない。担任の先生曰く、今日も欠席なし。だから、彼女もタイラと同じ教室内にいるはずなのだ。
しかし、いくら神経を集中させ、五感を研ぎ澄ましても気の一片すら未だに感知できていない。
気は人の魂の構成主成分。心は魂呼ばれる精神体の内側にある人の思考を構成する部分だ。心がある者には気が必ず存在する。しかも、魂の個性は全て異なり、同じ人は一人としていない。例え、外見的にも精神的にも近似している一卵性の双子でも気の細部までは同じではない。精神のDNA配列を分析しているとも表現できる。
しかし、気は人から離れるとその場に安定しにくく、人が多いと混ざり合って感知しにくい欠点もある。強さも色も人それぞれだ。学校のように人が集まる場所は気が拡散しやすい。それを第六の感覚で触れながら一人一人が纏っている気と照合していくのだが、人相と同じく人によって纏っている気の強さも質も異なる。稀に身体から気を発しない人もいたりする。また、写真みたいに転写や保存ができないため、人に教えるのは全部口頭となる。ある意味指紋より厄介で、記憶力と言語力の勝負となる。どれが誰の残留気か特定するのはさらに困難な作業だ。訓練してないとまずできない。
その上この場は霊気場が滅茶苦茶で、残留意識も集まりやすいため、気の数と人の数が一致するはずがなかった。
しかも、彼女の気はあまりに透明で儚い。感知し難い気の代表格だ。
なので、タイラは授業そっちのけで微かな気配を探っていた。傍から見るとその姿は空を眺めながらボーっとしているように見える。しかも、初恋なため、なおさら必死に探している。先生の声などタイラの耳に掠りすらしない。とても百七十五歳とは思えない純情であるが、獣人族の年齢で考えるとタイラは青春真っ盛りの中学生に当たる。別に不思議でもない。
今のところわかったことは、サードの兄らしき青年の気は感じられないため彼は学校に来ていないもしくは学校関係者ではないということぐらいである。サードと異なり彼の気ははっきりしていたのでまず間違いない。
「しかし、本当でござろうか?」
孟起曰く、どうやら彼は前の世界で玄劉によって編制された支援輸送部隊に所属していたセイ・シリュウらしい。まだ確信はないらしいが、容姿や槍術の技術、思考が彼そっくりだったそうだ。
そう思った理由は答えなかったので、疑問は残るものの自分よりも彼と直接会って話した時間の長い孟起が言うなら信じていいかもしれない。たとえ孟起がタイラの父親と違って隊ができた後に玄劉の配下に加わった者でも同じ部隊にいた者同士には変わりない。共に戦っていた仲間を見間違えることはないだろう。
短時間だが自分も直接会ったし、孟起が魔導歌を唱えている間エバの攻撃を防ぎ、足止めしたとも聞いた。青年幽霊は父上の話に出てきた人そのままだった気がしてきた。同一人物である可能性は高い。
しかし、孟起はタイラが雲長に報告しようとするのは止めろと帰り着く前に釘を刺した。理由は実物証拠がないからだと言っていたが、他にも何かあるのではないだろうか。サードも同じ部隊に所属していたのかと聞いたが、こちらは表情を苦くしただけで何も答えなかった。


                           続く
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