っておい

シロ

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二、違いにご用心

2ー7、全身の毛がゾワゾワと波打つ。

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 孟起が遅い昼食を食べているとき、タイラは床にへたりこんでいた。いくら調べても全然全くこれっぽっちもわからない。それでも調べ始める前より少しの進展はあった。
ここから電車で一時間の範囲内を中心に地図を見回したところ、文の前半、禍が起こる時と走る赤き鳥と潜る黒き門の正体の見当はついてきた。禍が起こる時は逢魔が時のことで、つまり夕方の薄暗い時間帯のこと。走る所と言えば道路。なら赤い鳥らしい名前の道を探せばいい。近辺を探すと学校最寄りの駅から5つ離れた駅のそばに朱雀街道を見つけた。山に近いが交通状況がよいため、かなり大きな住宅街となっている。朱雀街道はそこの商店街の真ん中を走っている。赤い鳥と虎と龍と聞いて思い浮かぶものと言えば、東西南北を守護する四神である。赤い鳥は朱雀だから、彼女が示したのはおそらくこの道のことだと考えられる。この道のどこかに黒い門があり、それが玄武に関係しているのだろう。さすがにそこまで細かくは記してないので、こればかりは実際に行って見て探すしかない。しかし、後半の野に放すは虎の子の意味と龍に与えるものの見当がつかないのである。流れからすると、青龍と白虎に関係するものと思われる。もしくは水や風に関するもの。
「・・・気分転換に孟起の頼みでもやってみるのもいいでござるな」
ならば、早速実行に移さなければならない。ファイルは職員室に保管されている。なら、先生がいなくなる授業中に忍び込めば一番確実に成果が得られる。
手を使わずにバック転をするとタイラの身体は黒い猫に姿を変えた。変化させたわけではない。どちらも獣人であるタイラにとって本来の姿なのだ。さらに言うなら、人型は人間年齢に置き換えると十六歳頃の青年で、獣型はまだ猫ぐらいの大きさだ。父親と異なり迫力の欠片もないこの姿は悔しくもあるが、獣型は偵察に丁度いい。猫に人間の法は通じないので、あまり警戒されないし、不法侵入にならない。その代わり、殴り殺されても文句は言えない。
風に乗り、中庭に面した窓から職員室の中を覗き見た。中には男の先生が二人。どちらも痩せ型で片方は白衣を着ている。確か数学と物理の先生だ。どちらも不思議系の出来事は全く信じないタイプである。だったらいくらでも方法はある。風を操作し、昨晩と同じように窓の鍵を開ける。尻尾で器用に窓を開けると窓枠に着地した。
「ぅん、窓は全部閉めていたはずだが。」
「見ろよ。赤と緑の瞳。どんなゲノム構造から生まれたのだ。」
全身の毛がゾワゾワと波打つ。白衣の方の目が不気味で気持ちが悪い。だが、タイラと目を合わせた途端に二人の先生は身体の力が消えたかのようにその場に崩れ落ちる。
「一般の人間は催眠術で簡単に大人しくしてくれるから助かるでござる。」
目的の資料がしまってあるファイルは昨晩見たものなのですぐに見つかった。
「・・・・・・港区、サントアルマンション、十二階、一号室。凄いところに住んでいるのでござるな。両親は共に死亡していて一人暮らしでござるか?!」
金持ちしか住めないと言われる超高価マンションである。一番安い部屋でもタイラの一年間の給料のほとんどを使ってようやく一ヶ月借りられるところで、とても高校生が一人暮らしできる部屋でない。
昨晩の少女の可能性の高い井上 久美子。その部屋を調べれば彼女があの凛とした不思議な雰囲気のサードだという確かな証拠が出てほしい。それを望んでいる自分がいることにタイラは驚きもしたが、そんな自分が可笑しくも思えてきた。
まだまだ半人前のタイラだが、人間の寿命分はすでに生きている。その中でいろいろな出会いがあった。黒虎族は位が高い者が多く、その中でもタイラの父、雲長は黒虎一と謳われる将軍である。この時界に移るまで成人を迎えた彼の息子のタイラにぜひ自分の娘を嫁にしてくれとやって来る者や自分と付き合ってくれと部屋にまで忍び込む者、脅迫する者まで現れる始末。父が玄劉殿と再会したのは同じ目的で途切れることなくやって来る訪問者にタイラがうんざりしていた時だった。花嫁候補の女性たちは父の友人が薦めるだけあって美人である。だが、どの女性ももう一度会いたいと思いすらしなかった。断るにも慎重さが必要だったが、皆キッチリ別れ話をした。
しかし、サードは今まで出会ったどの女性とも違った。そして、井上 久美子も。恋心が短期間で二つも発動した。こうなれば、二股にならないことを祈るばかりだ。思いは謎が多いためかサードの方にときめきが強い。もう一度会って話がしたい。もっと彼女のことを知りたい。あの漆黒の瞳の奥に見え隠れしていた心の傷跡の意味を。


                            続く
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