っておい

シロ

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二、違いにご用心

2ー9、その辺は上手くやれる。

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 タイラは学校を抜け出した。猫の姿になってからにしようかとも思ったが、行方不明になったと騒がれるほうが困るので先生の机にメモを置き、守衛のおじさんに顔を見せてからにした。それに町中での行動は猫よりも人間の姿の方が何かと便利である。
だが、駅まで行くとタイラは猫の姿に戻らざるを得なくなった。教室に入れなかったため、財布ごと鞄を学校に置いてきてしまったのだ。お金がなければ電車に乗れない。でも、猫なら只である。見つかって追い出されなければだが、その辺は上手くやれる。機材を壊したとき節約のためよくやっていることだ。
鞄置きの網の上に座ると大きな欠伸をした。電車の揺れが心地よく、瞼が閉じそうになり、首を振ってとどめた。五つ目の駅で降りるとそこは惑うことなく朱雀通りだった。駅の正面入り口を出てすぐのところに大きなアーチがあり、そこに堂々と『朱雀通り商店街』と鮮やかな色彩で描かれていた。背景には少しペンキが剥がれた朱雀の絵が描かれている。だが、その門を潜ってからいくら歩いても黒い門らしきものは見当たらなかった。
「らっしゃい」
「すみません。この辺に黒い門ってないでござるか?」
目に付いた八百屋で聞いてみることにした。
「ああ、それならこの道を真っ直ぐ行って、駄菓子屋さんの角を左に曲がってしばらく行ったところにある玄武門だな。そこを抜けると住宅街になる。昔は沢山あったが、今はそこしか残ってないね」
地元では結構有名のようだ。
「ところで兄ちゃん、何か買っていかんか?今日はいいトマトがたんとあるよ。ナスも上玉だ」
「本当に上手そうだが、時間がないでござるよ」
「なんだ、兄ちゃん。これからデートか?」
それならどんなにいいことか。
「まだその前の段階でござる。あと、白虎とか青龍とかいう感じの名前がついた場所を知らないでござるか」
「生憎、この近くには聞いたことないね。そう落ち込むなって」
「そうですよ。ナゾナゾを返されたのならまだ脈ありなのですから。相手も照れているんですよ」
何時の間にか横にいた老婆にも励まされた。
「それで、どんなナゾナゾかい?その様子だときちんと解答できたわけではなさそうだね。こんなばーちゃんでよければ話してごらん」
さすが年の功。長年の経験でタイラの表情から一気に読み取った。地元の人なら自分に判らない何かを読み取れるかもしれない。
「『災いが起こる時、走るは赤き鳥、潜るは黒き門。野に放すは虎の子、龍に与えるは何ぞ?』でござる」
「ああ、それでここに来たって訳か。しかし、俺が言うのもなんだが、出した奴の思考が固いというか、可愛げがないというか」
そんなのに縁のない鬚面のおっさんが言う筋合いはないと思うが、言われた本人は例えこの場にいたとしても気にするとは思えなかった。
「いえいえ、なかなか面白いナゾナゾですよ。昔私が出したものより考え応えがあると思いますよ」
告白にクイズで答える女の子があいつの他にもいたのか。昔からのプチブームだったりするのだろうか。
「そうねぇ。ここに来たのはいいと正しいと思うわ。黒き門も玄武門であっているんじゃないかしら。あとは虎と龍だけど、たしかあの住宅街には玄関に虎の置物がある家があったと思うんだけど、そこじゃないかしら。龍はその家の庭にでもあると思うの。そういえば、最近雨が降らないわね~。そろそろ降ってもらわないと水不足になりそうよ」
のんびりとした老婆だが、新しい情報が得られた。そうなればジッとしていられないのがタイラの本性だった。学校では抑えていたが、結局飛び出したので無駄な努力となった。
「若い子は元気があっていいわね。おじいさんを思い出すわ。彼もああやって必死に私が出したナゾナゾの答えを探して走り回ってくれたの。嬉しかったわ。でも・・・・・・」
「何か問題があるんですか?」
トマトとナスを袋につめながら尋ねる。
「最後の一文、『野に放すは虎の子、龍に与えるは何ぞ?』って文があるでしょう。きっと答えは水なのだけど」
「なんでわかるんですか?」
「ことわざにあるのよ。虎の子を野に放し、龍に水を与うって。意味は危険なものを野放しの状態にしておくこと。または、災いのもとを絶たずにして、それが後に大きな災いをもたらす例えでもあるの」
「あいつ、振られるんじゃないですか?」
「振るのならその場でしているでしょう。ナゾナゾを出してそこに来るように言っているから二人っきりで話したい気持ちはあるのね。だったら、それだけ心を許している証じゃないかしら」
「まぁ、あの熱血一直線の若造が惚れてるんだ。悪い奴じゃないだろう」
走り去ったタイラに暖かい眼差しを贈る二人だった。


                          続く
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