っておい

シロ

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二、違いにご用心

2ー14、一ヶ月程前にさかのぼる。

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 一ヶ月程前にさかのぼる。いつものように厳しい稽古の後、大会前でないのに珍しく師範から呼びがかかった。師範は悪いところも良いところもその場でハッキリと言う人である。こういうことは初めてで、はて何だろうかと首を傾げながら師範に声をかけた。
「え、」
「だから明日、時間まで小龍としばらく一緒に出かけてほしいのだ」
師範の突飛な言葉に慎司の目が点になる。大真面目な目で見るもんだから次の言葉が見つからないで口をパクパクさせる。
「近くに新しく遊園地がオープンしただろ。チケットもある。君は最近根を詰めすぎている。二人で気晴らしに遊んでくるのも良いだろう」
「真面目なのはいいが、たまには生き抜きも必要であろう」
はい、とチケットの入った封筒を渡したのは師範の息子で師範代でもある青年だった。彼は慎司にとって憧れであり、こっそりとライバル視していた。その理由は・・・・・・。
「父上、兄上、お風呂の用意ができました」
襖を開けて顔を出したのは長い黒髪が印象的な星嶋学園高学部の制服を着た少女だ。華奢でどこか浮世離れした儚げな印象を受ける少女だが、武術は慎司と互角の勝負ができるほど実力を持つ。ただし、人前で試合をしたことはない。師範が浜辺で拾った子供だとか。中国からの留学生だとか。師範の隠し子とか。始めは色々な噂が飛び交ったが、師範もその妻も師範代も何も言わないので、どこまで真実かわからない。彼女自身も自分の名前が雲 小龍(ユン シャオロン)であることしか言わないので他の事は一切わからなかった。
最初は気にする人もいたが、この頃にはもう誰も気にしていなかった。あまり話さないが、気配り上手で人当たりはいい。みんなは親しみを込めてシャオと呼んでいた。
「小龍、明日の予定はどうだ」
「午前中に花華祭の片付けがあります。帰宅した後は通常通り稽古に励む予定です」
「慎司君も学校は午前中で終わるからその後一緒に遊園地にでも行っていきなさい。チケットは彼に渡しているから。思いっきり遊んでくるといい」
「よろしいのですか」
「ええ、いつも家事を手伝ってくれるお礼ですよ」
師範と奥さんが微笑むとシャオは少しはにかんだ笑みを返した。
「ありがとうございます。その厚意謹んでお受けいたします。慎司殿、不束者ですが明日はどうぞよろしく御願いいたします」
癖一つない黒髪を垂らし、深々と御辞儀をすると奥さんと共に部屋を出て行った。
「あれでは慎司君のところに嫁入りするかのようだな。私たちに対しても未だに他人行儀が抜けなくて困る。そろそろもう少し心を開いても良いと思うのだが」
初めて見る師範の呆れた顔は娘が懐いてくれなくて困っている父親の顔そのものであった。
「心配しなくても大丈夫でしょう。随分笑うようになりましたし」
「そうか・・・・・・」
哀愁を漂わせながら風呂へ向かう師範の姿にいつもの威厳は全くなかった。
「シャオ、同じ敬語で話していても私達には大分懐いているだろ。表面に出さないようにしているが、父はかなり気にしているらしい」
私達にの言葉が嬉しい。
「しかし、何でシャオと遊びに行ってくれと?」
キョロキョロと辺りを見回し、誰もいないことを確認すると耳元で囁いた。
「明日シャオのサプライズ誕生日パーティーをする。誕生日はわからないけど、明日がこの家に来て丁度一年なんだ。君には悪いけど、その準備の時間稼ぎをしてもらいたい。もちろん、パーティーにも参加してほしい。時間があればだが」
「もちろん、一役買わせてもらいます」
とても美味しい役柄だった。それに自分が任命され、ここで断るのは男が廃る。
「シャオはまだまだ世間を知らない。色々と迷惑をかけるかもしれないが、守ってやってくれ。準備が整い次第連絡するから、頼んだぞ」
俺は大きな声ではいっ、と返事をした。

 翌日の午後、俺と小龍は開園したばかりの遊園地で思いっきり遊んだ。小龍は遊園地に来るのが初めてらしく人の多さや奇妙な形の乗り物に戸惑っていたが、遊ぶ所だと説明して手始めにコーヒーカップに乗せてみた。調子に乗って回しすぎたため、二人とも目を回してフラフラになった。続いてメリーゴーランドに乗せてみたところ大層気に入ったらしく、二回目には俺も乗せられた。この年になって乗るのは恥ずかしかったが、周りからカップルだと言われると悪い気はしない。二回目を下りてくると小龍は遊園地を大層気に入ったようで眩しい笑顔で「ここの気はとっても楽しいです連れて来てくれてありがとうごさいます」とお礼を言った。お礼はもちろん嬉しいが、どうせなら俺の気持ちに気づいてほしかった。それから多くの乗り物に乗った。あれはどんな乗り物ですか、こっちはどうですか普段必要なことしか話さない小龍がワクワクしながら笑顔で問いかけてくる。その瞳は夜空の星を映す湖の如く輝いていた。
 結局日が暮れる頃、二人は全ての乗り物を制覇していた。小龍は意外と絶叫系が気に入ったらしく、俺の方が先にダウンしてしまった。苦手なのはおそらくお化け屋敷。脅かされるたびに緊張していた。しがみついてこなかったのは些か残念だった。それどころか差し出した手は遠慮されてしまった。でも、嫌われているわけではないらしく出口で小さくごめんなさいと呟いてくれた。緊張した普段なら見られない顔は不謹慎だが、とても可愛らしかった。

「えっと、聞きたいのは事件があった時のことで、その辺は飛ばしてくれて結構でござるよ」
「いや、十分重要だ。あいつがどれだけ可愛いかわかるだろう」
事件の前振りにしては長い気がする。遊園地での話は関係なさそうだ。
「でも、最近一寸悩み事があってな」
「悪かった。続けるでござる」
だが、疑問を晴らすために、タイラはそれ以上何も言わずに聞くことにした。

                                続く
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