っておい

シロ

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二、違いにご用心

2ー23、どこか納得のいかない

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 岱からの情報を頼りに一部紛失した社長の親友に会いに行こうと彼の家に向かったが、既になかった。辺りを散策していると胡散臭い気を漂わせている車を発見。その直後、おまえらが走り出てきたのを目撃。その後を追うように静かに出発する黒い車。これは何かあるなと孟起はこっそり後をつけた。
「つまり、孟起は拙者たちに銃が向けられていたときもそばにいたのでござるか!?」
「ああ、そうだが」
悪気もなく言い放った孟起にタイラは二句が告げられなかった。確かにあの状況で助けに現れても慎司がいるので孟起も術が使えない。孟起は術に銃を使用するので普通の弾丸に交代して応戦することもできたが、これも同じ理由で却下。下手すれば孟起が銃刀法違反で逮捕される。それでは本末転倒どころではない。完全にマイナスになってしまう。そう考えていくと孟起の行動は最も適切だったのではないか。
理屈ではわかっているのだが、どこか納得のいかないタイラだった。
「で、そっちの坊主はどこのどいつだ?」
「黒崎 慎司。白馬道場の元門下生でござる」
「そう言うそっちこそ誰だよ」
「俺か、錦 孟起。元運送会社の社員ってところだ」
「っ、そうなのか!?」
「なんでおまえが驚くんだ」
「拙者も初耳でござる」
別に話す事なかったならな、と孟起は微かに呟いた。
「過去の俺が何だっていいだろ。それより白馬家の知り合いなら話は早い。その家の者と話がある。取り持ってくれ」
慎司の表情に苦悩の色が浮かぶ。
「そのことなのだが、白馬家は一ヶ月程前に殺害されたのでござる」
「それでなかったのか」
「別にいいって。同日にどっかの国の総理大臣が暗殺、比例代表選挙の発表、飛行機のハイジャック事件、プロ野球団の優勝。他の事件でスッカリ霞んださ。憶えているのは地元の特に親しかった人か元門下生の一部ぐらいだろ。事件から一ヶ月、忘れるのに十分な時間が経過した。あの件に疑問を持っているのはもはや俺くらいだ」
ハァとため息を吐く慎司に孟起は一枚の写真を見せた。
「じゃあ、白馬の誰かがこの学校のことで何か話していなかったか?」
写真には校舎の一部が写っていた。アングルからして近くの路上から撮ったものだろう。
「どこの校舎だ、これ」
この写真でどこだかわかったらそれこそ超能力でも持っているのではと疑う。何の特徴のない校舎の写真なのだから。
「西華高校だ。進学校として有名らしい」
「ああ、俺もここにしようとしたことがあった」
「止めた理由は」
「師範代に言われたんだ」
体育教師になりたいなら葉月高校のほうがいいと思う、あなたの学力なら通れるはずだから頑張ってみないか、と。
「そういえば、他の門下生も似たようなアドバイスを貰ったと言ってたな。門下生でそこに入学した奴はいなかったと思うぞ」
弟子の気を他に逸らしてさり気なく別の学校に入学するように仕向けたのだろうか。故意か単なる親切か。本人がいない今では確認が取れないことだが。
「じゃあ、最後の質問だ。何故白馬家が殺されたか、おまえに理由をわかるか?」
「・・・・・・わかっていたらこんなにも悩まないさ」
「それもそうだな。おまえはこの件から手を引け。故人もそれを望んでいる」
孟起から渡されたのは先程奪われたあの紙だった。濡れた緑の龍が涙を流しているように見える。達筆な筆跡で書かれた手紙を慎司は必死で追った。
「何時か殺されると覚悟をしていたのだろうな。おまえみたいな奴が出ることもわかっていたのだろう」
「・・・・・・師範の奥さんから。自分たちの未来を信じ、目標に向かって恐れず突き進む事を忘れるな、と」
握りしめた紙は慎司の手から零れ落ちる。涙の代わりのように。


                             続く
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