転移者と転生者と現地チート

シロ

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28、

合成より難しい

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 ビイイーーーーーーーー
 巣がけたたましく震えた。
「何だ?」
「来客を歓迎しているようには見えないのです」
「異変。うん、寧ろ逆かな・・・・下がって」
 背負っていた剣を抜いて縦に構える。只ならぬ気を察知したナナが防寒着の冒険者の背後に回る。冒険者も感じているのだろう。巣の中に突如現れた禍々しい魔力を。自然発生ではない。蜂達の動きが、慌ただしくなった。まるで、何かに怯えているかのように。
ピタリと沈黙が下りる。次の瞬間、ものから液体が溢れ出るかのように蜂達が四方八方に飛び出してきた。巣の薄い部分を突き破り、我先にと外に向かっていく。あっと言う間に周辺は蜂だらけになった。皆、不安げに飛び交っている。この場から離れようとはしないが、巣に近づこうとも戻ろうともしない。
「な、なんだ?」
「何かが来るのです」
 ズル、ズルズルズル
 何かがボロボロになった巣の奥から這いずってくる。それは、全長5mあるドロドロヌメヌメの、泥を被ったような容貌の腹を巨大化させた幼虫のような動くものだった。黒い流動体が身体から湧きだし続けている。それが触れるたびに巣の素材は鈍い音を立てながら溶けている。半分ほど這い出してきたところで、巣が体重に耐えきらなくなって、落ちてきた。昆虫に似たその醜悪な顔を泥の中から持ち上げる。
「何なのです、あれは?」
「こんなモンスターもいるのかよ!?」
 首を傾げるナナの前に立ち、カイは臨戦態勢に入る。片手を地面に付け、いつでも飛び掛かれるように体をしならせる。
「待ってください。冒険者の方々」
 睨み合っていると壊れた巣の奥の方から女性の声が聞こえてきた。視線を移すと、他の蜂より二回り大きく冠を被った蜂が槍を持った通常の蜂に支えられながら現れた。その身はボロボロだ。
「ようやく生まれた跡取りなのです。お願いです。殺さないで」
「誰だ?」
「クイーンビー。この巣を統べる女王様だよ」
 飛び出しそうになったカイを腕で制しながら、防寒着の冒険者が答える。
「それでは、これは化け物ではないのですね」
「ミジンコの腐ったような臭いの奥にある幼いやつは」
「彼女の娘です」
「?娘なのですか?息子ではなくて」
「昆虫界で跡取りと言うと、子を産める娘の方を指します」
 息子は外に出て入り婿が当たり前。なので、成人すると諸国を渡り歩き、婿入り先を探す旅に出る。人間並みの知能がある彼らは、インセクター(昆虫人)と呼ばれている。旅の過程で冒険者になる者も多い。
「生まれてきた時からこんなんだったのか?」
 容量容積からして、あの女王から出てきたとは考えにくい。生まれてから何らかの外因があってあの姿にになった、と見るのが妥当だろう。なら、原因があるはずだ。だが、それを聞いている暇は今はない。
「お願いします、冒険者様。どうか、どうか、お慈悲を」
「・・・・・・」
「言われているけれど、対処法あるのかよ?」
「分離は合成より難しいのです」
「・・・そうだね」
「ナナさん、これとこれがあなたが今使える耐物防御魔法です」
 男声と女声はこの事態を何とかする気だ、とナナとカイは直感した。同時に、それが困難で難解な方法であることも。

                          続く
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