転移者と転生者と現地チート

シロ

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37、

おたがいさま

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「ええ、こっちも稼ぎ頭一人持ってかれて困ってるのぉ」
「そ、そうでしたか。では、情報が入り次第」
「わかってるわよ。情報、よ・ろ・し・く・ねっ」
投げキッスを慌てて避けながら、黒装束の男はドアを閉めた。
「帰られました」
「まったく、国からの使者なんて面倒臭いだけじゃないの。シサ、塩持ってきなさい、塩」
 スッと差し出されたツボの中身を掴んでは撒き、掴んでは撒き、最後は豪快にツボを叩きつけた。
「もういいですよ」
 コンコンとシサがカウンターを叩くと、バーカウンターの下からナナとカイが這い出してきた。
「いいのか?」
「いいのよぅ。気にしないで」
情報頂戴とは言ったけれど、情報提供するとは言ってないし。バチッとしたウインクはカイによって叩き落とされた。
「あっちも国の使者って名乗っただけだし、お互い様」
「偽者かよ!?」
「匿っていいのですか?」
「蝋印も命令書も掲示しなかったあっちが悪いのよ。いないとは一言も言ってないし」
 はい、と手渡されたのはこの前の依頼の後に貰ったエンブレムだった。交差する水仙が活かしたデザインの、気に入って胸に付けている物よりも小さく、丁度ピンバッチくらいだ。
「二つも貰っていいのか?」
「いいのよ。寧ろ持ってて。つけてあげるわ」
 エンブレムは冒険者の証、身分証の代わりである。通常、一人一つとされ、無くすと非常に怒られる。いそいそとフードの裏側に付けられた。そこだと他の人に見えないと思うのだけれど。
「これからどうすっかなー」
 何が原因で追手が生えたかわからなければ、対策の立てようがない。このまま逃げ出すというのも、一つの手だが、ここにお世話になっていたことは町の人、特に屋台の人に聞けば一発だろう。2人はエンブレムを付けたまま買い食いしまくっていた。

                       続く
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