転移者と転生者と現地チート

シロ

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57、

抵抗が抜けないと痛いだけ

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「いたぞ!」
「女男の子さん!お花売りのお姉さん!」
 武器を持った人型の何かに囲まれている。灰色の斑が入った緑色の肌に不細工な顔。あの時見たゴブリンとも違う。もっと力を持った、もっと凶悪なモンスターだ。
「オーガなのです?」
「レッサーが付く方のな」
 意味は“小さいの”。つまり、格下。まだ、交戦前なので3人との距離はある。
「冷たい、アイスアロー!」
 氷の矢が飛んでいく。誤射を恐れて一本だけにした。
「ウガッ??!」
 レッサーオーガの顔面に命中したが、凍り付くことはなかった。どうやら、込めた魔力量が抵抗値を抜くのに足りなかったようだ。それでも痛かったのは痛かったらしく、怒りの矛先がナナに向いた。小さいのと付いてもモンスターだ。睨まれなくてもとても怖い。震える指先を叱咤し、次の魔法を選択する。
「ら、ライトニング!」
 バチっと手元で雷撃が弾けた。プスプスと白い煙が掌サイズの魔法陣から流れ出てくる。失敗だ。レッサーオーガが迫ってくる。早く次の呪文を選ばなければ・・・・・・プレッシャーに押しつぶされている場合ではない。そうなると死あるのみだ。
「ダッシュで、エスケープ」
 ダッシュは加速、エスケープは逃げるという意味で・・・・・・合っているのを願って画面を叩いた。途端に溢れ出る4属性。地面から土が浮遊し、炎が飛び交い、水が走り、風が荒れる。威力はないが、怪我をするには十分なものであった。それが、無差別に発動されたのだ。
「あのアホ!?」
 女の子少年の罵声が聞こえる。ホッと安心できないナナだった。絶対に怒られる。
「あわわわ!???」
 無差別と言うことは術者であるナナも対象になっている。つまり、ナナにも襲いかかってくる火の粉や小石や水滴やカマイタチ。動体視力も運動能力も人並なナナに捌き切れるはずがなかった。頼りにしていたエスケープの魔法は発動していない。
「はふぇ!?」
 振りかかる火の粉を避けようとしたら、ナナはバランスを崩してしまった。そこへ同じくバランスを崩したレッサーオーガの背中が迫る。
「何バカやってんだ」
 盾で石や火の粉を弾き、剣で水風を切ってノツが向かうが間に合わない。重量に潰される覚悟で目を閉じかけたその時だった。レッサーオーガの太った体躯が倒れる方向を変え、地に伏した。
「ナナ!無事か?!」
 目の前に転がってきたのは、小麦色の肌に短くカットされた黒い髪の毛。
「無事なのです。ありがとう、カイ」
 自分の倍はある身体に体当たりを喰らわせたその身をナナはぎゅーっと抱きしめた。


                         続く
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