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エピソード6、町中戦
FGO【フリーゲームオンライン】プレイ中
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ウォルは門の近くにいた。素手でゴブリンの顔をさらに歪に変形させる。だが、多勢に無勢。押されているのは目に見えている。このまま自分が突撃しても門から入ってくるゴブリンの数を抑えられるとは思えない。寧ろ、数で押されて共倒れだ。
「群ならボス、軍団なら司令塔を倒せばエンドよね」
鷹の目で門付近を観察する。レベル5がズラズラといる中に一つだけ7に囲まれた9という数字が見えた。7はゴブリンシャーマンという魔法を使えるゴブリンだ。そして、中央にいるのはゴブリンリーダーという群を統率する文字通りゴブリンのリーダーである。
「成程、雑魚にしては連携がとれていると思えば」
ボスがいたのか、と納得する。手始めに狙いを定めてみたが、Error表示が出る。原因として考えられるのは2つ。単純に距離が足りていない。牽制魔法がかかっている。まずは低級魔法使いでも使えるディスペルがかかっている可能性を考えた。ディスペルはすでにかかっている魔法を打ち消すためのものなので標準に影響が出ているとは考えられない。高位の魔法ならそういったものもあるが、始まりの町周囲レベルの敵が使える、ことはないだろう。他の町からやってきた可能性もあるが、そう遠くではないはずだ。レベル的に見ての話だが。
「近づくしかないわね」
ライフルが使えればいいのだが、私の筋力では構えて撃つことができない。同じ理由でマシンガンも無理だ。
これはシステムの問題で、職業と筋力によって装備できる武器が決まっているからだ。例えば、私が持っているアサシンシューターは軽武器を使用とする職業と遠距離武器を使用する職業が組み合わさっている。どちらの技能も選択できるといえば聞こえがいいが、武器の選択が狭まる仕組みになっている。あとは、筋力によって持てる武器が変わってくる。同じシューターでも筋力の低い私では重量のあるライフルは持てない。持てない=使えない。かいつまんで言うなら、今この状態、敵に見つかっていない状態でリーダーに攻撃できないのである。MPを払って隠密を使用してさらに近づいた、まではよかったのだが。
「こら!ナンでさっさとコない!!」
MP消費を少しでも抑えようとエネミーのみにしたのが間違いだったか。ウォルが威嚇を発動させたまま話しかけてきたのでその効果が乗ってしまった。威嚇とは常時発動型の特技で、発見範囲が広がる代わりに近接攻撃命中か通常攻撃威力のどちらか、または両方が上がるという格闘家や剣士にとってありがたいスキルとなっている。ただ、この特技、欠点もあって、上昇にどちらも選択すると声をかけられた周りの仲間も巻き込んで発生するのだ。つまり、
『あ、いつの間にゴブ』
『あいつも敵ゴブ!』
『やっちまえ、ゴブ!!』
とまぁ、こんな感じに。何て言っているのかは汎用蛮族語を習得してないので想像するしかないが、発見されて囲まれる訳である。それにしても思っていたよりも統率されている。突出して襲っている輩もいない。その分、こっちに全員来ている訳で。
「仕方がない。私も頑張りましょう」
二丁拳銃を構える。
「ウォル、威嚇は小範囲に三回まで重ね掛けできるからそれお願い」
威嚇は敵の攻撃力を下げる効果がある。
「OK!オラッ、こいやゴミガンメン!!」×3
ゴブリンでゴミ顔面。中々な挑発センスを持っているようだ。威嚇は範囲効果なので私にもかかる。つまり、
「あなた、ちょっとごめんね」
ちょっと前に出ていたゴブリンの顔面に回し蹴りを叩きこむ。凄い勢いで飛んで行ったゴブリンは壁にめり込んで動かなくなった。PvPでかなり鍛えた蹴りは威力が格段に上がっていた。PvPでは極力相手に当てないように努めていたし、最近ログインしてもウォルの相手しかしていなかった。今日もその予定だったのだが、これだけ敵がいれば彼女も満足してくれるだろう。
「オラオラッ、チンタラしてんじゃねー」
殴っては投げ、殴っては投げを繰り返している。とてもいい笑顔で。満足、してくれることを願う。その思いを込めながら私は後ろから彼女に迫っていたゴブリンを蹴り飛ばした。格闘の利点は戦い方によっては消費MPがほとんどないことにある。もちろん、技の精度や威力を増そうとするならそれなりのMP消費があるのだが、運がいいことにウォルの戦い方も私の戦い方(蹴り)もMP消費をしないものであった。なので、長期戦になっても通常攻撃の威力が変わることはない。のはいいのだが・・・・・・。
「・・・数が減らないわ」
「おのれ、○キ○リのヨウにワきやがって!」
「やめて、伏字でもそれは言わないで」
その許されざる名をシャットダウンするために耳を押さえる。主婦の天敵、進撃の黒G。視界に入れるのも嫌、なのに向こうは素早い身のこなしで殺虫剤を躱し、飛ぶ。当然の如く、私も大っ嫌いである。視界に入れるのも悍ましい。あれに立ち向かえる人こそまさに勇者だと思う。
「じゃあ、ア○」
「うーん、それならば・・・・」
キラーアントというモンスターが他のダンジョンにいるのだが、あの子がそこに辿り着くにはもう少し時間がかかるだろう。PvP大好きで、そればかりしているので対モンスター用の技能習得が遅い。あの様子ではPC相手にしか戦っていないようだ。ゴブリンは蛮族キャラで武器も使うので人に近い動きをしているので何の違和感もなく戦えているのが救いだ。
「とりあえず、数減らすのに専念して。もう少し門に近づきたいから」
「おうよ、マカしとけ!」
殴る蹴るでゴブリンを倒していく。だが、湧く量と消える量が完全に一致してしまっているので一向に進めない。それどころか、手を休めると押し切られそうだ。ジリジリトだが、HPも減ってきている。ウォルは神官闘士なので回復魔法が使えるが、使用する場合には手を止めて演唱しなければならない。お互い庇い合いながらポーションで回復しているのだが、それもそろそろ潮時だった。あと2つでポーションが尽きる。薬草もあるが、効果が出るまで時間がかかる。
「このままじゃ・・・・・・」
蹴りの威力は上がったが、クリティカルなしではウォルの拳の様にゴブリンを一撃でKOできるような威力は出ない。たぶん、ウォルの威力が想定外なのだろう。蹴りを出した瞬間を狙って無理やり体を捻って多段ヒットを狙う。
【新スキルを入手しました“薙ぎ払い”】
大剣使いや槍使いが雑魚を一掃する時に使うスキルだ。蹴りも拳よりはリーチが少し長いためできるかなと思ってやってみたが、まさかスキルを獲得できるとは思わなかった。これで、銃を使わずに足だけで何とかなる。弾の温存になるが、これでは立派な蹴り使いだ。
「ウォルちゃん・・・は大丈夫そうね」
私よりかなり善戦している。向かってくるゴブリンを蹴り飛ばしながら考える。ウォルも大分慣れてきたらしく、殴る、叩きつけるに巻き込みを発生させている。彼女も確実にレベルアップしている。
「ええい、キリがない!」
そう、門から湧いてくるゴブリンが減る様子がない。イベントなのでどこかに解決策がありそうなものだが。などと考えながら蹴り飛ばしていると横から迫ってきたゴブリンに対応できなかった。振り下ろされた剣をダメージ覚悟で銃身で受け止めようとした。その直後、当たる直前にゴブリンの腕が吹っ飛んだ。煉瓦塀に斧が突き刺さっていた。
「あんた達、皆避難し終えたわよ」
屋根の上にいるマカダミア亭主がそう言っている。腕の位置からして彼女があの斧を投げたに違いない。避難し終えたということはNPCが殺されることがなくなったってことだろう。
「亭主も早く避難してちょうだい」
「わかったわ。頑張って」
・・・選択肢を間違ってしまった感がある。ここで一緒に戦ってと言ったらどうなっただろうか?去り行く大きな背中がとても頼もしく見えた。
「惜しいことをしたわね」
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもないわ」
等と軽い会話を交わしつつ、ゴブリン退治に精を出すのだったが、出現数と撃破数が均衡しているので一向に減らない。向こうもこっちを用心し始めた。30体近く倒せば当たり前か。むしろ遅い。ウォルにたっては50体を超えている。
倒した敵はアイテムカード化するので死体が邪魔になることはない。取得するまで実体化しないからカードで足を滑らせることもない。
「サイゴっ」
飲み終えた空瓶を投げ捨ててウォルが叫ぶ。ゴブリンの顔面に当たった。かなり痛かったのか悶えている。その隙をウォルが見逃すはずがなかった。容赦のない拳がそのゴブリンの鳩尾を襲う。そのまま勢いをつけて振り下ろす。後方のゴブリンも巻き込んで吹き飛ばした。あの様子だとスキル【吹き飛ばし】を習得したようだ。開いた道を進む。だが、2mもいけずにまた囲まれてしまった。
「・・・まだいけないか」
再度ゴブリンリーダーに標準を合わせてみたが、Errorが出る。フィールドではこれくらいの距離で撃てていたのだが、ダメなようだ。人海戦術の副作用か、ゴブリンシャーマンの魔法効果なのか。試しに一発撃てればいいのだが、その一撃のために弾丸を二つ失うのが二丁拳銃である。持っている弾丸数は12個、1ダース。拳銃攻撃回数は6回まで。
「ウォル、もうちょっと近づくわよ」
「おっす!」
蹴りと薙ぎ払いのコンボ、拳と吹き飛ばしのコンボでジワリジワリと、しかし確実にリーダーの方に向かっていく。何とか残り10mに縮めた時だった。
「何wこれww、イベントかなんかwwwwwてかwwwここwwwwwwww」
盛大な笑い声が降ってきた。見上げると門の上に誰かいる。腹を抱えて笑い転げているのは緑髪の青年だ。鞣革の鎧と腰のショートソードから、軽戦士であることはわかる。わかるのだが、何故あんな場所にいるのだろうか?見たところそれなりの装備を持っているし、駆け出し冒険者って感じがする。次の町に行こうとしてモンスターの襲撃にあってロストしたのだろう。そして、ゴブリンの数が多過ぎて処理落ちしてしまい、本来出るはずの神殿内に転移できなかった、と言ったところか。
「てかww何でwwwここにwwwwゴブリンwwwいんのwwwwww」
「それは・・・まだわからないわ」
「あーw、笑ったww笑ったwwww」
だろうね。咽ないのが不思議なくらい大爆笑していた。ゴブリンもびっくりして攻撃の手を止めるほどの。その相手にウォルは容赦なく拳を叩きこんでいた。相変わらず容赦がない。おかげでさらに前進できた。
「そんじゃあ、助けに・・・・・あれ?」
跳び下りようと動いているが、どうやら警告が出ているようである。彼がいる場所の高さは10mあるから、落ちたら落下ダメージ受けるだろうからその警告だろう。落下ダメージは5m以上で発生し、1m上がる毎に5ダメージ追加される。合計25ダメージ。駆け出しの剣士のHPだと半分は軽く削りとられる。
「悪ぃw下りられねーわww。ちょっと待っててくれねー」
そう言って彼は建物の中に入っていった。出口はあそこなので私達がいるところからリーダーを跨いで反対側に出る。上手くやれれば挟撃できる。呆けたゴブリンを蹴り飛ばす。巻き込みが発生して追加で3匹蹴り飛ばせた。
「イテぇー。このヤロウ!」
それまでにこちらが抑えられれば、の話である。積極的に攻撃しているウォルのHPがそろそろ危ない。強烈な一撃を貰うことはないが、かすり傷は確実に増えていっている。ポーションを1本開け、残りをウォルに渡す。呼吸さえ合えば数秒で受け渡すことが可能だ。合わないと渡そうとする方が攻撃に対して無防備になってしまう。
「サンクス」
かなりHPが減っていたようでウォルは早速貰ったポーションに口付けた。よくある液体タイプなので飲むのに時間がかかるのが難点である。スプレータイプか錠剤タイプに改良できないだろうか。自由度の高いゲームなので薬剤調合を極めればできるようになるかもしれない。渡す途中で攻撃されて負った腕のかすり傷が消えた。飲んで即効果が現れる薬の開発も面白いかもしれない・・・・・・とこれ以上は後にした方がよさそうだ。
残り7mくらいまで近づけた。再度リーダーに対して銃を構える。射程範囲には確実に捕らえているが、やはり、Errorの文字が出る。試しにシャーマンに対しても構えてみたが、エラーと出る。こうまでも密集した戦闘を想定していなかったのだろうか。薙ぎ払い付与して弾丸を発射しようと思い至って、止めた。たぶん、装填している12発全て飛んでいってしまう。もう弾切れの切なさは懲り懲りである。
そして、メールが返ってこない。救援要請をマシロさんに出したのだが、ログアウトしているようで、音沙汰がない。遠距離支援がいてくれたら楽なのだが、オンラインにいないなら仕方がない。
「待たせたな、って多っ」
私の周りにいる人は何でこうも考えなしなのだろうか。どこの誰だか知りませんが、闇討ちして混乱させてほしかったです。PCの見た目は高校生くらい・・・中身小学生の可能性もあるのを忘れてはいないけれど・・・・・・だとしても、だ。見渡せる位置にいたのだから状況把握くらいしてから下りて来てほしかった。
「マってねーよ」
「そう釣れないこと言うなってw」
「そっちの敵お願いしてもいいかしら?」
「OKOK。って結構来たww」
10体が剣を振り上げて向かって行ったが、笑う余裕があるのだから大丈夫だろう。そう確認した時に違和感があった。急いで鷹の目を発動させて辺りを見渡す。それは、すぐそば、ウォルの背後にまで迫っていた。声をかける、間に合わない。銃を使う、構える暇はない。体当たりでウォルを外まで弾き飛ばす。
次の瞬間、重い一撃が後頭部を襲い、私はそこで意識を飛ばした。HPはまだ余裕があったはずなのだが、相手の攻撃にダウン効果があったのだろう。薄れゆく意識下で、ウォルと彼が合流できたのを確認した。
【新スキルを獲得しました、かばう】
重戦士のスキルだろうと突っ込んで真っ黒になった画面と後頭部の痺れに眉を顰めた。
「群ならボス、軍団なら司令塔を倒せばエンドよね」
鷹の目で門付近を観察する。レベル5がズラズラといる中に一つだけ7に囲まれた9という数字が見えた。7はゴブリンシャーマンという魔法を使えるゴブリンだ。そして、中央にいるのはゴブリンリーダーという群を統率する文字通りゴブリンのリーダーである。
「成程、雑魚にしては連携がとれていると思えば」
ボスがいたのか、と納得する。手始めに狙いを定めてみたが、Error表示が出る。原因として考えられるのは2つ。単純に距離が足りていない。牽制魔法がかかっている。まずは低級魔法使いでも使えるディスペルがかかっている可能性を考えた。ディスペルはすでにかかっている魔法を打ち消すためのものなので標準に影響が出ているとは考えられない。高位の魔法ならそういったものもあるが、始まりの町周囲レベルの敵が使える、ことはないだろう。他の町からやってきた可能性もあるが、そう遠くではないはずだ。レベル的に見ての話だが。
「近づくしかないわね」
ライフルが使えればいいのだが、私の筋力では構えて撃つことができない。同じ理由でマシンガンも無理だ。
これはシステムの問題で、職業と筋力によって装備できる武器が決まっているからだ。例えば、私が持っているアサシンシューターは軽武器を使用とする職業と遠距離武器を使用する職業が組み合わさっている。どちらの技能も選択できるといえば聞こえがいいが、武器の選択が狭まる仕組みになっている。あとは、筋力によって持てる武器が変わってくる。同じシューターでも筋力の低い私では重量のあるライフルは持てない。持てない=使えない。かいつまんで言うなら、今この状態、敵に見つかっていない状態でリーダーに攻撃できないのである。MPを払って隠密を使用してさらに近づいた、まではよかったのだが。
「こら!ナンでさっさとコない!!」
MP消費を少しでも抑えようとエネミーのみにしたのが間違いだったか。ウォルが威嚇を発動させたまま話しかけてきたのでその効果が乗ってしまった。威嚇とは常時発動型の特技で、発見範囲が広がる代わりに近接攻撃命中か通常攻撃威力のどちらか、または両方が上がるという格闘家や剣士にとってありがたいスキルとなっている。ただ、この特技、欠点もあって、上昇にどちらも選択すると声をかけられた周りの仲間も巻き込んで発生するのだ。つまり、
『あ、いつの間にゴブ』
『あいつも敵ゴブ!』
『やっちまえ、ゴブ!!』
とまぁ、こんな感じに。何て言っているのかは汎用蛮族語を習得してないので想像するしかないが、発見されて囲まれる訳である。それにしても思っていたよりも統率されている。突出して襲っている輩もいない。その分、こっちに全員来ている訳で。
「仕方がない。私も頑張りましょう」
二丁拳銃を構える。
「ウォル、威嚇は小範囲に三回まで重ね掛けできるからそれお願い」
威嚇は敵の攻撃力を下げる効果がある。
「OK!オラッ、こいやゴミガンメン!!」×3
ゴブリンでゴミ顔面。中々な挑発センスを持っているようだ。威嚇は範囲効果なので私にもかかる。つまり、
「あなた、ちょっとごめんね」
ちょっと前に出ていたゴブリンの顔面に回し蹴りを叩きこむ。凄い勢いで飛んで行ったゴブリンは壁にめり込んで動かなくなった。PvPでかなり鍛えた蹴りは威力が格段に上がっていた。PvPでは極力相手に当てないように努めていたし、最近ログインしてもウォルの相手しかしていなかった。今日もその予定だったのだが、これだけ敵がいれば彼女も満足してくれるだろう。
「オラオラッ、チンタラしてんじゃねー」
殴っては投げ、殴っては投げを繰り返している。とてもいい笑顔で。満足、してくれることを願う。その思いを込めながら私は後ろから彼女に迫っていたゴブリンを蹴り飛ばした。格闘の利点は戦い方によっては消費MPがほとんどないことにある。もちろん、技の精度や威力を増そうとするならそれなりのMP消費があるのだが、運がいいことにウォルの戦い方も私の戦い方(蹴り)もMP消費をしないものであった。なので、長期戦になっても通常攻撃の威力が変わることはない。のはいいのだが・・・・・・。
「・・・数が減らないわ」
「おのれ、○キ○リのヨウにワきやがって!」
「やめて、伏字でもそれは言わないで」
その許されざる名をシャットダウンするために耳を押さえる。主婦の天敵、進撃の黒G。視界に入れるのも嫌、なのに向こうは素早い身のこなしで殺虫剤を躱し、飛ぶ。当然の如く、私も大っ嫌いである。視界に入れるのも悍ましい。あれに立ち向かえる人こそまさに勇者だと思う。
「じゃあ、ア○」
「うーん、それならば・・・・」
キラーアントというモンスターが他のダンジョンにいるのだが、あの子がそこに辿り着くにはもう少し時間がかかるだろう。PvP大好きで、そればかりしているので対モンスター用の技能習得が遅い。あの様子ではPC相手にしか戦っていないようだ。ゴブリンは蛮族キャラで武器も使うので人に近い動きをしているので何の違和感もなく戦えているのが救いだ。
「とりあえず、数減らすのに専念して。もう少し門に近づきたいから」
「おうよ、マカしとけ!」
殴る蹴るでゴブリンを倒していく。だが、湧く量と消える量が完全に一致してしまっているので一向に進めない。それどころか、手を休めると押し切られそうだ。ジリジリトだが、HPも減ってきている。ウォルは神官闘士なので回復魔法が使えるが、使用する場合には手を止めて演唱しなければならない。お互い庇い合いながらポーションで回復しているのだが、それもそろそろ潮時だった。あと2つでポーションが尽きる。薬草もあるが、効果が出るまで時間がかかる。
「このままじゃ・・・・・・」
蹴りの威力は上がったが、クリティカルなしではウォルの拳の様にゴブリンを一撃でKOできるような威力は出ない。たぶん、ウォルの威力が想定外なのだろう。蹴りを出した瞬間を狙って無理やり体を捻って多段ヒットを狙う。
【新スキルを入手しました“薙ぎ払い”】
大剣使いや槍使いが雑魚を一掃する時に使うスキルだ。蹴りも拳よりはリーチが少し長いためできるかなと思ってやってみたが、まさかスキルを獲得できるとは思わなかった。これで、銃を使わずに足だけで何とかなる。弾の温存になるが、これでは立派な蹴り使いだ。
「ウォルちゃん・・・は大丈夫そうね」
私よりかなり善戦している。向かってくるゴブリンを蹴り飛ばしながら考える。ウォルも大分慣れてきたらしく、殴る、叩きつけるに巻き込みを発生させている。彼女も確実にレベルアップしている。
「ええい、キリがない!」
そう、門から湧いてくるゴブリンが減る様子がない。イベントなのでどこかに解決策がありそうなものだが。などと考えながら蹴り飛ばしていると横から迫ってきたゴブリンに対応できなかった。振り下ろされた剣をダメージ覚悟で銃身で受け止めようとした。その直後、当たる直前にゴブリンの腕が吹っ飛んだ。煉瓦塀に斧が突き刺さっていた。
「あんた達、皆避難し終えたわよ」
屋根の上にいるマカダミア亭主がそう言っている。腕の位置からして彼女があの斧を投げたに違いない。避難し終えたということはNPCが殺されることがなくなったってことだろう。
「亭主も早く避難してちょうだい」
「わかったわ。頑張って」
・・・選択肢を間違ってしまった感がある。ここで一緒に戦ってと言ったらどうなっただろうか?去り行く大きな背中がとても頼もしく見えた。
「惜しいことをしたわね」
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもないわ」
等と軽い会話を交わしつつ、ゴブリン退治に精を出すのだったが、出現数と撃破数が均衡しているので一向に減らない。向こうもこっちを用心し始めた。30体近く倒せば当たり前か。むしろ遅い。ウォルにたっては50体を超えている。
倒した敵はアイテムカード化するので死体が邪魔になることはない。取得するまで実体化しないからカードで足を滑らせることもない。
「サイゴっ」
飲み終えた空瓶を投げ捨ててウォルが叫ぶ。ゴブリンの顔面に当たった。かなり痛かったのか悶えている。その隙をウォルが見逃すはずがなかった。容赦のない拳がそのゴブリンの鳩尾を襲う。そのまま勢いをつけて振り下ろす。後方のゴブリンも巻き込んで吹き飛ばした。あの様子だとスキル【吹き飛ばし】を習得したようだ。開いた道を進む。だが、2mもいけずにまた囲まれてしまった。
「・・・まだいけないか」
再度ゴブリンリーダーに標準を合わせてみたが、Errorが出る。フィールドではこれくらいの距離で撃てていたのだが、ダメなようだ。人海戦術の副作用か、ゴブリンシャーマンの魔法効果なのか。試しに一発撃てればいいのだが、その一撃のために弾丸を二つ失うのが二丁拳銃である。持っている弾丸数は12個、1ダース。拳銃攻撃回数は6回まで。
「ウォル、もうちょっと近づくわよ」
「おっす!」
蹴りと薙ぎ払いのコンボ、拳と吹き飛ばしのコンボでジワリジワリと、しかし確実にリーダーの方に向かっていく。何とか残り10mに縮めた時だった。
「何wこれww、イベントかなんかwwwwwてかwwwここwwwwwwww」
盛大な笑い声が降ってきた。見上げると門の上に誰かいる。腹を抱えて笑い転げているのは緑髪の青年だ。鞣革の鎧と腰のショートソードから、軽戦士であることはわかる。わかるのだが、何故あんな場所にいるのだろうか?見たところそれなりの装備を持っているし、駆け出し冒険者って感じがする。次の町に行こうとしてモンスターの襲撃にあってロストしたのだろう。そして、ゴブリンの数が多過ぎて処理落ちしてしまい、本来出るはずの神殿内に転移できなかった、と言ったところか。
「てかww何でwwwここにwwwwゴブリンwwwいんのwwwwww」
「それは・・・まだわからないわ」
「あーw、笑ったww笑ったwwww」
だろうね。咽ないのが不思議なくらい大爆笑していた。ゴブリンもびっくりして攻撃の手を止めるほどの。その相手にウォルは容赦なく拳を叩きこんでいた。相変わらず容赦がない。おかげでさらに前進できた。
「そんじゃあ、助けに・・・・・あれ?」
跳び下りようと動いているが、どうやら警告が出ているようである。彼がいる場所の高さは10mあるから、落ちたら落下ダメージ受けるだろうからその警告だろう。落下ダメージは5m以上で発生し、1m上がる毎に5ダメージ追加される。合計25ダメージ。駆け出しの剣士のHPだと半分は軽く削りとられる。
「悪ぃw下りられねーわww。ちょっと待っててくれねー」
そう言って彼は建物の中に入っていった。出口はあそこなので私達がいるところからリーダーを跨いで反対側に出る。上手くやれれば挟撃できる。呆けたゴブリンを蹴り飛ばす。巻き込みが発生して追加で3匹蹴り飛ばせた。
「イテぇー。このヤロウ!」
それまでにこちらが抑えられれば、の話である。積極的に攻撃しているウォルのHPがそろそろ危ない。強烈な一撃を貰うことはないが、かすり傷は確実に増えていっている。ポーションを1本開け、残りをウォルに渡す。呼吸さえ合えば数秒で受け渡すことが可能だ。合わないと渡そうとする方が攻撃に対して無防備になってしまう。
「サンクス」
かなりHPが減っていたようでウォルは早速貰ったポーションに口付けた。よくある液体タイプなので飲むのに時間がかかるのが難点である。スプレータイプか錠剤タイプに改良できないだろうか。自由度の高いゲームなので薬剤調合を極めればできるようになるかもしれない。渡す途中で攻撃されて負った腕のかすり傷が消えた。飲んで即効果が現れる薬の開発も面白いかもしれない・・・・・・とこれ以上は後にした方がよさそうだ。
残り7mくらいまで近づけた。再度リーダーに対して銃を構える。射程範囲には確実に捕らえているが、やはり、Errorの文字が出る。試しにシャーマンに対しても構えてみたが、エラーと出る。こうまでも密集した戦闘を想定していなかったのだろうか。薙ぎ払い付与して弾丸を発射しようと思い至って、止めた。たぶん、装填している12発全て飛んでいってしまう。もう弾切れの切なさは懲り懲りである。
そして、メールが返ってこない。救援要請をマシロさんに出したのだが、ログアウトしているようで、音沙汰がない。遠距離支援がいてくれたら楽なのだが、オンラインにいないなら仕方がない。
「待たせたな、って多っ」
私の周りにいる人は何でこうも考えなしなのだろうか。どこの誰だか知りませんが、闇討ちして混乱させてほしかったです。PCの見た目は高校生くらい・・・中身小学生の可能性もあるのを忘れてはいないけれど・・・・・・だとしても、だ。見渡せる位置にいたのだから状況把握くらいしてから下りて来てほしかった。
「マってねーよ」
「そう釣れないこと言うなってw」
「そっちの敵お願いしてもいいかしら?」
「OKOK。って結構来たww」
10体が剣を振り上げて向かって行ったが、笑う余裕があるのだから大丈夫だろう。そう確認した時に違和感があった。急いで鷹の目を発動させて辺りを見渡す。それは、すぐそば、ウォルの背後にまで迫っていた。声をかける、間に合わない。銃を使う、構える暇はない。体当たりでウォルを外まで弾き飛ばす。
次の瞬間、重い一撃が後頭部を襲い、私はそこで意識を飛ばした。HPはまだ余裕があったはずなのだが、相手の攻撃にダウン効果があったのだろう。薄れゆく意識下で、ウォルと彼が合流できたのを確認した。
【新スキルを獲得しました、かばう】
重戦士のスキルだろうと突っ込んで真っ黒になった画面と後頭部の痺れに眉を顰めた。
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