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7章 物理崩壊研究会
第3話 アンソンの決意
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大型の虎に似たモンスターの顔面に銃剣を突き刺し、黒い靄と成って消える前に強引に振り回して2匹目に叩き付けた。
そんなカオルの背後に迫る蝙蝠をアンソンが撃ち落とした。
「うわ、ありがと」
「カオルさん、何か気抜けてません?」
「いやぁ、昨日ジークさんの話聞いて驚いちゃってるのかも」
「インパクト凄かったっすからねぇ」
防衛班の外回りでカオル、アンソン以外にも2人居るが、昨日のジークのカミングアウトは知れ渡っているらしくカオルに同意するように頷いている。
「裁縫サークルの連中、凄い気合入れてますよ」
「絶対に最高のウェディングドレス作るってお嫁さんの採寸するらしいです」
2人からの追加情報にカオルとアンソンも吹き出してしまった。
まだ結婚する予定だと言っただけで婚姻届の提出もしていないのに結婚式の準備が始まっている。
これで2人が破局する程の喧嘩でもしようものなら物凄い気まずさが周囲に流れるが、そんな事はお構いなしのようだ。
「ま、隔離都市で初めての話だし、お祭り騒ぎに成るのも分かるよ」
「ジークの旦那、絶対にヒルトさんと別れられなく成りましたね」
「アンソン君」
「へへへ、冗談ですって」
「本当かな」
アンソンの冗談は趣味が悪いがカオルも似たような懸念はしている。
アレだけ注目を集めた人前での告白だ、今後は大勢から注目を集めるだろうし少しでも別れ話や喧嘩の雰囲気が有れば要らぬ誤解を招くだろう。
ヒルトがジークを追って別の隔離都市から移住してきたのは多くの未帰還者が知る所だ。まるで映画のようなロマンスを期待している者も多い。
それが本人たちにも意図しない悪意としてジークやヒルトに向けれる可能性は有る。
そんなカオルの不安を察してかアンソンは普段よりも少しテンション高く話を続けた。
「ま、折角の良いニュースすから、応援しましょ」
「調子良いなぁ。ま、アンソン君の言う通りだけどね」
「そうでしょそうでしょ。てか、カオルさんだって飲み会の締めで2人の事、応援してたじゃないすか」
「あの場で何も言わないのもどうかと思って」
「まあ、俺も同じ立場なら言ってましたね」
「掌クルックルかよ」
呆れながらカオルは足元の大鼠を銃剣で掬い上げるように切り付け、死体が消える前に蹴り飛ばして蔦モンスターの姿勢を崩す。
弓兵がその隙に射殺し、巫術師が全員にダメージ量を40%カットする結界を張り直した。
前衛にカオル、中衛はアンソンと弓兵、後衛の巫術師。
物理崩壊後には最もバランスが取れた組み合わせと言える。
鼠や蝙蝠など群れで出現しやすいモンスターなのでカオルは銃剣にMPを注ぎヘイトを集めるスキルを発動する。
【マジックデコイ】という銃剣を中心にモンスターのヘイトを集めるスキルでディフェンダーなら必ず習得しているヘイト集中系スキルの1つだ。
「うっ」
現実ではまず見ないような奇妙な形状のモンスターならまだしも、10匹近い鼠や蝙蝠の視線を1度に集めるのは生理的嫌悪を誘発する。
カオルも物理崩壊後に10カ月近くディフェンダーを続けているが慣れる日が来るとは思えないし、文明人として慣れたいとも思わない。
可能な限り多くのモンスターを視界に入れられる位置取りを意識し、背後や側面の1匹2匹の攻撃は巫術師の防壁とアタッカーに任せる事にした。
正面の7匹に向け、銃剣にMPを注ぎながらトリガーを引き斥力場ではなく魔力の刀身を生み出す【マジックソード】を発動。青白い無属性の魔力刃は刃渡り2メートルに届き、横薙ぎに振るえば5匹を纏めて切り裂いた。本来は3メートルまで伸ばせるが誤って木を切断しないよう調整した。
そんなカオルへ側面から接近する蝙蝠2匹と鼠1匹に対し、中衛のアンソンと弓兵が反応する。
アンソンが鼠の頭部を通常弾で打ち抜き、弓兵が2本矢で蝙蝠を射殺す。
巫術師の結界はあくまで保険。アタッカーとして彼らは的確にディフェンダーが集めたモンスターを殲滅する為に力を尽くす。
物理崩壊後、ディフェンダーとの連携を考えアタッカーは前衛ではなく中衛が最適とされてきた。
近接戦闘での連携はどうしても専門に訓練を積む必要が有り、複数の未帰還者がシフト制で組み合わせを変える隔離都市の防衛班ではそんな専門の訓練を積むのは効率が悪い。
ユキムラのような格闘戦のスペシャリスト、ジークやヒルトのような複数ジョブを使い分ける経験値の高い未帰還者なら即席でも多少は合わせられる。
だが、そんな未帰還者は稀だ。
アンソンは元々が大剣使い、侍から銃使いへの転向組なのでジークのような立ち回りが出来る素養が有る。
今もカオルの側面や正面の取りこぼし2匹は前衛アタッカーなら素早く処理できる。
その残った2匹も弓兵が落として戦闘が終了し、アンソンは少し考えるように手を顎に当てた。
……今後、ダンジョンの出現率が上ったらより確実な処理能力が求められる。カオルさんの負担を減らす為に私ができる事、これしか無いよね。
侍のスキルには中衛から鎌居達を用いた攻撃がいくつかある。中衛からの攻撃頻度は銃使いに劣るがディフェンダーの邪魔をしない立ち回りは可能だ。
……鎖でリーチを操作できる槍兵だったら、もっと悩まなくて済んだのかな。
防衛班の中でも槍兵を続けているメンバーに前衛、中衛を変化させる立ち回りを聞こうと決めてアンソンは外回りを続ける事にした。
そんなカオルの背後に迫る蝙蝠をアンソンが撃ち落とした。
「うわ、ありがと」
「カオルさん、何か気抜けてません?」
「いやぁ、昨日ジークさんの話聞いて驚いちゃってるのかも」
「インパクト凄かったっすからねぇ」
防衛班の外回りでカオル、アンソン以外にも2人居るが、昨日のジークのカミングアウトは知れ渡っているらしくカオルに同意するように頷いている。
「裁縫サークルの連中、凄い気合入れてますよ」
「絶対に最高のウェディングドレス作るってお嫁さんの採寸するらしいです」
2人からの追加情報にカオルとアンソンも吹き出してしまった。
まだ結婚する予定だと言っただけで婚姻届の提出もしていないのに結婚式の準備が始まっている。
これで2人が破局する程の喧嘩でもしようものなら物凄い気まずさが周囲に流れるが、そんな事はお構いなしのようだ。
「ま、隔離都市で初めての話だし、お祭り騒ぎに成るのも分かるよ」
「ジークの旦那、絶対にヒルトさんと別れられなく成りましたね」
「アンソン君」
「へへへ、冗談ですって」
「本当かな」
アンソンの冗談は趣味が悪いがカオルも似たような懸念はしている。
アレだけ注目を集めた人前での告白だ、今後は大勢から注目を集めるだろうし少しでも別れ話や喧嘩の雰囲気が有れば要らぬ誤解を招くだろう。
ヒルトがジークを追って別の隔離都市から移住してきたのは多くの未帰還者が知る所だ。まるで映画のようなロマンスを期待している者も多い。
それが本人たちにも意図しない悪意としてジークやヒルトに向けれる可能性は有る。
そんなカオルの不安を察してかアンソンは普段よりも少しテンション高く話を続けた。
「ま、折角の良いニュースすから、応援しましょ」
「調子良いなぁ。ま、アンソン君の言う通りだけどね」
「そうでしょそうでしょ。てか、カオルさんだって飲み会の締めで2人の事、応援してたじゃないすか」
「あの場で何も言わないのもどうかと思って」
「まあ、俺も同じ立場なら言ってましたね」
「掌クルックルかよ」
呆れながらカオルは足元の大鼠を銃剣で掬い上げるように切り付け、死体が消える前に蹴り飛ばして蔦モンスターの姿勢を崩す。
弓兵がその隙に射殺し、巫術師が全員にダメージ量を40%カットする結界を張り直した。
前衛にカオル、中衛はアンソンと弓兵、後衛の巫術師。
物理崩壊後には最もバランスが取れた組み合わせと言える。
鼠や蝙蝠など群れで出現しやすいモンスターなのでカオルは銃剣にMPを注ぎヘイトを集めるスキルを発動する。
【マジックデコイ】という銃剣を中心にモンスターのヘイトを集めるスキルでディフェンダーなら必ず習得しているヘイト集中系スキルの1つだ。
「うっ」
現実ではまず見ないような奇妙な形状のモンスターならまだしも、10匹近い鼠や蝙蝠の視線を1度に集めるのは生理的嫌悪を誘発する。
カオルも物理崩壊後に10カ月近くディフェンダーを続けているが慣れる日が来るとは思えないし、文明人として慣れたいとも思わない。
可能な限り多くのモンスターを視界に入れられる位置取りを意識し、背後や側面の1匹2匹の攻撃は巫術師の防壁とアタッカーに任せる事にした。
正面の7匹に向け、銃剣にMPを注ぎながらトリガーを引き斥力場ではなく魔力の刀身を生み出す【マジックソード】を発動。青白い無属性の魔力刃は刃渡り2メートルに届き、横薙ぎに振るえば5匹を纏めて切り裂いた。本来は3メートルまで伸ばせるが誤って木を切断しないよう調整した。
そんなカオルへ側面から接近する蝙蝠2匹と鼠1匹に対し、中衛のアンソンと弓兵が反応する。
アンソンが鼠の頭部を通常弾で打ち抜き、弓兵が2本矢で蝙蝠を射殺す。
巫術師の結界はあくまで保険。アタッカーとして彼らは的確にディフェンダーが集めたモンスターを殲滅する為に力を尽くす。
物理崩壊後、ディフェンダーとの連携を考えアタッカーは前衛ではなく中衛が最適とされてきた。
近接戦闘での連携はどうしても専門に訓練を積む必要が有り、複数の未帰還者がシフト制で組み合わせを変える隔離都市の防衛班ではそんな専門の訓練を積むのは効率が悪い。
ユキムラのような格闘戦のスペシャリスト、ジークやヒルトのような複数ジョブを使い分ける経験値の高い未帰還者なら即席でも多少は合わせられる。
だが、そんな未帰還者は稀だ。
アンソンは元々が大剣使い、侍から銃使いへの転向組なのでジークのような立ち回りが出来る素養が有る。
今もカオルの側面や正面の取りこぼし2匹は前衛アタッカーなら素早く処理できる。
その残った2匹も弓兵が落として戦闘が終了し、アンソンは少し考えるように手を顎に当てた。
……今後、ダンジョンの出現率が上ったらより確実な処理能力が求められる。カオルさんの負担を減らす為に私ができる事、これしか無いよね。
侍のスキルには中衛から鎌居達を用いた攻撃がいくつかある。中衛からの攻撃頻度は銃使いに劣るがディフェンダーの邪魔をしない立ち回りは可能だ。
……鎖でリーチを操作できる槍兵だったら、もっと悩まなくて済んだのかな。
防衛班の中でも槍兵を続けているメンバーに前衛、中衛を変化させる立ち回りを聞こうと決めてアンソンは外回りを続ける事にした。
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