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7章 物理崩壊研究会
第13話 探索
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笹貫の先導によって無事に建物内に侵入した4人だが、侵入してから直ぐに廃棄された研究所ではないと確信していた。
通路に埃は積もっておらず、緊急避難経路を示す緑の電灯も点いている。日常的に誰かが使っていなければこうはならない。
「これ、廃棄されてるなんて嘘っすよね?」
「そうだね。明らかに誰かが使ってる」
「カオルさん、アンソンさんは戦闘態勢をお願いします。ここからは遭遇戦も有り得ます」
「了解」
「了解っす」
「私は最後尾が良いかしら?」
「はい。先輩は自衛のみ考えてください。戦力としては数えられません」
「ストレートね。ま、事実か」
自分の訓練メニューを考えた笹貫に言われれば三咲も逆らえない。
大人しく懐からショックガンを取り出し、カオルとアンソンがそれぞれ戦闘用の装備を呼び出したので背後に着く。
薬品系の研究所らしく、機械系の工場のような油っぽさは無い。むしろ無菌室などを必要とする為かどこか無機質な綺麗さを感じる。
斥候の笹貫を先頭に、即座に防御に入れるようカオル、和服に左肩だけ鎧を付けた侍姿のアンソン、最後にショックガンで最低限武装した三咲の順で進んでいく。
外に待機していた時に窓などを観察していたが地上の施設にそれらしい研究所が有るようには見えなかった。念の為に笹貫は地上施設を手早く回っていくが想定通り使われている施設は内容だ。
ただ施設内の休憩所などは椅子や灰皿に使われた痕が有ったので人が居る事は確信できた。
「地下に行きます。エレベータは目立つのでまずは階段での移動を試します」
「任せるよ」
情報伝達が適格な笹貫の先導に3人が意見を挟む余地が無い。そもそも笹貫の判断に間違いが有っても責める気も無いメンバーだ。
地下への階段は直ぐに見つかった。元々は普通の研究所として使われていたのだ、研究所の間取りは入り組んでいない。
ただ、この研究所が建設されたのは数十年前でありエレベータは構造が古く、階段は勾配が急で床も硬い。
秘密の研究所など実物を見るのは4人とも初めてだ。
実を言うとスパイ映画やパニック映画のように地下数十階を想像してしまったが、実際には地下へ続く階段は地下3階までしか存在しなかった。吹き抜け分程度の階層しかないので拍子抜けと言って良い。
「何か、臭う?」
「薬品臭さとか?」
「ううん。何か、獣臭い」
「動物? ここまで何の痕跡も無かったのに?」
「間違い無いわ。実家で犬と兎を飼ってるし動物病院で色んな動物の匂いを嗅いだけど、やっぱり動物の匂いだわ」
階段を降り切った廊下で三咲が指摘したがカオルだけでなくアンソンも笹貫も動物の匂いは感じ取れなかった。
廊下は相変わらず埃1つ無い綺麗な物で電灯まで点いている。
この階層まで来れば研究所が動いていないと隠す気も無いのだろう。
「笹貫さん、武装している相手の気配は有るかな?」
「全く有りません。人の気配は無いのに人が使った痕跡だけが有る。そんな印象です」
「なら、手当たり次第に部屋開けてきます?」
「素人にはそれくらいしか思いつかないわね。笹っちゃん的にはどう?」
「言い方は乱暴かもしれませんが同意見です。それと電気が生きてますしどこかでPCを見たいですね」
確かにこの研究所が何の研究をしているのかすら不明だ。まずは情報を掴む事が先決だった。
笹貫が階段を降りて直ぐの手近な扉を静かに開く。罠も監視員も居ないようで扉を大きく開き3人を招き入れる。
特徴も無い事務机が複数置かれているだけの事務室でPCは無い。壁際の棚には複数の書類らしきファイルが残っているが中身は空だった。
「何も残っていない、か」
「敷地はそう広くも無いし、手当たり次第、急ぐわよ」
そう言った三咲が笹貫に顎で廊下を示してみせる。
直ぐに次へ行くと察した笹貫も頷いて即座に廊下の様子を確認して退出した。今までと同じようにカオルたちも続き直ぐに隣の扉に向かう。
「先輩、臭いの先、分かります?」
「へ? ……廊下の奥、かな」
「そうですか。各部屋は私が見渡して何も無ければ直ぐに次に行きます」
「OK、それで行こう」
笹貫の提案を即座にカオルが承認し、アンソンと三咲もそれに続く。
提案通りに笹貫が近い扉を静かに開いて適当に見渡し、複数の部屋を通過していった。見落としが有り背後を突かれても良いように最後尾は三咲の合図でアンソンに変わる。
廊下に監視カメラなどは見えない。スパイ映画に出てくるような足元の赤外線探知装置も無さそうだ。
だが、見えないような物を使われていれば既に手遅れだろう。
そんな事を考えて廊下の最奥に見える両開きの扉の2つ手前の扉を開き、笹貫が今までと違う反応を示した。
背後のカオルに振り返り、親指で中を指してから指を下に向ける。
……誰か居るからヤレって事かな。
扉を音も無く閉めた笹貫が扉から離れ、頷いたカオルがホルスターから銃剣を抜いて扉の前に立つ。笹貫が廊下の奥、三咲とアンソンがこれまで通って来た廊下を警戒する。
3人の準備が整った事を確認したカオルが小さく息を吐き、扉を蹴破った。
扉が中央から蹴りの衝撃で凹み、金具を引き千切って室内に向けて飛んで行く。同時にカオルが室内へ飛び込み室内を雑に見渡した。
室内は10人が居ても狭く感じない程度には広いが、机や大型のPCが有り面積に見合わない狭さを感じる。ライフルを持ち防弾ベストのような物を着た3人、白衣の研究員らしき者たちが5人居て扉とカオルに驚き固まっており奇襲は成功したようだった。
まずは武装した3人を潰す事にし、カオルは扉に最も近い者に身を低くして素早く踏み込んだ。左手のガンナックルで腹を殴り飛ばして肋骨を粉砕しながら壁に叩き付け、机を蹴り飛ばして2人目の腹に壁と机で前後からダメージを与える。最後の1人が銃口を向けて来るが銃剣の斥力場を盾に突撃し、2発だけ発射を許したが全て弾き斥力場で床に叩き付け気絶させた。
突入から5秒も無くライフルで武装した3人を無力化し、切っ先を研究員たちに向ける。
「大人しくしろ。ここで何を研究しているか、見せて貰う」
カオルの宣言に合わせて三咲、アンソン、笹貫の順に突入してきた。直ぐに笹貫が拳銃で研究員を牽制しながら三咲と共にPCの前に移動しアンソンが入口を警戒する。
両手を挙げて下がる研究員を無視して三咲がPCを操作し、直ぐに手を止めた。
「ここで、未帰還者やモンスターを捕えているのね?」
「な、何だお前たち!?」
「腕、撃って」
「はい」
三咲の指示により口答えした研究員の左腕が笹貫に銃撃された。
音は今更気にしない。
銃声と共に前腕を撃ち抜かれた研究員が痛みに悲鳴を上げて腕を押さえて床に崩れ落ちる。
「大怪我したくなければ答えなさい。ここで、未帰還者やモンスターを捕えているわね?」
三咲は倒れた研究員の隣に目を向け、再度質問をすれば研究員が恐怖に顔を引きつらせて頷いた。
「資料、出せる?」
「これよ」
カオルの質問に合わせて三咲が画面の研究資料を示す。
文章書類のようで直ぐに理解できるか不安だったカオルだが、そんな事は杞憂だった。
『物理崩壊研究会 第4回中間報告書』
そんなタイトルの研究資料だが最初の数行で直ぐに非人道的な研究内容の記述が始まっていた。
捕縛した未帰還者、モンスターに薬物を注入。アバター同士の戦闘では人体の欠損は無いが通常の刃物で傷付けられれば未帰還者でも血を流す。モンスターの肉体を切り落とし、別のモンスターの部位を縫合するとキメラ化する事が可能。未帰還者の肉体はまだ研究対象なので切り落とすのは早計。
内容を一瞥してカオルは研究員たちに冷たい目を向けた。
「あ、貴女は、カオル!?」
「隔離都市を作ったあのカオルか!」
声を聞くだけで苛立ちカオルは叫んだ2人の内、近い方へ足音高く歩み寄り頭を掴んで机に叩き付けた。
叩き付けられた衝撃で鼻の骨が折れた研究員が悲鳴を上げ、髪を掴んで引き上げ壁に叩き付ける。鼻血が机や床を濡らしているが構う事も無くカオルは壁に寄り掛かる研究員の左肩を右足で踏み付けた。
「余分に声を出すな。聞かれた事に正直に答えろ」
自分でも今まで出した事が無い程に低い声が出ている。
そう自覚しながらカオルは煙草の吸殻を踏み潰すように研究員の肩を踏む足に力を込めた。
通路に埃は積もっておらず、緊急避難経路を示す緑の電灯も点いている。日常的に誰かが使っていなければこうはならない。
「これ、廃棄されてるなんて嘘っすよね?」
「そうだね。明らかに誰かが使ってる」
「カオルさん、アンソンさんは戦闘態勢をお願いします。ここからは遭遇戦も有り得ます」
「了解」
「了解っす」
「私は最後尾が良いかしら?」
「はい。先輩は自衛のみ考えてください。戦力としては数えられません」
「ストレートね。ま、事実か」
自分の訓練メニューを考えた笹貫に言われれば三咲も逆らえない。
大人しく懐からショックガンを取り出し、カオルとアンソンがそれぞれ戦闘用の装備を呼び出したので背後に着く。
薬品系の研究所らしく、機械系の工場のような油っぽさは無い。むしろ無菌室などを必要とする為かどこか無機質な綺麗さを感じる。
斥候の笹貫を先頭に、即座に防御に入れるようカオル、和服に左肩だけ鎧を付けた侍姿のアンソン、最後にショックガンで最低限武装した三咲の順で進んでいく。
外に待機していた時に窓などを観察していたが地上の施設にそれらしい研究所が有るようには見えなかった。念の為に笹貫は地上施設を手早く回っていくが想定通り使われている施設は内容だ。
ただ施設内の休憩所などは椅子や灰皿に使われた痕が有ったので人が居る事は確信できた。
「地下に行きます。エレベータは目立つのでまずは階段での移動を試します」
「任せるよ」
情報伝達が適格な笹貫の先導に3人が意見を挟む余地が無い。そもそも笹貫の判断に間違いが有っても責める気も無いメンバーだ。
地下への階段は直ぐに見つかった。元々は普通の研究所として使われていたのだ、研究所の間取りは入り組んでいない。
ただ、この研究所が建設されたのは数十年前でありエレベータは構造が古く、階段は勾配が急で床も硬い。
秘密の研究所など実物を見るのは4人とも初めてだ。
実を言うとスパイ映画やパニック映画のように地下数十階を想像してしまったが、実際には地下へ続く階段は地下3階までしか存在しなかった。吹き抜け分程度の階層しかないので拍子抜けと言って良い。
「何か、臭う?」
「薬品臭さとか?」
「ううん。何か、獣臭い」
「動物? ここまで何の痕跡も無かったのに?」
「間違い無いわ。実家で犬と兎を飼ってるし動物病院で色んな動物の匂いを嗅いだけど、やっぱり動物の匂いだわ」
階段を降り切った廊下で三咲が指摘したがカオルだけでなくアンソンも笹貫も動物の匂いは感じ取れなかった。
廊下は相変わらず埃1つ無い綺麗な物で電灯まで点いている。
この階層まで来れば研究所が動いていないと隠す気も無いのだろう。
「笹貫さん、武装している相手の気配は有るかな?」
「全く有りません。人の気配は無いのに人が使った痕跡だけが有る。そんな印象です」
「なら、手当たり次第に部屋開けてきます?」
「素人にはそれくらいしか思いつかないわね。笹っちゃん的にはどう?」
「言い方は乱暴かもしれませんが同意見です。それと電気が生きてますしどこかでPCを見たいですね」
確かにこの研究所が何の研究をしているのかすら不明だ。まずは情報を掴む事が先決だった。
笹貫が階段を降りて直ぐの手近な扉を静かに開く。罠も監視員も居ないようで扉を大きく開き3人を招き入れる。
特徴も無い事務机が複数置かれているだけの事務室でPCは無い。壁際の棚には複数の書類らしきファイルが残っているが中身は空だった。
「何も残っていない、か」
「敷地はそう広くも無いし、手当たり次第、急ぐわよ」
そう言った三咲が笹貫に顎で廊下を示してみせる。
直ぐに次へ行くと察した笹貫も頷いて即座に廊下の様子を確認して退出した。今までと同じようにカオルたちも続き直ぐに隣の扉に向かう。
「先輩、臭いの先、分かります?」
「へ? ……廊下の奥、かな」
「そうですか。各部屋は私が見渡して何も無ければ直ぐに次に行きます」
「OK、それで行こう」
笹貫の提案を即座にカオルが承認し、アンソンと三咲もそれに続く。
提案通りに笹貫が近い扉を静かに開いて適当に見渡し、複数の部屋を通過していった。見落としが有り背後を突かれても良いように最後尾は三咲の合図でアンソンに変わる。
廊下に監視カメラなどは見えない。スパイ映画に出てくるような足元の赤外線探知装置も無さそうだ。
だが、見えないような物を使われていれば既に手遅れだろう。
そんな事を考えて廊下の最奥に見える両開きの扉の2つ手前の扉を開き、笹貫が今までと違う反応を示した。
背後のカオルに振り返り、親指で中を指してから指を下に向ける。
……誰か居るからヤレって事かな。
扉を音も無く閉めた笹貫が扉から離れ、頷いたカオルがホルスターから銃剣を抜いて扉の前に立つ。笹貫が廊下の奥、三咲とアンソンがこれまで通って来た廊下を警戒する。
3人の準備が整った事を確認したカオルが小さく息を吐き、扉を蹴破った。
扉が中央から蹴りの衝撃で凹み、金具を引き千切って室内に向けて飛んで行く。同時にカオルが室内へ飛び込み室内を雑に見渡した。
室内は10人が居ても狭く感じない程度には広いが、机や大型のPCが有り面積に見合わない狭さを感じる。ライフルを持ち防弾ベストのような物を着た3人、白衣の研究員らしき者たちが5人居て扉とカオルに驚き固まっており奇襲は成功したようだった。
まずは武装した3人を潰す事にし、カオルは扉に最も近い者に身を低くして素早く踏み込んだ。左手のガンナックルで腹を殴り飛ばして肋骨を粉砕しながら壁に叩き付け、机を蹴り飛ばして2人目の腹に壁と机で前後からダメージを与える。最後の1人が銃口を向けて来るが銃剣の斥力場を盾に突撃し、2発だけ発射を許したが全て弾き斥力場で床に叩き付け気絶させた。
突入から5秒も無くライフルで武装した3人を無力化し、切っ先を研究員たちに向ける。
「大人しくしろ。ここで何を研究しているか、見せて貰う」
カオルの宣言に合わせて三咲、アンソン、笹貫の順に突入してきた。直ぐに笹貫が拳銃で研究員を牽制しながら三咲と共にPCの前に移動しアンソンが入口を警戒する。
両手を挙げて下がる研究員を無視して三咲がPCを操作し、直ぐに手を止めた。
「ここで、未帰還者やモンスターを捕えているのね?」
「な、何だお前たち!?」
「腕、撃って」
「はい」
三咲の指示により口答えした研究員の左腕が笹貫に銃撃された。
音は今更気にしない。
銃声と共に前腕を撃ち抜かれた研究員が痛みに悲鳴を上げて腕を押さえて床に崩れ落ちる。
「大怪我したくなければ答えなさい。ここで、未帰還者やモンスターを捕えているわね?」
三咲は倒れた研究員の隣に目を向け、再度質問をすれば研究員が恐怖に顔を引きつらせて頷いた。
「資料、出せる?」
「これよ」
カオルの質問に合わせて三咲が画面の研究資料を示す。
文章書類のようで直ぐに理解できるか不安だったカオルだが、そんな事は杞憂だった。
『物理崩壊研究会 第4回中間報告書』
そんなタイトルの研究資料だが最初の数行で直ぐに非人道的な研究内容の記述が始まっていた。
捕縛した未帰還者、モンスターに薬物を注入。アバター同士の戦闘では人体の欠損は無いが通常の刃物で傷付けられれば未帰還者でも血を流す。モンスターの肉体を切り落とし、別のモンスターの部位を縫合するとキメラ化する事が可能。未帰還者の肉体はまだ研究対象なので切り落とすのは早計。
内容を一瞥してカオルは研究員たちに冷たい目を向けた。
「あ、貴女は、カオル!?」
「隔離都市を作ったあのカオルか!」
声を聞くだけで苛立ちカオルは叫んだ2人の内、近い方へ足音高く歩み寄り頭を掴んで机に叩き付けた。
叩き付けられた衝撃で鼻の骨が折れた研究員が悲鳴を上げ、髪を掴んで引き上げ壁に叩き付ける。鼻血が机や床を濡らしているが構う事も無くカオルは壁に寄り掛かる研究員の左肩を右足で踏み付けた。
「余分に声を出すな。聞かれた事に正直に答えろ」
自分でも今まで出した事が無い程に低い声が出ている。
そう自覚しながらカオルは煙草の吸殻を踏み潰すように研究員の肩を踏む足に力を込めた。
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