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トカゲのヨシヒコ

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トカゲを捕まえた。
ヨシヒコと名前をつけ、家で飼っている。
ひとり寂しい部屋に人間がひとり増えたようで、僕は毎日「ヨシヒコー」と意味もなく名前を呼ぶ。
返事をするわけでもなし。感情をあらわすわけでもなし。
ただヨシヒコは僕が拾ってきた流木にのっかって、どこかをみている。
僕はそんなヨシヒコの気持ちを想像しながら、グラスに注いだウイスキーのロックを舐める。

二日に一度、僕は公園へ行き、変質者のようにバッタを捕まえる。すべてはヨシヒコのため。
僕は変質者になり、大の大人が、草むらに目をこらしている。
ヨシヒコの感情? が垣間見える瞬間は餌を食べる瞬間だけ。
嬉々としてバッタを追いかけ、ときに跳びつくようにバッタを食べる。
僕はその一瞬を見たいがために、こんなことまでしている。
馬鹿げているとはわかりながら、僕の人生を生きるよりはずっとマシだとも思える。

もう秋だ。冬はすぐには来ないが、そんなにのんびりもしていない。
背中を寂しさが撫でる季節。
僕はヨシヒコのことを思う。彼は恒温動物。体温調節を自分ではできない。
だから僕は赤外線ライトを近くの量販店で買った。開けてみると電球しか入っていなかった。
だが、なぜだか幸せな気持ちになった。
僕は少ない給料のなかからヨシヒコのためにソケットを新たに買わねばならない。
それでもいい。

いつまでヨシヒコは僕といてくれるのだろうか。
そんなに長くはないのかもしれない。
僕はそしたら、またトカゲを捕まえてくるだろうか。ヨシヒコに変わるそれを。
想像すると少しだけ寂しくなった。



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