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一章 黄昏のパリは雪に沈む
No,14 華やかな夜の宴
しおりを挟む煌めくシャンデリアと華やかに着飾った人達の群れ──歌、花、酒──そして揺れ動く舞踏。
ド・ロモランタン侯爵邸の夜会は、今まさに絢爛たる時を迎えていた。
しかし──ひとり場違いのごとくたたずむ明彦の胸はもう、焦りと切なさに押し潰されそうだ。
夜会が開始して以来既に小一時間は経っただろうに、肝心の優夜も、この屋敷の主人である侯爵さえも未だその姿を見せない。
戸惑う明彦に向かい、突然一人の男が日本語で声を掛けた。
「豪田明彦さんですね?」
「はい、あ?あなたは……」
それはあのオペラ座での夜、優夜に声を掛けた明彦を咎め、二人の前に立ちはだかったあの日本人男性だった。
「私は佐伯と申します。あの夜は、まさか貴方が豪田家のご令息とも知らず失礼致しました」
「あ、いえ……あなたは一体?」
「はい、そうですね、優夜の介添え……とでも申しておきましょうか」
黒髪をオールバックにかき上げ、秀でた額にキリリとした濃い眉。堀の深い二重瞼に手入れの行き届いた口髭は中々の男振りではあるが──何故か明彦はその男の言動に嫌味なほどの険を感じた。
「豪田さん、正直に言って、今回の事には私もほとほと困っているのですよ。優夜は私を通さず直接侯爵に言って貴方をこの夜会に招待した。それがどう言う事かお分かりですか?
優夜は普通の者ではありません。あれは特殊な者なのです」
「佐伯さん、それは」
「失礼ながら貴方の事は調べさせて頂きました。
が、ねぇ豪田さん、貴方も立派な会社の後継者として、厄介事は避けるべきお立場なのではありませんか?まして貴方はまだお若く、これからのお人なのですから。
そうですね、あの様な特殊な者と関わるのはいかがなものかと」
「つまり、あなたは何をおっしゃりたいのですか?」
「どうかこの場は、黙ってお引き取り願えませんでしょうか」
「何ですって?貴方そこいきなり失礼じゃありませんか!
僕は……」
明彦が何か言いかけたその時、場内が一際大きくどよめいた。
侯爵とその愛人、優夜の登場であった。
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