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第1章 少年理久・幼少の記憶
No,13 だからピアノが欲しい②
しおりを挟むいわゆる本番は6年生の正伴奏者が受け持つのだけれど、何にしても補欠と言うのは必要だ。
コンクール当日に体調を崩したり等はあり得る事だし、普段の練習でも交代要員として複数の伴奏者は必要だ。パート練習には別室に別れて複数の伴奏者が必要ともなる。
当時、6年生の正伴奏者と5年生の準伴奏者がいた。4年生の僕は5年生での選考を目指し、一団員として頑張って歌った。
結果として、合唱の経験は伴奏をするに当たっても、とても良い勉強になったと思う。
伴奏の先輩は二人とも女子だったけれど、押し掛け伴奏者候補の僕にも優しくしてくれた。
伴奏はともかくとして、時々はピアノを弾かせてもらえた。
結果として、4年生の理久はピアノが弾けるぞ、とのアピールになっていたのだと思う。
5年生の選考では、僕以外に手を挙げる者がいなかった。
伴奏なら理久だろう、との空気が既に出来上がっていたのはラッキーだった。
僕は5年生で準伴奏者になれた。楽しかった。そしてオルガンでなく、ピアノが日常で弾けるのが嬉しかった。
ただ、若干の不安はあった。僕は家にピアノがない事を黙っていたのだ。オルガンしかないことが知れたら伴奏者を外されるのではないか、と心配したからだ。
そしてその不安は6年生でピークに達した。
僕は正伴奏者となったのだ。
これはもう、何がなんでもピアノを買って貰うしかない!
僕は合唱団の正伴奏者になった事。そしてコンクールを控えている事を大義名分とし、かなりだだをこね回した。
しかし当時のピアノが今よりずっと贅沢品だった事は確かだし、個人事務所を立ち上げたばかりの父にそんな余裕など無かった事は大人の事情。少年理久には知るよしもない。
ところが、意外な所から手が挙がった。祖母が買ってくれても良いと言う。
条件は、買ったピアノは祖母の家に置くこと。ビアノを弾きたければ祖母の家へ通えと言う。
父方の祖母は繁盛した商家の生れ。そして母は農家の生れ。二人の仲があまりよろしくない事は子供心に察していた。
祖母が可愛い孫息子をおびき寄せようと画策した事は明らかだったし、それは母にとっては不本意だったのだろうけど、僕は二つ返事でその条件に従った。
幸いなのは、祖母の家が徒歩8分の近所だったこと。僕が毎日通った事は言うまでもない。
中学校になっても、僕は迷わず合唱部に入部した。なぜなら知った顔ばかり。
僕の中学校は三つの小学校の学区にまたがっていたけれど、なんと言っても僕の小学校は合唱では名門。
合唱部のメンバーは、ほぼほぼ小学校の合唱団と変わらぬ顔ぶれだったのだ。
僕は初めから
「あ!伴奏者が入部した!」
と、先輩達から歓迎を受けた。
楽しい中学生生活の幕開けだった。
──が、これは余談。
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