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第8章 ヅカ友タッチと長い夜

No,92 哀願…タッチに声がけ!

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【これは大学2年のお話】

 実際にならばなくて良いのは助かる。トイレや飲食もできるし、天候の悪い時は尚さら助かる。
 が、やはり一時間ごとの点呼とは楽ではない。

 ちなみに僕は、その時間では一旦帰宅するのは到底無理。喫茶店などを利用しても、一時間ごとに支払いするのでは小遣いがもたない。
 実際、駅のベンチで本を読んだり、駅が閉まるれば結局劇場周辺のどこかに居場所を見付けて時間潰しするしかないと覚悟していた。
 男一匹、深夜の日比谷なんて恐くはなかった。

(恐くはないけど、だんだん寂しくなってきた)

 次の点呼は22時。
 この後の過酷さを、僕は本当には理解していなかった。


※──────────※


 で、22時。初めての点呼だ。
 劇場正面にぞろぞろと、どこからともなく人が集まって来る。なんとやはり男性もいる。僕だけではなかった。
「22時の点呼を取りま~す!私が1番の○○会です。2番、△△会さん!」
「はい!」
「3番、◇◇会さん!」
「はい!」
 と、しばらく団体名が続き、やがて個人名へ……そして、
「78番、歴野理久さん!」
「はい!」
 と、これで点呼終了。
 僕の後ろに順番待ちが数人増えていた。

(次は23時。さあ、ここからの一時間が長いぞ。どこで何して潰そうか……)


※──────────※


 そして23時、日比谷の街は一気に寂しくなってきた。
 さらに0時と点呼は続き、
(これはなんだか、思ったよりもずっと辛いぞ~!)
 と、だんだん恐れをなしてきた。

 もう、次の点呼までどこで何をして時間を潰せばいいのか分からない。
 この日比谷の真夜中に、一人ぼっちはさすがに辛くなってきた。
 新宿や渋谷と違って、日比谷は案外、夜間は淋しい。


 そして午前1時の点呼。
「78番、歴野理久さん」
「はい」
 と答えてそこに留まる。もはやこの人だかりが何となく嬉しい。
 僕は自分の点呼が終わってからも、その場を離れがたくなっていた。

「105番、入江達也さん」
「はい」

(え?!男?!)

 反射的に振り返ると、そこにはいつも気になっていた、あの地味な男の子が立っていた。

(今しかない!)
 と思った。もう、その時の僕には恥も外聞も無かった。

「おはようございます~。あの~一緒に列びませんか~?」
 と懇願するように言い寄った。

「え?え?でも順番が全然違うのに……」
 と、彼は怯えたように僕を見上げた。

(ああそうか、このオドオドと下から見上げる感じ、平田に何となく似てるのか……)

 僕は彼に、初めての列びでとても参っている事を伝えた。
 そしてあと9時間、どこでどうしたら良いのか困っている事を率直に伝えた。

 一緒に列ばないか?との僕の要望に、彼はモジモジと
「あの、それは、僕は構わないけど……」
 と言ってくれた。

 僕はすかさず仕切り人にたずねた。
「済みません!105番の入江さんですが、78番の歴野と合流しても構いませんか?」
「ええっとそれでは……78番の歴野さんが2名。そして105番の入江さんがキャンセルと言うことでよろしいですか?」
「はい、それでお願いします!」
 と、僕は俄然元気が出てきた。


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