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第9章 別れと出逢いの遁走曲

No,105 ルカはやっぱ怒ってる

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【これは大学2年のお話】

「ところでキノちゃん、この店のコンセプト、もしかして知らないで来てるよね?」
 とのケンちゃんの言葉にタッチも反応した。
「え?僕も知らない。この店のコンセプトってなに?」
「えっ?タッチも知らないでキノちゃんを連れてきたの?
ここはタッチやルカみたいな大人好みの若い子と、若い子が好きな大人が集まる店なんだよ」

 それには僕も驚いた。
「え?それじゃ、僕があんな風にルカに近付いたのは、始めっからおきてやぶり?」
「いや、おきてってほど厳重なものじゃないけど、ルカが明らかに大人好みなのは知っていたから、だからちょっと止めに入っただけ」
 ルカが申し訳無さそうに言葉を挟んだ。
「いや僕はそれほどでも…ないんだよ?ただ、少し驚いただけ…」

 と、ルカの小声はケンちゃんには聞こえなかったみたいで話は続く。
「で、もし良かったら若い子が気軽に集まってるお店を紹介しょうか?」
 とケンちゃんの提案。
「そんな、商売敵しょうばいがたきなんじゃないですか?」
「いやいや、この街はわりと連携していて持ちつ持たれず、互いにお客さんを紹介し合ったりして共存してるんだ。
キノちゃんが若い子達と知り合いたいならそっちの店に行けばいい。そしてもし、その中に大人好みの子がいたらうちに連れてきてくれたらいい。そんな感じ」
「そうなんだ……うん、でも今夜の事で良く分かった。僕はまだまだ亮ちゃんの事を引きずってる。新しい彼なんいらない。
迷惑でなかったらまた時々はここに来させて?ケンちゃんやルカともまた会いたいし」
 それを聞いて、ルカは初めて僕に微笑んだ。

 その夜は程々のところで
Blue night を出て、タッチと一緒に家に帰った。


※──────────※


 その後、特に宝塚公演の無い期間は寂しさをもて余して
Blue night へ時々顔を出した。
 物静かなマスターも良かったし、何よりケンちゃんが親しげに相手をしてくれるのが嬉しかった。
 タッチは、彼とのデートではむしろこの店は使わないらしくて、あまりここでは顔を合わせない。

 Blue night は僕の行き付けになった。

 僕が一人でこの店にいると、時々は大人の人から声が掛かる。
 するとケンちゃんが(この子は彼氏がいるから)って上手に、角が立たないように話を流してくれる(嘘だけど)

 そしてルカ。
 ルカとは連絡先を交換したりとか、はっきり次を約束したりとかは一切無かった。当時は今のようにスマホもないし、そんなに気軽にな時代ではなかった。
 ただ互いに「何曜日の何時くらいにここに来る」って意識はあったのかな?
 妙に頻繁に顔を合わせた。いわゆる「常連客同士」の関係?

 ルカは僕の顔を見てニッコリ笑ったかと思うと、話し掛けては口を尖らす。
 隣に座って来たかと思うとそっぽを向く。

 仲が好いのか悪いのか?
 ルカとはそんな付かず離れずの関係のまま、僕は大学3年生に進級した。

──ルカはいつでもご機嫌ななめ。顔を真っ赤にしてそっぽ向く。


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