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第19章 スピンオフ・夏生物語「今明かされる夏生の愛と苦悩の真実」って、おい理久ふざけんな!オレのこと勝手に書くなよ!SP
No,251 夏生、理久と出会う
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──時は駆け足のように過ぎ去っていく──
キノちゃんと出会って一年にもなる。なのに二人の関係は未だに単なる「常連客同士」だ。
分かってる。踏み込めないオレが悪い。相手は人の気も知らない「姫」なのだから──。
分かっちゃいるけど、どうにもならない。いい加減、この片想いにも疲弊してきた。いつまで足踏みしていても仕方がない。
オレは新しい出会いを求めてゲイ雑誌の文通欄に投稿してみた。これは今で言うゲイ・アプリのアナログ版だ。
素敵な人と出会えれば、オレはキノちゃんを忘れられるかも知れない。
ただ、もう刹那的な付き合いにはうんざりだ。今のオレが欲しいのは、もっと深くて永続的な関係──。
オレは、極力色気のない投稿文を掲載した。しかもマニアックな趣味を強調した投稿文だ。
(これ見て回送してくれる人なんているのかな?もしいたら、その人とは趣味で繋がる事が出来るかも知れない)
思いのほか早く回送が届いた。クラシック音楽の趣味が共通していて、しかも住所が同じ区内でご近所だ。
(近所過ぎるな、もしトラブったら大変だ)
でも、どんな形であれリスクは有る。それを恐れていたら何も出来ない。
回送者の氏名は歴野理久。
──知らない名前だ。
※──────────※
そしていよいよ待ち合わせの日を迎えた。
待ち合わせの△△駅はオレの住んでいる○○区の代表的な駅で、うちの最寄り駅からも直ぐのところだ。
(早めに行って待ってよう。相手を待たせたら悪いし、それにこのドキドキを静めなきゃ……)
待ち合わせの時間より20分も早く着いた。待ち合わせの場所に立って周りを見渡す。
(あれ?)
目印の、ブルーのギンガム・チェックのシャツが遠目に見える。こちらに向かって歩いて来る。
オレは立ち止まったまま彼を見詰めた。
(もしかして歴野さん?)
あ、絶対にそうだ。年格好が一致している。
急に不安になってきた。
こう言う待ち合わせは今まで何度も経験したけど、同年代の人は初めてだ。
上手く話せるだろうか?
またぶっきらぼうにならないか?
向こうもオレに気付いただろうか?
(あ……れ?)
オレの心臓が早くなる。
それはよく知っている人だった。
(キノちゃん……え?………キノちゃんなの?)
オレの前に到着し、向こうも驚き顔で立ち尽くしたまま、呆気に取られたようにオレを見ている。
「ええっ?ルカ?」
そこに立っているギンガム・チェックのシャツのその人は、紛れもなくキノちゃんだった。
(そうか、こう言う事が起こり得るんだ……)
そしてオレは瞬時に思った。
この奇跡のめぐり逢いを大切にしたい!って……。
彼はオレの瞳を見詰めたまま、いつもの満面の笑みで話し掛けてくれた。
「……ルカ、おはよう」
「キノちゃん?……え?あ、歴野さんってまさか?」
「はい、歴野です。レキノだからキノちゃん。そっちはハルカワだからルカなんだよね?
何だか僕たち、発想が似ていたね。夏生……」
(あ!オレのこと、夏生って)
心臓が爆発しそうに高鳴って、オレの顔が真っ赤に紅潮して行くのが自分でも分かった。
「またいきなり呼び捨てか」
(あ!どうしてオレはこんな事を言っちゃう?!)
「ごめんごめん!だけど、夏生って可愛い名だね。ルカより似合ってるよ? な・つ・き♪」
オレはその屈託のない姫っぷりに照れてそっぽを向いた。
「り、理久なんて変な名前!」
(もう!どうしてオレはこんな言葉ばかりが口から出てくる?)
拗ねたオレの憎まれ口なんてものともせず、キノちゃんは今日も華やかに笑う。
「もしかして夏生って、家族や友達からナッキーって呼ばれてた?」
(え?)
オレは瞬時に目を見張った。
「な、なんでそんなこと知ってるんだよ?!」
「てか、夏生だったら愛称は大概、ナッキーじゃない?」
「……うん、まあ、子供の時からそう呼ばれてるけど…」
「だったら僕も、これからはナッキーって呼ぼうかな?」
「ええ~っ」
キノちゃんと出会って一年にもなる。なのに二人の関係は未だに単なる「常連客同士」だ。
分かってる。踏み込めないオレが悪い。相手は人の気も知らない「姫」なのだから──。
分かっちゃいるけど、どうにもならない。いい加減、この片想いにも疲弊してきた。いつまで足踏みしていても仕方がない。
オレは新しい出会いを求めてゲイ雑誌の文通欄に投稿してみた。これは今で言うゲイ・アプリのアナログ版だ。
素敵な人と出会えれば、オレはキノちゃんを忘れられるかも知れない。
ただ、もう刹那的な付き合いにはうんざりだ。今のオレが欲しいのは、もっと深くて永続的な関係──。
オレは、極力色気のない投稿文を掲載した。しかもマニアックな趣味を強調した投稿文だ。
(これ見て回送してくれる人なんているのかな?もしいたら、その人とは趣味で繋がる事が出来るかも知れない)
思いのほか早く回送が届いた。クラシック音楽の趣味が共通していて、しかも住所が同じ区内でご近所だ。
(近所過ぎるな、もしトラブったら大変だ)
でも、どんな形であれリスクは有る。それを恐れていたら何も出来ない。
回送者の氏名は歴野理久。
──知らない名前だ。
※──────────※
そしていよいよ待ち合わせの日を迎えた。
待ち合わせの△△駅はオレの住んでいる○○区の代表的な駅で、うちの最寄り駅からも直ぐのところだ。
(早めに行って待ってよう。相手を待たせたら悪いし、それにこのドキドキを静めなきゃ……)
待ち合わせの時間より20分も早く着いた。待ち合わせの場所に立って周りを見渡す。
(あれ?)
目印の、ブルーのギンガム・チェックのシャツが遠目に見える。こちらに向かって歩いて来る。
オレは立ち止まったまま彼を見詰めた。
(もしかして歴野さん?)
あ、絶対にそうだ。年格好が一致している。
急に不安になってきた。
こう言う待ち合わせは今まで何度も経験したけど、同年代の人は初めてだ。
上手く話せるだろうか?
またぶっきらぼうにならないか?
向こうもオレに気付いただろうか?
(あ……れ?)
オレの心臓が早くなる。
それはよく知っている人だった。
(キノちゃん……え?………キノちゃんなの?)
オレの前に到着し、向こうも驚き顔で立ち尽くしたまま、呆気に取られたようにオレを見ている。
「ええっ?ルカ?」
そこに立っているギンガム・チェックのシャツのその人は、紛れもなくキノちゃんだった。
(そうか、こう言う事が起こり得るんだ……)
そしてオレは瞬時に思った。
この奇跡のめぐり逢いを大切にしたい!って……。
彼はオレの瞳を見詰めたまま、いつもの満面の笑みで話し掛けてくれた。
「……ルカ、おはよう」
「キノちゃん?……え?あ、歴野さんってまさか?」
「はい、歴野です。レキノだからキノちゃん。そっちはハルカワだからルカなんだよね?
何だか僕たち、発想が似ていたね。夏生……」
(あ!オレのこと、夏生って)
心臓が爆発しそうに高鳴って、オレの顔が真っ赤に紅潮して行くのが自分でも分かった。
「またいきなり呼び捨てか」
(あ!どうしてオレはこんな事を言っちゃう?!)
「ごめんごめん!だけど、夏生って可愛い名だね。ルカより似合ってるよ? な・つ・き♪」
オレはその屈託のない姫っぷりに照れてそっぽを向いた。
「り、理久なんて変な名前!」
(もう!どうしてオレはこんな言葉ばかりが口から出てくる?)
拗ねたオレの憎まれ口なんてものともせず、キノちゃんは今日も華やかに笑う。
「もしかして夏生って、家族や友達からナッキーって呼ばれてた?」
(え?)
オレは瞬時に目を見張った。
「な、なんでそんなこと知ってるんだよ?!」
「てか、夏生だったら愛称は大概、ナッキーじゃない?」
「……うん、まあ、子供の時からそう呼ばれてるけど…」
「だったら僕も、これからはナッキーって呼ぼうかな?」
「ええ~っ」
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