ガーディストベルセルク

ぱとり乙人

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氷雅姫(ひょうがき)、到来

負けなければならない模擬戦①

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 さて、退学の正式な手続きをとるために僕が次に向かった先は。
「なぁんで訓練場なんですかねぇ。」
 どうしてか訓練場に来ていた。おかしい。事務的な手続きをとるだけで事は済むはずだと思っていたのだが。どうもそうは問屋が卸さないようだ。とりあえずあの発言後どういう形で話が進んでいったか思い返してみようか。

「この流れで退学手続きの方法を担任に聞いてくるのはお前くらいだろうな、金刃。……ちょっと待ってろ。」
 かなり苦笑いしながら僕を睨みつけてタブレットを触りだす先生。まぁ、そうでしょうね。
 でも、今の説明受けられたのはむしろ僕にとってとても幸運だったと思っているんですよ?だってやっぱり下手したら人殺せる事判明したんですもの。
 ガイストの手引きをひらがなで説明される人間が使うようなモノじゃないだろう。使い方を今から学ぶにしても危険と安全の天秤が合ってなさすぎる。
「えー?オサムッチ退学すんの?そんなんぴえんが丘~。」
 どうやら新しい丘が出来たらしい。今度機会があったら登ってみよう。その前に高校浪人に向けての準備が必要だ。
「しかし金刃氏?今から退学して今からどうするおつもりですかな?もしかしてどこかで就職されるのですかな?」
「いや、高校浪人をしようかなと思っているよ。……あまり現実味のない話であるのは承知だけど。」
「むむむぅ?では最初行きたい高校は花咲絢爛高校ではなかったと?」
「え……あー……えー。」
 どう説明しよう。この高校自体には合格しているのであれば行きたかった。しかし蓋を開けてみれば姉さんが在学中で、しかも結果は不合格。でも学校側の手違いと成り行きで……やっぱり冷静に考えると益々まともではないよね、これ。
「……金刃。お前の事だから俺には関係ないから決めるのはお前だ。だがよく聞いてくれ。浪人してまで受かりたい高校があるのはわかる。だが、そこを受かりたいが為にせっかく合格している高校を蹴ってまで行きたい所なのか?」
 いや、だから結果は落ちているんです。しかも全ての高校に。ここにいるのは、ある意味裏口入学みたいな事なんです。禁じ手なんです。
「どうせ…なら……ここ……い、い……。」
 そりゃ僕だってここはいい高校なのは知っていますよ。クラスメイトと担任にも恵まれていますから。だとしてもなんだよね。
「てかさ?そもそもオサムッチのガイストって何?そんなにバイオレってんの?」
「……うん。かなり危険だと思ってるよ。だから」
「よし、準備オーケーだ。」
 おぉ!どうやら退学手続きの方法を見つけ出してくれたようだ。有難い。あのクソ片眼鏡と違ってなんと出来る先生だろうか。このまま詳しい話をしていたら確実に僕のボロは出始める。その前にここは迅速に行動すべきだろう。立ち上がって先生に向かって深々とお辞儀をする。
「ありがとうございます、先生!」
「ん?あぁ、気にするな。ほら、お前等も行くぞ。」
「「「「「え?何処に?」」」」」
「決まってんだろ?訓練場だよ。今丁度空いてたから取ったんだよ。」

 以上が話の流れである。有能な先生だと見込んでいたのだが、僕は見る目が全くないらしい。この流れは恐らく。
「よし。お前等の中でとりあえず金刃と模擬戦したい奴、手挙げてみろ。」
 デスヨネー。人は何故こうも争い事が好きなのだろうか。僕は穏便に平凡に高校生活を送りたかっただけなのに。
「はいはいはい!絶対ウチっしょ!?てかウチしか勝たん!」
「拙者も是非ともお願いしたいでござるな!」
「俺も少々気になっている。発現したガイストが一体どういうガイストなのかを、な。」
「わ、わ……わたしも……。」
 そりゃこういう事態にもなるわな!ちょっとマジでどうしよう!?
「せ、先生?おおよその事は学園長から聞いているとは思いますが……?」
「ん?……ん。あぁ。お前が稀有な例のガイスト持ちって事くらいはな。」
「あー……それもそうなんですが、ほら……もっと重要な事ですよ。」
 僕の問に関して、蔭原先生は不思議そうに首を傾げながら答えた。
「……?いや、他には何も聞いてないが?」

 マ ジ か よ !
 
 え?あの学園長まさか僕がどういった経緯で入学したか担任になるこの先生に話してない!?少しでも情報漏洩を避ける為か!?いやここの生徒会長には既に発覚してるだろ!
 せめて担任ぐらいには僕の状況を伝えておけよ!おかげで僕のクラスでの立ち回りがハードモードからインセインモードくらいまで跳ね上がっただろ!そもそも僕は退学したいんだけどな!!
 もういい。味方が誰もいない以上、僕一人の力でこの場を乗り切るしかない。
 まずどうすべきか。この無駄な争いを避ける事から始めよう。
「先生。僕はガイストを発現させたばかりで、使い方がまだわかっていません。まずは手始めに破壊しても構わない訓練場の障害物相手に練習をした方がいいと思います。万が一クラスの皆に危害が及ぶような事があったら、この学校自体にも悪い影響しかないでしょう?」
 本音も本音である。自分なりにガイストの発動はスムーズに出来ている。所謂ON/OFF機能程度なら今までの実践―という名前の姉弟喧嘩―で失敗した事は一度もない。
 さて、では制御面で言うならどうか。これが自分の中でコントロール出来ているかどうかは未知数だ。それもこれも全部姉さんに対して使用した為、最初から殺す気満々の全力全開で使っていた。ある程度のコントロールは出来ていても、絶対コントロールミスをしないのか。そう自問自答を繰り返すと、やはり行きつく先は『現状ではミスをしでかす確率の方が圧倒的に高い』という結論になる。
 そんなあやふやな能力を、無機物相手ならまだしも人に対して振るうのは言語道断であろう。
 そんな不安要素しかない生徒であるにも関わらず、蔭原先生は少しイラついた様子で舌打ちまでしながら答えた。
「お前も大概しつこいな、金刃。さっきも言ったけど、あの程度の能力でこの四人相手に圧倒できる程、この高校は甘くないぞ?じゃあとりあえず石黒!お前相手してやれ。」
「うおおおっしゃあーーー!オサムッチ!オーナシャース!」
 石黒さんが右手をかざしてウィンクをしながら少し腰を曲げて挨拶してきた。正直眩しいばかりのギャルムーブなので、対応に困り少しだけドギマギしている自分もいたが、そんなギャルの命をこれから奪うかもしれないのかと思うと緊張と恐怖の方が勝ってしまう。
 だが……もうこうなったら腹を括ろう。
「……先生。本当にどうなっても知りませんからね?」
「ん。」
 風船ガムを膨らましながら生返事。この人もしかして仕事が辛くてわざと不祥事起こして退職したいのか?この高校は本当に不祥事が好きらしい。今回のは生徒主体で起こす事であるから尚の事タチが悪い。
 先生と他の生徒達が訓練場のフィールドから足を下ろし、僕と石黒さんが真ん中付近で向き合って立つ。不意に胃の辺りから何かが戻ってきた。形容しがたい酸味が口内と鼻腔に確実な不快感を与えてくる。こんな状態で大丈夫なのだろうか。
「ルールは簡単。相手が降参するかどちらかが場外に出るまで。」
 お、マジか。いい事思いついたぞ。腹を括る必要はなさそうだ。
「あと金刃。即降参と場外までいきなり走って出るのは駄目だからな。その場合何度でも再試合にするぞ。」
 残念。括り直し。
「じゃあオサムッチ!ブーチーアーゲーてーけー!!」
 両手を高々と上げてふんぞり返るようにして叫ぶ石黒さん。うん、こっちも少しでもテンション高くしておくか。
「何卒お手柔らかにお願い致します。」
「いや真面目か!」
 冷静にツッコんでくれてありがとう。
「ん。試合開始なー。」
 かくしてダルそうなゴングと共に、アゲアゲな模擬戦が開始するのであった。
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