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氷雅姫(ひょうがき)、到来
負けなければならない模擬戦②
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今僕は冷たいコンクリートの上で、石黒さんと向かい合って立っている。このタイミングで渡すべき物なのかどうかは分からないが、忘れないうちに渡しておこうか。
「石黒さん。とりあえずこれは返しておくよ。」
僕はポケットにしまっておいた石黒さんのスマフォを取り出して石黒さんに渡した。
「おっ!?あざまるオサムッチ♪これないとあーし死ぬんだよねー。」
そのスマフォが生命維持装置も兼ね備えていたのは知らなかった。でもそれを他人の顔面に投げていたよね?
既に勝った気でいるのか分からないが、意味ありげににやにやと笑っている石黒さん。ガーディストを目指している人達っていうのは、全員戦闘狂かその類なのだろうか。
ともあれ、まずはどうこの場を切り抜ける事が出来るのか。
絶対条件を考えねばならない。第一、【フィジカルポイント】を発動させつつ、石黒さんに怪我をさせないようにする。第二、その為には石黒さんの攻撃を受けた上で降参宣言をする。第三、その上で自分が怪我をしないのが望ましい。
この絶対条件が揃う戦法は、今の僕が考える限り一つだけ。
「【フィジカルポイント】、発動。」
首輪のガイストが赤黒く光り、発動が成功した事を知らせる。戦う時の自然なポージングなど全く分からないが、とりあえずらしい格好だけつけておく。ただ、それだけだ。
「……へぇ?攻めてこないん?」
そう、完全なるガン待ち戦法だ。【フィジカルポイント】を発動させつつ、反撃のチャンスを伺うフリして、あえて何もしない。あえて、ね。
そして【フィジカルポイント】の発動時間は5分。クールタイムに入った瞬間に僕の敗北は決まる。
そのタイミングでギブアップすれば僕の負け(勝ち)、自然と模擬戦が終了するというシナリオだ。考える余裕が少しでもあったのは良かった。心臓の高鳴りは全くおさまりそうにないけど。
石黒さんも流石に痺れを切らしたのか、その場で軽くトントンッと飛び跳ねている。そろそろ向こうからくるだろう。
「まぁ。そっちがその気なら、あーしは全然ありよりのありなんよね。だってさ。」
石黒さんの姿勢が低くなり、こちらへ駆け出すのが見えた。
「あーし攻めんの好きだし!!」
……その瞬間は見ていた。見ていたはずなのに。
「は、はやっ!?」
既に石黒さんはバカみたいな構えをしている僕の懐に入っていた。
「とりまいいの一発な!!」
防御するにも、もう遅い。石黒さんの右の拳が僕の鳩尾にクリーンヒットする。拳がめり込んだ後の腹部を時間差でおさえる。なんて痛みだ……まるで金属バットでフルスイングされたような衝撃が鳩尾から全身に……。
「……は!?」
石黒さんが大きく口を開けて大声を上げながら大きく後退りして距離を取る。
さぁ僕の方だが……そろそろ衝撃的な痛みが来るはず……。さぁ来い……。来い!
……って来ないね、全く。
これっぽっちもダメージを受けていない。なんか当たったかな程度の感触であった。
どう考えても普通なら無様に床に転がりながら嘔吐して半べそかくぐらいのパンチだったはず。それこそアバラとか絶対折れているはずぐらいの……だよね?
「……オサムッチ……どういうガイストなんそれ?エグみざわなんだが?」
「は、ははは……。自分でもびっくりしている所だよ……。」
とりあえずは助かった。それは良しとして、だ。問題の解決となると別問題。あと少し気になった事がある。
「純粋な身体強化系っぽい?そんなオラ系なのに全く仕掛けに来る気配無さげなのかよ!オサムッチウケるー!!やばば!」
こちらの作戦の意図など知る由も無く、石黒さんはこっちに指差しながら笑っている。
思う存分笑ってくれ。こっちとしてはそちらが無駄な怪我をしなければそれでいい。
さて先程の気になった事だが、それは【フィジカルポイント】の効果の事だ。
確か学園長の話では『筋力、瞬発力、持久力の強化』だったはず。実際に今の石黒さんの攻撃は筋力強化のおかげで助かっているのだろう。
問題はその次の瞬発力だ。確か瞬発力って動体視力と大きく関わっていなかったか?筋力強化に関しては申し分ないのだが、先程の石黒さんの動きに僕の目が全然追いついていなかった。この訓練場の床にクレーターをあける程のパワーを持っているにも関わらず。
僕が何を言いたいか。現状で僕が受けている恩恵というのは、【フィジカルポイント】の筋力強化のみしか感じ取れないのだ。他の二つの恩恵―持久力に関してはまだ何とも言えないが―は、正直雀の涙ほども受けていないだろう。
しかしだ。姉さんと殺しあっている時はそんな事は無かった。相手の動きもスローモーションに見えたし、息だってそこまで上がらなかったはず。
そこで僕の中で仮設を立ててみる。この【フィジカルポイント】は発動させるだけで恩恵が得られる訳ではなく、僕の集中力とリンクしてその都度に適応した能力を発揮してくれるというものではないか?
「んじゃ本気で行くべ!オサムッチ!」
掛け声があってくれて助かった。検証が容易くなる。動き出す前の石黒さんの顔を凝視してみた。
結論から言おう。予想は見事的中。今度はコマ送りの様に石黒さんがこちらに徐々に近づいてくるのがはっきり見える。今度は攻撃を受ける前にしっかりとした回避行動が取れるだろう。
先程と同じようながら空きのボディへの一発を貰わないようにする為にも、ここはしっかりと見極めて避けていきたい。しかし今度は至近距離までは近づいて来なかった。
「え!?」
素っ頓狂な声をあげてしまう。近づいてくる前に石黒さんは思い切り踏み込んで空中をいた。そのまま思い切り足を上げていくのが見える。
なるほど。このコースから言って僕の頭上に強烈なかかと落としでもカマすつもりなのだろう。悪いがそうはいかない。そちらの動きはこちらから丸見え……。
「……丸見えだ。」
あぁ、とてもよく見える。この位置。最高の位置だ。石黒さんの健康的な太腿に合わさって舞うスカートの中から見える布地。それは健全な男子なら一度は拝見しておきたいチラリズムの王道。
そう、パンチラである。しかも結構エグめの色彩を放っていた。これはもう。なんと言えばいいのか。イケイケのギャルがあんな物を御召しされているという事はそういう事であって。どういう事であるかというと。まぁその……いやぁとても僕の口からは言えないよ。どうしようね、ははは……って!?
「目の前!?」
すんでの所、しかもただ少し後ろに下がってしりもちをつくという、この上ない程不格好な避け方でチラリズムからの一撃を躱す。ズダンッと訓練場の床が少しだけ震えるくらいの衝撃で、石黒さんの上げていた足は地についていた。よく見たら少しだけヒビが入っている。強化していなかったら即昇天していただろう。両手両足を使ってバタバタと後退する。
チラリと石黒さんの様子を見てみた。少しだけ体が震えてるように見えた。
……もしかして着地時に痛めたとか?それなら助かる。大事を取ってここは引き分けという事で手打ちに出来ないだろうか?我ながら名案ではないだろうか?
「……オサムッチさぁ……。」
ゆったりと石黒さんの顔が上がる。どのような表情だったか。それは真っ赤なトマトのようでもあり、茹で上がったタコのようでもあり、いや違うな。これこそあれだろう。
「……完璧に見てただろ?あーしのアレ。」
「見てません。」
マズイ。そんな事を言っている場合ではない。危機だ。今こそ僕がこの高校で乗り切らなければならない危機だ。
「見たっしょ?」
「いえ、見てません。」
いいか?どこまでもシラをきれ金刃乱!お前はやれば出来る子だ!ここを潜り抜けなければ待っているのは確実な生命の停止だ!
目を異常なまでに細くしながら、石黒さんは少しだけため息を吐いた。
「……正直に見たって言えば、あーしは別にいいんだけど。」
「……本当?」
駆け引き上手な方ではない気がするので、本心で言っていると思いたい。石黒さんはそういう感じの子がする。出会ってまだ数時間しか経過していないけど。
「そうそう。だから大人しく見たって言ってみ?ん?」
おお……。おおおお……!!聖母とは本当に存在したのか!?彼女の慈愛に満ちたあの表情!間違いない!これは許される展開だろう!
というより、あの状況では僕に非はない!何故なら僕は『ただ攻撃を避ける為』に石黒さんの動きを観察していただけのだから!謂わば完全な事故であり、非があるのはむしろ石黒さんの方だ!石黒さんもそれを分かっていて言っているのだ!
ならば言うしかあるまい!
「うん!しっかりと赤色が見えましばべぇっ!」
石黒さんの生命維持装置が今度は僕の顔面へとヒットする。自ら死ににいっていないか、この人。集中していなかったからもろに喰らってしまった。痛くはなかったのがせめてもの救いか。
「ぶっ殺す。」
救いはありませんでした。これから片目が完全に血走って息の上がっている石黒さんに殺されてしまうようなので。
来世への教訓としては、女子のスカートの中身を万が一にも見てしまった場合には絶対に見ていないと言い切るという事を肝に銘じておこう。
では皆さん、さようなら。
「石黒さん。とりあえずこれは返しておくよ。」
僕はポケットにしまっておいた石黒さんのスマフォを取り出して石黒さんに渡した。
「おっ!?あざまるオサムッチ♪これないとあーし死ぬんだよねー。」
そのスマフォが生命維持装置も兼ね備えていたのは知らなかった。でもそれを他人の顔面に投げていたよね?
既に勝った気でいるのか分からないが、意味ありげににやにやと笑っている石黒さん。ガーディストを目指している人達っていうのは、全員戦闘狂かその類なのだろうか。
ともあれ、まずはどうこの場を切り抜ける事が出来るのか。
絶対条件を考えねばならない。第一、【フィジカルポイント】を発動させつつ、石黒さんに怪我をさせないようにする。第二、その為には石黒さんの攻撃を受けた上で降参宣言をする。第三、その上で自分が怪我をしないのが望ましい。
この絶対条件が揃う戦法は、今の僕が考える限り一つだけ。
「【フィジカルポイント】、発動。」
首輪のガイストが赤黒く光り、発動が成功した事を知らせる。戦う時の自然なポージングなど全く分からないが、とりあえずらしい格好だけつけておく。ただ、それだけだ。
「……へぇ?攻めてこないん?」
そう、完全なるガン待ち戦法だ。【フィジカルポイント】を発動させつつ、反撃のチャンスを伺うフリして、あえて何もしない。あえて、ね。
そして【フィジカルポイント】の発動時間は5分。クールタイムに入った瞬間に僕の敗北は決まる。
そのタイミングでギブアップすれば僕の負け(勝ち)、自然と模擬戦が終了するというシナリオだ。考える余裕が少しでもあったのは良かった。心臓の高鳴りは全くおさまりそうにないけど。
石黒さんも流石に痺れを切らしたのか、その場で軽くトントンッと飛び跳ねている。そろそろ向こうからくるだろう。
「まぁ。そっちがその気なら、あーしは全然ありよりのありなんよね。だってさ。」
石黒さんの姿勢が低くなり、こちらへ駆け出すのが見えた。
「あーし攻めんの好きだし!!」
……その瞬間は見ていた。見ていたはずなのに。
「は、はやっ!?」
既に石黒さんはバカみたいな構えをしている僕の懐に入っていた。
「とりまいいの一発な!!」
防御するにも、もう遅い。石黒さんの右の拳が僕の鳩尾にクリーンヒットする。拳がめり込んだ後の腹部を時間差でおさえる。なんて痛みだ……まるで金属バットでフルスイングされたような衝撃が鳩尾から全身に……。
「……は!?」
石黒さんが大きく口を開けて大声を上げながら大きく後退りして距離を取る。
さぁ僕の方だが……そろそろ衝撃的な痛みが来るはず……。さぁ来い……。来い!
……って来ないね、全く。
これっぽっちもダメージを受けていない。なんか当たったかな程度の感触であった。
どう考えても普通なら無様に床に転がりながら嘔吐して半べそかくぐらいのパンチだったはず。それこそアバラとか絶対折れているはずぐらいの……だよね?
「……オサムッチ……どういうガイストなんそれ?エグみざわなんだが?」
「は、ははは……。自分でもびっくりしている所だよ……。」
とりあえずは助かった。それは良しとして、だ。問題の解決となると別問題。あと少し気になった事がある。
「純粋な身体強化系っぽい?そんなオラ系なのに全く仕掛けに来る気配無さげなのかよ!オサムッチウケるー!!やばば!」
こちらの作戦の意図など知る由も無く、石黒さんはこっちに指差しながら笑っている。
思う存分笑ってくれ。こっちとしてはそちらが無駄な怪我をしなければそれでいい。
さて先程の気になった事だが、それは【フィジカルポイント】の効果の事だ。
確か学園長の話では『筋力、瞬発力、持久力の強化』だったはず。実際に今の石黒さんの攻撃は筋力強化のおかげで助かっているのだろう。
問題はその次の瞬発力だ。確か瞬発力って動体視力と大きく関わっていなかったか?筋力強化に関しては申し分ないのだが、先程の石黒さんの動きに僕の目が全然追いついていなかった。この訓練場の床にクレーターをあける程のパワーを持っているにも関わらず。
僕が何を言いたいか。現状で僕が受けている恩恵というのは、【フィジカルポイント】の筋力強化のみしか感じ取れないのだ。他の二つの恩恵―持久力に関してはまだ何とも言えないが―は、正直雀の涙ほども受けていないだろう。
しかしだ。姉さんと殺しあっている時はそんな事は無かった。相手の動きもスローモーションに見えたし、息だってそこまで上がらなかったはず。
そこで僕の中で仮設を立ててみる。この【フィジカルポイント】は発動させるだけで恩恵が得られる訳ではなく、僕の集中力とリンクしてその都度に適応した能力を発揮してくれるというものではないか?
「んじゃ本気で行くべ!オサムッチ!」
掛け声があってくれて助かった。検証が容易くなる。動き出す前の石黒さんの顔を凝視してみた。
結論から言おう。予想は見事的中。今度はコマ送りの様に石黒さんがこちらに徐々に近づいてくるのがはっきり見える。今度は攻撃を受ける前にしっかりとした回避行動が取れるだろう。
先程と同じようながら空きのボディへの一発を貰わないようにする為にも、ここはしっかりと見極めて避けていきたい。しかし今度は至近距離までは近づいて来なかった。
「え!?」
素っ頓狂な声をあげてしまう。近づいてくる前に石黒さんは思い切り踏み込んで空中をいた。そのまま思い切り足を上げていくのが見える。
なるほど。このコースから言って僕の頭上に強烈なかかと落としでもカマすつもりなのだろう。悪いがそうはいかない。そちらの動きはこちらから丸見え……。
「……丸見えだ。」
あぁ、とてもよく見える。この位置。最高の位置だ。石黒さんの健康的な太腿に合わさって舞うスカートの中から見える布地。それは健全な男子なら一度は拝見しておきたいチラリズムの王道。
そう、パンチラである。しかも結構エグめの色彩を放っていた。これはもう。なんと言えばいいのか。イケイケのギャルがあんな物を御召しされているという事はそういう事であって。どういう事であるかというと。まぁその……いやぁとても僕の口からは言えないよ。どうしようね、ははは……って!?
「目の前!?」
すんでの所、しかもただ少し後ろに下がってしりもちをつくという、この上ない程不格好な避け方でチラリズムからの一撃を躱す。ズダンッと訓練場の床が少しだけ震えるくらいの衝撃で、石黒さんの上げていた足は地についていた。よく見たら少しだけヒビが入っている。強化していなかったら即昇天していただろう。両手両足を使ってバタバタと後退する。
チラリと石黒さんの様子を見てみた。少しだけ体が震えてるように見えた。
……もしかして着地時に痛めたとか?それなら助かる。大事を取ってここは引き分けという事で手打ちに出来ないだろうか?我ながら名案ではないだろうか?
「……オサムッチさぁ……。」
ゆったりと石黒さんの顔が上がる。どのような表情だったか。それは真っ赤なトマトのようでもあり、茹で上がったタコのようでもあり、いや違うな。これこそあれだろう。
「……完璧に見てただろ?あーしのアレ。」
「見てません。」
マズイ。そんな事を言っている場合ではない。危機だ。今こそ僕がこの高校で乗り切らなければならない危機だ。
「見たっしょ?」
「いえ、見てません。」
いいか?どこまでもシラをきれ金刃乱!お前はやれば出来る子だ!ここを潜り抜けなければ待っているのは確実な生命の停止だ!
目を異常なまでに細くしながら、石黒さんは少しだけため息を吐いた。
「……正直に見たって言えば、あーしは別にいいんだけど。」
「……本当?」
駆け引き上手な方ではない気がするので、本心で言っていると思いたい。石黒さんはそういう感じの子がする。出会ってまだ数時間しか経過していないけど。
「そうそう。だから大人しく見たって言ってみ?ん?」
おお……。おおおお……!!聖母とは本当に存在したのか!?彼女の慈愛に満ちたあの表情!間違いない!これは許される展開だろう!
というより、あの状況では僕に非はない!何故なら僕は『ただ攻撃を避ける為』に石黒さんの動きを観察していただけのだから!謂わば完全な事故であり、非があるのはむしろ石黒さんの方だ!石黒さんもそれを分かっていて言っているのだ!
ならば言うしかあるまい!
「うん!しっかりと赤色が見えましばべぇっ!」
石黒さんの生命維持装置が今度は僕の顔面へとヒットする。自ら死ににいっていないか、この人。集中していなかったからもろに喰らってしまった。痛くはなかったのがせめてもの救いか。
「ぶっ殺す。」
救いはありませんでした。これから片目が完全に血走って息の上がっている石黒さんに殺されてしまうようなので。
来世への教訓としては、女子のスカートの中身を万が一にも見てしまった場合には絶対に見ていないと言い切るという事を肝に銘じておこう。
では皆さん、さようなら。
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