ガーディストベルセルク

ぱとり乙人

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氷雅姫(ひょうがき)、到来

パワーアップル大作戦!開始!①

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「………。」
 難しい。何度やっても。
「……失敗ですね。」
 部屋の床に無残に散らばる数々の林檎の破片と果汁。そして僕の制服にも甚大な被害が及んでいた。
「……べったべたで気持ち悪い……。」
「我慢してください。感覚を掴むまでの辛抱です。」
 そう言われても、この噎せ返るような酸味と甘みの香りを嗅ぎ続けるというのは少々酷な話ではないでしょうか?
 いやしかし……感覚を掴むってさ。
「よもやこんなにも難易度が高いとは……。」
 思わず頭を掻いてしまった。果汁塗れの手が髪に触れて更に不快感が増す。
「しっかりと集中すれば、おのずと出来るものですよ。さぁもう一度です。」
 再度母さんから林檎を手渡される。しばらく見たくもなくなりそうだ。
 ……というか。
「正直な話、林檎じゃなくても良かったのでは?母さんの能力で作る氷とかでも大丈夫じゃないの?」
「氷を素手で触り続けるのも辛いでしょう?母なりの優しさです。それに床に散らばった林檎は、毒島にでも処理させておきますので大丈夫です。」
 学園長を用務員と勘違いしていませんか?まぁあの人の事を気の毒になんて微塵も思わないけど。
 とにかく練習再開。林檎を左の掌に載せてゆっくりと握る。
「……【フィジカルポイント】、発動。」
 か細い声を出すと首輪に装飾されているガイストが赤黒く光りだす。発動完了の合図だ。
「徐々に……徐々に……!壊さないように……!」
 全神経を五指に集中させ、少しずつ力を入れようとする。皮の面の感触が段々と明確になっていき、しっかりと林檎を掴みきる。林檎は少し潰れかけていたが、未だに原型を保っていた。
「順調です……!その調子ですよ、乱さん!そのままキープしてください!」
 母さんの少し明るくなった顔がチラついたが、今はどうでもいい。壊さないという事にだけ集中しろ。
 この林檎を人だと思えばいいんだ。もしも力を出してしまったら握りつぶして殺してしまう。
 そうならないように、慎重に、冷静に、感覚を研ぎ澄まして!!
「はぁーい!!私の乱ちゃんはここですかー!?」
 グシャアッ。
 はい、また名もなき命が散っていきました。どうせなら声の主の方をこんな感じにしてやりたい所だけど。
「まぁっ!?乱ちゃんどうしたの!?というか何!?この部屋めっちゃ甘酸っぱい香りしてるし!?……あぁ、なるほど。」
 最初は驚いていた姉さんだったが、どうやらパワーアップル作戦に気づいたようだ。勘がいい事で。なら次の言葉は謝罪から始まるよね?『邪魔してごめんなさい』って。
「……こういうプレイをお望みなのね?んもう、乱ちゃんったらマニアックぅ♡」
 全然理解していなかった。これっぽっちも期待していなかったけど。
「桜子。邪魔をしないで。乱さんは今特訓中なのですから。」
 母さんが目頭を少し抑えて呆れながら答えた。姉さんは首を傾げながら聞き返す。
「えー?なんの特訓?」
「ガイストの制御方法です。このまま使っていれば乱さんはいずれ生徒を傷つけてしまう可能性があります。」
「あー……そうね。相手によって使い分けくらいは流石に出来ないとまずいわよね。」
 なんと?姉さんが珍しく納得している。いつもなら『そんな事より今から私と愛を育みましょう』とか言い出すのに。やっぱり姉さんから見ても制御できていないと危険なガイストなのか。
「私はどうって事ないけど。むしろ乱ちゃんから激しく求められるのはバッチコイというか。」
 僕は無意識のうちに新しい林檎を掴んで、ガイストを全開放して姉さんの顔面に投げつけた。
「べぶふぉっ!?」
 クリーンヒット。ざまあみろ。林檎の皮の赤と鼻血の赤が混じっていい塩梅に顔面が崩れている。今までのストレスが一気に解消された気分だ。
「バカな事言っていないで早く出て行って。というか今授業中だろ?生徒会長が授業サボっているなんて体裁として最悪じゃないの?」
「え?むしろ逆よ?私は生徒会長だからサボっているのよ。」
 姉さんは鼻血を袖で拭きながら答えた。ハンカチくらい持ってないのかよ。それでまた意味不明な事を言い出すし。
「どういう事だよ。生徒会長なら何してもいいって事?」
「え、うん。」
 ねぇこの人無茶苦茶過ぎる。母さん何とかしてよと顔で合図するが、なんとその母さんからは無言で首を横に振られた。どーしてぇ。
「乱さん。仮にも桜子はここの生徒会長なのです。生徒会長というのはその名を冠する通り、学園内最強を意味します。……もし生徒会長を止めたいのであれば、この学園では実力を示す事が大前提になります。ここまで言えばわかるでしょう?」
「……つまり、姉さんと戦って勝って証明しろと?」
 またも無言で頷く母さん。力こそ正義か。やはりこの学園は教育機関として大問題を抱えているのでは?
「しかし、今回に限って言えば助かりましたよ、桜子。特別に褒めてあげます。」
 皮肉たっぷりに無表情で褒める母さん。ちょっと待って。今の流れで何処を褒める要素があった?
「あらら。いつ以来かしらね。ママから褒められるなんて。」
「私も覚えていません。兎にも角にも乱さんの特訓に突破口が出来ました。『アップルで感覚を掴んでパワーアップル大作戦!』、やはり成功です。」
 姉さんの顔が険しくなる。やめてよ。これでまた喧嘩なんてしないでよ?喧嘩する気すらなくなるギャグでもあるからいいけど。……しかし。
「母さん、どういう事?僕まだ一回も成功していないけど?」
「いいえ、乱さん。今見事に成功していましたよ。桜子に林檎を投げつけた時です。」
「……あ。」
 思い返してみる。
 ……確かに!!投げる寸前まで潰れかけてもいなかった!!しかも個人的には全開放状態で投げられた!
「え?でもなんで?」
「それが無意識化、というものです。『桜子に林檎をぶつける』という行動原理から成せた事でしょう。今ので50%くらいでしょうか?」
「いや……自分的には全開放で投げたつもりなんだけど。」
「……そうですか。乱さんの全開放なら、今頃桜子の上半身は消し飛んでいてもおかしくはないのですが……。」
「乱ちゃんが私に対して投げてくれた愛なのよ!正面から向かってなんぼのもんよ!」
 そんな理由で耐えられても困る。消し飛んで欲しかったのに。
「……丁度いいわね。桜子。どうせ乱さんに纏わりつくのであれば協力なさい。」
「え゛。」
「ええ!?いいの、ママ!?」
 思い切り抱き着いてくる姉さん。苦しい。わざと谷間で埋れさせるように顔を押し込んでくるのも腹が立つ。それで実の弟が劣情を抱くとでも思っているのか。
「はい。誠に遺憾ではありますが、乱さんの為に背に腹は代えられません。」
「そうよ、そうよね!?乱ちゃんの為!」
 お前は違うだろ。明らかに自分の欲望の方が勝っているだろうが。とにかく離せ、早く。
「では、今後は桜子に林檎を当てる練習から始めます。その後別の物を触ったとしても壊れないかどうかの訓練です。宜しいですね?」
「はーーーーい!」
 ネジが完全に外れてやがる。聞いていましたか?あなたを的にして全力全開で林檎を当てろって事だよ?また鼻血出すかもしれないんですよ?
「うぇひへへひ……これから楽しみねぇ……あ・な・た♪」
 理解した上で楽しんでいるんだ、この人。
 今から砲丸投げの球に変更できますかね?それじゃ練習の意味なくなるからダメか。
「……もう退学したい。」
 一筋の涙を流しながら、僕は素直な気持ちを吐露した。
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