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その生徒、都落ちにつき
胸を張っていい訳あるか
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人の手とは、一体どうやったらこのようになるのだろうか。
一つ一つの関節に、スーパーボールでも入っているかの如く膨らんでいる。そして、その至る所に見える数々のタコのようなもの。そもそも厚みや大きさだけで見ても僕の2倍近くある気がする。
格闘技に詳しくない僕が見ただけでも分かる。理解し難いが迄の実戦か、それ以上の訓練の賜物であろう。
それがガーディストになる為のものであるか、そうでないかは不明であるが。
恐る恐る、ゆっくりとその手をとる。
その厳つさとは裏腹に、高級クッションに包み込まれるような心地の良い感覚と共に、僕の身体は枯葉でも抓まれるかのようにふわっと引き上げられた。
「大丈夫?怪我はない?」
「…………。」
やけに響く心配の言葉に声が出ない。あり得ない。あり得ないのだ。
僕は間違いなく【フィジカルポイント】を発動した状態で、我妻先輩の身体にぶつかった。
ぶつかった?いや、表現の仕方が適格ではない。
これは衝突と言っていいだろう。事実僕の発動した際のパーセンテージはほぼマックスに近い……出力の加減が合っていればの話だけど。
それを真正面から受けた?生身の人間が?姉さん以外そんな人がいるなんて考えられない。
……いや待て?よもや僕がそう思い込んでいるだけで……いやいや、それもない。
それなら石黒さんが前に怪我を負った理由が付かなくなる。
やはり……受け止める事が出来たのだ。僕の【フィジカルポイント】を。
発動していたガイストを停止させる。逃げ場がないのに使っていてもしょうがない。
だが、聞いておかないと気がすまない。
「……なんでなんともないんですか……?」
「え?」
きょとんとしている我妻先輩に当然の質問を問いかける。
「僕のガイスト……【フィジカルポイント】は、身体能力を劇的に向上させる事が可能です。僕はまだ使いこなせていないのでアバウトな使い方しか出来ませんが、今はほぼマックスパワーで使っていました。これは一般人にぶつかりでもしたら間違いなく即死するレベルだと思っています。実際に同級生にぶつかってはいませんが、模擬戦で怪我を負わせてしまいました……。なのに……!!」
自分で言っていて、段々と興味ではなく恐怖が勝ってくるのがわかってくる。身体が震えているのだ。
それは僕がもう一つの事に気が付いているからである。
「なんでガイストも発動していないのに、先輩は無傷で立っているんですか!?」
合点がいかないのである。夢幻であるならば説明はつくのであるが、そうはいかない。
僕ははっきりと目を覚ましているからである。当然ながら。
「えっ!なんで僕がガイストを発動していないってわかったの!?あれ!?僕って君に自分のガイストの事伝えたっけ?」
思っていた反応とまるで違う。そっちじゃないそっちじゃない!僕が言いたいのは……。
……ん?
「なんでガイストが発動していないか分かったか……?」
んん?ちょっと待って下さい。そりゃ、見ればわかる事ない?だってさ。
「だって先輩。ガイストツールかガイストスキン、今身に着けてないですよね?」
「え……?」
「え?」
気まずそうな沈黙。あ、これね。結構このパターン知っているんですよ。『あれ?僕またなんかやってしまいましたかね?(笑)』ってやつでしょ?え?違う?
「……おい、金刃。お前はそれを本気で言っているのか?本気で言っているのなら大問題だぞ……?」
「……乱君。僕が言うのもなんだけど、流石に勉強不足というか……えぇと……えぇ?なんて説明したらいいのやら……うーん?」
よし、どうやらこの話題はとてもまずい内容らしい。なかった事にしようそうしよう!という訳で話のすり替えタイム!
「あ、あの!それはそうと本当に先輩の身体は大丈夫なんですよね!?骨折とかしてないですよね!?」
ここは先輩の身体を労わる事に専念しよう。
「え?あぁ。それは大丈夫だよ。これくらいの事なら日常茶飯事だし。」
これくらいが日常茶飯事?どんな日常を送られているのかドキュメンタリー方式で追いたいくらいです。視聴率2桁確実でしょうね。
「……改めてガーディストになるって大変なんだろうなと実感しました。言い方はとても悪くなってしまうのが大変失礼かもしれませんが、先輩クラスでもなるのは難しいという事でしょうか?」
「……単純に戦闘能力だけで言えば、満はすぐにでもなれると思うぞ。身内贔屓はあるにしてもな。恵まれた体型。そして他の追随を許さない圧倒的な身体能力。本当に申し分ない。……本当にな。」
「黒井さん。滅多な事言わないで。僕なんかまだまだだよ。……それに、僕自身も未だ迷っているから。」
「……はい?」
迷っている……だって?え、何を?まさかとは思うけど……いや、まさかまさか。
「あんた……!まだそんな馬鹿な事考えてんの!?いい加減にしなよ!」
「……ははは。まぁ、まだ時間はあるし。ゆっくり考えるとするよ。」
「……ガーディストになりたくないんですか?」
思わず口の方が先に動いてしまった。しまったと思ったが、出た言葉は今更なかった事にはならない。もっと考えてから発言すべきであったと痛感した。
「……どうなんだろうね。確かに誰かを助けたり、役に立ったりするのは素晴らしい事だと思っているけど……ちょっとね。」
お茶を濁すような言葉しか出てこないのだろうか。少なくとも本心ではなさそうではある。
そして、少しだけ助けを……いや、違う。共感か、それとも理解か……?
そんなような目で、黒井先輩の方を見つめていたのがとても印象的であった。
「……そんな風だから……あんたは…………!」
それを見た黒井先輩が、何故か悔しそうに下唇を噛んでいる姿も同じく。
「おっ!?こんな所に居やがったのか!?おーい!!こっちだ!!例の一年生!!」
「「「!?」」」
空気を読まずに、本来僕が通り抜けるつもりだった通路から複数人の声が聞こえてくる。
「え……え!?」
「乱君、下がっていて。」
大きくそして逞しく、頼りがいのある身体が僕の身体を隠すように前へと立ち塞がる。
僕は言われた通り、その身体から徐々に1歩、2歩と後退りし始めた。
「あ?なんだよ。我妻と黒井じゃねーか。」
「げ!先越されてたのかよ。はぁー……つまんね。」
「でもコイツ等にメリットなくね?付き合ってんだろ?」
「……確かに。なんでここにいるんだ?たまたま居合わせただけじゃね!?」
「お!?ならチャンスあんじゃーん!」
ゾロゾロと何十人と言った数が、少し狭い会場に入場してきた。
その制服を見るに、どうやら僕より上の学年。2年生……。つまり、先輩達の同級生だと思われるのだが。
「……はぁ。会長が来たかと思えば。何か用か?今は取り込み中なのでな。要件があるなら手っ取り早く頼むぞ。えーと……まぁ、名前はいいか。」
「よくねぇよ!」
と、来場した全員からツッコまれた黒井先輩であった。
「黒井さん!彼は松葉君、あっちは木下君!それでこっちは細川君!!同級生の名前くらい覚えなよ!失礼極まりないよ!!」
呆れた表情で怒り出す我妻先輩に、押し寄せてきた人達は少し笑顔になっていた。
「……我妻。お前は本当にいい奴だな。顔はヤクザだけど。」
「本当。お前と同級生で俺達は誇らしいよ。顔はヤクザだけど。」
「また今度昼飯行こうな。顔がヤクザだから出禁の店もたくさんあるけど。」
「……。」
同級生の馴染みというやつだろうか。到底友達相手だとしてもタブーというものがあるはずなのに、躊躇なくそのタブーを選挙の宣伝カーの如く連呼するあたり凄いなと思う。
流石に弄られ過ぎて、あの我妻先輩もちょっと小刻みに震えてるんだもん。
「顔はヤクザは余計だ!!あと出禁になったのは顔のせいじゃない!!大食いチャレンジし過ぎてこれ以上クリアされたら店が潰れるからって言われたからだ!!」
あ、ちゃんと怒るのね。ちょっと安心した。あと店には素直に同情するわ。
「……それで?お前達の目的は金刃か?」
あ、黒井先輩もう本題に入っちゃうの?もう少し同級生のやり取り見たかったけど。
「……まぁそうだな。見れば分かるだろうけど。」
「大方想像はつく。……お前達も懲りないな。」
「……黒井先輩?どういう事です?」
本題に移行したようなので、会話に参戦する。はてさて、申し訳ないが入場してきた先輩方には当然の如く面識はない。
だが、用があるのは僕にらしい。何故だろう?
「あんなオイシイ話。全男子生徒であるならば夢のような話だろうが。」
「……オイシイ話?」
「そうだ!弟君よ!!」
そう声高らかに、先輩達は一同に答えた。
「「「「「「「弟君を倒したら、あの桜子先輩と1日デートが出来る権利が貰えるなんて!!」」」」」」」
………。
……。
…。
眉を細めながら、僕は黒井先輩を見た。
「……無論、あの人が勝手に決めた事だ。」
吐き捨てるように溜息を吐く黒井先輩。あの女、今から来たら全力でぶち殺してやる。
と、同時に。先輩方に提案をした。
「あの。僕の許可がいるという点であるならどうぞご自由にデートしてくださって結構でございます。なんならそのままゴールインしてそちらに嫁いでもらうのであれば、僕としても非常に助かります。本当に貰って下さい。お願いします。頭下げてすむなら何度でも下げます。それとも土下座がいいですか?」
「え!?ちょちょちょ!?突然どうしたコイツ!?」
僕はいつの間にかヘドバンのように頭を上げ下げしつつ、その後すぐに土下座をして懇願した。その様子を見て、先輩達はとんでもない困惑の表情を浮かべていた。
「……金刃はそう言っているが、すまんな。私達は会長からコイツの保護を頼まれている。コイツに手を出すというなら、私達が相手になるが……どうする?」
「ぐっ……!」
黒井先輩が脅迫めいた言葉で先輩達を威圧すると、流石に相手が悪いのか全員で顔を見合わせていた。
……本当にそうなのだろうか?この人数差で?物量差というのは単純に戦力差に直結する。
僕を合わせたとて3人。向こうはその10倍近くの差。
……負ける要素あるの?一般人ならまだしも、この人達も当然の如くガイスト使えますよね?
普通に……詰みでは?
「……負けると分かっていても、俺達は夢を追う事を諦めてはならないと思っている。それこそ、いつの日かガーディストになるという志と同じように。」
は?あんなクソと1日デートするのと、平和を守るガーディストになる夢を一緒にしてんのかこの人達。一気に小さく見え始めてしまった。というか、ただの頭のおかしい集団では?
「全く。偉そうに言っているが、男の欲望が丸出しで気持ち悪いぞ。いい加減諦めて他の女生徒にアタックしてみたらどうだ?余程時間を有効に使えるぞ?」
うんうん!黒井先輩の仰る通りでございます!あのクソよりいい女なんて星の数程いるわ!
え、例えばって?そりゃあ……。
「……ぬふぇ。」
「うわ。きも。何その顔。ウーパールーパーの真似でもしているのか?」
思わず幸原さんの顔を思い出してしまった。って、誰がメキシコサンショウウオだ。失礼な先輩方だな。
「ともかく、乱君に手を出すのなら相手になるよ。怪我しても知らないからね?」
首をゴキリと動かし、拳を合わせてボキボキと指を鳴らして戦闘準備をする我妻先輩の姿は、明らかに闇金融が債務者を追い詰めるそれに酷似していた。
「へっ!こちとら最初から簡単にいくとは思っちゃいねぇよ。凸凹カップルが相手だろうと引く気はねぇ!」
「そうよ!あのルックスとボディの前で正気を保っている方が男としておかしいんだよ!」
「……はぁ。あんな余計な脂肪の何がいいんだか。」
「……なぁ、黒井。」
「何だ?」
とある先輩が、黒井先輩の発言に慈悲の目をしながら答えた。
「ないものねだりは虚しい。今後成長の期待は見込めないが、お前は胸を張っていいと思う。それも一種の価値だ。」
えっ?今この人なんて言った?僕の聞き間違いじゃなきゃそれって地雷原でタップダンスって言葉の更に上をいきそうな発言だった気がする。
「おい。」
しかし、先に逆鱗に触れたのは黒井先輩ではなく。
「テメェ……今芽音ちゃんになんて言った?」
間違いなく筋者の威圧感を放っている我妻先輩のようであった。
一つ一つの関節に、スーパーボールでも入っているかの如く膨らんでいる。そして、その至る所に見える数々のタコのようなもの。そもそも厚みや大きさだけで見ても僕の2倍近くある気がする。
格闘技に詳しくない僕が見ただけでも分かる。理解し難いが迄の実戦か、それ以上の訓練の賜物であろう。
それがガーディストになる為のものであるか、そうでないかは不明であるが。
恐る恐る、ゆっくりとその手をとる。
その厳つさとは裏腹に、高級クッションに包み込まれるような心地の良い感覚と共に、僕の身体は枯葉でも抓まれるかのようにふわっと引き上げられた。
「大丈夫?怪我はない?」
「…………。」
やけに響く心配の言葉に声が出ない。あり得ない。あり得ないのだ。
僕は間違いなく【フィジカルポイント】を発動した状態で、我妻先輩の身体にぶつかった。
ぶつかった?いや、表現の仕方が適格ではない。
これは衝突と言っていいだろう。事実僕の発動した際のパーセンテージはほぼマックスに近い……出力の加減が合っていればの話だけど。
それを真正面から受けた?生身の人間が?姉さん以外そんな人がいるなんて考えられない。
……いや待て?よもや僕がそう思い込んでいるだけで……いやいや、それもない。
それなら石黒さんが前に怪我を負った理由が付かなくなる。
やはり……受け止める事が出来たのだ。僕の【フィジカルポイント】を。
発動していたガイストを停止させる。逃げ場がないのに使っていてもしょうがない。
だが、聞いておかないと気がすまない。
「……なんでなんともないんですか……?」
「え?」
きょとんとしている我妻先輩に当然の質問を問いかける。
「僕のガイスト……【フィジカルポイント】は、身体能力を劇的に向上させる事が可能です。僕はまだ使いこなせていないのでアバウトな使い方しか出来ませんが、今はほぼマックスパワーで使っていました。これは一般人にぶつかりでもしたら間違いなく即死するレベルだと思っています。実際に同級生にぶつかってはいませんが、模擬戦で怪我を負わせてしまいました……。なのに……!!」
自分で言っていて、段々と興味ではなく恐怖が勝ってくるのがわかってくる。身体が震えているのだ。
それは僕がもう一つの事に気が付いているからである。
「なんでガイストも発動していないのに、先輩は無傷で立っているんですか!?」
合点がいかないのである。夢幻であるならば説明はつくのであるが、そうはいかない。
僕ははっきりと目を覚ましているからである。当然ながら。
「えっ!なんで僕がガイストを発動していないってわかったの!?あれ!?僕って君に自分のガイストの事伝えたっけ?」
思っていた反応とまるで違う。そっちじゃないそっちじゃない!僕が言いたいのは……。
……ん?
「なんでガイストが発動していないか分かったか……?」
んん?ちょっと待って下さい。そりゃ、見ればわかる事ない?だってさ。
「だって先輩。ガイストツールかガイストスキン、今身に着けてないですよね?」
「え……?」
「え?」
気まずそうな沈黙。あ、これね。結構このパターン知っているんですよ。『あれ?僕またなんかやってしまいましたかね?(笑)』ってやつでしょ?え?違う?
「……おい、金刃。お前はそれを本気で言っているのか?本気で言っているのなら大問題だぞ……?」
「……乱君。僕が言うのもなんだけど、流石に勉強不足というか……えぇと……えぇ?なんて説明したらいいのやら……うーん?」
よし、どうやらこの話題はとてもまずい内容らしい。なかった事にしようそうしよう!という訳で話のすり替えタイム!
「あ、あの!それはそうと本当に先輩の身体は大丈夫なんですよね!?骨折とかしてないですよね!?」
ここは先輩の身体を労わる事に専念しよう。
「え?あぁ。それは大丈夫だよ。これくらいの事なら日常茶飯事だし。」
これくらいが日常茶飯事?どんな日常を送られているのかドキュメンタリー方式で追いたいくらいです。視聴率2桁確実でしょうね。
「……改めてガーディストになるって大変なんだろうなと実感しました。言い方はとても悪くなってしまうのが大変失礼かもしれませんが、先輩クラスでもなるのは難しいという事でしょうか?」
「……単純に戦闘能力だけで言えば、満はすぐにでもなれると思うぞ。身内贔屓はあるにしてもな。恵まれた体型。そして他の追随を許さない圧倒的な身体能力。本当に申し分ない。……本当にな。」
「黒井さん。滅多な事言わないで。僕なんかまだまだだよ。……それに、僕自身も未だ迷っているから。」
「……はい?」
迷っている……だって?え、何を?まさかとは思うけど……いや、まさかまさか。
「あんた……!まだそんな馬鹿な事考えてんの!?いい加減にしなよ!」
「……ははは。まぁ、まだ時間はあるし。ゆっくり考えるとするよ。」
「……ガーディストになりたくないんですか?」
思わず口の方が先に動いてしまった。しまったと思ったが、出た言葉は今更なかった事にはならない。もっと考えてから発言すべきであったと痛感した。
「……どうなんだろうね。確かに誰かを助けたり、役に立ったりするのは素晴らしい事だと思っているけど……ちょっとね。」
お茶を濁すような言葉しか出てこないのだろうか。少なくとも本心ではなさそうではある。
そして、少しだけ助けを……いや、違う。共感か、それとも理解か……?
そんなような目で、黒井先輩の方を見つめていたのがとても印象的であった。
「……そんな風だから……あんたは…………!」
それを見た黒井先輩が、何故か悔しそうに下唇を噛んでいる姿も同じく。
「おっ!?こんな所に居やがったのか!?おーい!!こっちだ!!例の一年生!!」
「「「!?」」」
空気を読まずに、本来僕が通り抜けるつもりだった通路から複数人の声が聞こえてくる。
「え……え!?」
「乱君、下がっていて。」
大きくそして逞しく、頼りがいのある身体が僕の身体を隠すように前へと立ち塞がる。
僕は言われた通り、その身体から徐々に1歩、2歩と後退りし始めた。
「あ?なんだよ。我妻と黒井じゃねーか。」
「げ!先越されてたのかよ。はぁー……つまんね。」
「でもコイツ等にメリットなくね?付き合ってんだろ?」
「……確かに。なんでここにいるんだ?たまたま居合わせただけじゃね!?」
「お!?ならチャンスあんじゃーん!」
ゾロゾロと何十人と言った数が、少し狭い会場に入場してきた。
その制服を見るに、どうやら僕より上の学年。2年生……。つまり、先輩達の同級生だと思われるのだが。
「……はぁ。会長が来たかと思えば。何か用か?今は取り込み中なのでな。要件があるなら手っ取り早く頼むぞ。えーと……まぁ、名前はいいか。」
「よくねぇよ!」
と、来場した全員からツッコまれた黒井先輩であった。
「黒井さん!彼は松葉君、あっちは木下君!それでこっちは細川君!!同級生の名前くらい覚えなよ!失礼極まりないよ!!」
呆れた表情で怒り出す我妻先輩に、押し寄せてきた人達は少し笑顔になっていた。
「……我妻。お前は本当にいい奴だな。顔はヤクザだけど。」
「本当。お前と同級生で俺達は誇らしいよ。顔はヤクザだけど。」
「また今度昼飯行こうな。顔がヤクザだから出禁の店もたくさんあるけど。」
「……。」
同級生の馴染みというやつだろうか。到底友達相手だとしてもタブーというものがあるはずなのに、躊躇なくそのタブーを選挙の宣伝カーの如く連呼するあたり凄いなと思う。
流石に弄られ過ぎて、あの我妻先輩もちょっと小刻みに震えてるんだもん。
「顔はヤクザは余計だ!!あと出禁になったのは顔のせいじゃない!!大食いチャレンジし過ぎてこれ以上クリアされたら店が潰れるからって言われたからだ!!」
あ、ちゃんと怒るのね。ちょっと安心した。あと店には素直に同情するわ。
「……それで?お前達の目的は金刃か?」
あ、黒井先輩もう本題に入っちゃうの?もう少し同級生のやり取り見たかったけど。
「……まぁそうだな。見れば分かるだろうけど。」
「大方想像はつく。……お前達も懲りないな。」
「……黒井先輩?どういう事です?」
本題に移行したようなので、会話に参戦する。はてさて、申し訳ないが入場してきた先輩方には当然の如く面識はない。
だが、用があるのは僕にらしい。何故だろう?
「あんなオイシイ話。全男子生徒であるならば夢のような話だろうが。」
「……オイシイ話?」
「そうだ!弟君よ!!」
そう声高らかに、先輩達は一同に答えた。
「「「「「「「弟君を倒したら、あの桜子先輩と1日デートが出来る権利が貰えるなんて!!」」」」」」」
………。
……。
…。
眉を細めながら、僕は黒井先輩を見た。
「……無論、あの人が勝手に決めた事だ。」
吐き捨てるように溜息を吐く黒井先輩。あの女、今から来たら全力でぶち殺してやる。
と、同時に。先輩方に提案をした。
「あの。僕の許可がいるという点であるならどうぞご自由にデートしてくださって結構でございます。なんならそのままゴールインしてそちらに嫁いでもらうのであれば、僕としても非常に助かります。本当に貰って下さい。お願いします。頭下げてすむなら何度でも下げます。それとも土下座がいいですか?」
「え!?ちょちょちょ!?突然どうしたコイツ!?」
僕はいつの間にかヘドバンのように頭を上げ下げしつつ、その後すぐに土下座をして懇願した。その様子を見て、先輩達はとんでもない困惑の表情を浮かべていた。
「……金刃はそう言っているが、すまんな。私達は会長からコイツの保護を頼まれている。コイツに手を出すというなら、私達が相手になるが……どうする?」
「ぐっ……!」
黒井先輩が脅迫めいた言葉で先輩達を威圧すると、流石に相手が悪いのか全員で顔を見合わせていた。
……本当にそうなのだろうか?この人数差で?物量差というのは単純に戦力差に直結する。
僕を合わせたとて3人。向こうはその10倍近くの差。
……負ける要素あるの?一般人ならまだしも、この人達も当然の如くガイスト使えますよね?
普通に……詰みでは?
「……負けると分かっていても、俺達は夢を追う事を諦めてはならないと思っている。それこそ、いつの日かガーディストになるという志と同じように。」
は?あんなクソと1日デートするのと、平和を守るガーディストになる夢を一緒にしてんのかこの人達。一気に小さく見え始めてしまった。というか、ただの頭のおかしい集団では?
「全く。偉そうに言っているが、男の欲望が丸出しで気持ち悪いぞ。いい加減諦めて他の女生徒にアタックしてみたらどうだ?余程時間を有効に使えるぞ?」
うんうん!黒井先輩の仰る通りでございます!あのクソよりいい女なんて星の数程いるわ!
え、例えばって?そりゃあ……。
「……ぬふぇ。」
「うわ。きも。何その顔。ウーパールーパーの真似でもしているのか?」
思わず幸原さんの顔を思い出してしまった。って、誰がメキシコサンショウウオだ。失礼な先輩方だな。
「ともかく、乱君に手を出すのなら相手になるよ。怪我しても知らないからね?」
首をゴキリと動かし、拳を合わせてボキボキと指を鳴らして戦闘準備をする我妻先輩の姿は、明らかに闇金融が債務者を追い詰めるそれに酷似していた。
「へっ!こちとら最初から簡単にいくとは思っちゃいねぇよ。凸凹カップルが相手だろうと引く気はねぇ!」
「そうよ!あのルックスとボディの前で正気を保っている方が男としておかしいんだよ!」
「……はぁ。あんな余計な脂肪の何がいいんだか。」
「……なぁ、黒井。」
「何だ?」
とある先輩が、黒井先輩の発言に慈悲の目をしながら答えた。
「ないものねだりは虚しい。今後成長の期待は見込めないが、お前は胸を張っていいと思う。それも一種の価値だ。」
えっ?今この人なんて言った?僕の聞き間違いじゃなきゃそれって地雷原でタップダンスって言葉の更に上をいきそうな発言だった気がする。
「おい。」
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