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その生徒、都落ちにつき
閻魔大王様
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「確かテメェ……高橋って名前だったな?」
ボソボソと独り言のように―怒りが伝わるのははっきりと分かる―喋りながら先程の失言を放った人にドスドスと足音を鳴らしながら近づいていく。
少し離れていてもその振動が地面を通して響いてくる。
「お、おいお前!?言っちゃならん事をなんで言うかね!?」
「今ならまだ間に合うから謝っておけ!」
「ご、ごめん!別に悪気があった訳ではないんだ!?」
無言でその人の前に立ち、完全に上から見下すように睨みつける我妻先輩は、その言葉を聞いて落ち着いたかに思えたが。
「……言い残す言葉は、それで終わりか?」
「……ッ!!?!?」
聞く耳などとっくに持ち合わせていない我妻先輩にとって、全くの無意味であったようだ。
「くそっ……!【都落ち】にむざむざやられるくらいなら……ッ!!」
その人はブレザーの懐から何かを取り出した。
柄のような物に引鉄が付いているように見える。見た事がない。引鉄があるという事は……銃?しかし、だとしたら構造上に問題がありそうな気もする。ともかく大した武装ではなさそうだ。
そして僕は次の瞬間、己の無知を知るのであった。
その人は躊躇なくその引鉄を地面に向かって引いた。跳弾の恐れ……などあるはずもない。
それはそもそも銃ではないからである。
柄だけだと思われていたその物体は、まるでどこぞの中国の物語に出てくるお猿さんのキャラが持つ伸縮自在の棒のように、急に伸びたのであった。
そして、その直後に不穏な音も聞こえた。そう。
バチバチッと、火花が散るような。いや、電撃が走るような音である。
「伸縮式の警棒スタンガン!?」
「あぁ……そう言えばあんなツール使う生徒居た気がするわ。……なんて言ったっけ、高木だっけ?……にしても、わざわざ更に煽るような事を……。」
黒井先輩には若年性認知症の疑いがあると見えた。僕でも覚えているのに。しかし呑気ですなぁ!?って、そう言えば……。
え!?【都落ち】!?
我妻先輩が!!??!
「喰らいやがれ!!」
ともかくそれはあとで聞くとして!
虚しくも名前をまともに覚えて貰えないあの人の為に、僕は高橋先輩と心の中で呼んでおこう。
高橋先輩は飛び上がりながら、我妻先輩の首元にそのスタンガンを叩きこんだ。
そして、そのスタンガンの引き金を容赦なく引いた。
「!」
放電部分が青白く光り、先程よりバチバチ音がまるで轟きのように響き渡る。
恐らくだが、あの放電部分をエクトプラズムで強化しているのだろう。かなり強烈に発光しているせいで、目を開けているのが困難である。
そんな威力の武器を受けたのであるのなら、一般人では重傷ないしは心肺停止にまで追いやられる事であろう。
そう、一般人であるなら。
「……金刃。お前から、見てどう思う?高村に勝ち目はあると思うか?」
「黒井先輩、もうわざと間違えていませんか?そんなにムカついているのであれば、ご自身で手を下されても良かったのでは?」
「ふんっ。そういう輩は全部満に任せてある。というか、勝手にアイツが始末してしまうと言った方が正しいか。安心しろ、殺めはしない。」
「……愛されているんですね?」
「この次はお前の番だと伝えておく。だから大人しくしていろ。」
えぇ?なんで?僕がこの場所にいる意味が、いつの間にか変わってない?
ともあれ高橋先輩の攻勢に一旦終わりが見えたようだ。
「……バッ……バカな!?」
イヤッホゥ。これだよこれ。やられキャラの台詞ランキングTOP3には間違いなく入っているこの感じ。まぁ、見ているこちらとしてはそりゃそういう結果になりますよね、としかないですけど。
「……電気マッサージにもならない。この程度の実力で、僕の大事な芽音ちゃんの侮辱をしたっていうの?あとなんだって?【都落ち】?だからなんだって言うの?」
「ひっ……!?」
あまりの圧力に、高橋先輩は震えながらスタンガンを落としてしまう。完全に戦意喪失している。勝負有りって事でいいんだよね?……ね?
「げっ!?」
そんな簡単に終わる訳もないか。……ってちょいちょいちょーい!?待ってぇ!?
闘う気がない相手の首を掴んで持ち上げていますけどォ!?
「ちょっと黒井先輩!?マジで殺したりしないですよね!?」
「……あンの馬鹿ッ!!」
あ、これマジでヤバいパターンだ。
「ぐぁ……ゆ、ゆるじで……ぐぇ……!」
「許しを請う相手を間違っているよ……テメェみたいなゴミにかける情けなど、僕は更々持っていない。ここで消えてくれ。」
「な、なぁ……じょ、冗談だよな?我妻?コイツも反省しているからここら辺で勘弁してやってくれないか?」
「そ、そうだって!二度と黒井の悪口なんて言ったりしないから、な?」
「止めようとするなら、先にそっちから消してあげてもいいけど?」
周囲がなんとか止めようとしているが、顔が笑っているのに目が笑っていない我妻先輩の顔を見て、完全に足が竦んでいた。
「……金刃。私の合図で高橋を助けろ。分かったな?」
「!……はい!」
突然耳打ちしてきた黒井先輩に、僕は頷きながら答えた。なんだ、やっぱり覚えてるんじゃん。あと、少しいい香りした。当然心の中にしまっておく言葉である。
「でぁ、誰、かたしゅけ……!!」
半べそをかきながら助けを求む高橋先輩の姿は、流石に見ていられなかった。早く助けてあげたいけど、ここは黒井先輩の指示をじっと待つ事にする。
「……さっきのお礼。きっちりと返してあげるから。……さようなら。」
無慈悲な別れの挨拶と共に、高橋先輩の身体を高く宙へと放り投げた。
そして、ぐぐっと屈みこみながら拳を握りしめる。……すると。
ボワッと言う音が聞こえ、我妻先輩の左の拳に青白い炎のようなものが纏わりついているのが見えた。
「炎の拳……?火を使えるのが我妻先輩の……?」
「全くの見当違いだ!金刃!さぁ、早くあいつを助けてこい!!」
「えっ!?あ、はい!!」
僕の独り言に反応するように、否定の言葉と合図を同時に出してきた黒井先輩の声を聴いて、僕はガイストを発動して高橋先輩の身体をキャッチしに駆け出す。
「うわあぁぁあぁぁッッッ!!!??!」
悲鳴をあげている高橋先輩を目視し、ガイスト任せの跳躍力でその身体をキャッチする。
そして、我妻先輩の方を振り向くと。
「あ、終わった。」
完全に僕の動きを捉えていて、そのメラメラと燃えている『何か』を纏った拳が僕の身体目がけて飛んできていた。
「筋拳力殴ッ!!」
目の前が真っ白になり、視界は勿論、音すら聞こえない。
聞いた事しかないけど、高校生になったばかりで経験するとは思わなかった。
これが本当の走馬灯というやつね?以前とはまるで違う。今度こそなんだ。
だって僕の過去がぐるぐると。あ、あれは中学入学の時!これは小学校時代のホームステイの……!でもって……。一瞬だけ僕に笑いかけてくれる人の顔が見えた。
あれは……母さん?……姉さんでは間違いないけど……母さんでもない?あ、幸原さんか!
いやでも……それとも…………。
「っととと!?!?」
地面と思える場所バランスを崩しながらもなんとか着地する。
ん?あれ?今の……誰?
っていうかさ。走馬灯にしちゃ内容うっすくない!?もう天国に辿り着いたの!?地獄の訳ないよね?そこまで悪行は重ねていないはずだし!
三途の川なんて何処にも見えなかった……し?
ふと自分の目に入る存在。泡を吹きながら気絶している高橋先輩である。そして、腰を抜かしていたり、姿勢を地べたに這いつくばらせながら頭を守っていたり、既に逃げ出している先輩方の姿が見えた。
「……生きているって事ですか。」
ホッと胸を撫でおろしながら、突然暗くなる。おや?局所的曇りか?
「………………こんな事言う資格ないけど、怪我はない?」
「へ?」
天から聞こえてくる声って事は、やっぱりあの世なのだろうか?顔を上げてみる。
「…………反省文どころの話じゃなくなるところだったよ。」
なんとも言えない表情で僕を見る閻魔大王様、いや我妻先輩の顔が見えた。
そこでようやく現世である事を認識する。傍に居た黒井先輩からも少しだけ笑顔で声をかけられた。
「よくやったぞ、金刃。もし当たっていたなら、流石に私もこの馬鹿と共に会長に処刑されていただろう。」
「ははは……。黒井先輩が【視界支配】してくれたおかげですよ。多分高橋先輩を投げた辺りから我妻先輩の視界はなくなっていたんでしょう?」
「うん……。」
力なく頷く我妻先輩の身体は、何故か僕なんかよりも数倍小さく見えてしまった。
「コイツには私から言い聞かせておく。……しかし、校内ランキング戦中に死人を出すような事態にならなくて本当に良かった。」
「またまたー?そんな事言って。我妻先輩だって、本当は手加減していたんでしょう?」
「……いや、僕は本気だったよ。」
我妻先輩の視線が、少し違う方へ向いている。僕はその視線の先に目を向ける。
「……ッッッ!!?!!」
思わず引き入れ声が出てしまった。当然である。
訓練場の1/3が……文字通り消し飛んでいるのである。瓦礫とか、そういうのが残っているのであればまだわかる。一点集中のパワーで、削り取られていると言った方が正しいのだ。
つまり、最早蒸発。とんでもない質量のエネルギーがそこだけを抉り取っている。拳型に。
冷や汗が溢れ出してくる。もしもの事を念のために聞いておこうと思った。
「……こ、これ……もし当たっていたら僕諸共……。」
「ん?……まぁお前は分からんが、少なくともその抱き抱えている高原は跡形もなく消えていただろうな。影だけお前の腕に残して。」
「いやそっちの方がトラウマになるんですけどォ!?というか……っ!!」
僕は改めて、その惨劇の後を確認する。何度見たって完全に人間業とは思えない。ガイストを使っているとはいえ、この破壊力は母さんと匹敵するかそれ以上だ。
「い、一体どうやって……!?それにさっきの事」
「【怒髪天】。」
山程の聞きたい事を中断されて最悪の気分だよ。一気に冷めたしどうでもよくなった。確かに時間を無駄に費やしてしまったという事実。なんて事だ。出来るのであれば一生聞きたくもない声が耳を貫いてきた。
「相手の攻撃を受けて、そのエクトプラズムを吸収しつつ体内に蓄積させ、自分の発動タイミングに合わせて己自身のエクトプラズムも加えた一撃必殺の攻撃を繰り出す事が出来るガイスト。弱点としては、相手からの攻撃を受けない限りには発動しないから必ず後手に回る事かしら。故に身体的にも精神的にもタフな人じゃないと、まともに使う事なんて出来やしない。……そこにいる我妻君みたいにね?」
「……もうそんな時間でしたか。」
「は、はわぁっ!?お疲れ様でしゅ!きゃいちょお!」
「うん!お疲れ様!二人共!私の旦那様の護衛、本当に助かったわ!」
清々しい顔をしながら、僕のとっての本当の意味での閻魔大王様が現れてしまった。
残り30分を切った合図。そう、姉さんの登場である。
「しっかし、派手にまたやったわねぇ!私目当てに来た男子生徒を追っ払うとはいえ、こうも徹底的にやるとは正直思わなかったわ!ここ使われてないからいいけど、別の所だったらちょっと面倒だったかも!」
そんな事言いつつ、めちゃめちゃウキウキした顔なのはなんでですか?
「会長。これは一応ルールに則って起こった事ですので。」
「ん?えぇ。私からは特に何もないわ。それよりもあと30分しかないから急がないとっ。」
「……何がでしょうか?」
嫌な予感がしたので、高橋先輩には申し訳ないが地面にさっと置くと、僕は我妻先輩の後ろに隠れた。
「決まーーーーってるじゃなーーーーい!!乱ちゃんと30分コースよ!時間短いからインターバルはなしよ、お互い頑張りましょ♡」
「うわ……。本当に芽音ちゃんの言った通りなんだ。」
「はぁ。……あ、こら金刃。舌を噛もうとするな。」
「えっ!?いや、乱君!?何しようとしてるの!?ストップストップ!!」
「んまぁ~っ!?乱ちゃんったらそんなに私とディープキッスしったいのねぇ~!!」
手っ取り早く自決する際にどうしたらいいかと日常的に考えていたのだが、その中で一番いいと思った方法がこれ。【フィジカルポイント】を発動したら痛みも感じる間のなく噛みきる事が出来ると思っていたのだが。
結果論としては駄目だった。舌を噛み切るという意識が舌先にも反応するらしく、強化した顎と歯でもまるでダイヤモンドでも噛んでいるのではないかというくらいに硬化してしまっていたからである。
最後の抵抗も虚しく自決は出来なかったが、流石に見るに耐えかねた我妻先輩が根気よく説得をしてくれたおかげで貞操は守られたのであった。
そのおかげで少しの安堵と共に心の余裕が出来たのか、ふとクラスメイトの顔が思い浮かんでくる。
「……皆、大丈夫かなぁ…………。」
他人の心配をしている場合でもないのが、少し気がかりにはなるのであった。
それにしても……何かもう一つ大事な……あ。
今度は説得に成功した我妻先輩に対して、厳しい顔で説教している黒井先輩の姿に目をやる。
「……まぁ、あまり聞かれたくない事だし。無理に聞かなくてもいいか……。」
ボソボソと独り言のように―怒りが伝わるのははっきりと分かる―喋りながら先程の失言を放った人にドスドスと足音を鳴らしながら近づいていく。
少し離れていてもその振動が地面を通して響いてくる。
「お、おいお前!?言っちゃならん事をなんで言うかね!?」
「今ならまだ間に合うから謝っておけ!」
「ご、ごめん!別に悪気があった訳ではないんだ!?」
無言でその人の前に立ち、完全に上から見下すように睨みつける我妻先輩は、その言葉を聞いて落ち着いたかに思えたが。
「……言い残す言葉は、それで終わりか?」
「……ッ!!?!?」
聞く耳などとっくに持ち合わせていない我妻先輩にとって、全くの無意味であったようだ。
「くそっ……!【都落ち】にむざむざやられるくらいなら……ッ!!」
その人はブレザーの懐から何かを取り出した。
柄のような物に引鉄が付いているように見える。見た事がない。引鉄があるという事は……銃?しかし、だとしたら構造上に問題がありそうな気もする。ともかく大した武装ではなさそうだ。
そして僕は次の瞬間、己の無知を知るのであった。
その人は躊躇なくその引鉄を地面に向かって引いた。跳弾の恐れ……などあるはずもない。
それはそもそも銃ではないからである。
柄だけだと思われていたその物体は、まるでどこぞの中国の物語に出てくるお猿さんのキャラが持つ伸縮自在の棒のように、急に伸びたのであった。
そして、その直後に不穏な音も聞こえた。そう。
バチバチッと、火花が散るような。いや、電撃が走るような音である。
「伸縮式の警棒スタンガン!?」
「あぁ……そう言えばあんなツール使う生徒居た気がするわ。……なんて言ったっけ、高木だっけ?……にしても、わざわざ更に煽るような事を……。」
黒井先輩には若年性認知症の疑いがあると見えた。僕でも覚えているのに。しかし呑気ですなぁ!?って、そう言えば……。
え!?【都落ち】!?
我妻先輩が!!??!
「喰らいやがれ!!」
ともかくそれはあとで聞くとして!
虚しくも名前をまともに覚えて貰えないあの人の為に、僕は高橋先輩と心の中で呼んでおこう。
高橋先輩は飛び上がりながら、我妻先輩の首元にそのスタンガンを叩きこんだ。
そして、そのスタンガンの引き金を容赦なく引いた。
「!」
放電部分が青白く光り、先程よりバチバチ音がまるで轟きのように響き渡る。
恐らくだが、あの放電部分をエクトプラズムで強化しているのだろう。かなり強烈に発光しているせいで、目を開けているのが困難である。
そんな威力の武器を受けたのであるのなら、一般人では重傷ないしは心肺停止にまで追いやられる事であろう。
そう、一般人であるなら。
「……金刃。お前から、見てどう思う?高村に勝ち目はあると思うか?」
「黒井先輩、もうわざと間違えていませんか?そんなにムカついているのであれば、ご自身で手を下されても良かったのでは?」
「ふんっ。そういう輩は全部満に任せてある。というか、勝手にアイツが始末してしまうと言った方が正しいか。安心しろ、殺めはしない。」
「……愛されているんですね?」
「この次はお前の番だと伝えておく。だから大人しくしていろ。」
えぇ?なんで?僕がこの場所にいる意味が、いつの間にか変わってない?
ともあれ高橋先輩の攻勢に一旦終わりが見えたようだ。
「……バッ……バカな!?」
イヤッホゥ。これだよこれ。やられキャラの台詞ランキングTOP3には間違いなく入っているこの感じ。まぁ、見ているこちらとしてはそりゃそういう結果になりますよね、としかないですけど。
「……電気マッサージにもならない。この程度の実力で、僕の大事な芽音ちゃんの侮辱をしたっていうの?あとなんだって?【都落ち】?だからなんだって言うの?」
「ひっ……!?」
あまりの圧力に、高橋先輩は震えながらスタンガンを落としてしまう。完全に戦意喪失している。勝負有りって事でいいんだよね?……ね?
「げっ!?」
そんな簡単に終わる訳もないか。……ってちょいちょいちょーい!?待ってぇ!?
闘う気がない相手の首を掴んで持ち上げていますけどォ!?
「ちょっと黒井先輩!?マジで殺したりしないですよね!?」
「……あンの馬鹿ッ!!」
あ、これマジでヤバいパターンだ。
「ぐぁ……ゆ、ゆるじで……ぐぇ……!」
「許しを請う相手を間違っているよ……テメェみたいなゴミにかける情けなど、僕は更々持っていない。ここで消えてくれ。」
「な、なぁ……じょ、冗談だよな?我妻?コイツも反省しているからここら辺で勘弁してやってくれないか?」
「そ、そうだって!二度と黒井の悪口なんて言ったりしないから、な?」
「止めようとするなら、先にそっちから消してあげてもいいけど?」
周囲がなんとか止めようとしているが、顔が笑っているのに目が笑っていない我妻先輩の顔を見て、完全に足が竦んでいた。
「……金刃。私の合図で高橋を助けろ。分かったな?」
「!……はい!」
突然耳打ちしてきた黒井先輩に、僕は頷きながら答えた。なんだ、やっぱり覚えてるんじゃん。あと、少しいい香りした。当然心の中にしまっておく言葉である。
「でぁ、誰、かたしゅけ……!!」
半べそをかきながら助けを求む高橋先輩の姿は、流石に見ていられなかった。早く助けてあげたいけど、ここは黒井先輩の指示をじっと待つ事にする。
「……さっきのお礼。きっちりと返してあげるから。……さようなら。」
無慈悲な別れの挨拶と共に、高橋先輩の身体を高く宙へと放り投げた。
そして、ぐぐっと屈みこみながら拳を握りしめる。……すると。
ボワッと言う音が聞こえ、我妻先輩の左の拳に青白い炎のようなものが纏わりついているのが見えた。
「炎の拳……?火を使えるのが我妻先輩の……?」
「全くの見当違いだ!金刃!さぁ、早くあいつを助けてこい!!」
「えっ!?あ、はい!!」
僕の独り言に反応するように、否定の言葉と合図を同時に出してきた黒井先輩の声を聴いて、僕はガイストを発動して高橋先輩の身体をキャッチしに駆け出す。
「うわあぁぁあぁぁッッッ!!!??!」
悲鳴をあげている高橋先輩を目視し、ガイスト任せの跳躍力でその身体をキャッチする。
そして、我妻先輩の方を振り向くと。
「あ、終わった。」
完全に僕の動きを捉えていて、そのメラメラと燃えている『何か』を纏った拳が僕の身体目がけて飛んできていた。
「筋拳力殴ッ!!」
目の前が真っ白になり、視界は勿論、音すら聞こえない。
聞いた事しかないけど、高校生になったばかりで経験するとは思わなかった。
これが本当の走馬灯というやつね?以前とはまるで違う。今度こそなんだ。
だって僕の過去がぐるぐると。あ、あれは中学入学の時!これは小学校時代のホームステイの……!でもって……。一瞬だけ僕に笑いかけてくれる人の顔が見えた。
あれは……母さん?……姉さんでは間違いないけど……母さんでもない?あ、幸原さんか!
いやでも……それとも…………。
「っととと!?!?」
地面と思える場所バランスを崩しながらもなんとか着地する。
ん?あれ?今の……誰?
っていうかさ。走馬灯にしちゃ内容うっすくない!?もう天国に辿り着いたの!?地獄の訳ないよね?そこまで悪行は重ねていないはずだし!
三途の川なんて何処にも見えなかった……し?
ふと自分の目に入る存在。泡を吹きながら気絶している高橋先輩である。そして、腰を抜かしていたり、姿勢を地べたに這いつくばらせながら頭を守っていたり、既に逃げ出している先輩方の姿が見えた。
「……生きているって事ですか。」
ホッと胸を撫でおろしながら、突然暗くなる。おや?局所的曇りか?
「………………こんな事言う資格ないけど、怪我はない?」
「へ?」
天から聞こえてくる声って事は、やっぱりあの世なのだろうか?顔を上げてみる。
「…………反省文どころの話じゃなくなるところだったよ。」
なんとも言えない表情で僕を見る閻魔大王様、いや我妻先輩の顔が見えた。
そこでようやく現世である事を認識する。傍に居た黒井先輩からも少しだけ笑顔で声をかけられた。
「よくやったぞ、金刃。もし当たっていたなら、流石に私もこの馬鹿と共に会長に処刑されていただろう。」
「ははは……。黒井先輩が【視界支配】してくれたおかげですよ。多分高橋先輩を投げた辺りから我妻先輩の視界はなくなっていたんでしょう?」
「うん……。」
力なく頷く我妻先輩の身体は、何故か僕なんかよりも数倍小さく見えてしまった。
「コイツには私から言い聞かせておく。……しかし、校内ランキング戦中に死人を出すような事態にならなくて本当に良かった。」
「またまたー?そんな事言って。我妻先輩だって、本当は手加減していたんでしょう?」
「……いや、僕は本気だったよ。」
我妻先輩の視線が、少し違う方へ向いている。僕はその視線の先に目を向ける。
「……ッッッ!!?!!」
思わず引き入れ声が出てしまった。当然である。
訓練場の1/3が……文字通り消し飛んでいるのである。瓦礫とか、そういうのが残っているのであればまだわかる。一点集中のパワーで、削り取られていると言った方が正しいのだ。
つまり、最早蒸発。とんでもない質量のエネルギーがそこだけを抉り取っている。拳型に。
冷や汗が溢れ出してくる。もしもの事を念のために聞いておこうと思った。
「……こ、これ……もし当たっていたら僕諸共……。」
「ん?……まぁお前は分からんが、少なくともその抱き抱えている高原は跡形もなく消えていただろうな。影だけお前の腕に残して。」
「いやそっちの方がトラウマになるんですけどォ!?というか……っ!!」
僕は改めて、その惨劇の後を確認する。何度見たって完全に人間業とは思えない。ガイストを使っているとはいえ、この破壊力は母さんと匹敵するかそれ以上だ。
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「……もうそんな時間でしたか。」
「は、はわぁっ!?お疲れ様でしゅ!きゃいちょお!」
「うん!お疲れ様!二人共!私の旦那様の護衛、本当に助かったわ!」
清々しい顔をしながら、僕のとっての本当の意味での閻魔大王様が現れてしまった。
残り30分を切った合図。そう、姉さんの登場である。
「しっかし、派手にまたやったわねぇ!私目当てに来た男子生徒を追っ払うとはいえ、こうも徹底的にやるとは正直思わなかったわ!ここ使われてないからいいけど、別の所だったらちょっと面倒だったかも!」
そんな事言いつつ、めちゃめちゃウキウキした顔なのはなんでですか?
「会長。これは一応ルールに則って起こった事ですので。」
「ん?えぇ。私からは特に何もないわ。それよりもあと30分しかないから急がないとっ。」
「……何がでしょうか?」
嫌な予感がしたので、高橋先輩には申し訳ないが地面にさっと置くと、僕は我妻先輩の後ろに隠れた。
「決まーーーーってるじゃなーーーーい!!乱ちゃんと30分コースよ!時間短いからインターバルはなしよ、お互い頑張りましょ♡」
「うわ……。本当に芽音ちゃんの言った通りなんだ。」
「はぁ。……あ、こら金刃。舌を噛もうとするな。」
「えっ!?いや、乱君!?何しようとしてるの!?ストップストップ!!」
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手っ取り早く自決する際にどうしたらいいかと日常的に考えていたのだが、その中で一番いいと思った方法がこれ。【フィジカルポイント】を発動したら痛みも感じる間のなく噛みきる事が出来ると思っていたのだが。
結果論としては駄目だった。舌を噛み切るという意識が舌先にも反応するらしく、強化した顎と歯でもまるでダイヤモンドでも噛んでいるのではないかというくらいに硬化してしまっていたからである。
最後の抵抗も虚しく自決は出来なかったが、流石に見るに耐えかねた我妻先輩が根気よく説得をしてくれたおかげで貞操は守られたのであった。
そのおかげで少しの安堵と共に心の余裕が出来たのか、ふとクラスメイトの顔が思い浮かんでくる。
「……皆、大丈夫かなぁ…………。」
他人の心配をしている場合でもないのが、少し気がかりにはなるのであった。
それにしても……何かもう一つ大事な……あ。
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