ガーディストベルセルク

ぱとり乙人

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その生徒、都落ちにつき

私に触れないで②

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「……よし。それで行くしかないか。」
「うん……。そう、だね。」
 三好と薬師丸が見つめあいながら一度だけ頷くと、三好は一枚だけ札を用意して彼女の後ろに隠れた。
「あぁちくしょう。御園生?お前あとこんな植物何個出せるんだ?」
「はぁ?これはわたくしのとっておきでしてよ?今回はこれだけですわ。あまり使いたくない物ですし。」
「……そうかよ。それで、それを今ここで全部使い切ったって事か?」
「そうでしてよ。何か問題でも?」
「……もういい。」
 言い争う気力もなくなったのか、柏原はパチンコを引っ張って照準を合わせる。
「とりあえずあの女はお前に任せる。その間に俺があっちを仕留める。時間が稼げるだけで十分だ。」
「いいガイストだな?その【ターゲット】ってのは。」
「……何?」
 隠れていた三好がすっと姿を現しながら冷たい目で話し出す。
「腑に落ちなかったんだ。ずぅーっと。確かにお前の能力名から言って、狙われた相手なら百発百中で相手に当たるのだろう。……だが、問題はその威力だ。」
 柏原も負けじと睨み返しながらも、照準を外すまいとゴムのテンションを上げ続けていた。
「最初にやられた式神と、攻撃を受けても倒れてなかった式神達の違いを考えていた。最初は飛ばしている玉の性質でも違うのだろうかとも思ったんだが、パッと見た感じ大きさも変わってなければ、玉に何かを仕込んであるような感じもない。……なら、なんで一撃で倒れされた?……そこで思ったんだ。」
 大袈裟に腕を突き出して指を差しながら、小さいが野太い声で少年は犯人でも突き止めたかのように答えた。
を、な。」
「……。」
 尚も柏原は黙って聞いている。いや、むしろ聞き入っているような風にも見えた。
「最初の式神に照準を合わせていた時には、それなりに余裕を持ってそのパチンコの発射状態を保っていた。……だが、それ以降の時は違う。まともな発射状態を取れていなかった。つまりだ。」
 一拍置いて、言葉を続ける。
「お前の【ターゲット】は、というものじゃないか?」
 沈黙がほんの少しだけ流れて、柏原はまるで観念をしたかのように笑い始めた。
「ふははは!!……マジかよ。たかだか1時間ちょっとの戦闘で、そこまで見抜かれるたぁ思わなかったね。まぁ大方正解だ。だが、少しだけ補足を付けさせてもらうぞ。」
「補足?」
 ギリギリと獲物を狙い続けている柏原は、何故か余裕の笑みを浮かべながら喋り始めた。
するのさ。それを阻止しようとも無駄だ。必ず俺が狙った箇所にヒットする。どれだけ弾道が変わろうがそれだけは変わらない。だからよ……悪い事は言わねぇから降参してくれねぇか?」
「は?この状況を見て何故俺達が降参する必要がある?気は確かか?」
 気分悪そうな顔をして、三好は吐き捨てる。だが、柏原は鼻で笑いながら続けた。
「あのよぉ。そこまで俺のガイストが分かっておきながら、なんで顔を出してきた?今この状況で、お前に照準を合わせていない訳がねぇだろ?ちなみに今俺がどこを狙っているか分かっているか?……だよ。」
 三好の顔色が少し変わるが見てとれたので、柏原は更に畳み掛けた。
「いいか?俺がこの指を放せば、間違いなくお前の頭は吹っ飛ぶ。これだけ長い間お前のお喋りに付き合っていたのも、確実に仕留める為だけの時間稼ぎだった訳だ。……少しは今の状況が分かったか?さぁ?どうするんだ?降伏か?それとも……!」
 覚悟を決めた顔で、柏原は答えた。
「ちょ、ちょっと柏原さん!?そのような事をして大丈夫ですの!?いくらランキング戦とはいえ、そのような真似をしたらどうなるか……!」
「うるせぇ!ガイストを使った勝負なんてのはなぁ、本来は生死かかって当然なんだよ!それぐらいしなきゃガーディストになれるどころか、そもそもコイツ等に届かねぇ!そうだろうが!!」
 御園生は戸惑いながら制止しようとしたが、あまりの剣幕に自らの意見を一蹴されて言葉をつぐんでしまった。
「……お前の覚悟は良く分かった。確かに本来の戦闘というのは、ほぼほぼ殺し合いに相当していると思う。だからこそ言えるのだがな。」
 三好は不敵に笑いながら答えた。
「……お前達の敗北は決定しているのさ。」
「……んなっ!?」
 突如、御園生が予想外の出来事に大きく口を開けながら声を上げてしまった。
「あ!?どうした!?」
「な、何故!?い、何時の間に!?」
「だから、何がだ!?」
 苛立ちを隠せない柏原が、再度怒鳴り声で聞き返す。
「何故先程ばら撒いたツリフネソウ達が既に種子を付けていますの!?貴女、一体何時触れましたの!?」
 よくよく観察すると、気付かぬうちにツリフネソウの花が枯れ、あの巨大な種子をその身につけていた。
「……直接触らなくたっていい。床とその植物が繋がっているのなら……。」
 その言葉に御園生はハッとして薬師丸の手の先を見る。彼女の掌はべったりと教室の床に張り付いていた。
「……時間はかかるけど、間接的にだって可能なのよ。」
「ふ、ふんっ!むしろ逆に好都合でございますわ!これで貴女はわたくしに近づけず、その悍ましい指一本も触れられないですのよ!おーっほっほっほっほ!」
 御園生を取り囲むように植え付けられていた一触即発の砦。確かに傍から見れば、逆に不利な状況を作り出したのは薬師丸の方で、ただ無敵の要塞を献上しただけかもしれなかった。
「……流石お花が好きってだけあって、頭に花でも咲いているのね。これからどうなるかも想像できないの?」
「まぁ。貴女って見かけ通りに不気味でもあれば、かなり汚いお言葉を遣いになるのね。まぁどのような顔か見えませんけど♪……で、なーにが想像できないですって?」
 勝ち誇ったように羽扇子をゆらりゆらりと自らの顔に扇ぎながら、安い挑発にはしっかりと乗る御園生。
「……のよ。その意味を正しく理解してる?」
「……あ!?」
 いち早くに気づいたのは、柏原の方だった。
「……まさか!?おい御園生!!その植物今すぐなんとかしろ!!」
「は、はい!?何を仰っていますの!?そんな事できる訳ないでしょう!?」
「なら早くそこから離れろ!!その女がやろうとしている事はなぁ!?」
「……もう遅いわ。」
「この教室の床をさせて下の階に俺達を叩き落すつもりだッ!!」
 その声と共に、ビシッと何かに亀裂が入ったような音が聞こえる。
「なななっ!?」
「しまった……!?」
 御園生も柏原もバランスを崩し、瞬間的な地震のような振動にその場でへたり込んでしまう。
「校舎自体の整備が行き届きすぎていて、想像以上に時間がかかってしまった……流石花咲絢爛高校ね。」
「下の階の部屋は、今は人がいないのは分かっている。被害は最小限だ。……さぁ、凌げるか?Aクラスさんよ?」
 ゴガシャアッというけたたましい崩壊音が鳴り響き、4人が一瞬だけふわっと宙に舞い、そそして。
「きゃぁぁぁああああっ!?」
「おおぉぉぉおおっ!?」
「薬師丸!」
「うん!」
 御園生はスカートを押さえながら、柏原は仰向けになりながら落ちてゆき、三好と薬師丸は召喚した式神に抱き抱えられながら安全に下の階に落下していく。
 しかし、下唇を噛んですぐに冷静さを取り戻した御園生は羽扇子を広げる。
「こんな事で……!」
 それを一振り、二振りと素早く振ると、瞬く間に大樹の根が出現してそれに自身をキャッチさせる。しかし、咄嗟の事で一緒に落ちた柏原まではフォロー出来なかった。
「柏原さん、どうかご無事で!……しかし、もう許しませんわ!こうなったらコテンパンにして」
 御園生がキィーッと憤慨しながら悪態をついていると、何故か黒い影が点々と見え始めているのに気が付き、ふと上を見上げてみる。
「え。」
 その呆気なく、そして儚い一声と同時に見えてきたものは、御園生を戦慄させるものであった。
 点々と見えたその影の正体は、自分自身を守る為に築き上げたはずの砦の残骸。
 ツリフネソウの、無数の種子爆弾の姿であった。その数々が着弾すると共に連鎖的爆発を起こし始める。
 彼女も悲鳴を上げていたとは思われるが、虚しくもその爆発音に掻き消さてしまう。
 広がる爆炎と爆音。それが静けさを取り戻すには、それなりも時間を要した。
 その一方で、安全圏で綺麗な着地をSクラスの2人は決めていた。
 丁寧に式神の小鬼達に降ろされる三好と薬師丸は、未だ少し埃が舞う最中ゆっくりと歩みを進めていく。
「……がぁ……このわたくしとした事が……な、なんて事ですの……。」
 瓦礫と四散したツリフネソウの枯れた葉や茎に埋れながら、かろうじて息をしている御園生の姿が最初に見えてきた。
 御園生は、唯一動く右手で自らの顔に何やら纏わりついている違和感に気づき、それを拭うように手で拭いてみる。
「……へ?」
 ついていたのは、少しだけ黒ずんだ赤色の液体であった。
「……へ、ぇ?こ……れは、わ、わぁっ!?血、血ィ!?ひ、嫌!!汚い!!嫌!!嫌よ!!こんな!?何故!?きひぃっ!?」
 拭った手の感覚すらおかしい事にようやく気付く。
 その手はいつもの白くシルクのように輝いていた時とはまるで表情を変えて、赤黒く染まっているどころか薬指と小指を失っており、行き場を失くした血液が少しずつ噴出していた。
「ギャアァァァアッ!!なんでっ!?い、痛い!汚い!!ひぎっ!?こ、こんなのは夢ですわ!いや、いや!!イヤァァァア!!」
「……そう。貴女、血を見る事すら出来ないのね。」
「ひぃっ!?」
 迫り来る正体に薬師丸が気付く訳もなく、素顔の分からない長髪長身の女生徒はいつの間にか彼女の前に見下ろすように立っていた。
使って……血を見るのが怖いから………なんだね。そんな覚悟で……よくガーディストになれると、思っていたね?」
「よ、寄らないで下さいまし!わたくしを誰だとっぐぃぁっ!?」
 なけなしの虚勢を取り反抗の態度を見せる御園生の顔を覆うかの如く、薬師丸は手を広げてガッと掴んだ。
 無論その手には、あのグローブはつけていなかった。
「……血も見られない、汚い物も触れない。綺麗な物ばかりにしか目のいかない貴女に、傷ついている誰かを救うなんて事……出来る訳ないじゃない。」
「い、いや……!いや!わたくしに触れないで下さいまし!!」
 嗚咽交じりに涙や鼻水を流しながら嘆願する姿は、気高く傲慢な令嬢とは程遠い物であった。いやいやと首を左右に振り指の無い手でもがきながら薬師丸の手を必死に剥がそうとするが、当然の如くそんな余力が残っている訳もなく、薬師丸の手に自身の血がべったりと塗りたくられるだけであった。
 薬師丸は、くすっと微かな笑い声を出しながらそーっと御園生の耳元まで顔を近づけた。
 そして。
「それ、。」
「イヤァァアアアアア!!」
 悲痛な断末魔が響き、御園生は白目を剥きながら泡を吹いて気を失ってしまった。
「……とても強力なガイストだったけど……本人がこの様子では、ね。」
「それも含めてAクラスという事だろうな。さて、もう一人は……。」
 かなり舞い上がった埃も落ち着き視界がはっきりしてきたので、2人は式神を使いつつもう1人を捜索しようとしたが、それは案外早く終了した。
「お、居たな。」
 柏原の腕らしきものが、瓦礫の中からひょっこりと出ていたからである。
「瓦礫をどかして引っ張りだしてやれ。……さて、これからどうする?」
「う、うん……と、と、とり……あ、えず……ば、ば、バ…ッジ?」
「あ、そうだったな。回収しておか」
 ドシュッ。
 二人の会話が、突如鈍い衝撃音で中断される。そして悲しい事に、それから三好が言葉を発する事はなくなってしまった。眉間を何かに撃ち抜かれて、そのまま地面に倒れ込んだのである。
「!!」
 すぐさま薬師丸は周囲を確認する。
 目に入ったのは式神の小鬼。それが持っていたのは、柏原の片腕のみであった。
「へ、へへへ……!御園生の仇だ……くそったれぇっ……!」
 ガラガラという瓦礫が崩れる音が聞こえ、脚を震わせてフラフラとしながらも立ち上がる柏原の姿が出て来た。
 その姿は見るも無残で、ツリフネソウの爆発に巻き込まれたのは言わずもがなであり、片腕どころか脇腹辺りにも被弾しており、少し内臓が飛び出ているようにも見えた。
「……どうやって。」
「あぁ……?片腕吹っ飛ばされる前に口でパチンコの紐を引っ張ってたんだよ。脇腹にまで喰らうのは流石に想定外……だったがな。……ぐふぇっ。」
 吐血しながら、膝から崩れ落ちてうつ伏せで倒れ込む。
「……あぁ、クソ。ここまでかぁ。まぁ相打ちなら……ちょっとは………だけどォ……勝ちたか………。」
 悔しくも満足感の在りそうな笑みを浮かべつつ、柏原は目を見開きながら気絶した。
「……。」
「薬師丸、先にあっちから治してくれないか?」
 どこからともなく声が聞こえ、額を間違いなく撃ち抜かれたはずの三好の姿が現れてきた。
「うん。……作戦成功だね。」
「そうだな。……中々根性ある奴だった。コイツならもしかしたらいつか本当にクラスメイトになるかもしれない。その判断をするのは俺達じゃないけどな。」
 先程絶命したはずの三好の身体の方に目を向ける。
 そこには大きく穴の開いた式神の札が一枚落ちていた。
「使役出来る式神もちょっとだけならバリエーションがある。俺の姿を模倣する式神だってあるのさ。俺の【妖瞞しあやかしまやか】の情報がどこまでリークされていたかは不明だが、調査不足だったようだな。」
「はい。治療完了。」
 瞬く間に2人の治療を完了させると、式神を使って安全な場所に運び出して寝かせつけた。
「おっと。悪いがこれだけは拝借させてもらうぞ。」
 そう言って2人分のバッジだけはしっかりと回収する。
「……三つ葉から連絡来てる。」
「なんて来てた?」
「BからDクラスの御礼参りしてバッジ荒稼ぎするって。」
「……とりあえず合流はしておこう。時間も残り少ないからな。」
「そうだね。」
 2人は瓦礫の山になった部屋を抜け出しながら、連絡を取り合って合流を目指したのであった。
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