22 / 24
その4 本物っぽいのが出てきやがった
5
しおりを挟む
「はぁ……冗談はよしてよ! なんの根拠があって」
「一つ目、なぜ凶器と判断されるものがあんたの部屋から見つかったのか?」
「そりゃ、血の付いた包丁なんて怪しいじゃない」
「なぜ、そんなものが都合よく出てくる? 何かあると考えるべきだ」
いや、料理して切っちゃっただけだし……。
私がそのことを伝えると、
「そんなに勢いよく流血したのか? 染みができる程に」
「え……それは、わからないけど」
「ならこう考えるべきだ。なぜそんな跡が存在するのか、ってな」
言われてみれば、そう簡単に血が染みるわけない。
なのに……なんで?
「もともと、誰かがあんたをハメるために付けた。もしくは、犯行に使われた凶器であるって考えられる」
「そんな……だとしても」
「二つ目、めった刺しにされたのに、なぜ凶器に血がそんなにしみ込んでいないのか? そんなものがほかの包丁に混じってたら、普通気づくよな。つまり中途半端なんだ、付き方が」
「だとしたら――」
「本物の凶器は別にある。それも自分が絶対に犯人と悟られないような、凶器だ」
え、でも最近の鑑識だったらそのくらいわかるわよ。ドラマじゃあるまいし、そんな都合のいいもの存在するわけないわよ。
「例えば、木製のナイフ。焼却処理で証拠隠滅ができる」
確かに、彫刻が趣味の梓なら簡単に作れる。
「もっとも、繊維が傷口に付着するリスクがあるから俺なら選ばない。ほかには――――氷で作ったナイフ。これなら、折れたとしても、溶けてなくなるから証拠も残らない。水筒なんかに入れておけば簡単に持ち運べる」
そういえば、氷で何か彫っているのを見たけど……。
「嘘よ……梓が…………人殺しを?」
「知らん。俺は、あんたから無実を証明してほしいと依頼されただけだ。親友に本当かどうか聞いてみてもいいし、ほかの人が犯人であることを証明してもいい……あくまで俺は可能性の一つを示しただけだぜ。何か、反論はあるか?」
ない。そんなの、私の頭で思いつくはずもない。
「じゃ、今月分の家賃は見逃してもらうぜ」
私は……どうしたらいいの?
「お邪魔するわよ」
梓が帰ってきた。
「うん……」
本当に……本当に、梓が犯人だっていうの?
「ねえ……」
「どうかした?」
「あなたが、犯人なの? 梓」
黙っていた。
何も言わず、私を見つめ続けて、ため息をついた。
「気付いてほしくなかったんだけどなぁ」
「そんな……」
信じてたのに……絶対にないって、梓は人殺しなんてしないって。
「付き合ってたのよ、あいつと」
「ええっ!?」
「ふふっ……ほんと、鈍いのね。結構前からよ……私は真剣に愛してたのに、あいつ――他に好きな人ができたって」
「だから、殺したの? たった、それだけの理由で?」
「……ねぇ薫。私たち、友達よね?」
「もちろんよ」
「なら……私の身代わりになって」
そう言って梓は彫刻刀を取り出して、私の右手に握らせた。
咄嗟に力を入れて抵抗するけど、そのまま押し倒されてしまった。
「ちょっ……何を」
「自殺に見せかけて殺せば、私は絶対に容疑者にならなくて済むからっ!」
刃が少しずつ私の喉に近づいてくる。
このまま刺さったら……っ!
「――――お取込み中、失礼したいんですけど……」
この声っ!
「大家さんに、先月分の家賃の支払いに来たんですけど――――それどころじゃなさそうっすね」
明智さんの、息子さんだ!
「誰っ!?」
「別に名乗るほどの者でもないけど」
「っ邪魔を――」
梓が私の手を放した一瞬の隙をついて振り払った。
でも、運悪く彫刻刀を持っていた手で……。
――ザッッ!
彫刻刀の刃が運悪く、彼女の手首の動脈をかすめてしまった。
顔に生暖かい“ナニカ”が降りかかった。
不快な鉄の匂いがして、ようやくそれが梓の血液であることに気付いた。
「っまじかよ!」
彼が梓の手首を押えて出血を止めようとしているけど。手の隙間から血が流れ落ちている。
「――――――――!」
事態の重さが理解できない。
今目の前で起こっていることは現実なの?
それとも悪い夢?
ただ右手の感触だけが妙にリアルで。
「―――――――――ッッ!!」
これが手首を掻き切ってしまって。
足に染みてきている赤いものは、わかってはいるけど本物だって思えなくて。
もしこれが……。
「――――――電話はどこだッッ!?」
頬の痛みで我に返る。
電話……?
っ救急車。
「分かった!」
出血多量の人を助けるには早めに救急車を呼ばなきゃいけないって聞いたことがある。
一体、どれだけ惚けていたんだろう?
一刻も早く梓を助けないといけない状況なのに、どうして私はなにもできなかたのッ!?
数日後――
結論から言うと、梓は一命を取り留めた。
でも意識がまだもどっていない。
一応、例の事件の参考人? らしく警察の人が毎日病室に来ていた。
私も今回のことも含めた事情を聞かれたから、それとなく伝えておいた。
今日も私はお見舞いに来ていた。
でもそれまでと違って、病室が何やら騒がしかった。
覗いてみると、梓が目を覚ましているのが見えた。
刑事さんに色々話しているらしい。
「――入らないのか?」
「うひゃっ!」
急に声かけられたから何事かと思って振り返ったら、例の息子さんだった。
「ど、どうしてここに……?」
「あんたの無罪を証明するのが依頼だろ? 助けて恩を売ろうかなって思ってな」
彼は思い切り扉を開けると大胆に宣言した。
「さ、そろそろ白状してもらおうか……お前が犯人だってことをな」
「一つ目、なぜ凶器と判断されるものがあんたの部屋から見つかったのか?」
「そりゃ、血の付いた包丁なんて怪しいじゃない」
「なぜ、そんなものが都合よく出てくる? 何かあると考えるべきだ」
いや、料理して切っちゃっただけだし……。
私がそのことを伝えると、
「そんなに勢いよく流血したのか? 染みができる程に」
「え……それは、わからないけど」
「ならこう考えるべきだ。なぜそんな跡が存在するのか、ってな」
言われてみれば、そう簡単に血が染みるわけない。
なのに……なんで?
「もともと、誰かがあんたをハメるために付けた。もしくは、犯行に使われた凶器であるって考えられる」
「そんな……だとしても」
「二つ目、めった刺しにされたのに、なぜ凶器に血がそんなにしみ込んでいないのか? そんなものがほかの包丁に混じってたら、普通気づくよな。つまり中途半端なんだ、付き方が」
「だとしたら――」
「本物の凶器は別にある。それも自分が絶対に犯人と悟られないような、凶器だ」
え、でも最近の鑑識だったらそのくらいわかるわよ。ドラマじゃあるまいし、そんな都合のいいもの存在するわけないわよ。
「例えば、木製のナイフ。焼却処理で証拠隠滅ができる」
確かに、彫刻が趣味の梓なら簡単に作れる。
「もっとも、繊維が傷口に付着するリスクがあるから俺なら選ばない。ほかには――――氷で作ったナイフ。これなら、折れたとしても、溶けてなくなるから証拠も残らない。水筒なんかに入れておけば簡単に持ち運べる」
そういえば、氷で何か彫っているのを見たけど……。
「嘘よ……梓が…………人殺しを?」
「知らん。俺は、あんたから無実を証明してほしいと依頼されただけだ。親友に本当かどうか聞いてみてもいいし、ほかの人が犯人であることを証明してもいい……あくまで俺は可能性の一つを示しただけだぜ。何か、反論はあるか?」
ない。そんなの、私の頭で思いつくはずもない。
「じゃ、今月分の家賃は見逃してもらうぜ」
私は……どうしたらいいの?
「お邪魔するわよ」
梓が帰ってきた。
「うん……」
本当に……本当に、梓が犯人だっていうの?
「ねえ……」
「どうかした?」
「あなたが、犯人なの? 梓」
黙っていた。
何も言わず、私を見つめ続けて、ため息をついた。
「気付いてほしくなかったんだけどなぁ」
「そんな……」
信じてたのに……絶対にないって、梓は人殺しなんてしないって。
「付き合ってたのよ、あいつと」
「ええっ!?」
「ふふっ……ほんと、鈍いのね。結構前からよ……私は真剣に愛してたのに、あいつ――他に好きな人ができたって」
「だから、殺したの? たった、それだけの理由で?」
「……ねぇ薫。私たち、友達よね?」
「もちろんよ」
「なら……私の身代わりになって」
そう言って梓は彫刻刀を取り出して、私の右手に握らせた。
咄嗟に力を入れて抵抗するけど、そのまま押し倒されてしまった。
「ちょっ……何を」
「自殺に見せかけて殺せば、私は絶対に容疑者にならなくて済むからっ!」
刃が少しずつ私の喉に近づいてくる。
このまま刺さったら……っ!
「――――お取込み中、失礼したいんですけど……」
この声っ!
「大家さんに、先月分の家賃の支払いに来たんですけど――――それどころじゃなさそうっすね」
明智さんの、息子さんだ!
「誰っ!?」
「別に名乗るほどの者でもないけど」
「っ邪魔を――」
梓が私の手を放した一瞬の隙をついて振り払った。
でも、運悪く彫刻刀を持っていた手で……。
――ザッッ!
彫刻刀の刃が運悪く、彼女の手首の動脈をかすめてしまった。
顔に生暖かい“ナニカ”が降りかかった。
不快な鉄の匂いがして、ようやくそれが梓の血液であることに気付いた。
「っまじかよ!」
彼が梓の手首を押えて出血を止めようとしているけど。手の隙間から血が流れ落ちている。
「――――――――!」
事態の重さが理解できない。
今目の前で起こっていることは現実なの?
それとも悪い夢?
ただ右手の感触だけが妙にリアルで。
「―――――――――ッッ!!」
これが手首を掻き切ってしまって。
足に染みてきている赤いものは、わかってはいるけど本物だって思えなくて。
もしこれが……。
「――――――電話はどこだッッ!?」
頬の痛みで我に返る。
電話……?
っ救急車。
「分かった!」
出血多量の人を助けるには早めに救急車を呼ばなきゃいけないって聞いたことがある。
一体、どれだけ惚けていたんだろう?
一刻も早く梓を助けないといけない状況なのに、どうして私はなにもできなかたのッ!?
数日後――
結論から言うと、梓は一命を取り留めた。
でも意識がまだもどっていない。
一応、例の事件の参考人? らしく警察の人が毎日病室に来ていた。
私も今回のことも含めた事情を聞かれたから、それとなく伝えておいた。
今日も私はお見舞いに来ていた。
でもそれまでと違って、病室が何やら騒がしかった。
覗いてみると、梓が目を覚ましているのが見えた。
刑事さんに色々話しているらしい。
「――入らないのか?」
「うひゃっ!」
急に声かけられたから何事かと思って振り返ったら、例の息子さんだった。
「ど、どうしてここに……?」
「あんたの無罪を証明するのが依頼だろ? 助けて恩を売ろうかなって思ってな」
彼は思い切り扉を開けると大胆に宣言した。
「さ、そろそろ白状してもらおうか……お前が犯人だってことをな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。
まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」
そう言われたので、その通りにしたまでですが何か?
自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。
☆★
感想を下さった方ありがとうございますm(__)m
とても、嬉しいです。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる