料理人がいく!

八神

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「どこかの小国にある剣道とかいう剣術の初歩的な技術を学ぶのと同じと言えるか…」

「剣道?…そういや日本に合気道とか柔道とか剣道とかそういったスポーツがあったな」


男の説明を聞き彼女は生地を踏み踏みしながら考えてちょっと納得する。


「俺が読んでるこの魔導書は導くという字で、魔術の更に上である魔法を学び身に付けるための書だ」

「魔法ねぇ…スポーツの柔道技と実戦で相手を破壊するための柔術…の違いみたいなもんか」


彼女は自分なりに分かりやすい例えに変換して納得した。


「で、なんでその難しい方の魔導書とやらを読んでんの?魔道の方が簡単なんしょ?」

「難しい分威力が桁違いだからな…だから俺は魔術を捨てて魔法に特化する事にしたのさ」

「ふーん…まあ読むだけで身に付くってのは楽で良いねぇ」


料理の指南書も読むだけで技術が身に付けば良いのにな、とバカにしたように笑う。


「…魔導の道を進む人以外の世の中のほとんどの人が勘違いしているが…魔道書を読むだけでほぼ使えるようになる魔術と違い、魔法というモノは魔導書を読むだけでは身に付かない」


男は少し怒ったように彼女の発言を否定する。


「まあだろうね」


彼女は軽いノリで男の発言に賛同した。




「…は?」


まさか彼女が理解するとは思ってなかったのか男は間抜けな声を出す。


「料理にしろ、剣や槍、弓や魔法にしろ、技術が必要なのは努力して磨かないと身に付かないのは一緒だろう?」


天才も凡人も努力しないと技術は身に付かねぇよ…と言って彼女は一旦ボウルから下りる。


「…その通りだ」


彼女の意見に男は意外そうに呟く。


「でも魔道書ってのが読むだけで魔術を身に付ける事を出来るのなら…まあ勘違いされても仕方ない」


魔道書と魔導書の違いなんて専門外の人には分からんし…と彼女は生地をひっくり返してビニールを敷いてからまた踏み始めた。


「っと…あんた、野菜と魚介と肉類どれがいい?」


彼女は生地を踏みながら思い出したように、何かを言おうとして口を噤む男に聞く。


「…そうだな、魚介が美味そうだから魚介で」

「んじゃまあ…魚介スープか」


考え込むように腕を組んで生地を踏む彼女が何かを決めたのか、踏むのを止めて冷蔵庫を開ける。


「おっ、スープ用のはまだ残ってるな…刺身を炙って具材にするのも良いかな?」


昼の料理の事を考えながらブツブツ呟いて大きめの鍋に水を溜め始めた。


「…昆布とかつお節と魚の骨で出汁をとって…そしたら麺もちょいと味を変えた方が…」


水の溜まった鍋をコンロに乗せて火を点けると大きなボウルの中にある生地を少し千切り、別の小さいボウルに移す。


「何でいこうかなー?」


彼女は調味料の入った小瓶を集めると一つ一つ指差し確認しながら迷う。


「…かみさまの、いうとおり…っと…」


目を瞑って何かを呟きながら両手の人差し指を動かし始める。


「きーまり、っと」


選んだ調味料を手に取ると小さいボウルの中に少量入れ、手で生地を捏ねた。
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