放っておけない 〜とあるお人好しの恐怖体験〜

園村マリノ

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第4話 縁

03 街コン

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「へえ、雑賀さいかさんと石塚さんは同じ大学行ってる友達なんだ」

「そうなんですよぉ~! 学科も同じなんですぅ。ねー理世ちゃん!」

 理世はタピオカミルクティーを飲みながら頷いた。

「俺も同じ大学の友達と一緒に来たかったんだけど、断られちまって」

「そうだったんですねー。でも何か意外。池田いけださん、こういうイベントに来なくても普通に彼女出来そうなのに」

「いやいや全然モテない」

「え~嘘ぉ~っ!?」

 ──まひろちゃん、流石だなぁ。

 初対面の男性であっても気さくに会話する友人に、理世は素直に感心した。

 ──わたしなんて返事したり相槌打つのがやっとだもん。

 浜波市沿岸部の繁華街を、大学生の男女五人ずつのグループで自由に散策する街コン。
 すっかり快復したまひろは、序盤からアクセル全開で消極的な男性陣に絡んでいった。一一時半に始まり、一二時過ぎにファミレスで昼食を取る頃には、容姿が整っている池田かなでという大学三年生に狙いを定めて距離を縮めてゆき、他の女性陣と差を付けていった。ドリンク片手に街中を散策している今も、常に彼の隣をキープしている。

「えーと……この後どうしますー?」

 道の途中の開けた場所まで来ると、笹田ささだという女性がグループ全体に声を掛けた。

「とりあえず一通り見て回りましたけど……他に行きたい所とかありましたら誰か……」

 一同は互いの様子を窺ったが、誰からも意見は出そうになかった。

「あー……それじゃ、今日はぼちぼち解散します? 最後に連絡先交換して」

 見かねたまひろが言うと、誰からともなく同意の声が次々に上がった。

「じゃ[MINEマイン]のID交換で!」

 その場でトークアプリのアカウントのIDを交換し合うと、挨拶と共に一人また一人と去っていった。残ったのは理世とまひろ、カナデと高橋雅基たかはしまさきという眼鏡を掛けた細身の男性の四人だ。

 ──何かちょっと呆気なかったなあ……ちゃんと全員と会話してないや。

 理世は交換したIDを簡単にチェックすると、スマホをショルダーバッグにしまった。

 ──街コンってこんなものなのかな。

「えっと、じゃあどうしようか」

 カナデは理世たち三人を順に見やった。

「せっかくだから、うちらだけでもうちょっとこの辺ぶらぶらしません? ね、理世ちゃん高橋さん。どう?」

「うん、いいよ」理世は微笑んだ。

「あ、はい、自分で良ければ……」

 マサキは周囲の雑音に掻き消されそうなか細い声で答え、ペコペコと何度も小さく頭を下げた。

「いいに決まってるじゃないですかー! あ、そうだ。ちょっと距離あるけど、海の近くの浜下はました公園まで行きません?」

「俺はいいけど、皆は?」

「大丈夫です」

 理世が答えるとほぼ同時にマサキも頷いた。

「じゃ決定! 行こ行こっ!」



 浜下公園に着くなりカナデとマサキが公衆トイレに駆け込んでしまったので、理世とまひろは、すぐ近くの植え込みの前で二人を待った。

「理世ちゃんさ、高橋さんの事どう思う?」

「高橋さん? どうって、別に……」

 まひろはニヤリと笑い、

「高橋さん、絶対理世ちゃんに気があるよ」

「えっ?」

 まひろがチラリと公衆トイレの方を見やり、理世も続いた。二人はまだ戻って来ないようだ。

「えと、何で?」

「気付いてなかった? 高橋さん、何度もチラチラと理世ちゃんの事見てたもん。その癖全然話し掛けないから、正直ちょっとイラッとしたんだよねーわたし」

「……そう言われてみれば確かに……」

 集合時のグループ分けとメンバー間での挨拶、ファミレスでのメニュー選びと談笑、タピオカドリンク片手にウィンドウショッピング……思い返せば何度か視線を感じた事はあったが、単に同じグループのメンバーとして顔くらい覚えておくための無意識の行為だろうと、全く気にしていなかった。

「でしょでしょ? 皆帰る中そのまま残ってたのが何よりの証拠だよ! ……あ、来た」

 二人が戻って来ると、まひろは当然のようにカナデの隣に並んだ。

「悪いね、待たせちゃって」

「いえいえ~」

「えーと、どうする?」

「この公園、結構広いんですよね。皆でお喋りしながら、もっと向こうの方まで歩いてみましょうよ。あ、そういえば今日って──……」

 ──あ。

 まひろとカナデが会話する中、理世はマサキがこちらを向いている事に気付いた。しかしよく見れば、その視線は理世ではなく、理世のすぐ後ろに向けられているようだ。

 ──わたしの後ろ……。

 振り向きかけたところで、理世ははたと気付いた。

 ──トウシロウさんもそうだった……わたしの憑依霊さんを見る時に。

「理世ちゃんと高橋さん、それでいい?」

「……へっ?」

「あー、聞いてなかったなぁ~?」

 まひろはニヤニヤ笑いながら理世の腕を突っついた。

「今日、この公園の中央広場でイベントやってるんだよ。スマホで調べたら終了時間までまだあるみたいだし、行ってみようよ」

「ああ、うん。行こ行こっ」

 マサキも頷くと、今度は理世の方を見る事なくゆっくり歩き出した。

 ──見えているのかどうか、聞いてみても平気かな。二人きりになれればいいんだけど。

 意外にもチャンスはすぐにやって来た。

「あー、やってるやってる! 出店もいっぱい!」

 中央広場の賑やかな様子に、まひろは子供のように目を輝かせた。本格を謳った中華料理や和洋スイーツなど何種類もの料理のワゴンが点在し、客が長蛇の列を作っている。正面出入口の端の方では、男性二人が息の合ったコミカルなパントマイムを披露し、立ち見の観客たちが笑ったり拍手している。

「うわ、やっぱ混んでるなー」

「ね~。あ、クレープも売ってる! あー、何かわたし小腹空いちゃった。皆で食べません?」

 理世たちは一瞬言葉を失った。まひろはファミレスでパスタとミニパフェをしっかり食べた後、散策中にも肉まんとLサイズのタピオカドリンクを平らげており、それからまだ大して時間は経過していない。

「う、うーん、わたしはいいや」

「自分も平気です」

「いいの? 池田さんは?」

「俺も別に……まあ、隣のトルコアイスはちょっと気になるかな。ていうかまた喉渇いちまったから何か飲みたいや」

 ──あ、丁度いいかも。

「それじゃ、わたしと高橋さんで待ってるので、二人は自由に買って来てください。何処か近くに座れる場所があったら確保しておきますね」

 マサキは一瞬驚いたような表情を見せたが、理世は気付かないフリをした。

「じゃ、よろしく。ちょっくら行って来ます」

「有難う理世ちゃん。高橋さんも。よろしくね!」

 まひろとカナデが去ってゆくと、理世は小さく息を吐き、意を決してマサキに向き直った。

「あの、高橋さんっ!」

「は、はいっ!?」マサキは身構えるようにボディバッグを両手で掴んだ。

「あ、いきなりすみません……」

「あ、いえ……」

「えーと、もうちょっと広場寄りまで行って、座れる場所探しません?」

「そ、そうですね……」

 歩き出して程なく、理世は再びマサキを、驚かさないよう落ち着いた声色で呼んだ。

「実はわたし、高橋さんにちょっとお聞きしたい事がありまして。でも内容が内容だから、まひろちゃんと池田さんには聞かれたくないもので……」

 マサキは何度もまばたきした。

「って、この言い方だと何か怪しい感じになっちゃいますね。あ、決して変な勧誘とかじゃないですよ」

「そうですか……」マサキは歩みを止めた。「実を言うと、自分も雑賀さんにお話ししておきたい事があるんです」

「わたしに?」

「はい……でもその、自分の話も内容が内容なもので、ちょっと話しにくくてですね……」

「何か変ですね、お互い」

「そ、そうですね……」

 理世が笑うと、マサキもはにかんだように笑った。

 ──もしかしたら、案外話しやすいかも?

「あ、向こう……」

 マサキが控えめに指をさした先に、横長のテーブルとパイプ椅子がいくつも並んでいるコーナーが見えた。スマホをいじったり飲食や談笑する客が所狭しと座っており、空席を探すのは難しそうだ。

「とりあえず駄目元で行ってみましょうか。一人分でも確保出来れば交代で座れますし」

「雑賀さん?」

 マサキの「そうですね」という返事は、理世を呼ぶ別の声によってほとんど掻き消された。振り返ると、三〇代半ばくらいだろうか、エラの張った輪郭と太い眉毛が特徴的な中肉中背の男性が、ペットボトルのスポーツドリンク片手に立っていた。

 ──あれ? この人何処かで……。

「雑賀さんですよね?」

「は、はい」

「やっぱり! 良かった、間違いじゃなくて」男性が安堵したように微笑むと、笑い皺が目立った。「僕の事、覚えてます?」

「……あ」

 理世の脳裏に、高校一年時の夏の記憶が蘇った。

「えっと、確かお名前は……鈴川すずかわさん?」

「そうです!」

「わ、お久し振りです!」

「お久し振りです! いやぁ偶然! 元気でした?」

「はい」

 にこやかに喋る鈴川を、マサキは驚愕と恐怖が入り混じったような表情で凝視していたが、背を向けていた理世は気付かなかった。
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