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第4話 縁
06 返信③
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「でね、カナデさんが……ん? 理世ちゃんどうしたの?」
「えっ、あ、え、大丈夫! 聞いてるよ!」
街コン翌日の昼休み、食堂。
まひろが持参の弁当を食べつつ嬉々として語る、昨夜のカナデとのやり取り。その内容のほとんどは、理世の耳から耳へと通り抜けて空気に溶け込んでいた。
「何か考え事してた? そういえば、今日は朝から何となく元気ないんじゃない?」
「い、いや~そんな事ないよ……あはは」
「えー本当~?」
──今ここで相談してみようかな……。
何の意図で鈴川がしつこくやり取りを続けようとするのかはわからないが、恋愛経験豊富なまひろなら、しつこい相手の最善な対処方法を知っているかもしれない。
「……ねえ、ちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」
コンビニで購入したサンドイッチを食べ終わると、理世は切り出した。
「うん?」まひろは持参のマグボトルで白湯を飲んでいる。「どしたの」
「あのさ、例えば[MINE]とかSNSなんかで連絡先交換した相手とやり取りしたとして、相手からのメッセージが何故か毎回疑問系で終わってて、しかもそこまで仲がいいわけでもないのに次の日も連絡してくるって場合、どうしたらいいかわかる?」
まひろはテーブルの上にカップを置き、身を乗り出した。
「何それ。え、まさか高橋さんが!?」
「え!? ち、違う違う! 高橋さんは無実! 無罪!」
通路を挟んだ隣のテーブルの女子たちが数人、理世たちの方に振り向いた。
「あの、わたしの話じゃなくて、友達の話なんだ……」
「あ、そうなの」
「で、そういう場合、どうしたらいいのかなって」
「ふーん……」まひろは椅子の背にもたれ、腕を組んだ。「その友達は女の子で、相手は男?」
「うん」
「それって、男の方が理世ちゃんの友達に好意とか下心があるんじゃないかな。だから少しでも長く[MINE]を続けたいし、毎日連絡取りたい、と」
「好意とか下心……?」
浜下公園での鈴川とのやり取りを思い出し、理世は首を捻った。あのにこやかな表情の裏に、好意は別として、それ以上の欲望を隠していたようには思えなかった。
「あるいは、宗教とかマルチ商法の勧誘がしたいってのも考えられるかな」
──そっか、その可能性もあるよね。
理世はふむふむと頷いた。
「理世ちゃんの友達がその男とやり取りしたくないってんなら、すぐに返信しない方がいいよ。返信早いと、好意があるんだ、少なくとも興味を持ってくれてるんだ、って勘違いされるから」
──わたしの返信は早かったかな……?
「どちらにせよ、やり取り続けてたら、いずれは会いたがると思う」
「……友達は、相手の事は顔見知り程度にしか思ってないんだ。もし相手に会いたいって言われたら断っても平気かな?」
「そりゃ勿論! 無理に会う事なんてないって」
まひろは再び前のめりになった。
「用事があるとか言ってさ。もしかしたら何回か続くかもしれないけど、断り続ければ流石に察すると思うよ、避けられてるって。それでもしつこいようだったら無視。逆上するようだったらブロック。てか、しつこ過ぎる時点でブロックしちゃってもいいかもね」
「そっか……」
「あ、その知り合いは理世ちゃんの友達の家とか、大学とかバイト先なんかを知ってたりする?」
「ううん、知らないよ」
「じゃあ平気かな。もし知ってたらストーキングされちゃう可能性もあるから、聞かれても絶対答えちゃ駄目だよ」
〝雑賀さんがあの男性に、しつこく付き纏われて逃げている夢でした〟
マサキからのメッセージが理世の頭を過った。
「……うん、わかった。くれぐれも気を付けるよ──」
「ん?」
「──うに言っておくね!」
「ん~? 今、微妙な間がなかったぁ?」
「え、そう?」
理世は笑って誤魔化し、新たに開封した焼きそばパンに齧り付いた。
〝雑賀さんこんばんは!
今日はいつもに比べて結構暖かい日じゃありませんでした? 僕は仕事の昼休みに、会社近くの店でかき氷まで食べてしまいました(笑)ブルーハワイが良かったんですが取り扱いがないって言われてレモンにしましたが、久しぶりに食べたせいかおいしかったです(笑)
雑賀さんは今日のお昼にどんなものを食べました?〟
二一時過ぎ、鈴川は昨日の予告通りにメッセージを送ってきた。
──すぐには返さないでおこう。
[MINE]を閉じてスマホを置き、渇いた喉を潤すためにキッチンへ向かう。コンロの上のやかんから、母親が淹れたほうじ茶を自分用の湯呑みに注いでいると、空のマグカップを片手に父親がやって来た。
「それほうじ茶か? 一杯くれ」
「一〇〇円」
「母さんならわかるけどお前が取るのか」
「じゃあ二〇〇円」
「じゃあって何だ、じゃあって」
目一杯注がれたほうじ茶をその場で飲み息を吐くと、理世の父親は部屋に戻ろうとした娘を呼び止めた。
「お前は変な男に困ったりしてないか?」
「……何で?」
心臓がドクリと大きく脈打ったが、理世は平静を装って尋ね返した。
「いや、実は父さんと同じ部署の事務員の女性がな、前々から取引先の社員からしつこく言い寄られて困ってたらしいんだが、数日前にとうとう一人暮らしの自宅を特定されて、帰宅を待ち伏せされたんだと」
「うわあ怖っ!」
「それって大問題じゃない」
母親もひょっこり顔を出し、会話に加わってきた。
「ああ、大問題になってるよ。今後どう対処するか、こちらと先方のお偉いさん同士で協議中。事務員の子はショックで来られなくなっちまって、しばらく実家で休むみたいだ」
「嫌ぁねぇ~! 理世も気を付けなさいよ? あんた大人しくてはっきり嫌だって言えない性格なんだから、私に似てさ」
一瞬、場が静まり返った。
「え、何よ? だってそうでしょ、ねえお父さん」
「ウン、ソウダナー」
「ちょっと何その棒読み!」
理世はそっぽを向き、程良く温かいほうじ茶に口を付けた。
「あーとにかく、理世は気を付けるようにな。それとわかってると思うが、二人共この話は他言無用だぞ。まあここで話した俺が言える事じゃないかもしれないが……」
〝こんばんは。確かに今日はちょっと暖かかったですね。昼食はパンでした〟
理世が鈴川に返信したのは、二三時半頃だった。まだ早い気もしたが、もうそろそろ布団に入る時間なので、とりあえず一回は返しておく事にしたのだ。
──こういうところが甘いのかな、わたし。
押入れから布団を出して敷くまでの一分足らずの間に、鈴川から返信がきた。
〝雑賀さんって大学生ですか?〟
──昨日も聞かれたけど……そんなに知りたいの?
〝そうです。明日も一限目からなのでもう寝ます〟
──やっぱり無視した方が良かったかな。
理世は返信を待たずに枕の近くにスマホを伏せ、布団に入った。
部屋の明かりを消すと同時に、ディスプレイから光が漏れた。恐らく鈴川からの返信だろう。
──……気になる。嫌だけど気になる!
十数秒の葛藤の末、理世は誘惑に負けてスマホをひっくり返すと、[MINE]は開かずポップアップ通知に表示されているメッセージに目を通した。
〝大学どこなんですか? また明日!〟
「もう無視しちゃっていいかなあ……」理世はぼやいた。
「えっ、あ、え、大丈夫! 聞いてるよ!」
街コン翌日の昼休み、食堂。
まひろが持参の弁当を食べつつ嬉々として語る、昨夜のカナデとのやり取り。その内容のほとんどは、理世の耳から耳へと通り抜けて空気に溶け込んでいた。
「何か考え事してた? そういえば、今日は朝から何となく元気ないんじゃない?」
「い、いや~そんな事ないよ……あはは」
「えー本当~?」
──今ここで相談してみようかな……。
何の意図で鈴川がしつこくやり取りを続けようとするのかはわからないが、恋愛経験豊富なまひろなら、しつこい相手の最善な対処方法を知っているかもしれない。
「……ねえ、ちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」
コンビニで購入したサンドイッチを食べ終わると、理世は切り出した。
「うん?」まひろは持参のマグボトルで白湯を飲んでいる。「どしたの」
「あのさ、例えば[MINE]とかSNSなんかで連絡先交換した相手とやり取りしたとして、相手からのメッセージが何故か毎回疑問系で終わってて、しかもそこまで仲がいいわけでもないのに次の日も連絡してくるって場合、どうしたらいいかわかる?」
まひろはテーブルの上にカップを置き、身を乗り出した。
「何それ。え、まさか高橋さんが!?」
「え!? ち、違う違う! 高橋さんは無実! 無罪!」
通路を挟んだ隣のテーブルの女子たちが数人、理世たちの方に振り向いた。
「あの、わたしの話じゃなくて、友達の話なんだ……」
「あ、そうなの」
「で、そういう場合、どうしたらいいのかなって」
「ふーん……」まひろは椅子の背にもたれ、腕を組んだ。「その友達は女の子で、相手は男?」
「うん」
「それって、男の方が理世ちゃんの友達に好意とか下心があるんじゃないかな。だから少しでも長く[MINE]を続けたいし、毎日連絡取りたい、と」
「好意とか下心……?」
浜下公園での鈴川とのやり取りを思い出し、理世は首を捻った。あのにこやかな表情の裏に、好意は別として、それ以上の欲望を隠していたようには思えなかった。
「あるいは、宗教とかマルチ商法の勧誘がしたいってのも考えられるかな」
──そっか、その可能性もあるよね。
理世はふむふむと頷いた。
「理世ちゃんの友達がその男とやり取りしたくないってんなら、すぐに返信しない方がいいよ。返信早いと、好意があるんだ、少なくとも興味を持ってくれてるんだ、って勘違いされるから」
──わたしの返信は早かったかな……?
「どちらにせよ、やり取り続けてたら、いずれは会いたがると思う」
「……友達は、相手の事は顔見知り程度にしか思ってないんだ。もし相手に会いたいって言われたら断っても平気かな?」
「そりゃ勿論! 無理に会う事なんてないって」
まひろは再び前のめりになった。
「用事があるとか言ってさ。もしかしたら何回か続くかもしれないけど、断り続ければ流石に察すると思うよ、避けられてるって。それでもしつこいようだったら無視。逆上するようだったらブロック。てか、しつこ過ぎる時点でブロックしちゃってもいいかもね」
「そっか……」
「あ、その知り合いは理世ちゃんの友達の家とか、大学とかバイト先なんかを知ってたりする?」
「ううん、知らないよ」
「じゃあ平気かな。もし知ってたらストーキングされちゃう可能性もあるから、聞かれても絶対答えちゃ駄目だよ」
〝雑賀さんがあの男性に、しつこく付き纏われて逃げている夢でした〟
マサキからのメッセージが理世の頭を過った。
「……うん、わかった。くれぐれも気を付けるよ──」
「ん?」
「──うに言っておくね!」
「ん~? 今、微妙な間がなかったぁ?」
「え、そう?」
理世は笑って誤魔化し、新たに開封した焼きそばパンに齧り付いた。
〝雑賀さんこんばんは!
今日はいつもに比べて結構暖かい日じゃありませんでした? 僕は仕事の昼休みに、会社近くの店でかき氷まで食べてしまいました(笑)ブルーハワイが良かったんですが取り扱いがないって言われてレモンにしましたが、久しぶりに食べたせいかおいしかったです(笑)
雑賀さんは今日のお昼にどんなものを食べました?〟
二一時過ぎ、鈴川は昨日の予告通りにメッセージを送ってきた。
──すぐには返さないでおこう。
[MINE]を閉じてスマホを置き、渇いた喉を潤すためにキッチンへ向かう。コンロの上のやかんから、母親が淹れたほうじ茶を自分用の湯呑みに注いでいると、空のマグカップを片手に父親がやって来た。
「それほうじ茶か? 一杯くれ」
「一〇〇円」
「母さんならわかるけどお前が取るのか」
「じゃあ二〇〇円」
「じゃあって何だ、じゃあって」
目一杯注がれたほうじ茶をその場で飲み息を吐くと、理世の父親は部屋に戻ろうとした娘を呼び止めた。
「お前は変な男に困ったりしてないか?」
「……何で?」
心臓がドクリと大きく脈打ったが、理世は平静を装って尋ね返した。
「いや、実は父さんと同じ部署の事務員の女性がな、前々から取引先の社員からしつこく言い寄られて困ってたらしいんだが、数日前にとうとう一人暮らしの自宅を特定されて、帰宅を待ち伏せされたんだと」
「うわあ怖っ!」
「それって大問題じゃない」
母親もひょっこり顔を出し、会話に加わってきた。
「ああ、大問題になってるよ。今後どう対処するか、こちらと先方のお偉いさん同士で協議中。事務員の子はショックで来られなくなっちまって、しばらく実家で休むみたいだ」
「嫌ぁねぇ~! 理世も気を付けなさいよ? あんた大人しくてはっきり嫌だって言えない性格なんだから、私に似てさ」
一瞬、場が静まり返った。
「え、何よ? だってそうでしょ、ねえお父さん」
「ウン、ソウダナー」
「ちょっと何その棒読み!」
理世はそっぽを向き、程良く温かいほうじ茶に口を付けた。
「あーとにかく、理世は気を付けるようにな。それとわかってると思うが、二人共この話は他言無用だぞ。まあここで話した俺が言える事じゃないかもしれないが……」
〝こんばんは。確かに今日はちょっと暖かかったですね。昼食はパンでした〟
理世が鈴川に返信したのは、二三時半頃だった。まだ早い気もしたが、もうそろそろ布団に入る時間なので、とりあえず一回は返しておく事にしたのだ。
──こういうところが甘いのかな、わたし。
押入れから布団を出して敷くまでの一分足らずの間に、鈴川から返信がきた。
〝雑賀さんって大学生ですか?〟
──昨日も聞かれたけど……そんなに知りたいの?
〝そうです。明日も一限目からなのでもう寝ます〟
──やっぱり無視した方が良かったかな。
理世は返信を待たずに枕の近くにスマホを伏せ、布団に入った。
部屋の明かりを消すと同時に、ディスプレイから光が漏れた。恐らく鈴川からの返信だろう。
──……気になる。嫌だけど気になる!
十数秒の葛藤の末、理世は誘惑に負けてスマホをひっくり返すと、[MINE]は開かずポップアップ通知に表示されているメッセージに目を通した。
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