アンハッピー † デス † エンド

0gⅢ

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Ⅰ - 傲慢の檻 -

穢れた契約

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突如、室内に響いた低い男の声を合図に、暴行を加えていた男達はピタリと動きを止め、一同に背筋をピンと伸ばし整列する。

その直前まで、神聖なはずの教会には不釣り合いな大勢の男の怒号や激しい騒音が大きく反響し合い、それはまさに地獄絵図とも言える状態であった。
激しい暴行を受けたスーツの男は、声が出ないのか微かに呻き声を上げながら床に横たわっている。

しかし先ほどとは打って変わり、怖いくらいに静寂に包まれた教会内には張り詰めた空気が漂い、目の前の光景に良司はただただ震えて心の中で祈るしかなかった。

その声の主―厳つい初老の男は、イルの後ろに隠れて涙目になっているミツルにゆっくりと近づく。

「ああ、君が噂の ”神の仔” と言われているミツルくんだね 」 

ニヤリと不気味に笑いながら口を開いた男のその顔を、良司はよく知っていた。
実はこの教会のすぐ近くには裏稼業、所謂ヤクザと言われる暴力団の事務所兼自宅になっている大豪邸がある。
今まで面識があった訳では無いが、要注意しなければならない相手の顔は一方的には知っておかなければならない。

「あ、あの、至極さんですよね。今までご挨拶もした事がなく、大変申し訳御座いませんが……」

「ああ、別に気にするな。うちに近寄りたい奴なんて居る訳がないからな 」

至極というこの男は、その暴力団のボスであり、大豪邸の持ち主でもある。近所の人達の中にも、挨拶に行った猛者は居ないのではないだろうか。

「すみません、うちに何か御用が……?」

しどろもどろに問いかける良司に、至極は笑いながらこう答えた。

「近所でアンタの息子さんが噂になってるのを聞いてね。なんでも、爺さんの病を言い当てたとか。最近ワシもどうも身体が悪くてな…それなら見て貰うかと思ってやって来たら、ソイツが暴れてたから手助けしただけだ  」

「それは、助けて頂き感謝しています。しかし、ミツルの件は恐らく偶然で……!」

「偶然かどうかはワシが判断することだ 」

まるで予防線を張る様な言葉を吐く良司を、至極はギロリと睨みつける。
至極はミツルに向き直ると、笑顔で話しかけた。

「どうだい?ミツルくん。おじさんも最近、体の調子が悪くてね。何か分かるかな? 」

ミツルは怯えながらも至極の顔をじっと見つめると、フッと視線を下に落とす。
至極の期限を損ねる行動を取れば、息子や自分、この場にいるイルにも危害が及ぶ可能性がある。緊迫した雰囲気が辺りを包み、良司は顔を青ざめさせていた。

沈黙を破るように、ミツルが口を開く。

「おじさんの…なんだろう、この辺り色が違う。濁った色が漏れ出てる 」

ミツルは、至極の心臓の下辺りを指さす。
それは至極が数年前に対抗組織に命を狙われ、銃弾を受けた事があった場所だ。

「……ああ、確かにここには傷がある。でももう一年程前に手術した場所だしな 」

至極が連れてきた男たちは、一斉にギロリとミツルを睨みつける。
咄嗟に、良司は謝ろうと口を開きかけた。
 
「少し、失礼します 」

その声を発したのはイルだった、
イルは歩みを進め至極の前に立つと、服をはぐりその傷を目視する。

「おい!テメェ!!」

「いや、いい」

男の一人がイルに殴りかかろうとしたのを、至極は手を挙げて制止する。

「ここ、変な変色の仕方をしてますよね。銃創の位置を見る限り、もしかしたら取り残した弾の破片が、肋骨の裏に癒着したり血管を圧迫してるのかもしれません。設備が充実していない場所で治療を受けたのであれば、細部までは確認できなかったのでは? 」

ずっと傷跡が変色しただけかと思っていたが、事実、この傷を中心に痛みを感じている気はしていた。
至極が治療を受けたのは、裏稼業等の表で治療を受けられない人々の治療をする所謂、闇医者が動かす医院だ。
最新設備のある、大きな病院の様にはいかない。

「チッ、あのヤブ医者が。オイ、アイツもソコのゴミと一緒に沈めとけ 」

数人の男達は一斉に頭を下げると、倒れているスーツの男を抱えて教会の外に出ていく。

「……成程、確かにこの子はいい目を持っているな。あとそこの綺麗な顔をした兄ちゃん。アンタもかなり度胸があるな、それに医学の知識もありそうだ。気に入った 」

「それは光栄です 」

全く動じずに笑顔を見せるイルに至極は笑い声を上げた。その様子に良司はホッと胸を撫で下ろす。

「見たところ、金貸しが訪ねてくるくらいだ。金が必要なんだろう?それならウチが出資してもいい。どうせアンタの所には、直ぐに金が回る様になるだろうからな 」

「…えっ!?」
 
確かに、先程のスーツの男は金貸しをしているヤクザ者ではあった。恐らくそれを見抜いての提案だろう。
良司は思ってもみなかった話に、少し心が揺らいだ。
ただ、相手は反社会の人間だ。この申し出に乗ってしまうのは、自分が信仰する神の教えにも背くものではないだろうか?

しかし、あの日訪れた天使はこう言った。

”この教会を大きくして欲しい ” と。

もしかしたら、この事態は天から授けられた”きっかけ”の一つなのかもしれない。
これが神が与えた試練であるなら、この悪魔の手を借りる事も赦される筈なのだ。私がそちらに堕ちなければきっと。

良司は決意したように、口を開く。

「その……お恥ずかしながら、資金が必要なのは確かです。しかしそれは、神の啓示の下、息子の目をもって人々に救いの……」

「ああ、いいいい。理由なんてどうでもいいんだ。俺たちからしてみれば、この教会で大金が動くかどうかにしか興味が無いからな。アンタが団体を立ち上げたら、そこに大金が舞い込むだろうと確信してこの話をしてるんだ 」

そう言われ、良司は押し黙る。
もうここまで来てしまえば、この話に対しての答えはもう一つしかないのだ。

「……わかりました 。よろしくお願いします 」
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