惡魔の序章

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しあわせなひととき

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 中間テストも無事終わり、赤点も補習も問題なくなかった私達は、三人で漫画喫茶へ行った。あっという間に時間は過ぎて、帰る時間帯となり、会計を済ませて帰路に着く。

 そうして、帰りにさいおんじ家にお邪魔すると、またいつきとかすかのお母さんにお泊まりを提案されたので、素直に甘える事にした。

 晩ご飯とお風呂を済ませて、いつきとかすかの部屋でお布団を敷き、三人でまた川の字で寝る。かすかといつきは本当に仲がいい兄弟だなあと思う。お風呂を普通に二人で入っていたからである。いつきが「ーー僕、お風呂入って来るね~」と言ったら、かすかも無言でいつきの後を付いて行った。どうやら、さいおんじ家ではいつもの事らしい。

   ♡

「ーーもうそろそろ、秋だねえ。星空も綺麗になるし、今度、望遠鏡、引っ張り出して三人で天体観測でもする~?」

「星座とか、小学生の理科の授業の時以来だ……。懐かしい……」

 消灯した、薄暗い室内で二人と喋る私。布団の上で仰向けに寝て、天井を見上げた。

「食欲の秋だし、三人でピクニックしても楽しそうだよね。お弁当作って」

「ーーよくが作るんですか?」

「ーーえ? 何を?」

「お弁当です」

「え!? わ、私が作るの!?」

「ーー僕、サンドウィッチ食べたいっ」

「ーーぼくは、チーズ焼きおにぎりで」

「何でそこ、ごはんとパンの二手に別れるの!?」

 薄暗いが、月明かりで二人の表情が分かった。いつきは変わらず笑顔で、かすかは無表情で淡々としている。

「……じゃあ、今度、三人でお弁当作ろっかあ」

 能天気ないつきの声が室内へと響く。私は無言で了承すると、いつきとかすかは私を置いて語り続ける。

「まだ残暑で暑いから、水筒に一口サイズのシャーベットを詰めて持って行ったら楽しそうだよね」

「ぼく、苺のシャーベットがいいです」

「お母さんにお弁当の材料、買っておいて貰うように頼まないとねっ」

「はい」

「ーーで、よくちゃんは何を作ってくれるのっ?」

「え? ええと……」

 二人から置いてきぼりを食らった私は言い淀んだ。すっかり二人の兄弟のペースだ。どうしようと考えていると、かすかが口を開いた。

「ーーぼく、よくの作ったチョコチップクッキーが食べたいです」

「あ、いいね~」

 チョコチップクッキーは、かすかの大好物だ。なんだかんだでお祭りの時も苺飴を食べていたかすかは、わりと甘党な方なのかもしれない。

「よくちゃんは、どんな料理が好き~?」

「ーー私? ゴーヤチャンプルー」

「大人ですね。ゴーヤは苦いので食べたくないです」

「よくちゃん。大人だね~。僕もゴーヤチャンプルーは食べられないや~」

 徐々に夜は耽けて行く。壁掛け時計が時を刻む音と、いつきとかすかの声と。私は、このいつもの一時がずっとずっと、続くのだろうと思っていた。

 ーーだけど、ピクニックの帰り道に、いつきから「ーーあ、そうだ! お母さんに用事を頼まれてたから、先にかすかと帰っててー!」と言われて、かすかといつもの帰り道を歩いていた時だった。二人で手を繋いで。

 道端に見知らぬ黒い車が停まっていて、急に男性が二人出て来ると、私とかすかに襲い掛かって来た。本当にそれは、数秒の事で、気付けば、私とかすかは暴れる中、車の中に押し込められていたのだ。
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