惡魔の序章

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おべんきょう

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 今日は、テスト期間という事で。学生でも手軽な値段で食べられるファミレスに三人で来ている。

 私は、パスタ。いつきはハンバーグ。かすかはドリア。料理とドリンクバーを頼み終わった後に、各自、テスト勉強をする。

 いつきは、テキストと睨めっこをして、「ーー分からないよう~」と半泣きになっているので、私がテストのヤマを貼ってあげた。そんなやり取りをする中で、かすかは黙々とテスト勉強をしている。

 いつきはどちらかと言うと、運動が得意な方で勉強が苦手な男の子だった。けれど、かすかは勉強も運動も出来る優秀な男の子で。兄弟だけど、かすかの方がいつきよりも記憶力は格段に上だった。

 かすかは、ドリンクをストローで吸い込み、一口飲む。グラスをテーブルの上に置くと、いつきに向き直った。

「ーーいつき。ぼくにテキスト見せて下さい。大体なら教えられると思います」

「ーーへ!? かすか。学年三個も下だよね!?」

 私は素っ頓狂な声を上げて驚くが、いつきはかすかにテキストを無言で手渡した。かすかは、慣れた手付きでテキストを捲る。

「いつもなので。テキストをざっと読め込めば、何となく分かります。応用問題とかは、分かるまでに時間は掛かりますが……」

「うわ~ん! ありがとう。かすか~」

 目を丸くする私に淡々と答えるかすか。これは、いつもの事らしい。中学生が高校生に勉強を教えるなんて、前代未聞だ。私は言葉を失い、目の前の兄弟のやり取りを静かに見守った。

 かすかは、元々、一人遊びが得意な子で、幼少期は絵本と積み木が大好きな子だった。その延長戦で、勉強も読書も難なくこなしてしまう。コミュニケーション能力は乏しいが、実質、器用な方なのかもしれない。

「で、ここがですね。いつき。この公式で解いて、気を付けるポイントが。ーー」

「ーーあ、そっか! やっと分かった! ありがと! かすか」

「……はい」

 どっちが兄なのか、弟なのかが分からない。私は一連の二人のやり取りを見守って、数式を解きながら、ジュースをストローで吸い込む。

 一生懸命、テキストの問題を解くいつきに、かすかも自分のテキストを広げたまま、兄を見守っている。自分の勉強そっちのけでマンツーマンで兄の勉強のお世話をする弟。かすかは成績優秀だから、中間テストなど、余裕なのだろう。

 高校進学の時は、私といつきとは違う、もっとレベルの高い高校へ進学するのかもしれないと思った。

   ♡

 テスト勉強を終わらせた私達は、会計を住ませて帰路に着く。私を真ん中にして、三人で手を繋いだ。夕焼けによって、影は長く長く、伸びている。遠くで何処からか、鴉の声が聞こえて来た。

「ーー今回のテストは、赤点クリア出来そうで良かった~」

「あのね、いつき。せめて、平均点以上は取りなよ?」

「いいの! 僕は赤点と補習さえ、回避出来ればオーケイです!」

「もー……」

 意気揚々と語るいつきは、繋いだ手を握り直す。私も握り直した。いつきの手もかすかの手もあたたかい。私は冷え性で自分の手は比較的冷たいから、二人の手が羨ましかった。

「ーーテストが終わったらさ。三人で気晴らしに何処か行こうよっ!」

「ーー何処へ行くんですか?」

「んー……そうだねー。近場のカラオケとか、漫画喫茶でもいいし……」

「ぼく、歌は苦手です」

「えー……何で? かすかは僕と違って、歌うの上手いでしょ?」

「上手くないです」

「ーーじゃあ、漫画喫茶にする?」

 見守っていた私が助け舟を出すと、かすかは無言で頷いた。いつきは、明るく「ーーそうだね! 久し振りで三人で漫画読みに行こっか!」と納得し、テスト終了後の約束が決まった。

 「ーー今日の晩御ご飯、何だろう~?」と歌うように呟くいつきの声を聞きながら、かすかと目が合ったので微笑むと、かすかも静かに微笑み返してくれた。
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