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第三部
うみのそこ
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二人で砂浜に靴を並べて、僕は微笑んでコーデリアと手を繋いだ。
「ーー何か恋人っぽくていいね」
「……恋人っぽいだなんて、言わないで。ゆき……」
「何で?」
「さ、最期、位は、恋人でいてっ……お願いよっ」
泣き出しそうな目でコーデリアは、僕を縋るように抱き締めた。僕は、彼女を抱き締め返す。ーーよしのとは違う、等身大の彼女を今やっと見つめる事が出来た。
手を繋いで、二人で一緒に海水に足を入れた。海の奥までゆっくりと歩いて行く。コーデリアは、心細そうだった。
「……い、嫌よ……私だけ死ぬの。ーー絶対に嫌ッ」
「そんな事はしないよ。コーデリア……」
足がつけない深さまで来ると。ーー気付けば、海の中にいた。
いつの間にか、コーデリアと繋いでいた手が離れている。コーデリアの姿も遠くへ行き、見えなくなった。
海水の中で目を開けた。ーー僕は、はっとする。
口から酸素が漏れて、泡となり、海面に泡が上がって行く。海の中で、がむしゃらにもがいた。もがき続けた。ゴボゴボと泡の音がする。
僕は、今になって、自分の本当の気持ちに気付かされる。
ーー死にたくないッ……!
ーー死にたくない。死にたくない。死にたくない。
ーー僕は、死にたくはない。……生きたいッ……!
ーー誰かッ……助けてっ……助けてくれッ!!
ーー……よしのっ……!
♡
誰かの叫び声が聞こえる。僕は、目を開けると、太陽の光が視界に入り、飲んだ海水を噎せながら吐いた。
「ーーゲホゲホゲホッ!!!」
「ーーオイッ! 息を吹き返したぞッ!」
「そっちはどうだっ!?」
見知らぬ男性数人が叫ぶ。地元の人間らしき人達は、何かをしているようだった。
「……こっちの女は……駄目だ……ッ」
僕は、諦めた声のする方へと首をゆっくりと横にやる。そこには、コーデリアが仰向けになって砂浜に倒れていた。ーー死後硬直をしていて。
「あ……」
か細い声を出して、コーデリアを見る僕。不思議と涙は出なかった。太陽の光でコーデリアのブロンドの髪はキラキラと輝いていて、まるで彼女の姿は天使のようだった。
ーー彼女は死に、僕は生き残った。
♡
ーーゆきちゃん。
何処からか、よしのの声が聞こえて来たような気がした。
僕は、あのよしのの家の中に立っていて、お腹の大きいよしのは、ソファに座って、自分のお腹を微笑みながら、愛おしそうに撫でている。
「……ねぇ、ゆきちゃん。お腹の子の名前ね、決まったよ。私が考えたの」
「ーー何て名前にしたの?」
「かすかって、名前にしようと思って。ふふ」
「……綺麗な名前だね」
ーーこんな時に、気が付けば、僕は、よしのの子供である、かすかの事をぼんやりと考えていた。
「か……すか……」
僕は、かすかの名前を反芻するように呟く。
そして、視界は暗転し、意識を失った。
【第三部完】
二人で砂浜に靴を並べて、僕は微笑んでコーデリアと手を繋いだ。
「ーー何か恋人っぽくていいね」
「……恋人っぽいだなんて、言わないで。ゆき……」
「何で?」
「さ、最期、位は、恋人でいてっ……お願いよっ」
泣き出しそうな目でコーデリアは、僕を縋るように抱き締めた。僕は、彼女を抱き締め返す。ーーよしのとは違う、等身大の彼女を今やっと見つめる事が出来た。
手を繋いで、二人で一緒に海水に足を入れた。海の奥までゆっくりと歩いて行く。コーデリアは、心細そうだった。
「……い、嫌よ……私だけ死ぬの。ーー絶対に嫌ッ」
「そんな事はしないよ。コーデリア……」
足がつけない深さまで来ると。ーー気付けば、海の中にいた。
いつの間にか、コーデリアと繋いでいた手が離れている。コーデリアの姿も遠くへ行き、見えなくなった。
海水の中で目を開けた。ーー僕は、はっとする。
口から酸素が漏れて、泡となり、海面に泡が上がって行く。海の中で、がむしゃらにもがいた。もがき続けた。ゴボゴボと泡の音がする。
僕は、今になって、自分の本当の気持ちに気付かされる。
ーー死にたくないッ……!
ーー死にたくない。死にたくない。死にたくない。
ーー僕は、死にたくはない。……生きたいッ……!
ーー誰かッ……助けてっ……助けてくれッ!!
ーー……よしのっ……!
♡
誰かの叫び声が聞こえる。僕は、目を開けると、太陽の光が視界に入り、飲んだ海水を噎せながら吐いた。
「ーーゲホゲホゲホッ!!!」
「ーーオイッ! 息を吹き返したぞッ!」
「そっちはどうだっ!?」
見知らぬ男性数人が叫ぶ。地元の人間らしき人達は、何かをしているようだった。
「……こっちの女は……駄目だ……ッ」
僕は、諦めた声のする方へと首をゆっくりと横にやる。そこには、コーデリアが仰向けになって砂浜に倒れていた。ーー死後硬直をしていて。
「あ……」
か細い声を出して、コーデリアを見る僕。不思議と涙は出なかった。太陽の光でコーデリアのブロンドの髪はキラキラと輝いていて、まるで彼女の姿は天使のようだった。
ーー彼女は死に、僕は生き残った。
♡
ーーゆきちゃん。
何処からか、よしのの声が聞こえて来たような気がした。
僕は、あのよしのの家の中に立っていて、お腹の大きいよしのは、ソファに座って、自分のお腹を微笑みながら、愛おしそうに撫でている。
「……ねぇ、ゆきちゃん。お腹の子の名前ね、決まったよ。私が考えたの」
「ーー何て名前にしたの?」
「かすかって、名前にしようと思って。ふふ」
「……綺麗な名前だね」
ーーこんな時に、気が付けば、僕は、よしのの子供である、かすかの事をぼんやりと考えていた。
「か……すか……」
僕は、かすかの名前を反芻するように呟く。
そして、視界は暗転し、意識を失った。
【第三部完】
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