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しおりを挟む「どうして打たれたか、わかるな?」
「はい。お父さま」
「直接関わったわけではないとはいえ、私の娘が他人を害することに加担していたなど、許されない」
張られた頬がじん、と熱く、つられて目元まで熱が登ってきた。
上目遣いにお父さまの顔を伺う。
徹底した摂生のためか、それとも今回の騒動のためか。父の顔はいつもよりやつれて見えた。
落ち窪んだ瞳に宿る光は、軽蔑の色をしていて。
それが何よりも辛かった。
「はい。申し訳ございませんでした」
「今後の身の振り方に関しては、あとから伝えさせる。今日はもう下がれ」
それだけを言うと、お父さまは私から視線を外した。もう私など存在しないように椅子に腰掛け、ペンを握っている。
きっと方々への対処に追われ、お忙しいのだろう。けれどこんなことがあってなお、私にかけてもらえる時間、労力は仕事の片手間程度なのだと見せつけられるようでしくしくと胸がいたんだ。
「失礼しました」
「それと」
できるだけ邪魔をしないように、小さく退室の挨拶をして頭を下げた私に対して、思い出したように声がかかる。
「お前の拾った護衛…たしかアールと言ったか。彼とは距離をおきなさい」
「…理由をお聞きしても?」
「お前と彼との仲が噂になっている。私の耳にも入るほどにな」
「それは…」
それは寝耳に水といっていい話だった。アールと私が噂になるなんてことを考えたこともなかったのだ。彼が私の側にいることは至極当然で、男だとか女だとかそういう発想に至らなかった。
「彼のことは心配しなくてもよい。うちで配置換えをしてもいいし、彼が希望するなら他所へ推薦状を書いてやってもいい。ただしお前の側付きからは外せ。未婚の乙女にそのような噂、百害あって一利なしだろう。わかるな、リリアーナ」
お父さまの厳かで静かな瞳は私の意見なんか聞いていなかった。確認作業ですらない。でもそれはなんてことはない。いつものことだ。
だから私もいつも通りに応えるだけ。口元を軽く引き上げ、目を細めて微笑む。
「わかりましたわ。お父さま」
決定権はいつだって私にはなかった。
「どうしたいか思い付いたら俺に言え。叶えてやる」
だからそんなことを言われたって、わたしには何も決められないわ。
馬鹿みたいな台詞を言って、不敵に笑ったアールの表情がちらり、頭の隅を横切ったけれど、私はそれには気付かないことにした。
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