学校の図書館の本棚の向こうに人気アイドルを養成する猫の学校があったのでココでご紹介します

太田ポーシャ

文字の大きさ
11 / 21

やさしい人を引き寄せてしまうオーラがある人

しおりを挟む
 
 ガチャ、ガチャン


 厳重にカギが閉められる荘厳な音が響いた。
 たぶんもう出られない。
 鍵の救急車でも無理だろう。

 

 マジで?…どうする?何をすればいいの?

 

 わたしは頭の中が真っ白だった。こんなに純白なのは初めて。透き通るようなシロが頭の中をおおう。


 ここに入ったら猫になるって言ってた、でも店に入っても自分の感覚では何も変わっていない。
 手を見ても、身体を見ても、頭を触ってみても、人間のときの私のままだ。
 さっきまで来ていた服を着ているし、一緒に入った生徒もさっきまでと同じように見える。

 

 何も変わっていない。

 

 だけど、、、変わっているらしい。

 

 

「わーー、カワイイ猫ちゃんがいっぱいきたーーー!」
「ヤバーい!マジかわいーーー」

 

 わたしたち8人が店内に入った途端、お客さんのほぼ全員が一斉にコッチに注目し、キュンキュンするような声を挙げた。

 他の猫の相手をしていた若い女性客も、わたしたちに夢中になって駆け寄ってくる。わたしは少しだけこわくなって後ずさりした。お客さんが巨大な恐竜に見える。わたしの目に見える姿はフツーの人間の形だけど、体験したことのない大きさに変わっていた。めちゃくちゃ異様で不思議で恐怖。逆ガリバー旅行記。

 

 え?コレって、わたし、猫になってる?
 目線の高さが床から15センチぐらいの猫になってる?

 

 おそらく、そうだ。わたしは猫になってしまった。猫が見る世界を、気持ちを、初めて味わった。

いつも街中で人間に出会っている野良猫や散歩中の犬は、知らない人間をこんな風に見上げ、何をされるか分からない恐怖を感じているのかもしれない。


 ちょっと後悔。懺悔の気持ちも芽生える。
 明日からは、無邪気に猫や犬に近寄らないようにしよう、そう思った。


 わたしにどんな明日が待っているか、わからないけど。。。

 

 

「キャーーーーか~~わいい~♡」
「あ、そっちの子もかわいいよ。写真撮っちゃお」

 

 猫によっては(この場合の『猫』とはさっきまで一緒に教室にいた同じ人間の生徒のことを指します)積極的にお客さんに近づいてきて、まさに猫がやるように足にスリスリしたり、中にはひざの上に乗って甘えている猫もいる(人間のことだけど)。

 

 いやいや、、、わたしにはできない、そんなあざといほどの甘え方なんて。。。
 それができないから今まで日常のすみっこの光の当たらない場所で暮らしてきたんだから。
 いきなりスポットライトを当てられても、心も体も追いつかない。

 

 わたしは、盛り上がっているお客さんの元を離れ、あまり人が近づかないトイレのそばへ逃げた。

 そこは暗くて陰気な場所。わたしは誰にもかまって欲しくないオーラを放ちながら。とにかくこの場から今すぐ逃げ出したいというストレスと戦いながら寝たフリをして時間が過ぎていくのを待とうとした。

 

「本物の猫よりも人気者になってください」
「人気者になっているような雰囲気で判断します」

 
 さっき先生が言った言葉が、ふと頭をよぎる。
 人気者かぁ、ムズイな。てゆーかわたしには無理だ。
 もう今の時点で他の子から2周半ぐらい差をつけられている気がする。
 こんなトイレのそばで隠れて座っている生徒なんかひとりもいないし。


 はぁ~、どうしよう。まあ、どうしようもないけど。

 

 猫カフェって、お客さんに気に入られてなんぼの世界。つまらなそうな態度をしていたら、とにかくイメージが悪い。お客さんだけでなく、店のスタッフにまで嫌われたら行き場を失ってしまうんだろうな。

 

 わかっている。


 それは分かっていたけど、そんなイキナリ自分のキャラを変えることなんて、無理!


 どうすればいいの?

 

 
【ひとりだけ隅っこにいる未玖にやさしくする後藤さんとの話】
 ~未玖にはなにかやさしい人をひきよせるオーラがあるらしい~

 

「あら、後藤さん、いつもありがとうございます」

「いやいや、こちらこそ。…あれ?今日、きなこちゃんは?」

「すいません、今日はきなこちゃんはお休みなんですよ。いつも来てくださってるのに、ごめんなさい」

「いやいや全然いいんですよ。ここに来るだけでわたしは癒されるんで。そんなに気をつかわなくても大丈夫ですから」

 そう言いながら、ちょっとだけ照れ笑いをし、後藤さんは頭をぽりぽりとかいた。

 

 わたしの耳に聞こえてきたのは、後藤さんという名の男性客とお店の女性スタッフの会話。
 後藤さんはよく見ると色白で透き通るようなキレイな肌をしている。
 お世辞を言えば40代に見えなくもない。
 でも、額から上の残念すぎる毛量が60代という本当の姿を表していた。

 

「後藤さん、平日にいらっしゃるなんて珍しいですね?今日はお仕事がお休みだったんですか?」

「今日はわたしの学校の創立記念日で休みなんですよ。われわれ教員は午前中の作業が終わればあとはお休み。だから、ふらっと寄ってみたんですけど…」

「学校の先生って大変ですよね。生徒は休みでも仕事があったりするから」

「まあ、教師はそうなんですけど、わたしのような教頭は何もやることがないですから。仕事が終わってしまえば用事もないですし、、、」

 

 そう言いながら後藤さんは店内を見渡した。きなこちゃんがいないとわかっていながらも探しているかのよう。何度も何度も確認してはさびしそうな顔を見せた。


 ちなみにきなこちゃんとは、この猫カフェの人気No.1の猫ちゃんらしい。店員さんと後藤さんとの会話を聞いていて、なんとなく素性がわかった。

 長毛フワフワでゴージャスで一目見ただけで恋い焦がれる、カワイイの具現化。猫を超越した魅力にあふれているらしい。
 世の中のカワイイをギュッと集めてふわっとさせたものが、きなこちゃんだとか。


 よく分からなかったけど、すごくかわいいということは分かった。

 

 わたしは遠くのトイレの前からしばらくの間、そんな2人の会話する姿を何気なく見ていた。すると、わたしの視線に気づいたのか、後藤さんはこちらを振り向いた。

 

「やばっ、目が合っちゃった…どうしよ?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

処理中です...