リタイア賢者の猫ファーストな余生

HAL

文字の大きさ
196 / 368

第百九十六話 強制的に最終形態

しおりを挟む
「ねえカズキ。時間が厳しいってどういう事? 魔界ここの空気は、僕たちには有害とか?」

 カズキの言葉に受けて走り出したクリスを見ながら、ラクトが不安そうな声色で問いかける。

「空気というよりは、この世界に漂う魔力がな。何の対策もしなければ、十分もいれば体が変質し始める。勇者を使って実験したから間違いない」
 
 サラッと人体実験した事を告白するカズキ。だが、誰からも非難の声は上がらなかった。何故なら、一部の例外(タゴサクと、その出身地の島の住人とか)を除けば、どいつもこいつもクズと呼ばれるような存在だからである。
 
「ええっ!? 大変じゃないか!」
「落ち着け、ラクト。ここに来てから、既に十分は過ぎている」
「あ、そっか。・・・・・・あれ? そうなると時間が厳しいのは別の理由?」

 驚愕の声を上げるラクトを、エストが宥める。それで我に返ったラクトは、当然の疑問をカズキにぶつけた。

「ああ。孤児院にいるルルの初産が近いんだ。具体的には、今から二時間後に陣痛が始まる」
『ルル?』
「そろそろだと思っていたけれど、今日だったのね。未来を視たの?」
「さっき突然見えた。・・・・・・結構な難産になりそうなんだ」
「それは心配ね・・・・・・。でも安心しなさい! 私も立ち会うわ!」
「私もお手伝いします!」
「ありがとう。二人がいれば安心だよ」
 
 『リントヴルム』そっちのけで、ルルの心配をするカズキとエルザ、フローネの三人。男性陣の疑問の声は、どうやら届いていないらしかった。

「ルルちゃんが心配ですね。難産ということは、逆子か、子供が少ないか、逆に多いか。色々原因はありますが・・・・・・」
「孤児院の子たちの健康は、エルザやフローネが定期的に見てるから問題はないわ。だとすると、マイネさんが今言った線が濃厚ね。幸い、ルルは家族の女の子と一緒にカズキに保護されたから、精神的にも安定している筈。それならば・・・・・・」
『(猫? ルルって猫の事!?)』

 マイネとソフィアの会話から、ルルが誰なのかを悟った男達は、揃って驚愕の表情を浮かべる。因みにだがドラゴンの二人? は、初めから話に加わらず、クリスと『リントヴルム』の戦いを注視していた。

「・・・・・・私達も彼らを見習おう。とはいえ、カズキが時間がないと言った以上は、決着はすぐそこだと思うが」

 ジュリアンの確信めいた言葉に、男たちが頷く。

「駄目だ。これ以上は待てない」

 そして、カズキがそう宣言したのは、それから一分後。まだクリスが道のりの半分も消化していない時だった。



「おいおいおい! まだ何もしてねーじゃねーか!」

 突然、カズキの魔力が膨れ上がった事を察したクリスが、文句を言いながら『リントヴルム』の上から飛び降りる。
 カズキの意に反してその場に留まれば、『リントヴルム』の巻き添えを食うのは明白だったからだ。

「少しは楽しめそうな相手だったのに!」

 クリスには予感があった。それは、『リントヴルム』が時間をかけて成長すれば、少なくともカズキの怒りに触れて消滅した、魔王よりも強くなるという予感である。
 
「カズキもエルザも、最近は全然戦ってあそんでくれねーし」

 邪神を倒す為の旅をしている時は良かったのだ。邪神の強さがわからない以上、訓練と称して戦うあそぶ事が出来たのだから。

「今回だって、どうせカズキの都合だろうし。偶には俺の都合に合わせてくれてもいいと思うんだよなぁ」

 カズキとエルザが戦って《あそんで》くれなくなって、半年以上。前回の魔王がお預けになったため、今回の『リントヴルム』には期待していたのだ。
 バトルジャンキーではないカズキやエルザには、理解し難い思考回路であり、実に迷惑な話である。

「二人とも冷てーよなぁ。いや、こうなったら戦って《あそんで》くれるまで付き纏うか? そうすれば根負けしていつかは・・・・・・」
 
 ストレスが高じて、危ない事を考え始めるクリス。だが、そんな彼の心の動きを読んでいたカズキは、後の面倒ごとストーカー行為を避ける為の生贄を用意していた。まあ、『リントヴルム』なのだが。
 カズキは『リントヴルム』が今行っている、”魔界の魔力で膨れ上がった余分な体を排除する事”と、”悪魔の能力を完璧に制御する事”を手助けする事で、クリスの遊び相手に仕立て上げようと画策していたのだ。

『人間! お前は何をやっている!?』

 これに抗議の声を上げたのは、つい先程まで『リントヴルム』の封印に尽力していた、クロノスドラゴンのクロノである。カズキと同じように『時空魔法』を使える彼にだけは、不幸にもカズキがしようとしている事が理解できてしまったのだ。

『何故そんな事をする!? 世界を滅ぼすつもりか!』

 そう、それはクロノスドラゴンである彼にも行使する事の出来ない魔法である、『時間加速』。彼は、カズキがその魔法を使って、『リントヴルム』を最終形態に進化させようとしている事に気付いてしまったのだ。

「うるさい」

 だが、そんなクロノの問いかけに対する答えは、その一言と【スリープ】の魔法だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...