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第百九十六話 強制的に最終形態
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「ねえカズキ。時間が厳しいってどういう事? 魔界の空気は、僕たちには有害とか?」
カズキの言葉に受けて走り出したクリスを見ながら、ラクトが不安そうな声色で問いかける。
「空気というよりは、この世界に漂う魔力がな。何の対策もしなければ、十分もいれば体が変質し始める。勇者を使って実験したから間違いない」
サラッと人体実験した事を告白するカズキ。だが、誰からも非難の声は上がらなかった。何故なら、一部の例外(タゴサクと、その出身地の島の住人とか)を除けば、どいつもこいつもクズと呼ばれるような存在だからである。
「ええっ!? 大変じゃないか!」
「落ち着け、ラクト。ここに来てから、既に十分は過ぎている」
「あ、そっか。・・・・・・あれ? そうなると時間が厳しいのは別の理由?」
驚愕の声を上げるラクトを、エストが宥める。それで我に返ったラクトは、当然の疑問をカズキにぶつけた。
「ああ。孤児院にいるルルの初産が近いんだ。具体的には、今から二時間後に陣痛が始まる」
『ルル?』
「そろそろだと思っていたけれど、今日だったのね。未来を視たの?」
「さっき突然見えた。・・・・・・結構な難産になりそうなんだ」
「それは心配ね・・・・・・。でも安心しなさい! 私も立ち会うわ!」
「私もお手伝いします!」
「ありがとう。二人がいれば安心だよ」
『リントヴルム』そっちのけで、ルルの心配をするカズキとエルザ、フローネの三人。男性陣の疑問の声は、どうやら届いていないらしかった。
「ルルちゃんが心配ですね。難産ということは、逆子か、子供が少ないか、逆に多いか。色々原因はありますが・・・・・・」
「孤児院の子たちの健康は、エルザやフローネが定期的に見てるから問題はないわ。だとすると、マイネさんが今言った線が濃厚ね。幸い、ルルは家族の女の子と一緒にカズキに保護されたから、精神的にも安定している筈。それならば・・・・・・」
『(猫? ルルって猫の事!?)』
マイネとソフィアの会話から、ルルが誰なのかを悟った男達は、揃って驚愕の表情を浮かべる。因みにだがドラゴンの二人? は、初めから話に加わらず、クリスと『リントヴルム』の戦いを注視していた。
「・・・・・・私達も彼らを見習おう。とはいえ、カズキが時間がないと言った以上は、決着はすぐそこだと思うが」
ジュリアンの確信めいた言葉に、男たちが頷く。
「駄目だ。これ以上は待てない」
そして、カズキがそう宣言したのは、それから一分後。まだクリスが道のりの半分も消化していない時だった。
「おいおいおい! まだ何もしてねーじゃねーか!」
突然、カズキの魔力が膨れ上がった事を察したクリスが、文句を言いながら『リントヴルム』の上から飛び降りる。
カズキの意に反してその場に留まれば、『リントヴルム』の巻き添えを食うのは明白だったからだ。
「少しは楽しめそうな相手だったのに!」
クリスには予感があった。それは、『リントヴルム』が時間をかけて成長すれば、少なくともカズキの怒りに触れて消滅した、魔王よりも強くなるという予感である。
「カズキもエルザも、最近は全然戦ってくれねーし」
邪神を倒す為の旅をしている時は良かったのだ。邪神の強さがわからない以上、訓練と称して戦う事が出来たのだから。
「今回だって、どうせカズキの都合だろうし。偶には俺の都合に合わせてくれてもいいと思うんだよなぁ」
カズキとエルザが戦って《あそんで》くれなくなって、半年以上。前回の魔王がお預けになったため、今回の『リントヴルム』には期待していたのだ。
バトルジャンキーではないカズキやエルザには、理解し難い思考回路であり、実に迷惑な話である。
「二人とも冷てーよなぁ。いや、こうなったら戦って《あそんで》くれるまで付き纏うか? そうすれば根負けしていつかは・・・・・・」
ストレスが高じて、危ない事を考え始めるクリス。だが、そんな彼の心の動きを読んでいたカズキは、後の面倒ごとを避ける為の生贄を用意していた。まあ、『リントヴルム』なのだが。
カズキは『リントヴルム』が今行っている、”魔界の魔力で膨れ上がった余分な体を排除する事”と、”悪魔の能力を完璧に制御する事”を手助けする事で、クリスの遊び相手に仕立て上げようと画策していたのだ。
『人間! お前は何をやっている!?』
これに抗議の声を上げたのは、つい先程まで『リントヴルム』の封印に尽力していた、クロノスドラゴンのクロノである。カズキと同じように『時空魔法』を使える彼にだけは、不幸にもカズキがしようとしている事が理解できてしまったのだ。
『何故そんな事をする!? 世界を滅ぼすつもりか!』
そう、それはクロノスドラゴンである彼にも行使する事の出来ない魔法である、『時間加速』。彼は、カズキがその魔法を使って、『リントヴルム』を最終形態に進化させようとしている事に気付いてしまったのだ。
「うるさい」
だが、そんなクロノの問いかけに対する答えは、その一言と【スリープ】の魔法だった。
カズキの言葉に受けて走り出したクリスを見ながら、ラクトが不安そうな声色で問いかける。
「空気というよりは、この世界に漂う魔力がな。何の対策もしなければ、十分もいれば体が変質し始める。勇者を使って実験したから間違いない」
サラッと人体実験した事を告白するカズキ。だが、誰からも非難の声は上がらなかった。何故なら、一部の例外(タゴサクと、その出身地の島の住人とか)を除けば、どいつもこいつもクズと呼ばれるような存在だからである。
「ええっ!? 大変じゃないか!」
「落ち着け、ラクト。ここに来てから、既に十分は過ぎている」
「あ、そっか。・・・・・・あれ? そうなると時間が厳しいのは別の理由?」
驚愕の声を上げるラクトを、エストが宥める。それで我に返ったラクトは、当然の疑問をカズキにぶつけた。
「ああ。孤児院にいるルルの初産が近いんだ。具体的には、今から二時間後に陣痛が始まる」
『ルル?』
「そろそろだと思っていたけれど、今日だったのね。未来を視たの?」
「さっき突然見えた。・・・・・・結構な難産になりそうなんだ」
「それは心配ね・・・・・・。でも安心しなさい! 私も立ち会うわ!」
「私もお手伝いします!」
「ありがとう。二人がいれば安心だよ」
『リントヴルム』そっちのけで、ルルの心配をするカズキとエルザ、フローネの三人。男性陣の疑問の声は、どうやら届いていないらしかった。
「ルルちゃんが心配ですね。難産ということは、逆子か、子供が少ないか、逆に多いか。色々原因はありますが・・・・・・」
「孤児院の子たちの健康は、エルザやフローネが定期的に見てるから問題はないわ。だとすると、マイネさんが今言った線が濃厚ね。幸い、ルルは家族の女の子と一緒にカズキに保護されたから、精神的にも安定している筈。それならば・・・・・・」
『(猫? ルルって猫の事!?)』
マイネとソフィアの会話から、ルルが誰なのかを悟った男達は、揃って驚愕の表情を浮かべる。因みにだがドラゴンの二人? は、初めから話に加わらず、クリスと『リントヴルム』の戦いを注視していた。
「・・・・・・私達も彼らを見習おう。とはいえ、カズキが時間がないと言った以上は、決着はすぐそこだと思うが」
ジュリアンの確信めいた言葉に、男たちが頷く。
「駄目だ。これ以上は待てない」
そして、カズキがそう宣言したのは、それから一分後。まだクリスが道のりの半分も消化していない時だった。
「おいおいおい! まだ何もしてねーじゃねーか!」
突然、カズキの魔力が膨れ上がった事を察したクリスが、文句を言いながら『リントヴルム』の上から飛び降りる。
カズキの意に反してその場に留まれば、『リントヴルム』の巻き添えを食うのは明白だったからだ。
「少しは楽しめそうな相手だったのに!」
クリスには予感があった。それは、『リントヴルム』が時間をかけて成長すれば、少なくともカズキの怒りに触れて消滅した、魔王よりも強くなるという予感である。
「カズキもエルザも、最近は全然戦ってくれねーし」
邪神を倒す為の旅をしている時は良かったのだ。邪神の強さがわからない以上、訓練と称して戦う事が出来たのだから。
「今回だって、どうせカズキの都合だろうし。偶には俺の都合に合わせてくれてもいいと思うんだよなぁ」
カズキとエルザが戦って《あそんで》くれなくなって、半年以上。前回の魔王がお預けになったため、今回の『リントヴルム』には期待していたのだ。
バトルジャンキーではないカズキやエルザには、理解し難い思考回路であり、実に迷惑な話である。
「二人とも冷てーよなぁ。いや、こうなったら戦って《あそんで》くれるまで付き纏うか? そうすれば根負けしていつかは・・・・・・」
ストレスが高じて、危ない事を考え始めるクリス。だが、そんな彼の心の動きを読んでいたカズキは、後の面倒ごとを避ける為の生贄を用意していた。まあ、『リントヴルム』なのだが。
カズキは『リントヴルム』が今行っている、”魔界の魔力で膨れ上がった余分な体を排除する事”と、”悪魔の能力を完璧に制御する事”を手助けする事で、クリスの遊び相手に仕立て上げようと画策していたのだ。
『人間! お前は何をやっている!?』
これに抗議の声を上げたのは、つい先程まで『リントヴルム』の封印に尽力していた、クロノスドラゴンのクロノである。カズキと同じように『時空魔法』を使える彼にだけは、不幸にもカズキがしようとしている事が理解できてしまったのだ。
『何故そんな事をする!? 世界を滅ぼすつもりか!』
そう、それはクロノスドラゴンである彼にも行使する事の出来ない魔法である、『時間加速』。彼は、カズキがその魔法を使って、『リントヴルム』を最終形態に進化させようとしている事に気付いてしまったのだ。
「うるさい」
だが、そんなクロノの問いかけに対する答えは、その一言と【スリープ】の魔法だった。
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