瑠菜の生活日記

黒岩 姫

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幽霊みたいなお客さん

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 『水……水を……、あつ……い……助け……』
 『こんにちは、お嬢さん。』
 『モーしもーし。』
 『うーらーめーしーやぁー。っ……あはははっ。』
 『こんにちは。』
 『助けてくれ。』
 「……っ、うるっさい!」

 瑠菜は無視しきれなくなり大声をあげた。
 資料を運んでいたサクラはびっくりしてしまい、持っていた資料を床にバサバサと落としてしまった。

 「ごめんなさい……。」
 「違う。ごめん、違うから。」

 消え入りそうな声で謝るサクラに、瑠菜は焦って謝った。

 「声まで聞こえちまうと大変そうだな。」
 「あ、また?すごいね。今日はよくしゃべるなって思ってたら。瑠菜がひきつけてるのか。」

 あきは幽霊の姿は見えないが、声だけは聞くことができる。
    笑いながら瑠菜を見ている。楓李はずっと見えていたため笑っていた。

 「あ、静かになった。」
 「瑠菜が叫んで全員逃げたからな。」
 「良かったぁ。払うの面倒だったんだよね。」
 「瑠菜が怒るとお化けも逃げるからな。」
 「お化け?」

 笑いながら話す楓李とあきの話の内容がずっとわからなかったサクラは、やっとわかってすごくうれしそうに言った。
   どうやら、怪談話が好きらしい。

 「お化けって本当にいるんですか?」
 「いなければうれしい、とでも言えばいい?」

 瑠菜はこめかみをピクピクさせながら、サクラに言い返した。

 「いるよ。俺らは一応払い方も教えてもらってるし。」
 「すごいです!どんな感じなんですか?私も見たいです。」
 「そうだなぁ。感じ方にもよるけど、俺は声が聞こえるだけ。楓李は触れて見えるだけ。雪紀さんは触ると見えて声が聞こえるタイプ。で、瑠菜は見えて聞こえて触れるタイプ。」

 瑠菜はムスッとしながらあきとサクラの会話を無視した。
   サクラはそれを聞いてさらにうれしそうにしている。

 「見えるって、……どんなのがいるんですか?」
 「さぁ?見えたことないし。楓李、どんなのがいる?」

 あきはサクラの目の輝きを見て楓李に話を振った。
   瑠菜にこの手の話をすると、にらまれるだけじゃなく殺されてしまいそうだ。

 「どんなって……、瑠菜どんなのがいた?」
 「は?」

 案の定、楓李が瑠菜に聞くと瑠菜は機嫌悪そうに言った。

 「俺パソコン見てて、いることにも気づかなかったし。」

 声の聞こえない楓李にとって、霊の存在を確認する手段は見るしかない。
   なので、楓李は気づかないことが多いのだ。

 「……私も見てないわ。見てたらついてくるし。」
 「ついてくるんですか?」
 「呪われるわよ?やめなさい。」

 キャッキャとはしゃいでいるサクラに、瑠菜はあきれて言った。
   サクラが不思議そうな顔をしていると、あきが笑いながら言った。

 「大丈夫、なかなか呪われることなんかないから。瑠菜は霊感だけは強いんだ。調子がいい日は生きている人間と死んでいる人間の区別すらできないし、悪いときは全く見えなくて、聞こえなくて触れられないけどね。」
 「逆よ。調子のいい日は見えなくて、悪いときは見えるの。」
 「見えてない日の体調は悪そうだけど。」

 瑠菜はあきの言葉を訂正してまた仕事に戻り、あきのことはその後ずっと無視を貫き通した。

 「お……、お邪魔……しまー……す……。」
 「ギャー!出たぁー!」

 急にガチャリと扉が開き、消えそうなくらい低く小さい声が響くと、サクラは両手をあげて悲鳴を上げた。
   そんなサクラの口をあきは手で押さえて落ち着かせようとしている。

 「ゴキブリもういないよ。サクラ。大きなゴキブリもういない。大丈夫だから落ち着いて。」

 あきは笑いながらそう言うと、サクラを連れて奥の部屋へと入っていった。
 サクラが叫ぶのも無理はない。
   自信なさげなその女性は、上から下までびしょぬれな上に白い服を着ていて姿勢も悪いからか、一見幽霊のように見える。

 「あれ?雨でも降っていましたか?あ、かえ、タオル持ってきて。」
 「あぁ。」

 瑠菜に頼まれて、楓李が奥の棚からタオルを持ってくると、女性は何やらぶつぶつと言いながらそれを受け取った。
   よくは聞こえなかったが、お礼を言ったのだろう。

 「今日はどういたしましたか?」
 「あの……商店街の……人に……水をかけられて……しま……」
 「あ。そうだったんですね。それで、ご依頼などは?」
 「あぁ、すみませ……あ……えっと……。」
 「別にタオルを借りに来ただけでも構いません。依頼があっても、なくてもこちらとしては助かります。」
 「いや……、その……」

 女性を早く追い返したいのか、瑠菜は女性の言葉をゆっくりとは聞かずにサッサと言葉を返す。
    仕事の途中だったからだろう。
    ゆっくりとしていたら瑠菜の仕事が終わらずに困ってしまう。
 しかし、女性はそういってうつむくばかりで依頼があるとも、ないとも言わなかった。

(何かあるんだろうなぁ……。)

 瑠菜は今までの経験からそう思った。

 「サクラ。お茶とお菓子持ってきて。」
 「はい!」

 部屋の奥にいるサクラへ大きな声で瑠菜がそう言うと、サクラは嬉しそうに奥の部屋から出てきた。
 仕事の合間にお客が来ると、サクラにとってはお菓子が出てくる休憩になるので、いつもサクラは嬉しそうにお菓子とお茶を運んでくるのだ。
    今回も三人分のお茶とお菓子を大量にもってきた。

 「いえ、そんな……」
 「何かこのあと御用事でも?」
 「いや、それは……ない……です……け……ど……」
 「じゃあ、時間が許す限りは、世間話でもしましょう。」

 瑠菜が明るく楽しそうに言ったからか、はたまた瑠菜の隣でおいしそうにサクラがお菓子を食べているからか、どちらがそうさせたかはわからないが、女性はゆっくり頷いた。

   お菓子をつまみながら三人は二十分前後世間話をした。 
   最初は天気の話題を瑠菜から持ち掛けて、そのあとも何度かは瑠菜から簡単かつどんな人間でも分け隔てなく話せるような話題を振った。
   すると、サクラもだんだん慣れてきて話題を振り始めた。
    女性も瑠菜とサクラの話題に乗るようになり笑顔も増えた。

 「それで?今日はどんなご依頼でこちらへ?」
 「あっ。」

 瑠菜は女性が多少は心を開いていると思うくらい、女性の口数や笑顔が増えてから本題に入った。

 「すみません。私ったら……。」
 「いいんですよ。私も楽しんじゃっていて、すみません。」

 座ったまま言う女性に合わせてサクラも座ったまま頭を下げた。

 「まずはお名前と依頼の内容によっては電話番号もお書きください。」
 「この書類にですか?」
 「ゆっくり読みながら書いてもかまいません。依頼の内容と名前だけ書かれて行かれるお客様も多いですし、これからも何かあったら相談に来たいと思われる方は細かく書かれて行かれたりと、人によって書き方は様々ですから。」

 瑠菜はそういって書類とペンを女性の目の前に置いた。
 書類には名前や生年月日、住所などの個人情報から、自分の性格や癖などを書く欄があり、一番下のほうに依頼の内容と訪れた回数を書く欄があった。

   もともとコムが作ったものなので瑠菜はいらないと思う欄も多い。
   例えば好きなお菓子や飲み物を訪ねる欄は直接聞けばよいと思う。
 ちなみに言うと、コムも瑠菜と同じで好きなところだけ書いてくださいといつも言っていた。

(ここまでオープンな人も珍しいなぁ。)

 瑠菜がちらりと女性の書いている内容を見ると、女性は一つ一つ真剣な感じですべてを書き込んでいた。
   瑠菜はそう思いながら名前の欄を見た。      まだ途中とはいえ、きれいで丁寧な文字と文だ。

 「真保子さんですか?」
 「読みにくいでしょう?主人はいつもまおこって……。」
 「いえ。素敵な名前です。ご主人がいらっしゃるのですか?」
 「えぇ。その……、主人のことで……ちょっ……と。」
 「ご主人ですか……。今日、ご本人は?」
 「仕事です。会社員なので、七時には帰るはずです。」
 「そうですか。あ……、すみません。書いてる途中でしたね。どうぞ、続けてください。」

 瑠菜は少し考えてからそう言った。

(浮気調査とかって苦手なんだよなぁ……。)

 瑠菜がそんなことを考えていると、楓李が瑠菜の頭をファイルでパンっとたたいた。

 「書き終わったってよ。」
 「あー!すみません。お預かりします。」

 楓李はそれだけ言って奥の部屋へと入っていくのを見もせずに、瑠菜は慌てて書類を受け取った。

 「彼氏さんですか?」
 「え?」

 真保子はクスッと笑ってから瑠菜にそう言った。

 「さ、さぁ?……どうでしょうね。」
 「どういうことですか?え?付き合ってたんですか?」

 サクラも驚きを隠せずに、瑠菜に追い打ちをかける。

 「カッコいい彼氏君ね。」
 「うらやましいです。」

 わざとらしい溜息と、ニヤニヤとした笑みをこぼしながら言う二人を見て瑠菜は少し顔が赤くなる。

 「か、彼氏じゃないです!」
 「あら。」

 瑠菜はそう叫んだ瞬間に背筋がぞくりとして氷のような冷たさを感じた。

 「へぇー。そうなんだ。」
 「か、かえ……。」
 「で、どうなの?付き合ってるの?彼氏君。」
 「どうなんですか?楓李兄さん。」

 楓李は興味津々に聞いてくる二人を見てにっこりと笑うと、そのまま瑠菜に抱き着いてこう言った。

 「僕の彼女はすごく恥ずかしがり屋なのであまりからかわないで置いてください。と、言いたいのですが、まだ彼女ではないですね。」

 楓李はそういって瑠菜から離れると、今度は外へ出て行った。

 「で、……どんなご依頼ですか?」
 「あ、あぁ……、実はね……ひ……人見知りを……治したいの。」

 瑠菜が咳払いをしてから言うと、真保子は顔を真っ赤にしてもじもじとしながら言った。

 「人見知りですか……。」
 「はい。夫のためにも、こんな風に……その……言葉が出なくなったり……するのをや……やめたくて……。」
 「ご主人はなんとおしゃっているのですか?」
 「夫は……その……そ……そのままでも良い、と。」
 「それならそのままでも良いのではないですか?」
 「いえ……。良く……ないです……。」

 真保子が下を向きながらそう言うと、瑠菜は何かあるんだろうなぁと思いながら資料のファイルを取りに行った。

 「そうですか……。では、一週間ほど、私と一緒に人見知りを治す訓練をしましょう。」
 「い……一週間……ですか?」
 「はい。一週間分、先払いで二万円です。それ以上時間がかかるようならば、期間は延ばしますがお金はもらいません。」
 「え?タダってことですか?」
 「二万円、最初に払っていただければ延長は無料です。」

 瑠菜がそう言い切ると、真保子は不安と安心の二つの表情を見せた。
   二万円で住んでよかったという安心とたった一週間で治るのかという不安。

 「もし不安があれば、どうぞおかえりください。私は生きる気力とやる気のある方を助けます。死にたいという気持ちや不安があるのであれば、私の相手をしているうちにその気持ちは強くなっていくことでしょうから。病気も、怪我も治すなら楽しくできたほうがよいでしょう。」

 瑠菜がにっこりと不気味ともいえる笑顔を真保子に見せると、サクラは少し恐怖を感じた。

 「やめるなら今ですよ。先払いで、後からは返せないので。」
 「や……やめません!」

 真保子のその言葉に瑠菜は少しびっくりしたが、やると宣言した人を止める理由など瑠菜にはない。

 「わかりました。では、また明日。」
 「は、はい!が、がが……頑張ります。」











 真保子が帰ったのは瑠菜が書類を受け取ってから三十分ほどたってからだった。
   瑠菜は、書類を確認している間に帰ってもいいと言ったのだが、真保子はサクラとしゃべっていた。

 「もし子供がいたら、すごく楽しかったでしょうね。」
 「私も、お母さんがいたらこんな感じだったのでしょうか。」

 真保子とサクラはお互いにこんなことを言っている。
 書類に目を通す限り真保子はまだ十九歳。見た目は落ち着いて色の服や奇抜ではない髪形をしているため、そこまで若くは見えないがそれらを変えれば本当に若く見えるだろう。

(十九歳で子供と夫……。)

 世の中にはいろいろな人がいて生き方もいろいろ妥当のは聞いたことがあっても、真保子の生き方は特殊だと瑠菜は思った。
 真保子が帰った後、瑠菜はサクラに声をかけた。

 「サクラ。真保子さんの旦那さんってどんな人かわかる?」
 「あー。十個くらい年上でいつも自分の面倒を見てくれる人らしいです。確か、高校の教師をしている方らしくて、いじめられていた真保子さんを助けてくれたって言ってましたよ。」
 「そう……。」

 サクラはいつ話したのか、瑠菜が知らないことを知っていた。
   瑠菜は少し少し引っかかる部分があったが、考えることを放棄した。
    変に他人のことを知りたくはないし、それに巻き込まれたくはないというのが瑠菜の本音だ。

 「サクラは暗くなる前に帰りなさい。」
 「え?でも、仕事終わってませんよ?」
 「私がやるわ。子供はもう帰る時間でしょう。」
 「こ、子ども扱いしないでください。」

 サクラはぶつぶつと瑠菜に文句を言いながらも、自分のバッグに物を詰めて帰る準備を始めている。

 瑠菜はサクラが帰った後、お皿を洗って書類の整理をした。
   そんな中で瑠菜は、コムがやっていたs型を見ている自分の姿を思い出した。

(依頼人を信じすぎない。疑問に思ったなら、整理してしっかり調べる。)

 昔コムに言われたことを思い出しながら瑠菜はパソコンを開いた。
 会社では行方不明者の捜索もしているため、その情報の書いてあるサイトをパソコンで開くことができる。
   それを開くためには七つの暗証番号があり、それぞれ五桁の数字を撃ち込まなければならない。 
   もちろん、サクラにも教えてはあるが覚えていないだろうと瑠菜は思っている。
   行方不明者の名前とそれに対する「見た。」や「この人かな?」というコメントがびっしりと画面に映る。
   コムの名前も載ってはいるが誰も見つけてはいないらしく、コメントが一つもついていない。

 「いないかぁ……。どこ行ったのよ……。」

 楓李も、あきもいないので、瑠菜は思ったことを堂々と口に出した。

 「下谷沙耶、塚本紀伊佳、田中信、……加賀谷まおこ……。」

 瑠菜はまおこというひらがなで書かれたその名前を見て固まってしまった。
   その名前ですぐに検索をしてみると、約十九年前、生まれたばかりの赤ちゃんが連れ去られた事件が一番上に出てきた。
   犯人はまだ捕まっていない。
   母親の不注意が原因、など。

 瑠菜はそれを見ただけでも少し思う部分が多かった。
   しかし、深入りしても面倒なことになるだけだし、助かったことに今回の依頼はただ人見知りを治すだけだ。
 瑠菜はそう思った瞬間にパソコンを閉じて窓を開けた。

 「……雨が降ってきそう。……今日は泊って行こうかな。」

 外はもう暗くなっていて、ゴロゴロと不気味な音が響いている。
 瑠菜は明るい声で嬉しそうにそう言った。
 なぜうれしそうなのかというと、楓李に対して昼間に彼氏じゃないと言い張ったため会いたくなかったのだ。
   見なくてもとても怒っていることがわかる。
   怒っている楓李には近づかないほうがよい。
   というわけで瑠菜は帰りたくなかった。
   喧嘩をするほどお互いに子供ではないが、ほかの問題があるのだ。

 「るーな―?」

 瑠菜は急に呼ばれて肩を跳ね上がらせた。

 「か……かえ……。」

 そこにはニッコリとこちらを見ている楓李と心配そうな表情を隠しきれないサクラが立っていた。

 「雨降りそうだったから迎えに来たけどここに泊まるんだったら俺も一緒に泊まってやるよ。」
 「え?あ……私も!」

 瑠菜の言葉をいつから聞いていたのか、楓李とサクラは一緒に泊まると言い出した。

 「い、いやいや。迎えに来てもらったなら帰……」
 「泊ってもいいんじゃね?思ったより外も暗くて危ねぇし。」

 楓李は笑顔を崩すことなく、逃げようとする瑠菜の手をつかんだ。
   どうやらここにいたほうが瑠菜にとって不利だったらしい。
    楓李の表情の裏にある逃がさないという意思を感じる。

 「お泊りパーティーしたいです!」
 「パーティーか。いいな。夜通しよう。」
 「い……いや……その……う。」

 瑠菜はそのまま断ることができず、そのまま三人で泊まることになった。

   パーティーという言葉に二つ意味があり、楽しめる人と楽しめない人がいてもおかしくはないということを、瑠菜は初めて知った。








 「寝たな。」
 「寝ないでほしかったなぁ。」

 サクラはこの三人の中で誰よりもはしゃいでいた割に、すぐにぐっすりと寝てしまった。
 最初はカードゲームやボードゲームをしていたが、少しご飯を食べるとそのままソファーで横になって寝てしまった。

 「んじゃ、瑠菜。少し話し合おうか。」
 「アハハ……、こ、言葉でね。」

 瑠菜はそう言いながら奥にある部屋の、小さな台にコップをそっと置いた。

 「真保子さん……今日来てたお客さんについてちょっと相談があるの。」
 「あぁ……あの人か。」

 瑠菜は先ほど調べたことについてすべて話した。
   楓李もうなずきながら瑠菜の話を聞いている。

 「……それが、本人かどうかはわからないが、もし本人ならば犯人は夫だな。」
 「旦那さんは真保子さんのことをまおこって呼ぶらしいの。……だから引っかかっちゃって。」
 「どちらにしろ、断らないほうがいいな。とりあえずサクラにはこの件に関しては関わらせないようにしよう。そんで、俺かあきが一緒にいればいいだろ。」
 「でも、あきは明日からまた大きな仕事入ったって言ってたし。楓李もそんなに暇じゃないでしょう?」
 「俺は別に大丈夫だけど……雪紀さんには、このことはもう行ったのか?」
 「いや、まだ……。心配かけちゃうし。」

 瑠菜は黙ってしまった。
 もう少し調べていたらもっと自信を持てるだろうし、危険ならサクラを近づけないことだってできた。

   犯罪者と、被害者にはあまり関わるなとも言われている瑠菜は、自分がかかわる分には良いがサクラも関わるのはどうかと思う。
   できるだけサクラを危険な目に会わせたくないというのが本音だ。

 「まぁ、まだそうだと決まったわけじゃないし。大丈夫だろう。」

 楓李は瑠菜の頭を軽くなでながら言った。
 瑠菜の様子から悩みこんでいると思ったのだ。

 「かえ……サクラのことお願いしてもいい?」
 「別にいいけど……って、二人っきりで会うつもりか?」
 「その方が安全でしょう?彼女の依頼は人見知りを治すこと。たぶん……いや、きっと自信をつければいいと思うの。」
 「……、元人見知りに言われると確かにと思っちゃうな。」
 「は、はぁ?バカにしないでよ!」

 楓李が一生懸命声を殺すように笑う。
   瑠菜はそれを見て頬を膨らませながら怒った。

 「まぁ、瑠菜がやりたいようにやれよ。ただし、何かあったら絶対呼ぶこと。いいな?」

 楓李はいつものヤンキー交じりの怖い顔とは違い、優しく微笑んで言った。
 多少イケメンに体勢がある瑠菜でさえもこの顔には少し顔を赤く染める。

(恐ろしい。破壊力の塊じゃん。このまま外に出たら、街は絶対パニックになるんだろうなぁ。)

 瑠菜はそう思いながら楓李の胸に顔をうずめて、楓李に顔を見られないように隠した。
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