瑠菜の生活日記

黒岩 姫

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行き場のない子供たち

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 「いつもより、すんごく忙しそうですね……。」
 「人が死んでんだからな。」
 「え?誰が死んだんですか?」

 龍子とあき、サクラが朝起きるといつも以上に雪紀やきぃちゃんが動いていた。
 真っ黒い服の準備をしているらしい。
 サクラは買い物袋をストンと落として目を丸くした。

 (まさか……。)
 「あら、三人とも帰ってたの?ごめんね、バタバタしちゃって。」
 「誰が死んっ……。」
 「どなたかお亡くなりになられたのですか?」

 龍子はサクラの口をふさいできぃちゃんに丁寧に聞いた。

 「そう……えっと、この前主会議でリナを叱った人よ。急だったからバタバタしちゃって……あ、こういう準備はしていることもおかしいわね。」

 きぃちゃんは相当疲れているらしく一人で何やらぶつぶつ言いながらまた準備をやり始めた。

 「あの人が……?」
 「えぇ……。」
 「お前らなぁ。」

 あからさまにいやな顔をするサクラやリナを見て龍子は頭を抱えた。

 龍子自身もこの前の瑠菜やリナへの対応を見ていていいイメージはなかったが、失礼にならないようにしないといけないと楓李から教わっているためそんな顔はできない。
   少なくとも自分より上の位であるからには、何も言わずに関わらないことが一番大切だと言われている。

 「悪い、今帰った。」
 「ただいま。」

 そうこうしているうちに楓李と瑠菜が家に帰ってきた。
 楓李はともかく、瑠菜はとても眠そうにあくびをしている。

 「瑠菜さん!」
 「良かったなぁ、サクラ。」
 「ちょっと、サクラだけずるい。僕も。おかえりなさい、瑠菜。」
 「リナも瑠菜のこと大好きなんだな。」

 瑠菜は抱きついてくる二人の頭をなでながらニッコリとほほ笑んだ。

 「サクラ、メッセージありがとう。すごくうれしかった。」
 「い、いえ。あんなの……全然。」
 「心配かけてごめんね。」

 瑠菜にとってサクラは初めての弟子も同然だ。
 自分を慕ってくれて、自分について来てくれる。
   それだけでとてもうれしいのだ。

 記憶をなくした瑠菜は日記でサクラの存在を知った。
   その時は少し笑ってしまったが、もう一度サクラからのメッセージを見て心配させてしまったという申し訳ない気持ちになった。

 「さっさと着替えていくぞ。」
 「了解。リナはかえの所に行ってね。」
 「えー?」
 「……変態。」
 「うっ……。わかった。」

 サクラからにらまれたからか、リナは最初は嫌がったもののすぐに楓李の横に行った。
 リナは瑠菜から離れたくなかったが、着替えなら仕方ないと思ったのだ。

 数分後、全員がリビングへと集まった時、サクラは異様な雰囲気を感じた。
 男性らの服装は葬式でよく見るようなもので普通だ。 
   しかし、女性の方は少し違った。
 真っ暗な炭のような色のワンピースは本当の意味で肌が見えない。
   普通はレースなどで少しは肌がすけていたりもするが、それすらも全くない。
   そして、真黒な帽子もかぶっているのだ。布がまかれた帽子は、外からは全く表情が見えない。
   中からは少しだけ見えるとはいえ、見えにくくてもうすでに転んでしまいそうだ。
 葬儀場に向かう時にはそれもあってか、サクラと瑠菜の横をきぃちゃんが歩いた。

 「リナか龍子に手を引いてもらうのと、絶対に私より前に出ないこと。いいわね?」
 「なんか、宗教みたいですね。」
 「相当昔には宗教まがいのこともしていたらしいわよ。悪魔や、狼男、吸血鬼とか魔法使いと一緒に暮らすとか。」
 「はぁ……。」
 「きぃ姉、なんか詳しいね。」
 「それをやめさせたのは雪紀だからね。」

 淡々と説明するきぃちゃんに瑠菜が言うと、サクラは瑠菜の服を握った。
 表情は見えないが地味に震えているのがわかる。

 「何?サクラちゃん、怖いの?」
 「怖くなんかないです!そんなのいるわけないですもん。」
 「それはどうかしらね。ここら辺、悪魔が来たって噂もあるし、今もどこかで人間に紛れているかもしれないわよ?」

 怖がるサクラをさらに怖がらせようときぃちゃんは声のトーンを落として話す。
 瑠菜は抱きついているサクラをなでて落ち着かせる。

 「私たちはここまでね。」
 「え?中には入らないんですか?」

 自分たちと同じ格好をした泣いている女性たちを見ながらサクラは聞いた。
 サクラもさすがにいずらさを感じるらしい。

 「えぇ、雪紀たちが呼びに来るまではここに待機ね。女が他人の男に泣いてる姿を見せるのはあまりいいことじゃないの。」
 「私、泣かないです。」
 「周りに泣いてる人がいたら、その人たちを励ますのが私たちよ。」

 瑠菜はそう言って一人でうずくまっている女の子のもとへと向かう。
 きぃちゃんも他の女の子の所へ行ったので、サクラは仕方なく泣いている女の子のもとへと向かう。

 「だ、大丈夫ですか?」
 「はいっ……。すみませんっ……。」

 見た目や声からして小学生。しかも、高学年というより低学年くらいに感じる。

 「弟子の子?」
 「……はい。」
 「そう……頑張ってね。」
 「ありがとうございます。」
 「瑠菜?」

 瑠菜が女の子に手を振ると、楓李が入り口で叫んでいた。

 「はーい。サクラ行くよ。」
 「あ……、ま、待ってください。」
 「いや……。もう少……。」
 「あ、でも……。」
 「行きなさい。私が一緒にいるから。」
 「え?あ、はい。」

 サクラは女の人にそう言われて立ち上がった。
 すごくきれいな顔だが、髪の色がとても派手だ。
   ピンク色の髪をポニーに結んでいて、年は雪紀さんと同じくらいに見える。

(あれ?この人、帽子……。)
 「サクラ!行くよ。もう、何やってんの?」
 「わぁ!ご、ごめんなさい。」
 「……あなた……。」
 「お兄さんには内緒にしててね?」
 「リンリ!やっと見つけた。」
 「ここにいたんだ。」
 「あらま、迎えが来ちゃった。瑠菜ちゃん。さっきの約束。破らないでね。」

 女の人は人差し指を自分の口に当ててウインクをしながらそう言った。
 瑠菜は一礼して何も言わずにサクラの手を引っ張っていく。
 サクラも瑠菜にされるがままに歩く。

 「あれ?きぃ姉さんは?」
 「一人の男につき一人の女しかくっついていけないのよ。」

 サクラが周りを見ると、きぃちゃんの横にはケイがいて、きぃちゃんはもじもじとしながらケイについて行っている。

 「サクラ?」
 「り、龍子君……?」
 「ちょっ!」

 楓李よりも少し背が低い龍子は、最初サクラからは見えていなかった。
 瑠菜がサクラの手を龍子の手へと近づけると、二人は瑠菜と楓李の顔を交互に見る。

 「龍子君、サクラをよろしくね。」
 「え?何でですか?何で龍子君と。」
 「男一人につき、女は一人。私はかえと行くから。」

 龍子はサクラの手を何も考えずに握ってしまっていたが、それに気づいた瞬間顔を真っ赤にしながら振り払った。
   サクラも龍子と同じで少し頬を赤くしていた。

 中に入ると、外へ迎えに来てもらった者や弟子、見習いの泣き声が響いていた。
 棺にしがみついている者や腰を抜かしたのか、端の方で座っているものなどもいた。

(そこまでいい人じゃないと思っていたけど……こんなに悲しむ人が。) 

 サクラはそんなことを考えてから首を横に振った。
 そんなことを思ってはいけないということくらいは、いくらサクラでもわかる。

 「お願いします。この子たちだけでも……お願いします。」
 「瑠菜さん、あの子さっきの子では?」
 「ん?」

 しっかり線香をあげ、もう帰ろうかと話している瑠菜と楓李の後ろからサクラは声をかけた。
 見ると、葬儀場へ入る主っぽい人全員に声をかけているようだ。
 顔も見えないし、服装も他の参列者と同じだが、声質で何となくそう思ったらしい。

 「知り合いか?」
 「さっき一人で泣いてたからサクラが声かけたのよ。ふーん、見習いねぇ。」
 「別にいらねぇだろ?弟子とは違って仕事も手伝わせられねぇし。」
 「一種の癒しにはなるわよ?」

 瑠菜はそう言って周りを見渡した。
 周囲の人も楓李と同じ考えらしく、目を合わせないようにしている。

 それどころか、先ほどまで泣いていたとは思えないほど涙は引っ込んでいるようにも見える。

 「師匠が死んでしまった弟子ってどうなるんですか?」
 「ん?……うーん。二つに分かれるわね。前者は師匠の跡を継ぐもの、後者はこの会社自体を辞めるもの。前者はもともと見習いとして一緒にいた子を自分の弟子にしたりするわね。」
 「じゃぁ、あれは……。」
 「ほかの師匠につくこともできなくはないけど、師匠を裏切る行為と同じだし来られた側も困るのよ。その師匠によって教え方も違うから。でも見習いならほかの師匠が育てたりすることもあるの。まだ未成年だったりするから誰かが面倒を見ないといけないしね。でも……。」
 「もし、誰も見習いを引き取らなかったらどうなるんですか?あのまま無視されたら。」
 「施設行きだな。そのままポイっと。」
 「え?」
 「そうねぇ。」

 瑠菜は楓李から言われて少し遠い目でつぶやいた。
 瑠菜も師匠が二人いたからよかったものの一人失っている。
 似たような場面になることも容易に想像できる。
 そうなったら、もし楓李や雪紀の助けがなければ生きることさえも諦めていた自信がある。

 「かえ、サクラをお願い。」
 「え?ちょ、瑠菜さん?」
 「……了解。」
 「えぇ!?」

 瑠菜には今見習いを育てるほどの余裕はない。
 金銭的というよりも精神的にだ。
 それでも、自分がどこまでやれるのか、いっそのこと自分が壊れるまで一度やって見たいと思っているのだ。
   あとは一握りの、この子たちへの好奇心。

 「私が育てましょう。」
 「……ありがとうございます。でも……この子たちは三つ子で、離れさせたくなくて……。」
 「三つ子?あら、かわいい。」

 少女の後ろからはもう二人が顔を出したとき、瑠菜は反射的にそう言ってしまった。

 「クゥ、リィ、スゥです。女の子で……。私は経済的にも位的にもこの子たちお弟子にはできなくて……お願いできますか?」
 「えぇ、私が面倒を見てあげる。」

 シーンと静まり返っている中に瑠菜の穏やかな声が響く。
 その瞬間、今まで無視を貫いていた者たちが、糸が切れたかのようにこそこそと話し出す。

 「誰?」
 「さぁ?」
 「良かった。」
 「偽善者でしょ。」
 「何?あれ。」

 こそこそとした声は少女と密後にも聞こえていたらしく、特に少女は申し訳なさと恐怖を感じて身を小さくした。

 「……おねぇちゃんは、誰?」
 「スゥ!何を言って……。」

 少女は三つ子の一人をすぐにしかりつけた。
 ここで相手の気を悪くすると本当に三つ子の将来はないと思ったのだろう。
 瑠菜に声をかけてきたのは少女の後ろへ隠れていた子だった。

 「スゥ……ちゃん?……そうだよね。まだお姉ちゃん自己紹介してないもんね。」

 瑠菜はそう言って帽子を取ってにっこりする。
 コソコソとしていた話し声が一瞬ぴたりと止まり、すぐに先ほどの数倍以上の声で全員が話し始めた。

(あーあ、お兄に怒られちゃうなぁ。目立つなって言われてたのに。)

 女性が葬儀場でこの帽子を取って顔を見せることは禁止されている。
 しかし、特別に帽子を取ってもいい者もいる。
 それは、会長とのつながりがある者。
 会長と顔を合わせる者は基本全てにおいて特別視される。
 もともと会長が人前に出ないからこそ成り立つものだ。

 「え?……あっ、も、申し訳ありませんでした!まさか瑠菜様がいらっしゃっているとは思わず……。」
 「アハッ。大丈夫、大丈夫。気にしてないから。別にため語でもいいし。」

 瑠菜は勢いよく土下座をした少女にそう言ってから三つ子たちに近づいてしゃがんだ。

 「おねぇちゃん、……この人、すごい人なの?」
 「えぇ、すごくすごい人よ。」
 「そんなことないよぉ。周りからしたら私は偽善者らしいし。人助けしただけなんだけどなぁ。」

 瑠菜は笑顔のまま周囲でコソコソと話をしていた人たちへにらみを利かせた。
 無視していようか最後まで悩んではいたが、一応声はかけてあげようと思ったらしい。

 「申し訳ありませんでした。本当に。」
 「大丈夫だって。まぁ、あの子たちの給料は下がってもおかしくないけど。」
 「ひぃ!」

 瑠菜が言うと、何人かが悲鳴のような声を出した。
 雪紀に頼めばやめさせることもできるが、瑠菜だけでもできることを一応手札としてちらつかせる。

 (これだけ言えば、邪魔はしてこないかな。)
 「私は瑠菜。私と一緒に来て、私の手伝いをしてもらってもいいかしら?」

 瑠菜がそう言うと、三つ子は少し迷ったようにそれぞれ顔を見合わせた。

 「うん、私はスゥ。よろしくお願いします。」
 「しょうがないなぁ!クゥはクゥだ。」

 スゥとクゥが差し出された瑠菜の手の指をつかむ。
 二人には瑠菜の小さな手でさえも大きいらしい。

 「リィちゃん……かな?どうする?私と来る?別に無理やりは連れて行かないけど。」

 瑠菜は少女の後ろに隠れて出てこないもう一人の子を呼んだが、リィは少女の服をつかんで離れたくないという意思を見せた。

 「リィ、行こうよ。」
 「リィはまた泣いて。行くぞ、リィ。」
 「リィ、行きなさい。」

 スゥとクゥ、少女に言われてリィは首を勢いよく横に振った。

 「おねぇちゃん……がいい……。」
 「リィ……。」

 その一言で少女は困ってしまった。
 リィのその言葉を聞き入れてリィをそばに置くなら、ほか二人だってついてくるだろう。

 しかし、自分の明日すらわからない少女がチビッ子を三人も引き連れるのは少し無理がある。

 「リィちゃん、おねぇちゃんのこと大好きなんだね。」
 「……。」

 あきだった。
 あきはリィに声をかけた後、少女の耳元まで近づく。

 「おねぇちゃん、しっかり言わないといけない時もあるんだよ。たまには嫌われる努力も必要。自分と、相手を守るためにね。」
 「嫌われる努力……。」
 「あき、変なこと教え込まないで!」

 瑠菜がそう言った頃にはもう遅かった。
 少女はリィを振り払い、瑠菜のいる方向にリィを押した。
 小さいリィの体は勢い良く瑠菜の方へと転ぶ。

 「迷惑なのよ。いつも泣いてばっかりでどうしようもなくて……。なんで私が、あいつなんかの連れてきたガキの世話なんて。あんたらがいたから何もできなかった。いなくなってせいせいする。」
 「えっ……。」

 三つ子がそれぞれびっくりして悲しそうに下を向く。

 「これでやっと、ガキの世話から解放される!永遠に。」

 少女がそう言って後ろを振り向いて葬儀場から出ようとしたとき、瑠菜は少女の肩に手を置いた。

 「永遠の別れなんて言わないの。あなたが本当の永遠の別れを果たしたのはあなたの師匠であってこの子たちではないわよ。今度、お菓子の一つや二つを持って私の事務所へ謝りに来なさい。」

 瑠菜は怒っている様子もなくただそう伝えた。
 しかし、少女はうなずくこともせずにそのまま葬儀場から出て行ってしまった。

 「か、かっこいいですね。瑠菜さんは、なんであんな……。」
 「自信があるときには何にでも手を出すからな、あいつは。」

 サクラの一言に楓李は少し笑って答えた。
 楓李は時間が止まったような瑠菜と密後の様子を愛おしくてしょうがないとでもいうように見ている。

 「瑠菜、今日はもう帰るぞ。楓李、あき、ちびっ子を抱きかかえてやれ。」
 「はーい。」
 「了解。」

 雪紀の一言で何もなかったかのように時間が動き出したかのような感覚をその場の全員が感じた。

 「スゥちゃん、おいで。」
 「んじゃ、クゥは俺が連れてくか。ほら。」

 あきがスゥに声をかけると、スゥは首を横に振った。

 「スゥ、こっちがいい。」
 「えぇ―。クゥもこっちがいい。」

 スゥはクゥを抱きかかえた楓李を指さして言ったが、クゥもがっしりと楓李に摑まって抵抗した。
 リィは、いろいろあって疲れてしまったのか、雪紀の腕の中でぐっすりと寝てしまった。

 「う、うぅ。……じゃあ歩く!」
 「いや、僕が……。」
 「お兄ちゃん嫌!」

 あきが手を広げてみせるとスゥはプイッとそっぽを向いてしまった。

 「チビッ子に腹黒バレてるよ。あき。」
 「別に腹黒ってわけじゃ……。」

 瑠菜がからかうと、あきは否定しきれないような否定をした。
 瑠菜はそれを見てケラケラ笑いながらスゥの横にしゃがんだ。

 「スゥちゃん、何歳?」
 「七歳!」
 「そっかぁ。」

 車が止めてある場所まで片道三十分以上。
 七歳児の歩ける距離ではない。
 仕方なし、瑠菜がスゥを抱きかかえようとしたとき。

 「スゥ……だったか?」
 「うん。スゥだよ。」
 「ほら、摑まれ。」

 楓李はしゃがんで片手でスゥを抱きかかえた。

 「大丈夫?かえ。」
 「子供二人くらいだったら軽いほうだ。」

 楓李に抱きかかえられて、クゥとスゥは満足そうだ。
 アトラクションにでも乗っているようにキャッキャ、キャッキャとはしゃいでいる。

(まぁ、きつそうではないからいいか。)

 瑠菜はそう思って、駐車場へと向かった。





 「あぁ、疲れた。」
 「お疲れさま。かえはやっぱりすごいね。」
 「本当にな。」

 真夜中の二時。
 一段落がついて全員が浅い眠りについたころだった。
 七歳児を二人も抱えて駐車場まで行き、家につくと一階の空き部屋まで運んだのだから疲れるのも当たり前だ。
 そんな楓李はソファーにドカッと座り、瑠菜は前後に揺れるかごのような椅子に座って本を読みながらギィギィと椅子を鳴らしていた。

 「何読んでんだ?」
 「百年前の日記かな?」

 瑠菜はそう言って楓李に本を渡した。

 「ファンタジーな本を読んでんな。どんな内容だ?」
 「本当に日記だよ。何食べたとか、誰と出かけたとか。あ、でも一日だけファンタジーだけど。赤い髪の悪魔が友達を連れて行った。なんて、確かに本当のことだとは思えないわね。」
 「どこそこで最近その話を耳にするなぁ。」
 「きぃ姉も言ってたね。」

 瑠菜はそう言いながらその話を信じているようだった。

 「まだ生きてるのかなぁ。その友達と悪魔。子供とかがいたりして。いや、幽霊とか見えるからもしかしたらって思うだけ。」
 「もしかしたら俺らも血が入ってるのかもな。」
 「はぁ?そういうのの血が?えぇ?まぁでも言いたいことはわかる。」

 楓李が話になってくれたのがうれしかったのか、瑠菜はニコニコしながら日記をもう一度開く。

 「る…な姉ちゃん……。」

 か細い声が聞こえてきて、瑠菜と楓李は部屋の入り口を見た。
 ドアにしがみつくようにして、三つ子のうちの一人が立っている。

 「リィちゃんか。どうしたの?おいで。」
 「よく覚えてんな。」
 「髪型が違うからね。」

 瑠菜はそう言って揺れる椅子の上で手を広げた。
 リィもそれに向かって駆け足で寄ってくる。

 三つ子は同じ顔だが、髪形が違うため瑠菜は何となくで覚えることができた。

(性格も全然違うのよね。かわいい。)

 瑠菜はそう思いながら、リィを膝の上にのせてギィギィとゆっくり椅子を揺らした。






 数日後。

 瑠菜の事務所の前にはお菓子の入った袋が三つおいてあった。
 中には三つ子一人一人が好きなお菓子が入っていたらしい。
 三つ子はそれをっ見つけると、喜んで持ってきて瑠菜や楓李にも配り歩き、残った一袋をみんなで分け合った。

 「三つ子とはいえ、好みも違うのねぇ。」
 「その好みを知ってるやつは、会っていかなかったけどな。」
 「……さぁ、誰のことかしら?」

 瑠菜はそう言ってスゥにもらったマフィンを一つ食べた。
 リィは大福、クゥはクッキー、スゥはマシュマロが好きらしい。



 
 後日、瑠菜の耳には少女が消息を絶ったという噂が入ってきた。
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