森へ

aiuchi

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入った後は

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「そうよ。どうして森なんて探してたのかしら。向こうの山の近くにあるって教えたら、そうですか、ってそれだけ言って行っちゃったわ」
 男の後ろ姿を悟は目で追いかけた。男はもう森へと入りかけている。
 悟は男の所まで走っていって、森へ入るのを止めさせようと思った。だが、今から行くのでは悟も森に入らなければならないだろう。そのことが少年をためらわせた。男だけではなく、自分自身も森に入ると死んでしまうのではと思ったからだ。森へ行った生き物が死んでいるという証拠はなくても、死んでしまう生き物が森へ行くのか、森へ行くから死んでしまうのか、はっきりと判別する方法はない。
 少年に出来たのは、男が森へ入っていった場所を呆然と眺めている事だけだった。

「あの人、どこに行ったの?」
 その日の夕方、少年は森へ入った男の行方を母親に尋ねた。
「あの人って、誰のことを言ってるの?」
「だから今日、お母さんに道を尋ねてたおじさんだって」
 当然覚えているであろうことを聞き返され、不満そうに悟は再度質問する。
「森へ行ったでしょう」
「そうじゃなくて、森に入った後」
「ねえねえ、何の話?」
 妹が会話に加わろうとしてきたが、少年は、
「加奈子には関係ないことだよ」
 と、相手にしない。
「何でー?」
 加奈子は不満の声を上げて、唇をとがらせる。
「帰ったんじゃないかしら。この辺じゃ見かけない顔だから、街の方に」
「でも、森から出ていくの見た訳じゃないよね。帰ったかどうか分からないはずだよ」
 少年は納得がいかず、食い下がった。
「だって、一日中森を見てなんかいないんだから分からなくっても当然でしょう。それに普通に考えればこんな時間まで森の中にいるわけないわ。
 ……どうしてそんなことを聞くの?」
「それは……」
 理由はあったが、少年にはそれをうまく説明出来る自身がなかった。森へと向かう生き物が増えてきていることを話すが、
「そうかしら?」
 と、母親はそのことに気がついていなかった。
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