sebunzu警備員の日常

雨木

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始まりはやはり唐突で、

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いつも通り、彼女達はお風呂に入っていた。
「ねースロウス~お風呂出たら惑星アイスクリームと夜のアイスどっち食べる?」プライドが体を洗いながら頭を洗っているスロウスに呼びかける。
「んー…夜のアイスかな~」スロウスが頭を流しながら返事をした。
「まじか~1口頂戴~」プライドは体を洗い終え、スロウスと一緒に湯船に浸かり言った。
「いいよ~暖かいわ~冬は特に!!」スロウスが柔く息を吐き出しながら言った。
「冬のお風呂上がりアイスも乙なもんだよね~」プライドがスロウスに返す。
「だよね~…ん?」スロウスが頷くと急に二人とも湯船の中へ沈んだ。
「…お風呂中に呼び出さないでってあれ程言ったのに…緊急事態かな?」湯船の中へ結構な速さで沈んで行っている割に2人はとても冷静だった。
「いつもの依頼でしょ…今回も長期かなぁ…やだなぁ…私達のアイスが…」スロウスが軽く溜息を付くと、「あはは…やだねー」プライドがケラケラと笑って返した。
二人が下らないことを喋っていると、目的地に就こうとしていた。
「おっ、そろそろだね~」プライドが言うと夢から冷めるように暖かかった湯の中から外へ2人は放り出された。
2人は綺麗に床へ着地すると、所長の黒継爽香の所へ向かった。
「爽香…お風呂中に呼び出さないでってあれ程…」スロウスが呆れたように爽香に言うと爽香は手をパン!と合わせて2人に謝った。
「ごめん!!スロウス、プライド!!今2人しか居ないでしょ?しかも今回の依頼先は神代らしくて!!」爽香が本当に申しなさそうに言うと、2人は溜息をついた。
「神代なら仕方ないね…私達しか居ないし…」プライドが頷いているとスロウスがプライドの代わりに爽香に依頼の内容を聞いた。
「あ…あの…実は…ですね…」爽香が物凄く言いづらそうに目を逸らした。
「…ああ…もしかして今回のは遇遇…?」スロウスが爽香に聞くと爽香は気まづそうに目を泳がせながら頷いた。
「…りょうかーい…まあたまにあるし仕方ないよ。んじゃ早く行こ~」プライドが気まづい空気を流すように元気よく言った。
「だね、でもその前に武器持ってこないと。」スロウスがプライドに注意する様に言った。
「あ!!確かに!!すまんすまん。あはは」プライドとスロウスは2人揃って武器庫へ走っていった。
「…スロウス達お風呂入ってたのか…まあ瞬間転身システムは正常だから良いとして…私もお風呂入りたいよー!!」爽香が悲痛な叫び声をあげたが、秘書からどんどん仕事が持ってこられるのであった。
「うっし!!テレポーテーションシステム担当員君!!準備出来たよ~」プライドが担当員の男性に声をかけると、男性は頷き、2人に行ってらっしゃいと言った。
「「いってきます!!」」2人が元気よく言った瞬間、意識がテレポーテーションシステムにより、現地へ送られ初めた。
テレポーテーションの中は暖かく、優しく、水泡のようにスロウスを包み込んだ。
『スロウスさん、もうすぐ座標へ着きます。』バックアップの声がスロウスの頭の中に優しく響く。
スロウスはゆっくり目を開け、座標へ出るのに備えた。
テレポーテーションの中は流星群の中に居るかのように色々な物がすごい速さでスロウスの周りを流れて行った。
突如スロウスの視界が青から白へと変わった。
水泡が弾けるように、浮いていたスロウスの身体が重力に従い下へと落ちていく。
スロウスは床へふわりと綺麗に着地すると、前を見て、帽子をとり優雅にお辞儀をした。
「時空間世界線sebunsu民間警備会社のご使用、ありがとうございます。sebunsuのスロウス、ただいま参りました。どうぞなんなりとご依頼をお申し付けください。」スロウスは定型文を口にし、帽子を被り直した。
どうやら周りは神殿のようだった。
がやがやと周りが騒がしくなる。
周りにいるスロウスより5倍程大きい神々が口々になんだなんだと呟いていた。
「黙れ」酷く短い一言だったが、しかし強く、圧力のある声が響いた。
声の主は、かの有名な悪役、セト神だった。
「時空間世界線sebunsu民間警備会社?ってのはなんだ?人間。」セト神は威圧を込めながらスロウスに問いかけた。
「時空間世界線sebunsu民間警備会社通称sebunsuは簡単に言うと傭兵、のようなものです。依頼内容は自由、なんでもお好きにご命令ください。」スロウスがセト神へ返すと、セト神は面白そうにほぅ…と呟いた。
「しかしながら、2つほどご注意頂く点ががございます。1つ目は、しっかり報酬を頂くこと、2つ目は、主従の首輪などを絶対に用いない事、1つ目は心配無いとして、もし、2つ目を破られた場合は、私の刃が貴方様を突き刺します。」スロウスがセト神へ言うと、周りのセト神を覗いた神様全員が大笑いをしだした。
「このガキ、我々でも手こずっている相手に勝てるとでも?せいぜい慰みものにするのがオチだろう!!」1人がスロウスを指さして言うと、周りのセト神以外の神様も全員口々に同じようなことを言い出した。
スロウスが溜息を小さく吐き出した。
「神サマというのは、ご自身より強いものがいなかった為に傲慢になられたのですね、相手の力量を推し量るなど、獣でも出来ることですよ?」スロウスが呆れたように神様へ言うと、神々は顔を真っ赤にし、スロウスへ攻撃をしようとした。
「待て。」しかし、セト神が周りにいた神々を止めた。
「報酬には何がいるんだ?」セト神がスロウスへ問うと、周りの神々がぶつぶつと文句を言い始めた。
「そうですね。では、魔術書を1冊程で如何でしょうか?報酬は後払いで結構ですので、」スロウスが言うと、セト神が笑いだした。
膝を叩き、苦しそうに腹を捩りながらしばらく笑っていた。
「いいだろう、お前へ命じるのはホルスとの戦い、戦争に参加し、勝ちを俺へ献上する事だ。」セト神がスロウスへ言うと、スロウスはただ短く、「承りました。」と言った。
「なんだ、戸惑わないのか?」セト神が少しつまらなさそうにスロウスへ問いかけると、スロウスは少し不敵に笑って、「1VS1、手加減などは不得手ですが、戦争、勝利の献上ならば大の得意ですので、」と、言った。
スロウスは直ぐに無表情に戻り、「して、戦争はいつ頃?」とセト神に聞いた。
「恐らく明後日か弥明後日だ。」セト神がさらりと言った。
「了解致しました。それまで私は何をしていればよろしいでしょうか?」スロウスがセト神に聞いた。
「適当に過ごしてろ。」セト神はそう言うと、周りの神々を解散させた。
スロウスは神々が全員解散した後に廊下へ出た。
『スロウスさん、プライドさんは近くに居ますか?』神々の所へいた時にはどうやら通信出来なかったらしく、廊下に出た途端、いきなりバックアップの声が大きくスロウスの頭の中へ響いた。
「…そう言えば居ない…」スロウスがキーンと耳鳴りのする片耳を少し押さえながら、アナウンスへ返した。
『どうやらプライドさんは今スロウスさんがいる陣営の敵、ホルス神の陣営へ飛ばされてしまったようです。』バックアップが少し焦ったように言った。
「へ~そりゃいいね。報酬2倍だ、2倍。」スロウスが嬉しそうにバックアップに返すと、『でしょうね。そう言うと思ってましたよ。』と、バックアップは溜息をつき、通信を切った。
「おい、貴様!!」スロウスの後ろからだれか野太い男の声がスロウスを呼んだ。
「はい?」スロウスが振り返ると、セト神の仲間のアジアの神、バアル神がいた。
「勝負だ。嬢ちゃん。」バアル神はそう言うと理不尽に拳を構え始めた。
「…了解致しました。武器の使用はアリでしょうか?」スロウスは動じることなくバアル神へ聞いた。
「ああ、ありだぞ。最も、武器を使ったところで勝てるかどうかはわからんけどな!!ガッハッハッ!!」バアル神が豪快に笑いながら言った。
「…了解致しました。」スロウスはバアル神の方へ向き直った。
「よし!!では行くぞ!!」バアル神はそう言うと、猪突猛進を表したかのようにスロウスへ、一直線にイノシシのように突っ込んできた。
「はぁ…」スロウスは小さくため息をつくと、バアル神の突撃を避けた。
バアル神が向かってきては躱す、向かってきては躱す、をしていると、だんだん野次馬が集まって来た。
『スロウスさん、ここでトドメさしちゃいましょ、終わったら回復系のスクロール送りますね。』バックアップがスロウスの頭の中へ戦闘を邪魔しないように小さく響いた。
「はぁ…了解。」バアル神が突進してきた次の瞬間、バアル神の顔面へ、スロウスは横蹴りを食らわせた。
自身の速さによって、自分から蹴りに行かれたような物だが、バアル神はそれを受けきれると思っていた。
ましてや、自身よりか弱い人間なんぞに敗れるとは思ってもいなかったのだ。
しかし、蹴りを受けた次の瞬間、バアル神は自分が壁へ激突したという事を感じた。
「なっ…」バアル神共々、周りにいた神々が口をあんぐりと開けた。
「勝負はこれで終わりでしょうか?」スロウスが挑発する様にバアル神へ言った。
「ふっ…まだまだぁ!!」初日は、バアル神達との手合わせと、神々と打ち解けての宴会になった。
その日の夜…
セト神は夜遅くまで会議に出ていた。
会議が長引き、神々がイライラし始めたところで、会議は少し休憩という事になった。
セト神は外の空気を吸いに中庭へ行くと、スロウスが中庭の真ん中に生えている神様から見ても結構な高さ木の枝に座って、星空を眺めているのを見つけた。
彼女の少し透明なミディアムロングの白髪が夜空に透けて、青色の瞳に映されている星空がひどく綺麗で、セト神は不思議とスロウスに目が惹き付けられてしまった。
セト神はスロウスをじっと見つめた。
そのまま見つめていると、スロウスがセト神の存在に気がついて振り向いた。
「?セト神様如何しました?」スロウスが木からするりと降りて、セト神の方へ駆け寄ってきた。
「え?ああ…いや…なんでもねえよ」セト神は少しあたふたしながらそう言った。
「そうですか?そう言えば会議はどうでしたか?」スロウスが首をコテンと傾げて聞いた。
「いや…散々だった…未だに意見は纏まらないし、あいつらは喧嘩するしな…」セト神が大きく長いため息を吐いた。
「それは大変ですね。お疲れ様ですセト神様。」スロウスがそう返すと少しセト神の表情が曇った。
「?如何致しましたか?セト神様。」スロウスがセト神に聞くと、セト神はゆっくり口を開いた。
「お前の、その、セト神様ってなんだよ…普通に呼べ普通に。」セト神がそう言う意味がスロウスには分からなかった。
今は雇い主と雇われの関係なのだからそう呼ぶのが1番正しいと思っていたからだ。
「ええと…では…セト様…?でよろしいでしょうか?」スロウスが少し不安げに聞く。
セト神は、満足そうに、頷いた。
「ところでセト様そろそろ会議が再開されるのでは?」スロウスがセト神に聞くと、セト神は慌てて会議室へ行こうとした。
「…行ってらっしゃいませセト様、頑張って」スロウスはその様子が少しおかしくて笑うと、そのまま笑顔でセト神に言った。
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