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一章 始まりの街

14 指名依頼

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 目が覚めると、オレはギルドのベッドで寝ていた。周囲を見渡すと、受付嬢が心配そうにこちらを見つめている。

「目が覚めたんですね!!」

 そう言って、受付嬢は安堵の息を漏らした。
 まだ頭はくらくらするが、私生活に問題はない。額には包帯が巻かれているが、HPを見る限り、もう全治しているだろう。

 ログを見直すと、気絶している間に『HP回復速度上昇』が付け足されていた。
 ちなみにだが、オレのMPの回復速度は一秒に5だ。あまりダメージを食らったことはなかったので分からなかったが、恐らくHPもそんな感じだったのだろう。

 一気に減った事によりこのスキルを獲得できた訳か。オレはそう推測する。

 色々考え込んでいるように見えていたようで、受付嬢が控えめに話し掛けて来る。

「あの、ただいまギルドマスターを連れてきますね。もしかしなくても、試験は合格だと思いますよ。あのギルドマスターを本気ではなかったとはいえ、降参させたんですから」

 そう言って受付嬢は、部屋を出ていく。

 どうやらオレも慢心をしていたようだ。本気を出さない相手に、勝ったとはいえ気を失ってしまった。実質引き分けのようなものだ。

 今後はもっと力をつける必要があるだろう。
 一先ず、受付嬢がゴルーダルを呼んでるまでに今のステータスを確認するにことにした。

《ステータス》

名前:エノク
年齢:15歳
種族:人族
職業:剣士Ⅱ 暗殺者Ⅱ 重戦士Ⅵ 気纏士Ⅶ
特殊職業:剣聖Ⅰ
称号:異世界からの転生者 モンスターハンター
LV15
HP1,750/1,750
MP1,500/1,500
STR300 VIT230 AGI250
INT160 DEX180 LUK150
アーツ
片手剣:無我ノ極地Ⅹ
大剣:エクスプッシャーⅡ
短剣:ブローⅩ リバースティンⅩ 疾風の刃ゲイルラーマ
刀:居合斬りⅩ 朧孤月Ⅹ 瞬閃Ⅹ
投擲:多数投擲マルチスロー
スペル NEW
身体能力強化フィジカルアップⅣ 重圧プレッシャー
スキル
武術:剣術Ⅹ 大剣術Ⅶ 短剣術Ⅹ 刀術Ⅹ 槍術Ⅹ 短槍術Ⅹ 弓術Ⅹ 杖術Ⅹ 盾術Ⅹ 拳術Ⅹ 二刀流(亜種)Ⅹ 連撃Ⅹ 気纏術Ⅹ 見切りⅩ 回避Ⅹ
魔法:魔力操作Ⅱ 無属性魔法Ⅲ
生産:毒調合Ⅹ
便利:遠見Ⅹ 偽表情ポーカーフェイスⅩ 交渉Ⅹ 値切りⅩ 手入れⅩ 探知Ⅹ 採取Ⅹ 集中Ⅹ 思考加速Ⅰ
学術:ルーテリア王国語Ⅹ
補正:怪力Ⅹ 堅牢Ⅹ 疾走Ⅹ HP回復速度上昇Ⅰ
技能:投擲Ⅹ 威圧Ⅹ 暗殺Ⅹ 不意討ちⅩ 敵察知Ⅹ 罠察知Ⅹ 気配察知Ⅹ 気配隠蔽Ⅹ 危機察知Ⅹ 急所感知Ⅹ 潜伏Ⅹ 解体Ⅹ
耐性:精神苦痛耐性Ⅹ 威圧耐性Ⅹ 痛覚耐性Ⅹ
ユニークスキル
解析眼 スキルコレクター 武術の寵愛
[SP∞]

 改めて見ると、壮観なステータスだ。始めてみたときと全く違う。基礎ステータスなんかは職業が物理寄りのため、物理系のステータスが爆上がりしている。
 他にも、特にスキルの欄がえげつないくらい増えていた。
 それに、職業を解析コピーできたことで、ステータスも上がっている。

 今回の戦闘で特筆すべき点は、初めて手に入れた『魔法』、そして新たなユニークスキルである『武術の寵愛』だろう。

 特に、『武術の寵愛』の効果がやばかった。

『武術の寵愛』
武術系スキルの獲得条件の超緩和。また武術系スキルの経験値超増加、威力上昇。

 武術系と言えど、その範囲は広い。それらが全て獲得が容易になり、その獲得できる経験値も上がる。
 非常に強力なスキルだ。

 だが、言い方を変えればそれだけに過ぎない。魔法系には弱く、凡庸性は少ない。それに転じて、『スキルコレクター』や『解析眼』は破格の性能といえる。やはり、この二つはユニークスキルの中でも異常なのだろうか?

 そう思わずにはいられない。
 そんなモノに、代償は存在しないのか?そんな考えが浮かぶ。

 あの戦いの時に感じた違和感。あれは一体何だったのか。今にして思うと、あれは不自然だった。
 スキルのレベルを上げた直後に起きた違和感、それが『スキルコレクター』の代償ではないのか、そう思う。

 一体どんなデバフが付くのか分からないが、一回試してみない事には分からない。
 今までは、獲得したスキルやアーツを全て上げていたが、今回は一先ず一つだけ上げる。

 新たに獲得したスキルの中で、一番有用そうなモノを見繕う。


 考えた結果、一番凡庸性の高い『魔力操作』を上げることにした。魔法を今後使うにしてもなくてはならないスキルだろう。それに、アーツにも魔力は使われる。
 それを操作できるとなれば、戦闘の幅は大きく変わる。
 恐る恐るオレは、『魔力操作』のスキルをⅩまで上げた。

【『魔力操作』Ⅱ→ⅩUP!】

――ピキリッ!

 まただ、嫌な音が身体中を駆け巡り、不快な感覚に陥る。吐き気を催すようなその嫌悪感に、産毛が逆立つ。
 まるで、大切な何か・・・・・が欠けていく。そんな音だ。

 しかし、それも一瞬で治まる。それが何より不気味だった。
 今後、スキルのレベルを上げる事は暫く辞めよう。そう思った。幸いにして、『解析眼』は違和感を感じない。

 高レベルの敵に限られるが、スキルの獲得には困らなそうだ。そもそも、オレ自身の身体がスキルを獲得し易くなっているため、地道にレベルを上げれば良い話なのだが。

 そうとなれば、今後はどうしようか?新たなスキルを求めるのであれば、より森の奥地や新天地へ赴くのも良いが。

 そう考えていると、タイミング良く扉のノックの音が聞こえた。

「どうぞ」

 特に隠すような事も無いので、入室を許可する。ちなみにこのステータス画面は、他人は見る事ができない。
 入ってきたのは勿論、ゴルーダルと受付嬢だった。

 ゴルーダルは部屋へ入って来るなり、土下座を決行する。

「先程はすまなかった!!」

 周りの部屋に聞こえるかと思えるほどの大声で、本当に反省している顔でゴルーダルは謝った。

「え?」

 あまりの状況に暫し呆然とする。まさかギルドマスターが、一介の、それもEランク冒険者に土下座で謝ってくるとは思うまい。

 初対面でいえば、印象は最悪に等しかったが、もともとは義理堅い人物なのだろう。

「試験にも関わらず、血が騒いで軽く本気を出してしまった。危うく殺してしまうところだった」

 確かにあれは一歩間違えば、本当に命が危うい攻撃だった。だが、それを認めてしまうのは尺である。
 存外、オレも負けず嫌いだったようだ。

「いえ、大丈夫です。それより頭を上げてください」
「いや、だが……」
「それと、私はあれぐらいでは死にませんよ」

 そう冗談口調で言う。すると、ゴルーダルは一瞬呆けた顔をして、ガハハハと豪快に笑い始めた。
 起き上がると、握手を求めてくる。

「面白い事を言う奴だ。ギルドマスターのゴルーダルだ、改めてよろしく頼む」
「ええ、Dランク冒険者のエノクです」

 オレもベッドから起き上がって立ち上がると、その握手に応えた。双方今更ながら自己紹介を行う。
 簡単な挨拶を終えて、握手を離そうとすると、ぐいっと引き寄せられ言い聞かせるようにゴルーダルは言った。

「それと、俺には敬語は必要ないぜ」

 どうやら彼は、カザドと同じ人種なようである。こういった人物には、何を言っても無駄だと学習したので、特に反論はなく従う。

「ああ、分かった」

 そう言うと、ゴルーダルは満足そうな笑みを浮かべる。

「わ、私に対しても敬語は大丈夫ですよ」

 受付嬢も、手を上げて主張してくる。別に断る理由もない。ありがたくそうさせていただく。

「了解だ、受付嬢さん」

 そう言うと、受付嬢も嬉しそうな笑みを浮かべた。だが、それと同時に、少し不満気な表情を見せる。

「それと、私の名前はシルアーナです」
「そうか、ではシルアーナさん。よろしく頼む」
「“さん”は必要ありませんよ。シルアーナと読んでください!」

 やけに強く、呼び捨てを強調してくる。

「わ、分かった。シルアーナ、これで良いか」
「はい!!」

 ようやく受付嬢――改めシルアーナは本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ん゙、ん゙ん、少し良いか」

 ゴルーダルが咳払いをして、話を振る。

「ああ、何だ?」
「先程の試験の件だが――」

 そこまで言って、ゴルーダルは表情を真剣なモノとした。

「文句なしの合格だ、寧ろDランクである方が不思議でならないな」

 確かにステータスで言えば、もっと上位ランクの冒険者にも迫るであろう。だが、先程慢心しないと決めたばかりだ。調子に乗るわけには行かない。

「力量で言うなら、Bランク冒険者でも大差ない。Aランク冒険者までは経験の差で開きがあるがな。だがそれも時間の問題だろう」
「そこまで評価してくれるとは嬉しいな」
「本当だぜ」

 どうやらゴルーダルは、本当にそう思っているらしい。そこまで評価されると、照れくさいものだ。

「そんなお前を見込んで一つ、俺から指名依頼がある」

 『指名依頼』、それは依頼主が冒険者を指定して依頼を出すモノだ。本来ならばCランク冒険者が受ける依頼だが、今回もまた異例だろうか?
 一人そう思った。

「一体どんな依頼だ?」

 先ずは依頼の内容を聞かねば始まらないため、内容を尋ねる。

「ずばり、迷宮の調査だ」
「迷宮?」

 『迷宮』。それが分からず、ゴルーダルの言葉を繰り返した。

「ん?迷宮を知らんか。ならシルアーナ、説明をしてやれ」
「え!?私なんですか?」
「俺は説明には向いとらん」

 明らかに呆れたようなため息をつくシルアーナ。だが、気を取り直して、オレに迷宮の説明をしてくれた。

「迷宮とは、魔力が集中して留まる所に出来易い、謂わばモンスターを生み出す巣窟です。
 一概に巣窟といっても、その形状は様々で、城型のモノや、洞窟型といったものもあります。特に特殊なものと言えば、地下に空が広がっているというモノもありますね」
「空?」

 思わずオレは話を遮る形で尋ねた。しかしシルアーナは、真摯に答えてくれる。

「ええ、迷宮は異界に繋がっているという説もあります。見た目より広さが大きいなどザラですよ」

 衝撃の事実に、少し目を見開く。それをシルアーナは、楽しそうに見ていた。

「迷宮は階層ごとに別れていて、一般的な階層の数は20層程度。10層ごとにはボスと呼ばれる、一際強いモンスターが部屋を隔てて待ち構えています。世界で一番深い迷宮では、100層を超えてもまだ終わりが見えないらしいですよ。
 それと、モンスターの死骸は残らず、その代わりとしてお金とドロップアイテムと呼ばれる素材を落とすんですよ。だからか、迷宮を攻略する人はお金持ちが多いんですよね。
 ただ、モンスターは無限に湧き出てきて、万全も準備をしないと亡くなってしまう方も多いのですが……」

 まるでゲームだな、オレはそう思った。ステータスやスキル、魔法といった存在がある中でも、一際目を引く存在だ。
 オレは一人思考に傾きそうになるが、シルアーナは説明を続ける。

「そのため、迷宮の探索者はモンスターの討伐証明が難しいためギルドの証に特殊な術をかけています。お陰で、モンスターの討伐数が分かり、討伐を証明できるようになるんです。
 そして階層ですが、一層下がっていくごとに、出現するモンスターの強さも上がっていきます。お気を付けください。
 また、その迷宮の攻略法ですが、最下層にある迷宮核と呼ばれる核を取っていただけると、迷宮は機能を停止します。
 核は上質な魔石の上に、迷宮自体モンスターを生み出して危険なため積極的な攻略が推奨されています。モンスターがあまり溜まり過ぎてしまうと、溢れ出て来てしまうことがあるので」

 そう言い終わると、シルアーナは一息をついた。どうやら説明はこれで終わりのようだ。

「なるほど、ありがとう」
「いえいえ、これが仕事なので」

 お礼を言われたシルアーナは、嬉しそうにはにかんだ。

「で、だ。エノクには西の森の奥にできた、今は封鎖しているとある迷宮を攻略してもらいたい」
「ああ、分かった」

 特に追求することなく、オレは即時OKした。

「んなッ!何も聞かんのか?」
「いや、そういう訳じゃないが迷宮に興味が沸いてな。内容は詳しく聞くが、依頼の件は了解したと思ってもらって良い」

 今回の話は乗らない訳には行かない。
 封鎖している為、誰も来ることはなく、レベルを存分に上げられ、お金も稼ぐこちができる。
 まさに良いこと尽くしだ。願ってもない。

「そ、そうか。まあこちらとしては、話が早くて助かるんだが、他の依頼ではちゃんと報酬とか聞いてから決めろよ」
「無論だ」

 はぁ~、とゴルーダルは、長いため息をついた。

「んじゃまずは、その迷宮がある場所が書かれている地図を渡す。それとパーティーの件だが――」
「地図はありがたいが、パーティーは必要ない」

 オレは直ぐさま断った。

「どうしてもか?」
「ああ」

 オレにとっては、パーティーという状態はあまり好ましくない状況だ。基本的に斥候的な役割はでき、アタッカーとしてはステータスで補える。
 そもそも、MAPがある時点で奇襲を食らうことはほぼ無いと言えるだろう。

「あまり良くはないが、どうしてもと言うなら仕方ないだろう」
「すまないな」
「ああ、だが、ソロには何時にも危険は潜んでいる。気は抜くなよ」

 そう真剣な表情で語るゴルーダル。オレは頷くしかなかった。

 その後、シルアーナにマップを持ってきてもらい、依頼の前金である金貨十枚を貰った。攻略できれば、この倍はくだらないらしい。
 一気にお金持ちだ。

 だが、ギルドを出る際、ギルド内の酒場に居た冒険者に凝視されたのは、いい思い出だ。あの訓練場での出来事が、もう広まっているらしい。
 みな、話し掛けに来ることはないが、ヒソヒソとこちらを見ながら話していた。居心地が悪いったらありゃしない。

 時刻は昼だ、そろそろお腹も減ってくる頃合い。
 一先ず薄暗い路地に入り、頭の包帯を外す。やはり、傷は綺麗に治っていた。後にも残っていない。

 昼飯は、表通りに並ぶ屋台で適当に済ませる。串肉を頼んだんだが、思いの外美味しかった。

 その後は、迷宮へ行くことになった事をカザドヘ報告しに行く。迷宮の攻略は明日からだ。何でも、倒したモンスターを計測する術は掛けるのに一日掛かるんだと。
 その手間がかかるため、迷宮へ行ける力量がある者にしか掛ける余裕が無いという。一体どういう構造なのだろうか?

 そんな事を考えながら、カザドの店へ歩を進めた。




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