【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ

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一章 始まりの街

15 大商会にて

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 カザドの店へ着くと、またしても大声で彼を呼ぶ。

「カザド!!少し良いか!」
「ああ、待ってろ!!今行く!」

 今度は、ちゃんとオレと分かってくれたようだ。
 ガチャガチャと奥で物音を立てながら、暫くすると彼が出てくる。

「今日はどうした?点検はしたばっかりだろ?」
「迷宮へ行くことになってな、暫く来れないから整備品の買い足しにな」

 今回の迷宮探索では、泊りがけで行くつもりだ。暫くの分も買い足したしておいて、損はない。
 カザドは一瞬呆けると、大声で笑い出す。

「ガハハハハ!!Cランク冒険者にでもなったか?」
「いや、今はDランクだが、ギルドマスターから指名依頼を受けてな」

 ピタリ、とカザドの笑い声が止む。

「マジか?」
「勿論」

 カザドは真剣な表情になると、次の瞬間、本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。

「そうか、やっぱり俺の見る目は間違っちゃいなかったな……」

 一人で何やら呟いている。

 今日はカザドの店で整備品を買った後は、防具店へ寄るつもりだ。流石にこの傷をつけられた革鎧のまま、迷宮へ行くのは気が引ける。

 今後の予定を考えていると、独り言から帰ってきたカザドから背中を思いっきり叩かれた。

――バシンッ!

「良くやった、それでこそ俺の見込んだ冒険者だぜ」
「ぐふッ!!」

 『痛覚耐性』のお陰で、痛みは感じなかったが物凄い衝撃を受けた。身体が吹き飛ぶかと思うほどだ。

「……それはどうも」

 恨めがましい視線を送るが、カザドは気付く様子も無い。
 そろそろ、本題を切り出すことにした。

「それはそうと、整備用の砥石と油を売ってくれないか?」
「ああ、ちと待ってろ」

 カウンターの奥へ戻ると、カザドは一週間分はあろうかという道具を持って来た。

「合計で銀貨一枚だ」

 懐から取り出す振りをして、ストレージから銀貨一枚を取り出す。そして、ついでに金貨五枚も渡しておいた。

「ん?何だこの金貨は?」
「この武器代だよ」

 そう言って、両腰につけている小太刀とダガーを叩く。
 カザドは不思議そうな顔をして言った。

「前金で金貨一枚貰ったから、一枚多いぞ」
「気持ちだ、受け取っておけ」

 そういって返そうとしてくるカザドに、無理やり押し付ける。それでも返そうとして来るので、暫く問答が続いたが、結局はカザドが折れ、受け取った。

「たく、お前も強情だな」
「言えた筋じゃないけどな」

 そういって、お互いに笑みを浮かべる。

「ゴルーダルの奴に迷宮へ行くよう言われたようだが、本当に大丈夫か?どうせソロで潜るんだろ?」
「よく分かったな、にしてもカザド。ゴルーダルと知り合いだったのか?」
「昔剣を打ってくれって頼まれたからな」

 どうやらカザドは、オレの想像以上に凄い奴だったらしい。現ギルドマスターに、頼み込まれるなど、相当だ。
 だが納得も行く。彼は仕事が早く、腕も良い。名匠と言われても、文句は無い。

「迷宮の件だが、安心してくれ。問題ない」

 オレは自信満々にそう言い切った。無理な攻略はもともとする気は無いし、安全マージンも十分に取る。

「なら良いが、気を付けろよ」

 カザドは心配げな瞳で、こちらを見つめていた。





◇◆◇◆◇





 その後、適当に話を済ませると、オレは西街へ向かった。所謂職人街だ。
 あの後、防具の話をしたら、一軒の防具屋を提案してくれた。ご丁寧に、紙で紹介状も書いてくれている。

 MAPと照らし合わせながら、位置を確認していく。段々とその店の姿が見えて来た。

「……デカ過ぎやしないか?」

 見上げるほどの高さである建物。恐らくはダルメアノで一番巨大な建物だろう。
 盛況ぶりは見ての通り、カザドの店とは雲泥の差だ。ここの取締役代表と友人だと言っていたが、カザドは本当に何者だ?

 一先ず中に入る。三階建てになっており、一階は武器や防具がズラっと並んだ冒険者向けの場となっていた。綺麗に並べられ、整備もちゃんと行われている。気品のある飾りが、店内に並べられていた。

「すみません」

 店員さんを呼び止めた。

「何でしょうか?」
「あの、カザドから紹介状を貰ってきたんですけど……」

 そう言って、紹介状を手渡した。

「え!?あの名匠のカザド!?ふぇ!?え!?」

 その店員さんの慌てぶりは凄まじいモノだった。酷く動揺して、しきりに紹介状とオレの顔を見比べている。
 可哀想と思うほどだ。

 そろそろ声をかけようとしたら、その店員さんは叫ぶように言った。

「少々お待ち下さい!!今上司を呼んできます!!」

 そう言って、店員さんは奥へ走っていった。店の中に一人取り残されたオレは、ただ待つしかなかった。


 待つ事十分ほど、店内を見て回っているオレに二人の男女が近付いてきた。

「大変お待たせ致しました、この店の取締役、アルバートと申します」
「同じく、この店の取締役補佐のレヴェーナと申します」

 そう言って自己紹介をして来る二人。
 アルバートと名乗った男性は、優しげといった雰囲気の中肉中背の中年男性だ。紳士服を上手く着こなし、丁寧に切り揃えられている髭が印象的だ。

 レヴェーナと名乗る女性は、眼鏡を掛け、出来る女性といった感じだ。スタイルも、大人の女性の魅力を持っている。どちらも、取締役と言われても、何ら違和感は無かった。

「これはご丁寧にありがとうございます。私はDランク冒険者のエノクと言います。どうぞ宜しく」

 そう言って、握手を求めた。少しアルバートは驚いたようだが、直ぐに握手に返してくれる。恐らくは冒険者がここまで礼儀正しいとは思っていなかったんだろう。
 確かに、そう思われるほど冒険者はみな、粗野で乱暴な人物が多い。

「ここで立ち話というのも難ですので、別室へ移動しませんか?」

 そうレヴェーナが提案をする。

「ええ、そうしましょう」

 オレも、その意見には賛成だった。
 先程から、従業員や客からの視線が痛い。そりゃ地球で言う社長と秘書が一介の客のために出張ってきたら、視線を集めるというものだ。
 流石にそれに晒され続けたまま、会話を続ける勇気はオレにはない。

 レヴェーナが参考し、アルバートと時折バレないように値踏みの視線を送ってきた。
 しかし、オレは残念ながらそれには気付いている。人の視線には人一倍敏感なのだ。

 だが、隠そうと努力しているので何も言うまい。

 暫しの無言の時間が続き、一階の奥にある接客間へと着いた。席へ着くことを進められる。上質なソファーのようで、沈み込みような座り心地だ。

「失礼致します」

 従業員の一人が直ぐさまが茶を淹れてくれた。良い香りが漂う。軽く会釈をして、茶を一口飲んだ。

 ――美味い。
 鼻に抜けるような心地良いハーブの香りに、後味がさっぱりとしていながらも、もう一口と飲みたくなる味だ。

「気に入って頂けましたかな?」

 アルバートがそう尋ねてくる。

「ええ、勿論」
「それは良かった」

 レヴェーナは座らず、アルバートの側で控えている。
 アルバートは少し咳払いをすると、本題を切り出した。

「早速本題へ行かせて頂きますが、よろしいですかな?」

 問い掛ける目配せをして来たので、無言で頷く。

「では、先ずは貴方様はカザドと専属契約をされた冒険者ということで相違ないですか?」

 『威圧』とはまた違った凄みを持って、問い掛けてくるアルバート。やはり、大きな商会としての取締役代表ての威厳が溢れ出ていた。
 その雰囲気に飲み込まれそうになるが、『偽表情ポーカーフェイス』を用いて何とか問題無く答えた。

「ええ、そうです」

 はっきりと、そう言った。
 後ろでレヴェーナが、僅かばかり目を見開く。アルバートは、先程までの雰囲気は何処へやら、優しい笑みを浮かべていた。

「そうですか、貴方が……」

 その呟きは、長年友人が探し求めていたモノが見つかった事を思う、優しい意味が込められていた。

 カザドは、前々から歴史に名を残すほどの力を持つ者にしか専属鍛冶師にはならないと、声を大にして言っていた。

 その彼が、エノクの専属になったという事は、詰まるところ彼が英雄になる素質がある事を意味する。
 感慨に耽るのも致し方の無い事だった。

 だが、アルバートは感慨に耽るのもそこそこに、エノクの対応へと戻った。

「それでは私たちはエノク様には最上級の持てなしをしなくてはなりませんね」

 アルバートはカザドに、以前大きな借りがある。
 そのことを、エノクが知る由もなかった。


 どうやらアルバートたちは、オレへ最上級の持てなしをしてくれるらしい。大商会のトップをここまでさせるとは、本当にカザドは何者なのだろうか?
 後で調べて見よう。そう心に決めた。

 まあ、それはさて置き、本題へと移る。

「それは光栄のあまりです。つきましては、本日ここへ来た理由なのですが――」
「存じております、防具の件でいらしましたよね?」

 オレは頷いた。恐らく紹介状にでも書かれていたのだろう。

「それではどういったモノをご所望ですか?」
「それなんですが、素材の持ち込みで制作して頂くことは可能ですか?」

 オレはそう切り出した。

「素材の持ち込みですかな?」
「はい、この素材でレザーアーマーを作って頂きたいのですが……」

 オレはそう言って、バックからブラッドウルフの毛皮を取り出した。

 この世界に来て、初めての難敵の毛皮だ。この黒狼には数値ではない強さがあった。
 それは防具にしても、良い素材になるのではと思ったのだ。

「ブラッドウルフですか……。傷は少しあるようですが、問題にはならない程度。状態は非常に良い……」

 ストレージの中は状態が保存されているため、劣化などはあり得ないのだ。そのため、戦闘で付いた傷以外は何ら問題はない。

「ええ、素材としては十分です」

 オレはホッと胸を撫で下ろした。
 これで駄目と言われていたら、どうしようかと悩んだところだった。
 アルバートはその後、もう少し詳しく調べると、レヴェーナに毛皮を手渡して持って行かせた。
 その際に、何か言っていたようだが、聞き取る事はできなかった。

「さて、あれを完成させるには一週間ほど必要ですが、大丈夫ですかな?」

 正直微妙な期間だ。だが、この防具を直ぐに変えねばいけない原因を作ったのは、元はといえばゴルーダルだ。
 それを理由にすれば、少しは引き延ばせるだろう。

「はい、恐らく大丈夫です。依頼主ゴルーダル交渉脅すしてみますね」

 少し別の意味合いを孕んでいるが、アルバートさんにバレた様子はない。

「そして加工料ですが、低く見積もって金貨十枚ですかね?それ以上はこちらで負担させていただきますが……」
「うッ!」
「大丈夫では無さそうですね……」

 痛い所を突かれる。今所持金は、依頼の前金を合わせて金貨六枚といったところだろう。

「何か換金出来るものはありませんか?武器と防具が主流ですが、他の物も最低限の買い取りなら行っていますよ?
 そうでなくても、一週間後までは待ちますが……」

 これでも余程の優遇措置だろう。応えてやりたいと考えるのが、礼儀というものだろう。オレは髪を弄りながら、何か案がないものかと考える。

 ストレージを開き、アルバートに目線で分からせないようにするために目を閉じながら、項目に目を這わせる。
 ちなみに、目を閉じてもこのウィンドウは消えない。網膜に直接投影されているようである。

 暫し悩んでいると、一つの項目が目に止まった。

 それは以前、新しくメニューで追加されたショップで購入した塩だ。
 ストレージ内で持っている皮袋へ移し替えるよう念じると、上手く行った。そのままその皮袋を、鞄へと移すと取り出した。

「これは如何ですか?」

 アルバートは不思議そうにしながらも受け取る。
 この世界での塩の物価は高い。それも真っ白という最上級の品質だ。
 それが十キロ、どんな反応をするかが楽しみだ。

「なッ!?こ、これは――!!」

 皮袋を開いたアルバートは、目を見開き、塩を凝視している。

「か、確認のため一口貰っても……?」
「どうぞ」

 驚きのあまり、声が震えていた。
 そしてまた、手も震えたまま皮袋へ入れ、少量の塩を口へと運ぶ。

 そしてまたしても、アルバートは驚愕した。

「……や、やはり塩だ。この品質で、この量を……」

 一人で何事かを呟いている。
 この反応、どうやら驚かせる事には成功したらしい。

「おい!!誰か来てくれ!!」

 アルバートは突如、扉へ向け叫んだ。程なくして、従業員が駆け付ける。

「今すぐに金貨、いや白金貨を持って来い!」

 思いもよらぬ展開に、目を白黒させる。
 アルバートは、こちらが困惑している事に気付くと、ハッとして落ち着いた雰囲気に戻った。

「いやはや、お騒がせして申し訳ありません。年甲斐にもなく、興奮してしまいました」

 そう言って軽く頭を下げる。

「い、いえいえ。それよりその塩、マズかったですか?」
「ええ、とても」

 アルバートは深く頷く。
 参ったな、良い金になれば良いなと思って出したが、まさかここまでの大事となるとは。
 少し背中に汗が流れた。

「これほどの素晴らしい代物は、この国の国王陛下でも持ってはいませんよ」

 真剣な顔で言うのだから、より不安が煽られる。

「……本当ですか?」
「残念ながら」

 そこまで聞いて、この塩を出したことを後悔した。真面目に働いて稼げば良かったと、今にして思う。

「勿論この塩は良い値段で買い取らせて頂きます。レザーアーマーのお代の件は安心してください」
(いえ、他の事で安心できません)

 心の中でそう唱える他なかった。

 だが、やっぱり無しと言える雰囲気では無いので、諦めてそのまま買い取りをしてもらう。
 そうこうしている内に、従業員が豪華そうなトレイに一つの小さな皮袋が乗せられてきた。

 アルバートはそれを受け取り、中身を確認すると、頷いてオレにそれを手渡した。

「どうぞ、この塩のお代です」
「確認しても?」

 アルバートは無言で頷く。
 その好意にありがたく、中を見させて頂いた。その中には、白金色の硬貨が二枚入っていた。

 それを取り出し、観察するが見たことの無い硬貨だ。アルバートに、一体何なのかを尋ねる。

「アルバートさん、これは?」
「ああ、白金貨をご存知ありませんでしたか。商人でも無いので、無理はないですね。
 これは金貨十枚分の価値があるんですよ」
「じゅ、十枚!?」

 思わずずっこけるかと思うほど驚いた。原価大銅貨一枚の塩が金貨二十枚だと?暴利にも程がある。

「……些か多過ぎでは?」

 そう尋ねるが、アルバートは首を横に振る。

「適正価格ですよ」

 きっぱりとそう言われてしまった。


 結局、塩は白金貨二枚で買い取られ、その内の一枚をレザーアーマーに支払う事でどうにかなった。
 というか、寧ろ所持金が増えてしまった。

 その後、少し話をしたときに塩の出処を聞かれたが、祖父母が持っていたモノと言って乗り切った。祖父母は万能の理由かもしれないと思い始めた、今日この頃だ。

 余談だが、アルバートの商会は、今オレがいるこのルーテリア王国で一番の武器防具の商会らしい。名前は『アルマシオン』というそうだ。

 予想以上に凄い人物だった事に、驚きを隠せなかったのは仕方が無いだろう。
 アルバートとレヴェーナに見送られながら、商会を後にする。




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