【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

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一章 始まりの街

30 怒り・帰還

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――ピコンッ!

 その音と共に、一枚のウィンドウが表示される。

『雪森月乃』
地球にて15歳まで暮らしていたが運命神・・・の因果介入により、事故で死亡する。
その後、転生神・・・と偽った運命神・・・に転生を持ちかけられる。そして、オリージネにハイエルフのアリシア・フォルストとして転生し、今はエルフの森の隠れ里で暮らしている。現在15歳。

 思考が凍り付いたように思える。何度もその文を読み直し、ゆっくりと咀嚼するように意味を理解して行く。

 そして、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを感じた。
 あの神――転生神はオレを騙すどころか、月乃を殺していただと?その事実に頭を抱える。

 反吐が出る。あのクソ野郎が!

「ああ゙あ゙!!」

 感情の昂ぶりを抑える事が出来ず、オレは魔力を込めて黒炎雷斧槍ブラックサンダレーメを振り回した。
 周囲に黒き炎雷が飛び散る。

 それでもオレの怒りは収まらない。魔力が溢れ、周囲に重くのしかかった。

【大■スキル『憤■』を■得】

 今すぐにでも月乃の元へ向かいたい。恐らく、オレとは違い一からこの世界へ降り立ったのだろう。
 文字通り、赤子として。

 15年もの間、月乃をこの世界にたった一人にさせてしまった。どれほど長い時間だっただろうか?

 エルフの森の隠れ里の場所を、オレは知らない。だから向かうには準備が必要だ。
 里の場所を知るエルフの力が必要になる。

 後で誰か良い人が居ないか聞いてみよう。帰ったらすぐにだ。

 そして、転生神――いや運命神は、いずれ必ず殺す。月乃を殺した罪を償わせるためにも。

 オレを救ってくれた月乃を殺したのだ。それ相応の罰は受けてもらう。

 だが、今はまだ力が足りない。『神殺し』を行うには、些か弱過ぎる。

「力だ、神をも殺せる力が……」

 もっと力を、そのためには迷宮へ潜ることが効率的だろう。しかし、それだけでは足りない。

 この部屋を見渡す。オレとグレドーナが争った経歴が、色濃く残っていた。

「――試練だ」

 運命神の出す試練を受けるというのは、全く持って気が乗らない。だが、精々利用させてもらうとしよう。

 この試練では、通常では考えられないほどの強敵が出る。それに、勝てば先程のように強力な報酬も貰える。

 受けない手はない。

「自分で自分の首を絞めると良い。こちらも利用させて貰うさ」

 虚空へ向かい、オレはそう呟いた。何処かに居るであろう、運命神に向けて。





◇◆◇◆◇





 まずはこの迷宮をさっさと攻略するために、奥へと通ずる扉を開いた。
 すると中には、薄暗い石造りの通路が繋がっている。

 MAPで確認すると、この奥は行き止まりのようだ。だが、後ろには戻る道しかない。

 不思議に思いつつも、オレは奥へと脚を進めた。
 暗がりの中、一つの小部屋がある。

 その小部屋の中には、一つの光を帯びた水晶が置かれていた。どことなく、魔石と似た雰囲気がある。

 早速解析を行った。

『迷宮核』
迷宮を起動させている核。膨大な魔力を蓄えている。
保有魔力:15,621

 やはりこれが迷宮核で正しいようだ。保有魔力も尋常ではない量がある。
 早速回収すると、迷宮核から光が失われる。

 それに伴って、迷宮から地響きのような音が下から聞えてきた。地震のように地面が揺れ、立つことすらままならない。
 オレは片膝を付いた。

「これは……攻略したって事で良いのか?」

 思ったよりも早かったな。オレはそう思った。

 揺れも収まり、立ち上がると特に要は無いのでさっさとこの迷宮を出る事にした。

 追記だが、帰り道は遭遇するモンスターがとても少なかった事を記しておく。





 久し振りに出た地上で、大きく息を吸い込む。

 閉じ込められた空間から、ようやっと出られた気分だ。迷宮に太陽や木などもあったので気のせいだとは思うが、空気が新鮮に感じられる。

「よし、行くか」

 オレは存分に空気を吸い込んだあと、そう呟いた。

 これからはやることがたくさんある。
 まず最優先は月乃と会うこと。これにはエルフの協力が必要になる。後で人材を見繕う必要があるだろう。

 そして、残るは運命神を殺す事だ。
 未だ燃え続ける怒りに、目に怪しい光が灯るが、頭を振って切り替える。殺すのは今では無い。
 まだ会う方法すら分からないのだ。これで殺すなど、片腹痛い。もっと力を付け、神の情報も必要だ。

 善は急げと、オレは街への帰路を急いだ。一先ずは迷宮攻略の報告をせねば。

 全速力で森を駆け抜けていく。
 レベルアップしたお陰で、今までよりも早く街に着いた。一分掛かっただろうか?

 ギルド証を提示し、街へ入ると一直線でギルドへ向かう。時間も日暮れが近付いていたので、チップに銀貨を支払うとほとんど検問もしないまま通してくれた。

 ギルドへ入ると、シルアーナの元へ並ぶ。それほど列んでいた者は多くなかったので、すぐに報告を行うことが出来た。

「あ!エノクさん!帰ってきたんですね」
「ああ、先程。ゴルーダルに報告がしたいから面会しても良いか?」
「少々お待ち下さい!」

 そう言ってシルアーナは、カウンターの奥へと引っ込んでいく。
 ギルド内からの不躾な視線が飛んだ。

 時間も時間なので、依頼終わりにギルドに兼業している酒場で一杯やっている者も多い。
 その中から、一人出てくる者がいた。

「おいテメェ、ギルドマスターに面会だ?冗談も程々に言え!」

 筋肉隆々の体にスキンヘッドの頭。顔には大きな傷がある。典型的な強面冒険者だ。
 口から酒臭い匂いが漂ってくる。

 ただの酔っ払いだった事に、面倒臭く思いつつも無視を決め込む。こういった輩には関わらない事が一番だ。

 しかし、思いの外こいつは突っ掛かり、中々に邪魔である。

「おい!何無視してんだよ!俺様が誰だか分かんね――」
「煩い」

 その言葉を遮るように、『威圧』を発動させ黙らせる。
 一瞬怯んだようだが、強面冒険者は一転して激昂し、掴みかかってくる。

「テメェ!何しやがった!」
「煩いって言ってんだろ」

 まだ抜け切っていなかった運命神への怒りが、八つ当たりという形で再燃する。
 襟首を掴んできた相手の腕を、ガシっと掴む。

 そのまま、尋常ではない握力で徐々に力を込めていく。

「痛っ!いてででで!!わ、悪かった!離してくれ!」

 徐々に力が強くなっていくオレの手に、痛みを感じ暴れだしたが、オレはピクリとも動かない。
 最終的に強面冒険者が謝って、放してもらうという形になった。

 放した強面冒険者の腕には、オレの握った手の跡がくっきりと赤く残っていた。

「く、くそっ!覚えとけよ!」

 そう捨てセイフを吐いて、席へ戻っていく強面冒険者。だが、周りからの目が集まり、顔を赤らめ金を置いてギルドを出て行った。

 確かに、オレは今はDランク冒険者だ。ましてや見た目は子供。
 そんな相手に良いように負けたとあっては、赤っ恥も良いところである。

 そこに、ゴルーダルがやって来た。

「待たせたなエノク――って、何かあったのか?」

 ゴルーダルは、オレに向けて飛んでくる視線に気が付いたのか、疑問を飛ばすが、特に問題は無い。

「何でも無い」

 それだけ伝える。

「そ、そうか。それじゃあ例の件で少し付いてきてくれ」

 そういうと、ゴルーダルはギルド奥へと進む。その後をオレはついて行った。





 ゴルーダルの後を付いていくと、ギルドマスター専用の書斎へと入っていった。

 中には、職務用の紙が積み重なった机と、応接用のソファーがある。

 席を勧められ、オレは素直にソファーへと座った。ゴルーダルも、向かいの席へと座る。
 ギルド員が茶を出すと、話し合いが始まった。

「さて、例の迷宮攻略の件だがどうだった?」

 そうゴルーダルが切り出す。

「多少の異常事態イレギュラーはあったが、問題は無い」
異常事態イレギュラー?」

 ゴルーダルが不思議そうに繰り返し言って聞き返した。

「迷宮自体は階層が少なかったから苦労はしなかったが、問題は十層のボスだった」

 それはオレが原因だが。
 と、それは心の中に言う程度で収めておく。

「どんなボスだったんだ?」
灼熱四腕熊ガルド・アルムベアだった。狂戦化バーサーク状態のな」
「なッ!?」

 オレの答えが、予想の範疇を上回っていたのかゴルーダルの次の言葉が出てこなかった。
 だが、放心状態から帰ってくると、オレに掴みかからん勢いで聞いてくる。

「そ、それは本当なのか!?レッドグリズリーではなく!?」

 灼熱四腕熊ガルド・アルムベアに似たBランク冒険者相当のレッドグリズリーの名前を上げたが、そのモンスターは腕が二本しかない。
 灼熱四腕熊ガルド・アルムベアは名の通り、腕が四本あることが特徴なのだ。見間違えるわけもない。

「ああ、確かにそうだった。確認をしてもらって構わない」

 オレはそういってギルド証を渡した。これには討伐したモンスターの名も刻まれている筈だ。こちらの方が信用性があるだろう。
 それをゴルーダルは震えた手で受け取る。

「あ、ああ、ありがとう」

 ゴルーダルはギルド員を呼ぶと、討伐履歴の確認を頼んでオレのギルド証を渡した。

「疑っている訳ではないが、念の為な」
「いや、構わない」

 寧ろ、オレもその立場だったらそうするだろう。

 ゴルーダルは、頭を抱えると深いため息を吐き、悩み始めた。

「それにしても、灼熱四腕熊ガルド・アルムベアか……Sランク冒険者が狩るモンスターだぞ。これでは下手な評価は付けられんな」

 ブツブツと独り言を呟き始めている。確かにあのモンスターは強かったが、まさかSランク冒険者が狩るモンスターとは。
 いやはや驚きだ。

 ランクがこのままに上がってくれればラッキー程度に思っていると、先程のギルド員が慌てて書斎に飛び込んできた。

「ギ、ギルドマスター!!この討伐履歴はッ!?」

 そういって一枚の紙を慌ててゴルーダルへと手渡す。
 そこにはオレのモンスターの討伐履歴が、事細かく書かれていた。

 それを見て、ゴルーダルはガックリと項垂れた。

「本当に何だよ、この討伐履歴は……出鱈目じゃないか……」

 そこには、確かにオレが討伐したモンスターの名前と数が書かれていた。そう、全て・・が。

 そこには、オレがレベリングの贄となってもらったホブゴブリンの非常識な数も書かれている。それに付け加え灼熱四腕熊ガルド・アルムベアだ。
 常識外にも程がある。

 やってしまったかと、少し後悔したが、もう事後なので修正も出来まい。
 開き直ってオレは出された茶を飲んだ。

「それじゃあエノクの冒険者ランクはBに格上げだな。喜べ!」
「ぶふッ!」

 思っていた倍のランクに、口に含んでいた茶を思わず吹き出した。

「ランク……上がり過ぎじゃないか?」
「いや、こんだけモンスターを倒せる奴がEランクである方が拙いだろ」

 そう真剣な顔で言い返して来る。確かに、この世界で力ある者が不当な扱いをされていたら、モンスターに対抗する力として問題にはなるが……まさかこれほどとは。

「本当はAランクにしたかったんだが、俺の権限で上げられるのはここまででな」
「勘弁してくれ……」

 流石にそこまで一気に上がったら周囲から妬まれる。そうでなくとももう手遅れかもしれんが。

 その後、Bランクに上がった銀色のギルド証を受け取る。
 そしてギルドを出る前に、この街を離れる事を伝えておかねば。

「そういえばゴルーダル、オレは後少ししたらこの街を離れるよ」

 ゴルーダルは、途端に表情をしゅんとさせた。

「そうか……行っちまうか。そりゃ冒険者だもんな、旅もするか」

 何やら独り言を呟いている。だが、バシンと自身の両頬を叩くと、オレへ向け精一杯の笑顔でこう言った。

「そうか、他の街でも頑張れよ!ダルメアノに来たら歓迎してやる!」

 そう言って背中を叩いた。
 それに礼を述べながら、オレはギルドを出る。

 迷宮攻略の報酬は、金貨二十五枚だった。何でも、謝罪の意味も含まれているらしい。




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