お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
4 / 181
幼少期

家庭教師と活版印刷

しおりを挟む
 先生が良かったからか、語学も上達しました。
 スミス先生様様である。
 日常会話が出来るようになってから、アングロサクソン語の書き取りを教えて貰えるようになり、水を得た魚の如くどんどん吸収していき娯楽の小説程度なら読めるようになっていた。
 重度の活字中毒者で萌える小説を追い求めて励んだ結果なので、手放しで褒め契る両親に内心『腐った娘でごめんなさい』と心の中であやまっておいた。
 本来ならマナーや勉強は八歳から十歳くらいから始めるものらしいが、私の異様さに気付いた両親は優秀な家庭教師を雇って私に宛がった。
 魔法はスミス先生が教えてくれるので、マナーはエリザベート・バーバリー伯爵夫人に、それ以外はアクエリオン・テプレノン男爵が教鞭を取る事になった。
 バーバリー伯爵夫人は、王族にもマナーを教えいるらしく社交界の貴婦人として名を馳せおり、貴族令嬢の憧れの存在で流行の発信源ともいわれ、彼女が出席するお茶会は一種のステータスなんだとか。
 確かに実年齢よりも若く見え、一歩間違えたら下品になるドレスも彼女が着れば上品だけど妖艶な仕上がりになる。
 一方、テプレノン男爵は学者って感じの人で身なりにはあまり頓着しない方だった。
 もっさりとしていて、目元を長い前髪で隠しながらボソボソと喋るが教え方は非常に分かり易かった。
 平民思考に凝り固まった私に対してノブレス・オブリージュが何たるかを叩き込んだ。
「リリアン様、口角が上がり過ぎです! ティーカップを持つ手は中指で支え人差し指をカップの手にかけ親指で固定すると何度言ったら理解するのですか! 後、小指は立てない!!」
「はいぃい!」
 バシッと容赦なくカップを持っていた手を扇子で叩かれる。
 痛いと言おうものなら、第二撃が来るので痛みに堪えながらカップを持ち直す。
「顎の角度は30度を常にキープしなさいと言っているでしょう!」
 またも扇子が私の手を強打した。
「すみません」
「謝罪は結構。言われたことをきちんとこなしなさい。笑みが崩れておりましてよ。基本は笑顔を作りなさい。感情は押し殺すのが貴族の嗜みでしてよ」
「はい」
 内心は、『このクソババア』と罵ってました。
 バーバリー伯爵夫人のお蔭で、外面だけは立派な淑女が出来上がりました。
 意識しながら生活をすると、自然と身に着くものです。
 しかし、残念なことに地頭は突出して良いわけではないので復習を反復しないとスコーンと忘れてしまいます。
 抜き打ちでマナーテストされた日には、手の甲は真っ赤に腫れます。
 児童相談所があるなら通報しても良いレベルだと思います。
 誰かにチクるのも悔しいので、常に手袋をして隠してました。
 スミス先生に一番最初に魔法を教わったのが水魔法でした。
 それを応用して叩かれた手を包むように水の塊を浮かせて、冷やしてました。
 痣は出来ても、腫れはそれで何とかなったのが救いです。
 スミス先生は水と雷の二属性の適正があり、その道のスペシャリストだそうです。
 他の属性は、初球から中級程度だったのですが、日本語をマスターしてからは上級まで使えるようになったのだとか。
 それでも魔力消費が激しいので乱用は出来ないようです。
 テプレノン男爵には、主に貴族社会の常識や政治や領地運営・歴史と幅広く教えて貰いました。
 魔法歴史学を研究しているらしく、古代魔法が専門だそうで聞いた時はハッスルしました。
 全属性使える反面、どれも中途半端で初級から良くて中級程度と魔術師としては致命的だそうです。
 テプレノン男爵のように全属性持ちは珍しいですが、器用貧乏になりがちなので重宝されないとの事。
 私が神言しんごんを使えるのは、家族とスミス先生のみの秘密なのでテプレノン男爵には教えていません。
 私がどの属性を持っているかは、七歳になって教会でステータスを確認してもらうまでは分からないと言われて落ち込んだこともありました。
 どんな適正があっても、魔法が使えるのはロマンです。
 前世の中二病と言う名の黒歴史が、この世界では堂々と使えるのですから素晴らしきことかな。
 計算能力にかけては私の方が上なので、そこは逆に教える形になってしまいました。
 暗算で問題を解いていたから、どんな計算方法をしているのか聞かれて、うっかり喋ってしまったんですよ。
 四則演算は基本中の基本なので、九九を教えたら直ぐに覚えてしまい少し悔しかったです。
 ただ、この世界には電卓も算盤もないので暗算で計算するにも時間が掛ってしまうのが難点でした。
 無いなら作れば良いじゃん! と思い立ち、アングロサクソン大公が贔屓にしている武器やに無理を言って作って貰いました。
 アーフェクトで一つだけのMy算盤!
 それを使ってガツガツ計算して、暗算の比じゃないぜってくらい高速で数字を書く私を見て、テプレノン男爵がまたも食いつきました。
 使い方を教えると、一回説明しただけでサクッと覚えてしまい悔しさに涙が出ました。
 九九や算盤は、父や祖父の耳に入り試験的に屋敷の従業員全てが覚えられるか試したところ全員ものの三週間でマスターしてしまいました。
「リリーの発想は素晴らしい。もし、何か思いついたら言うんだよ」
と頭を撫でながら褒める父に、
「この間、お父様の書斎にある本だと思って持ち出した帳簿。あれを一つの形式にして収支が分かるようにしましょう。あれでは、書式も形式もバラバラで計上し辛いのではありませんか?」
「は?」
 私の言葉にポッカーンとする父に、私は紙とペンで帳簿と収支報告書(見本)を書いて見せた。
 それと同時に昨年の帳簿を勝手に簿記に当てはめて帳簿を作り直したのも手渡した。
「この簿記の書式を元に、お金や財産に関する取引の記録を付けます。最終的に纏めたのもが収支報告書となります。過去一年分を試しに纏めてみました。領地運営のお金と家のお金が混在しているので分けて作成致しました。私が纏めた限りでは、領地の税収も可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。赤字ではありませんが、貯蓄出来る程の余裕はありません。それから、我が家の収支は出資が多いので赤字です。もし、飢饉などが起きた場合に対処できなく没落する可能性があります。別口で収入を増やす方法を考えて下さい」
 紙の束を食い入るように見つめる父の手が震えている。
 バッと顔を上げたかと思うと、私の肩を掴み問いただしてきた。
「素晴らしい! どうやって思いついたのだ?」
 いや、前世で知っている知識だからと言うのは不味いので口ごもっていると勝手に一人で完結してしまった。
「リリーは、昔から変わった子だと思っていたが神の愛し子なのだな。時の節目に我々が想像しない発想で革命をもたらす者が現れる。殆どは聖女様だが、極々稀にリリーのような子が市井・貴族問わずに生まれることがある。そういう者を神の愛し子と呼ぶ。薄々気付いていたが、確信が得られたぞ」
 たかが簿記、されど簿記。この世界に簿記と言う存在が無かったから、斬新なアイディアに感じたのだろう。
「しかし、一枚一枚枠を書いたりするのは手間だな」
「ハンコを作れば宜しいのでは?」
「ハンコ? 何だそれは」
 どう説明したら良いものか。
 うーんと少し考えて、細長く切った角材を持って来て貰い紙の大きさより小さく切って貰い組み立てていく。
 縦長に五枠に仕切られた物体が完成したので、それに筆を使ってハケ替わりにインクを縫って紙に押し当てた。
 定規を使い横に線を入れれば、帳簿の完成である。
「インクをつければ、何度でも使えますよ。後、予め表音文字を彫っておけば、組み合わせ次第で同じ文書を紙に転写することが可能です」
「なるほど! 是非詳しく教えてくれ」
 活版印刷の原理だの用途だのを父が納得するまで説明させられた。
 私が歴女でマニアックな知識を持ってなかったら答えられなかっただろう。
 二十歳過ぎたおっさんの何で攻撃は、苦痛以外ないなと思い知る事になった。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...