お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
60 / 181
幼少期

決闘を申し込まれた

しおりを挟む
 洗礼を受けてから、父の胃に穴が開きそうな勢いです。
 理由は、予想外の結果だったから。
 闇魔法と言えば、魔族を連想させるくらい『悪』とされている。
 闇魔法は、使い方を誤れば大量虐殺や精神障害を起こすことも出来る。
 禁術の多くは、闇魔法が根底にあるからだとか。
 聖女が、聖魔法の使い手ではない事と創造神の加護を得たことに激震が走った。
 聖女補佐という新しい地位を作り、アリーシャを任命することで落ち着いた。
 問題は、ガリオンである。
 魔王復活や魔物の活動も活発になり始めて来た時に、聖剣の職業を持つ者が現れれば『勇者』として担ぎ上げられるのは目に見えている。
 父も私と同じで時期を見て公表の考えで一致した。
 ガリオンは、将来の選択肢が増えた。
 私は、ガリオンの執事教育を国防の頂点である大総帥への教育へと舵を切った。
 幸い歩兵隊将軍のベルガーと懇意にしていたのが功をなした。
 王宮で教育を受けている間は、ベルガーにガリオンを預けて教育して貰うように父を通して依頼した。
 スー夫妻の下でも戦闘訓練は施されているが、現場の人間と直に触れ合い揉まれて貰う方がガリオンにもいい影響を与えるだろう。
 一兵卒と切磋琢磨に稽古に励むガリオンに、馬鹿王子がやってくれました。
 私との授業は嫌だと逃げ出して、訓練場をうろついていた王子がガリオンを見て勝負を挑んでしまった。
 勿論、その話は授業中の私の耳にも入る。
 不敬覚悟も承知で慌てて飛び込んできた兵が、あらましを伝えられた時は多分般若の顔をしていたと思う。
 その場に居た者が、「ヒィッ」と悲鳴を上げたくらいだもの。
「分かりました。そちらに向かいます。先生、済みません。一旦、席を離れます」
「あ、ああ」
 私は席を立ち競歩しているかと思うくらい、早歩きで移動した。
 本当は走りたいのだが、淑女たるもの如何なる時でも人前で走ることははしたないと考えられているので、どうしても競歩になってしまう。
 大理石を廊下を歩く度にカツカツと音が響く。
 耳障りだが、致し方ない。
「殿下が勝負を吹っかけたとのことですが、ガリオンは勿論勝負に乗ってませんよね?」
「何度も丁重にお断りされておりましたが、その…殿下の癇癪が酷くて……」
 困惑気味の兵の言葉に、私はハァと大きな溜息を吐いた。
 アルベルトも最低限の剣術は習っているだろうが、スー夫妻の扱きを受けてケロッとしているガリオンと戦えば瞬殺どころか大怪我を負ってしまう。
 ガリオンは、手加減出来るほどの腕は持っていない。
 うっかりアルベルトを殺したら、その責任はアングロサクソン家に問われてしまう。
 王妃の子供が、無事誕生して成長して貰うまでは死なれては困る。
「ここからでも殿下の怒号が聞こえてきますわね」
 訓練場の門をくぐると、アルベルトがガリオンに向かって罵声を飛ばしている。
 私の側近ということもあり、難癖をつけていた。
「お止めなさい!! 殿下、何をなさっていますの! 授業中に抜け出して、訓練所を荒らすなんて言語同断でしてよ。さあ、皆さまに非礼を詫びてお戻りくださいまし」
「うるさい! お前が傍にいるだけでヘドが出る。この俺が、直々に相手してやろうと誘ったのに逆らう馬鹿が悪いんだ」
 何言ってんだコイツという視線が、アルベルトに集中するが当の本人は怒りで気付いていない。
「私の従者を貶めるようなことは許しません。大体、殿下とガリオンでは勝負になりませんわ。実力の差も分からない時点で、負けてましてよ」
 私の言葉に頭に血が上ったアルベルトは、嵌めていた手袋を投げつけて来た。
「拾え! 命令だ!!」
 唾を飛ばしながら叫ぶアルベルトに、私はやれやれと肩を竦めた。
「命令と言われましても、アングロサクソン家に対し決闘を申し込むのですか? 淑女の私に?」
「代理でそこの腰抜けを立てれば良いだろう。俺が勝ったら婚約解消だ!」
 フンッと鼻で笑うアルベルトを見て、どこから勝てる自信が出てくるのか謎だ。
「私が勝てば、殿下に対し躾の一環として教育者および婚約者は体罰も許される条件で受けましょう」
「ふん、もう勝った気でいるのか! 勝つのは俺だからな!!」
 肩で風を切りながら、訓練場の中心に歩いて行った。
 ガリオンもうんざりとした顔で向かおうとしたのを止めた。
「ガリオンは、兵士の皆様たちと一緒に下がってなさい」
「それは、出来ません。お嬢様の護衛ですよ」
 主を戦わせたとなればガリオンの面目が潰れてしまうが、こうして堂々とアルベルトをボコれる機会はないのだ。
 このチャンスを逃してなるものか。
「殿下は、私に対して決闘を申し込んだのよ。だったら、私自身が受けても問題ないでしょう。兵士の皆様方は、観客席で観戦してて下さいませ。念のため、怪我が出ないとも限りませんので回復薬の用意をお願いします」
「リリアン様が戦うのは承服出来かねます」
 ニコー少佐が真っ青な顔で止めてくるが、笑み一つで封じた。
 満面の笑みなのに、何が怖かったのか青から白へと顔色が変わった。
 訓練場の中央にいるアルベルトの前に立ち、再度確認をした。
「これは、殿下から決闘を申し込んだのです。怪我をされたとしても自己責任でしてよ。誰も処罰させませんし、その権限も殿下にはありません。魔法は使わない。剣術での勝負で宜しいですね?」
「ああ、良いぞ。剣術で俺に勝てると思うなよ」
 刃が潰れた剣を私と王子それぞれに渡される。
 それぞれ所定の位置につき、ニコー少佐に合図を送るとヤケになったのか「始め!」と合図を出した。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...