66 / 181
幼少期
無能王子にお金を教えることになってしまった
しおりを挟む
アングロサクソン領にアルベルトを招いて、私と一緒に勉強漬けの日々を送っている。
私の天使たちに沢山の知育玩具とベビー服を持って母の部屋に突撃したら怒られた。
曰く、絵本はともかく服は直ぐに着れなくなるし、玩具は早い。
要約すると無駄遣いするなだとさ。
私が稼いだお金なんだから良いじゃんと主張したかったが、母が怖くて出来なかった。
アルベルトが、私の天使たちに何するか分からないので絶対に近付かせないように屋敷の者には通達済みである。
そして、立ち入り禁止地区に近付いたら警告と称して水の精霊にお願いして鼻に冷たい水を入れてくれと頼んだ。
案の定、立ち入り禁止の場所に入ろうとして悶絶しているアルベルトがいた。
精霊達は、その様子を見ながらゲラゲラ笑い転げている。
庭を歩けば精霊が土ボコを作って転がし、癇癪を起して誰かに当たろうとすると突風が吹いて転倒する。
終いには、寝ているアルベルトに向かってこむら返りにしたれと水と風の精霊が足を冷やしていたりとやりたい放題だ。
もうね、私が手を下す必要なくない? と思っちゃったよ。
アルベルトは、客室・ダンスフロア・ダイニングルームと訓練場のみ行き来が可能。
それ以外の場所に行きたければ、自作テストで90点取れと提示したら癇癪を起されたので、アルベルトに貸した歴史漫画から問題を出題して解くように命令したよ。
物凄く嫌がっていたけど、ずっと同じ漫画を読んでいたから覚えたんだろうね。
満点とはいかなかったが、91点とギリギリだけどボーダーラインは越えた。
「いつも一桁ですのに、やれば出来るではありませんか。約束は約束ですわ。それで、どちらに行かれたいのです?」
これでアルベルトのやる気スイッチは、少しくらい入っただろうか。
「本気を出せばこんなもんだ。まずは、街で買い物をする」
ドヤ顔をしているが、これは歴史のごく一部でしかない。
他にも色々学ぶことは多いのだが、今ここで言ったら逆効果になりそうだ。
「買い物をすると申されましても、アルベルト様はお金を持っていらっしゃるのかしら?」
「お金? 何だそれは?」
まさか、お金という概念すら知らなかったのだろうか。
貴族の子息が、お金に触れる機会は少ないかもしれない。
しかし、お金という概念やその価値を知らないということはあり得ない。
平民と異なり、貴族は幼少から勉強をする。
一般常識から帝王学まで幅広く、時には多言語を複数覚えることも必須になることもある。
ここまで馬鹿だとは、私の予想をはるかに超えて来るとは思わなかった。
夢であって欲しい、寧ろ夢であれ!
私は、手で顔を覆い重い溜息は吐いた。
傍に控えていたユリアに視線を移すと、彼女は一礼して部屋を退出していった。
「実際に見て覚えた方が早いでしょう。少しお待ちになって」
お金について教えることになろうとは思わなかった。
当たり前に存在し、いつの間にか使っていた。
お金は色んなものと交換できる価値ある物と自然と覚えたのは何故だろう。
さっぱり思い出せない。
どう説明しようかと頭を悩ませていたら、ユリアが戻ってきた。
「リリアン様、お持ち致しました」
この国に紙幣はない。
全て硬貨でやり取りされている。
イーサント国の硬貨の種類は全部で7種類ある。
青銅貨1枚が日本円で約10円相当する。
銅貨1枚が100円、銀貨1枚が1000円、大銀貨1枚が1万円、金貨1枚が10万円、中金貨1枚が100万円、大金貨1枚が1000万円となる。
見本で触れさせることが出来るのは大銀貨までだ。
ユリアもそう認識していたのか、トレイの上には大銀貨までしか置かれていない。
「殿下、これがお金ですわ。我が国のお金は全て硬貨で御座います。硬貨は7種類あり、青銅貨・銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・中金貨・大金貨があります。金貨から上は、お城に戻られてからご自身の目でお確かめ下さい。どうぞ手に取ってご覧下さいませ」
テーブルの上にトレイを置くと、アルベルトがコインに手を伸ばして触っている。
「随分と汚れているな」
「この国で流通している硬貨で御座います。作られてから色んな人達の手に渡っております。汚れもするでしょう」
「うわっ! そんなものを俺に触らせたのか!!」
「毎年古い硬貨を回収して新しい硬貨を発行するのは事実上不可能なのですよ。この硬貨が古くても新しくても同じ価値を持っています。硬貨で様々な物と交換が出来るのは、お金を発行している国がその価値を保証しているからです。ここまでは分かりましたか?」
「わ、分かるに決まっているだろう!」
私の説明に、アルベルトは何一つ理解出来てないようだ。
うーん、これはお金の使い方から教える必要がありそうだ。
「では、今から何か頼んだり欲しい物を用意する度にお金をお渡し下さい。流石に、本物のお金はお渡し出来ません。こちらをお使い下さい」
天使たちの為に作った知育玩具の一つ『こども硬貨』と書かれた木の玩具である。
より本物に近くなるように、色や造形に拘った。
硬貨より嵩張るけれど、お金の使い方・計算の仕方を覚えるにはこの上ない玩具だ。
「1日こども銀貨10枚お渡しします。殿下付きの護衛に、して欲しいことや欲しい物がある時に、護衛が提示する金額をお渡し下さい。何を幾らで払ったのか書き留めて下さいませ。夕飯前に照らし合わせますので、ちゃんと計算出来なければ夕飯は食べれません」
「横暴だぞ!!」
「あら? 計算に自信がないのですか? そうですか。では、街で買い物をすることも出来ませんわね」
アルベルトを軽く挑発すると、
「出来るに決まってるだろう!」
「では、頑張って下さいませ。もし、計算の仕方が分からないならアングロサクソン家秘伝の計算術を教えて差し上げますわ。その時は、声をお掛け下さいませ」
「誰がお前なんかに…」
おーおー、歯軋りが凄いこと。
チョロ過ぎるが、やる気になってくれたのは結構なことだ。
ユリアに本日の護衛二人にこども硬貨を渡してくるのと同時におつりは態と間違えて良しと伝言も添えて送り出した。
当然、その日のアルベルトの夕飯はありませんでした。
私の天使たちに沢山の知育玩具とベビー服を持って母の部屋に突撃したら怒られた。
曰く、絵本はともかく服は直ぐに着れなくなるし、玩具は早い。
要約すると無駄遣いするなだとさ。
私が稼いだお金なんだから良いじゃんと主張したかったが、母が怖くて出来なかった。
アルベルトが、私の天使たちに何するか分からないので絶対に近付かせないように屋敷の者には通達済みである。
そして、立ち入り禁止地区に近付いたら警告と称して水の精霊にお願いして鼻に冷たい水を入れてくれと頼んだ。
案の定、立ち入り禁止の場所に入ろうとして悶絶しているアルベルトがいた。
精霊達は、その様子を見ながらゲラゲラ笑い転げている。
庭を歩けば精霊が土ボコを作って転がし、癇癪を起して誰かに当たろうとすると突風が吹いて転倒する。
終いには、寝ているアルベルトに向かってこむら返りにしたれと水と風の精霊が足を冷やしていたりとやりたい放題だ。
もうね、私が手を下す必要なくない? と思っちゃったよ。
アルベルトは、客室・ダンスフロア・ダイニングルームと訓練場のみ行き来が可能。
それ以外の場所に行きたければ、自作テストで90点取れと提示したら癇癪を起されたので、アルベルトに貸した歴史漫画から問題を出題して解くように命令したよ。
物凄く嫌がっていたけど、ずっと同じ漫画を読んでいたから覚えたんだろうね。
満点とはいかなかったが、91点とギリギリだけどボーダーラインは越えた。
「いつも一桁ですのに、やれば出来るではありませんか。約束は約束ですわ。それで、どちらに行かれたいのです?」
これでアルベルトのやる気スイッチは、少しくらい入っただろうか。
「本気を出せばこんなもんだ。まずは、街で買い物をする」
ドヤ顔をしているが、これは歴史のごく一部でしかない。
他にも色々学ぶことは多いのだが、今ここで言ったら逆効果になりそうだ。
「買い物をすると申されましても、アルベルト様はお金を持っていらっしゃるのかしら?」
「お金? 何だそれは?」
まさか、お金という概念すら知らなかったのだろうか。
貴族の子息が、お金に触れる機会は少ないかもしれない。
しかし、お金という概念やその価値を知らないということはあり得ない。
平民と異なり、貴族は幼少から勉強をする。
一般常識から帝王学まで幅広く、時には多言語を複数覚えることも必須になることもある。
ここまで馬鹿だとは、私の予想をはるかに超えて来るとは思わなかった。
夢であって欲しい、寧ろ夢であれ!
私は、手で顔を覆い重い溜息は吐いた。
傍に控えていたユリアに視線を移すと、彼女は一礼して部屋を退出していった。
「実際に見て覚えた方が早いでしょう。少しお待ちになって」
お金について教えることになろうとは思わなかった。
当たり前に存在し、いつの間にか使っていた。
お金は色んなものと交換できる価値ある物と自然と覚えたのは何故だろう。
さっぱり思い出せない。
どう説明しようかと頭を悩ませていたら、ユリアが戻ってきた。
「リリアン様、お持ち致しました」
この国に紙幣はない。
全て硬貨でやり取りされている。
イーサント国の硬貨の種類は全部で7種類ある。
青銅貨1枚が日本円で約10円相当する。
銅貨1枚が100円、銀貨1枚が1000円、大銀貨1枚が1万円、金貨1枚が10万円、中金貨1枚が100万円、大金貨1枚が1000万円となる。
見本で触れさせることが出来るのは大銀貨までだ。
ユリアもそう認識していたのか、トレイの上には大銀貨までしか置かれていない。
「殿下、これがお金ですわ。我が国のお金は全て硬貨で御座います。硬貨は7種類あり、青銅貨・銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・中金貨・大金貨があります。金貨から上は、お城に戻られてからご自身の目でお確かめ下さい。どうぞ手に取ってご覧下さいませ」
テーブルの上にトレイを置くと、アルベルトがコインに手を伸ばして触っている。
「随分と汚れているな」
「この国で流通している硬貨で御座います。作られてから色んな人達の手に渡っております。汚れもするでしょう」
「うわっ! そんなものを俺に触らせたのか!!」
「毎年古い硬貨を回収して新しい硬貨を発行するのは事実上不可能なのですよ。この硬貨が古くても新しくても同じ価値を持っています。硬貨で様々な物と交換が出来るのは、お金を発行している国がその価値を保証しているからです。ここまでは分かりましたか?」
「わ、分かるに決まっているだろう!」
私の説明に、アルベルトは何一つ理解出来てないようだ。
うーん、これはお金の使い方から教える必要がありそうだ。
「では、今から何か頼んだり欲しい物を用意する度にお金をお渡し下さい。流石に、本物のお金はお渡し出来ません。こちらをお使い下さい」
天使たちの為に作った知育玩具の一つ『こども硬貨』と書かれた木の玩具である。
より本物に近くなるように、色や造形に拘った。
硬貨より嵩張るけれど、お金の使い方・計算の仕方を覚えるにはこの上ない玩具だ。
「1日こども銀貨10枚お渡しします。殿下付きの護衛に、して欲しいことや欲しい物がある時に、護衛が提示する金額をお渡し下さい。何を幾らで払ったのか書き留めて下さいませ。夕飯前に照らし合わせますので、ちゃんと計算出来なければ夕飯は食べれません」
「横暴だぞ!!」
「あら? 計算に自信がないのですか? そうですか。では、街で買い物をすることも出来ませんわね」
アルベルトを軽く挑発すると、
「出来るに決まってるだろう!」
「では、頑張って下さいませ。もし、計算の仕方が分からないならアングロサクソン家秘伝の計算術を教えて差し上げますわ。その時は、声をお掛け下さいませ」
「誰がお前なんかに…」
おーおー、歯軋りが凄いこと。
チョロ過ぎるが、やる気になってくれたのは結構なことだ。
ユリアに本日の護衛二人にこども硬貨を渡してくるのと同時におつりは態と間違えて良しと伝言も添えて送り出した。
当然、その日のアルベルトの夕飯はありませんでした。
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる