お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

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幼少期

無能王子にお金を教えることになってしまった

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 アングロサクソン領にアルベルトを招いて、私と一緒に勉強漬けの日々を送っている。
 私の天使たちに沢山の知育玩具とベビー服を持って母の部屋に突撃したら怒られた。
 曰く、絵本はともかく服は直ぐに着れなくなるし、玩具は早い。
 要約すると無駄遣いするなだとさ。
 私が稼いだお金なんだから良いじゃんと主張したかったが、母が怖くて出来なかった。
 アルベルトが、私の天使たちに何するか分からないので絶対に近付かせないように屋敷の者には通達済みである。
 そして、立ち入り禁止地区に近付いたら警告と称して水の精霊にお願いして鼻に冷たい水を入れてくれと頼んだ。
 案の定、立ち入り禁止の場所に入ろうとして悶絶しているアルベルトがいた。
 精霊達は、その様子を見ながらゲラゲラ笑い転げている。
 庭を歩けば精霊が土ボコを作って転がし、癇癪を起して誰かに当たろうとすると突風が吹いて転倒する。
 終いには、寝ているアルベルトに向かってこむら返りにしたれと水と風の精霊が足を冷やしていたりとやりたい放題だ。
 もうね、私が手を下す必要なくない? と思っちゃったよ。
 アルベルトは、客室・ダンスフロア・ダイニングルームと訓練場のみ行き来が可能。
 それ以外の場所に行きたければ、自作テストで90点取れと提示したら癇癪を起されたので、アルベルトに貸した歴史漫画から問題を出題して解くように命令したよ。
 物凄く嫌がっていたけど、ずっと同じ漫画を読んでいたから覚えたんだろうね。
 満点とはいかなかったが、91点とギリギリだけどボーダーラインは越えた。
「いつも一桁ですのに、やれば出来るではありませんか。約束は約束ですわ。それで、どちらに行かれたいのです?」
 これでアルベルトのやる気スイッチは、少しくらい入っただろうか。
「本気を出せばこんなもんだ。まずは、街で買い物をする」
 ドヤ顔をしているが、これは歴史のごく一部でしかない。
 他にも色々学ぶことは多いのだが、今ここで言ったら逆効果になりそうだ。
「買い物をすると申されましても、アルベルト様はお金を持っていらっしゃるのかしら?」
「お金? 何だそれは?」
 まさか、お金という概念すら知らなかったのだろうか。
 貴族の子息が、お金に触れる機会は少ないかもしれない。
 しかし、お金という概念やその価値を知らないということはあり得ない。
 平民と異なり、貴族は幼少から勉強をする。
 一般常識から帝王学まで幅広く、時には多言語を複数覚えることも必須になることもある。
 ここまで馬鹿だとは、私の予想をはるかに超えて来るとは思わなかった。
 夢であって欲しい、寧ろ夢であれ!
 私は、手で顔を覆い重い溜息は吐いた。
 傍に控えていたユリアに視線を移すと、彼女は一礼して部屋を退出していった。
「実際に見て覚えた方が早いでしょう。少しお待ちになって」
 お金について教えることになろうとは思わなかった。
 当たり前に存在し、いつの間にか使っていた。
 お金は色んなものと交換できる価値ある物と自然と覚えたのは何故だろう。
 さっぱり思い出せない。
 どう説明しようかと頭を悩ませていたら、ユリアが戻ってきた。
「リリアン様、お持ち致しました」
 この国に紙幣はない。
 全て硬貨でやり取りされている。
 イーサント国の硬貨の種類は全部で7種類ある。
 青銅貨1枚が日本円で約10円相当する。
 銅貨1枚が100円、銀貨1枚が1000円、大銀貨1枚が1万円、金貨1枚が10万円、中金貨1枚が100万円、大金貨1枚が1000万円となる。
 見本で触れさせることが出来るのは大銀貨までだ。
 ユリアもそう認識していたのか、トレイの上には大銀貨までしか置かれていない。
「殿下、これがお金ですわ。我が国のお金は全て硬貨で御座います。硬貨は7種類あり、青銅貨・銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・中金貨・大金貨があります。金貨から上は、お城に戻られてからご自身の目でお確かめ下さい。どうぞ手に取ってご覧下さいませ」
 テーブルの上にトレイを置くと、アルベルトがコインに手を伸ばして触っている。
「随分と汚れているな」
「この国で流通している硬貨で御座います。作られてから色んな人達の手に渡っております。汚れもするでしょう」
「うわっ! そんなものを俺に触らせたのか!!」
「毎年古い硬貨を回収して新しい硬貨を発行するのは事実上不可能なのですよ。この硬貨が古くても新しくても同じ価値を持っています。硬貨で様々な物と交換が出来るのは、お金を発行している国がその価値を保証しているからです。ここまでは分かりましたか?」
「わ、分かるに決まっているだろう!」
 私の説明に、アルベルトは何一つ理解出来てないようだ。
 うーん、これはお金の使い方から教える必要がありそうだ。
「では、今から何か頼んだり欲しい物を用意する度にお金をお渡し下さい。流石に、本物のお金はお渡し出来ません。こちらをお使い下さい」
 天使たちの為に作った知育玩具の一つ『こども硬貨』と書かれた木の玩具である。
 より本物に近くなるように、色や造形に拘った。
 硬貨より嵩張るけれど、お金の使い方・計算の仕方を覚えるにはこの上ない玩具だ。
「1日こども銀貨10枚お渡しします。殿下付きの護衛に、して欲しいことや欲しい物がある時に、護衛が提示する金額をお渡し下さい。何を幾らで払ったのか書き留めて下さいませ。夕飯前に照らし合わせますので、ちゃんと計算出来なければ夕飯は食べれません」
「横暴だぞ!!」
「あら? 計算に自信がないのですか? そうですか。では、街で買い物をすることも出来ませんわね」
 アルベルトを軽く挑発すると、
「出来るに決まってるだろう!」
「では、頑張って下さいませ。もし、計算の仕方が分からないならアングロサクソン家秘伝の計算術を教えて差し上げますわ。その時は、声をお掛け下さいませ」
「誰がお前なんかに…」
 おーおー、歯軋りが凄いこと。
 チョロ過ぎるが、やる気になってくれたのは結構なことだ。
 ユリアに本日の護衛二人にこども硬貨を渡してくるのと同時におつりは態と間違えて良しと伝言も添えて送り出した。
 当然、その日のアルベルトの夕飯はありませんでした。
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