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幼少期
飴と鞭の使い方
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食堂に入ると、一斉に皆がこちらを見た。
「リリアン様、大丈夫ですか? 倒れた時にお傍に居られなくて済みません」
小走りで駆け寄ってきたアリーシャに、私は緩く首を横に振った。
「アリーシャが気にする事じゃないわ。倒れたというより、睡眠不足による爆睡だったし」
そっと目を逸らすと、状況を理解したアリーシャが「ああ……」と呟き遠い目をしている。
「私は一週間、財務室にこもっていたけれど、アリーシャは治癒魔法の成果はどうだった?」
「はい、単身であればヒールを使うことが出来るようになりました。魔力消費も抑えられています。今は、複数の人を一度に治すエリアヒールの取得を目指しています」
元々聖魔法の素質があり、魔力コントロールも人並みよりも上手い彼女なら、エリアヒールを取得するもの時間の問題だろう。
もし、取得出来るようになったらアルベルトを実験台にして掛けて貰おう。
「頑張りなさい」
「ありがとう御座います」
アリーシャに叱咤激励を送り、本題でもある財務室勤務の神官達の前に立った。
「ユリア、彼らの中で優秀な者を三名選んで頂戴」
「アングロサクソン家から派遣された者達の報告では、灰色神官のリック、白神官のロベルト、赤神官のジョゼットの三名です。特にロベルトは、四則演算だけでなく二次関数まで取得しています」
ユリアの報告を聞いて、私の目がギラリと光る。
神官と言っても、身分制度がある。
色なしは、孤児出身の者が多く身分が一番低い。
灰色神官は、平民や商人が神官として出家するのでこちらも身分が低い。
赤神官は下級貴族、蒼神官は上級貴族、紫を着用できるのは聖女と法王だけになる。
聖女見習いは、身分に関係なく薄紫の衣を着る。
服装の色で身分を判断出来るのだが、この教会でも古き悪習がはびこっていたようだ。
難しい計算や面倒臭い書類を下級神官に押し付けてダラける姿が目に浮かぶ。
「最低限の教養を幼い頃から教えられている者よりも、白神官が優秀だなんて弛んでいる証拠ですわ。しかし、私が貸した課題を熟した者達はまずまず及第点を差し上げても良いでしょう。ロベルト、ジョゼット、リックの三名は前へ出なさい」
名指しで三人を呼ぶと、ちょっと顔が青ざめている。
私、そんなに怖い顔しているかしら?
笑みを浮かべてみると、ヒッと悲鳴が聞こえて来た。
失礼な。
ポシェットからハンカチに包んだ懐中時計を取り出して、三人に手渡した。
「聖女様、これは?」
「懐中時計ですわ。教会の花押のスズランが刻印されてますの。わたくしが、土の大精霊にお願いして作って頂きました。特別なものです。普段の行いを精霊達は見ております。わたくしが、この懐中時計を持つに値すると思った方のみに授けます。権力を笠に着て取り上げられてしまっては、元もこうもありませんから所有の証を魔法で刻みますわ。血をスズランの彫刻に垂らしなさい」
待ち針を手渡すと、三人とも指先に針を刺して血を垂らした。
ちゃんと登録は出来たようだ。
その光景を羨ましそうに見つめる他の面々に、私は笑みを浮かべて言った。
「皆さまの頑張りを正当に評価し、見合うだけのものを下賜しますわ。シェリーは、明日から教会の清掃へ部署移動して下さいませ。今使っている部屋は、今日中に私物を整理して清掃をする神官達と寝食を共にして貰います」
「何故ですか!? 横暴です!!」
バイバインのオッパイを揺らしながら文句を言うシェリーに、私はゴミ虫を見るような目で言った。
「財務は、教会の要でしてよ。幾ら徳が高かろうが、金が無くては何も出来ませんわ。精霊の怒りを買って前法王とその取り巻きが、皆左遷されたのはご存じでしょう。お布施も減り、食事の質も落ちたと伺っております。白神官だろうが、色付き神官だろうが無能は等しく害であることを理解しなさい。わたくしがいる以上、教会に無能を養うことは致しません。実力がある者は、身分にかかわらず取り立てます」
無能は要らないから、取り合えず引っ込め的な事を言うとシェリーは押し黙った。
私の言葉に歓喜する者も居れば、危機感を持つ者もいた。
「勤怠に応じて、昇格・降格を行います。神官服の撤廃は致しません。しかし、今後は出生に関わらず実力に見合った者が位の高さに合わせて着る色の衣を変えます。勿論、使っている部屋の移動も位に合わせて移動させます」
そこまで一気に言うと、食堂が一気にざわついた。
下剋上上等と宣言したからね。
今よりも好待遇を目指したい野心家は、願ったり叶ったりの状況だろう。
逆に、今まで好き勝手してきた馬鹿達はツケが回って落ちるところまで落ちそうだ。
チラッと法王を見るも、彼は凄く良い笑顔をしていた。
あの人、色々苦労していたんだろうね。
「ユリア、アリーシャ、食事にしましょう。明日からは、忙しくなるわよ」
主に財務の部分が、とは言わないでおく。
我が家から派遣された面々は、引き続き四則演算と最低限の教養を教える臨時家庭教師をして貰うことになった。
多少性格に難があっても、仕事さえキッチリとこなしてくれれば文句はない。
ロベルトは、是非ともアングロサクソン家に引き抜きたい。
一度、フリックに頼んでロベルトの過去を洗って貰おうかしら。
良い人材が育ったら、聖女降板する時にでも根こそぎ持って行くのもありよね。
フフフと笑みを浮かべながら、質素な夕食をモリモリと食べていた。
「リリアン様、大丈夫ですか? 倒れた時にお傍に居られなくて済みません」
小走りで駆け寄ってきたアリーシャに、私は緩く首を横に振った。
「アリーシャが気にする事じゃないわ。倒れたというより、睡眠不足による爆睡だったし」
そっと目を逸らすと、状況を理解したアリーシャが「ああ……」と呟き遠い目をしている。
「私は一週間、財務室にこもっていたけれど、アリーシャは治癒魔法の成果はどうだった?」
「はい、単身であればヒールを使うことが出来るようになりました。魔力消費も抑えられています。今は、複数の人を一度に治すエリアヒールの取得を目指しています」
元々聖魔法の素質があり、魔力コントロールも人並みよりも上手い彼女なら、エリアヒールを取得するもの時間の問題だろう。
もし、取得出来るようになったらアルベルトを実験台にして掛けて貰おう。
「頑張りなさい」
「ありがとう御座います」
アリーシャに叱咤激励を送り、本題でもある財務室勤務の神官達の前に立った。
「ユリア、彼らの中で優秀な者を三名選んで頂戴」
「アングロサクソン家から派遣された者達の報告では、灰色神官のリック、白神官のロベルト、赤神官のジョゼットの三名です。特にロベルトは、四則演算だけでなく二次関数まで取得しています」
ユリアの報告を聞いて、私の目がギラリと光る。
神官と言っても、身分制度がある。
色なしは、孤児出身の者が多く身分が一番低い。
灰色神官は、平民や商人が神官として出家するのでこちらも身分が低い。
赤神官は下級貴族、蒼神官は上級貴族、紫を着用できるのは聖女と法王だけになる。
聖女見習いは、身分に関係なく薄紫の衣を着る。
服装の色で身分を判断出来るのだが、この教会でも古き悪習がはびこっていたようだ。
難しい計算や面倒臭い書類を下級神官に押し付けてダラける姿が目に浮かぶ。
「最低限の教養を幼い頃から教えられている者よりも、白神官が優秀だなんて弛んでいる証拠ですわ。しかし、私が貸した課題を熟した者達はまずまず及第点を差し上げても良いでしょう。ロベルト、ジョゼット、リックの三名は前へ出なさい」
名指しで三人を呼ぶと、ちょっと顔が青ざめている。
私、そんなに怖い顔しているかしら?
笑みを浮かべてみると、ヒッと悲鳴が聞こえて来た。
失礼な。
ポシェットからハンカチに包んだ懐中時計を取り出して、三人に手渡した。
「聖女様、これは?」
「懐中時計ですわ。教会の花押のスズランが刻印されてますの。わたくしが、土の大精霊にお願いして作って頂きました。特別なものです。普段の行いを精霊達は見ております。わたくしが、この懐中時計を持つに値すると思った方のみに授けます。権力を笠に着て取り上げられてしまっては、元もこうもありませんから所有の証を魔法で刻みますわ。血をスズランの彫刻に垂らしなさい」
待ち針を手渡すと、三人とも指先に針を刺して血を垂らした。
ちゃんと登録は出来たようだ。
その光景を羨ましそうに見つめる他の面々に、私は笑みを浮かべて言った。
「皆さまの頑張りを正当に評価し、見合うだけのものを下賜しますわ。シェリーは、明日から教会の清掃へ部署移動して下さいませ。今使っている部屋は、今日中に私物を整理して清掃をする神官達と寝食を共にして貰います」
「何故ですか!? 横暴です!!」
バイバインのオッパイを揺らしながら文句を言うシェリーに、私はゴミ虫を見るような目で言った。
「財務は、教会の要でしてよ。幾ら徳が高かろうが、金が無くては何も出来ませんわ。精霊の怒りを買って前法王とその取り巻きが、皆左遷されたのはご存じでしょう。お布施も減り、食事の質も落ちたと伺っております。白神官だろうが、色付き神官だろうが無能は等しく害であることを理解しなさい。わたくしがいる以上、教会に無能を養うことは致しません。実力がある者は、身分にかかわらず取り立てます」
無能は要らないから、取り合えず引っ込め的な事を言うとシェリーは押し黙った。
私の言葉に歓喜する者も居れば、危機感を持つ者もいた。
「勤怠に応じて、昇格・降格を行います。神官服の撤廃は致しません。しかし、今後は出生に関わらず実力に見合った者が位の高さに合わせて着る色の衣を変えます。勿論、使っている部屋の移動も位に合わせて移動させます」
そこまで一気に言うと、食堂が一気にざわついた。
下剋上上等と宣言したからね。
今よりも好待遇を目指したい野心家は、願ったり叶ったりの状況だろう。
逆に、今まで好き勝手してきた馬鹿達はツケが回って落ちるところまで落ちそうだ。
チラッと法王を見るも、彼は凄く良い笑顔をしていた。
あの人、色々苦労していたんだろうね。
「ユリア、アリーシャ、食事にしましょう。明日からは、忙しくなるわよ」
主に財務の部分が、とは言わないでおく。
我が家から派遣された面々は、引き続き四則演算と最低限の教養を教える臨時家庭教師をして貰うことになった。
多少性格に難があっても、仕事さえキッチリとこなしてくれれば文句はない。
ロベルトは、是非ともアングロサクソン家に引き抜きたい。
一度、フリックに頼んでロベルトの過去を洗って貰おうかしら。
良い人材が育ったら、聖女降板する時にでも根こそぎ持って行くのもありよね。
フフフと笑みを浮かべながら、質素な夕食をモリモリと食べていた。
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