お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

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幼少期

女装は強制的に伝染するようです

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 アルベルトの提案で、私は通信具を使って家に電話をかけた。
「はい、アングロサクソン邸で御座います」
「リリアンよ。フリック、余所行きの新作ワンピースと靴とカツラを五人分王城へ持ってきて頂戴。服は被らないようにお願いね。サイズはMが一着とLが四着ですわ。靴は、全てLサイズでお願い。隠密に長けた護衛を数名寄こしてくれる」
「畏まりました。ニ十分ほどでお届けします」
「頼むわね。じゃあ」
 プチッと回線を切り、男衆に向き直る。
「貴方たちは貴族の御令息です。城下では何が起こるか分かりませんわ。変装した上で視察を行います。変装用の服や靴は今持って来させております。殿下は個人資産があるので買い物が可能ですが、貴方たちはお金持ってますか? 身分を隠すためツケは出来ませんよ?」
 そう言うと、五人は顔を見合わせている。
 まあ、高位貴族がお金を持ち歩くこと自体殆どないことだ。
「リリアン個人で様々な事業を展開している。そこで提案なんだが、モデルの絶対数が少ない。専属モデルになれば、写真一枚で銀貨三枚支払われる。城下へ行ったなんて知られたら親にも怒られるだろう。自分で稼いだお金なら好きなものが帰るぞ。小遣い稼ぎをしてみないか?」
 アルベルトにも紹介料が入るから必死だね。
「俺は、構わないが」
 最初に名乗り出たのは、ロンギヌスだった。
「因みにどちらの商会ですか?」
 カエサルは、支払うだけの財力があるのか疑う目で見てくる。
 あまり公言したくはなかったが、モデルが増えるのなら仕方がない。
「ヘリオト商会ですわ」
 その言葉に、アルベルト以外はビックリしている。
 アルベルトは、商会の名前を聞いてもピンと来ないだろう。
 興味がないものを覚えない特性があるからな。
「モデルをするとなれば、必然的にヘリオト商会のモデルと繋がりが持てる。分かりました。僕もやります」
 ルークはヘリオト商会との繋がりが欲しいのか、即決で決めた。
「僕は、どっちでも良いかな。城下で面白いものがあるか分からないし」
「私も欲しいものは、商会を家に呼べば済むだけですので別に興味はありませんね」
 この二人は、意外と冷静に判断し貴族らしい対応を返してきた。
「目の前で買い食いされていても、口に指を咥えて見ているだけですのね。可哀そうに。後、ヘリオト商会では、貴族だろうと伺うことはしませんよ。欲しい方は、皆様足しげく通って頂けますわ。それに、幼少期に自分で稼いだお金でプレゼントを買ったり出来るチャンスがあるのは特権ですよ? 将来、爵位を継ぐなどしてお金を稼ぐと思いますが、予行演習だと思えばお金のありがたみが分かると思いますわ」
 ペラペラと耳障りの良い言葉を並べたくり煽ると、心を動かされたのかスピネルもカルセドニーも最終的にはモデルになると言ってくれた。
 その場で精霊魔法を使った誓約書を書き手渡す。
 基本的な文章はアングロサクソン語にしたが、肝心な部分だけ神言しんごんを使った。
「では、これにサインして血判を押して下さいませ。きちんと誓約書ですわ」
 サッと目を通して、皆サインと血判を押させた。
 これでレパートリー豊富な女性モデル要員の確保が出来た。
「今回視察中に写真を幾つか収めますが、報酬金は出ませんのでご注意下さい。この部屋で撮影した分に関しては、ちゃんとお支払い致しますわ」
 満面の笑みを浮かべて言うと、ルークがそれに反論した。
「写真の枚数に応じて支払われるなら、視察中も含まれるのではないか?」
「そうしたいのは山々ですが、本来予定の無かったことですのでご容赦下さいませ」
 ゴリ押しでねじ込んできたアルベルトに文句を言えと暗に訴えると、ルークもそれ以上追及出来ないと悟ったのか口を噤んだ。
 男衆を言いくるめたタイミングで、フリックとユリア・護衛達が荷物を抱えて部屋に入ってきた。
 トランク四個もある。
 全身コーディネートするために、フリックとユリアがカタログの原画を見て用意したのだろう。
「私は、別室で着替えさせて頂きますわ」
 ユリアを連れて、私は別室で町娘風お洒落着赤のワンピースに着替えた。
 髪は、一旦解いてハーフアップに直して貰う。
 ピンクレースのチョーカーを着けて、同じ色のペタンコ靴を履き、チェーンのショルダーバッグを肩に掛けて完成だ。
 姿見で確認すると、豪商の令嬢がお忍びで来ている感じになって良い、
「今年は、グラデーション系の服を流行らせるわよ。どこのドレスもフリルばっかりで飽き飽きしていたのよ。サマードレスは、レースをふんだんに使って作りたいわ」
「お嬢様、こちらの髪留めをして下さい」
「あら、もう出来たの?」
「試作品なので、一般的な茶髪なら可能だそうです」
 そう言いながら、ユリアはスズランの髪飾りを挿してくれた。
 すると。ゆっくりと髪の色が金髪から茶髪へと変わっていくが、ところどころメッシュになっている。
「髪色を変えられる魔道具を作ってくれるように依頼したけど、折角のワンピースに合わないわ。外しても良い?」
「そんな事はありませんよ。化粧で印象を変えれば大丈夫です」
 そう言いながら、サッと化粧道具を取り出して私の顔に施し始める。
 キツイ釣り目は、アイシャドウとアイライナーでたれ目風に演出された。
 明るいグレーのパールが入ったアイシャドウで、パッと柔らかくスッキリとしたイメージに仕上がった。
 唇はマッドオレンジを使用している。
「爪も整えますか?」
「そうね。艶が出る程度で良いわ。ネイルしている時間はないし」
 そう言うと、ユリアは手早く爪を整えてくれた。
 変装が完了したので、アルベルトの部屋へ行きノックをする。
「殿下、お着換えは終わりましたか? 入っても宜しいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
 そう言われて入ってみると、アルベルトとご友人は完璧な令嬢へと変貌していた。
 特にスピネルは、深窓の令嬢と思えるほどの変貌っぷりだ。
「まあ、素敵に仕上がりましたわね。では、何枚か撮影しましょう。殿下、隣のゲストルームを借りても宜しくて?」
「良いぞ」
 アルベルトは慣れた様子で、私をゲストルームに案内した。
 唖然としている男の娘五人衆をフリックが追い立てて、あれこれ指示を出しながら写真をザッと十枚撮った。
「視察前なので、この写真に対しての報酬は支払いますわ。城下では、大銀貨を使う機会は少ないので三分の一は大銀貨でお支払いしますわ。フリック」
 フリックは、用意していた小袋に大銀貨一枚と銀貨二十枚入った袋を五人に手渡している。
 私は、彼らに見えないようにアルベルトに大銀貨四枚・金貨一枚を支払った。
 アルベルトは臨時収入で喜んでいるが、お友人たちは微妙な顔をしている。
 これからが、メインイベントだ。
「さあ、お忍びでの視察に参りますわよ! くれぐれも、わたくしの護衛の言う事は聞いて下さいませ。効かない場合は、即中止致しますからね」
 私は、張り切って女装した男の娘たちを引き連れて城下へ視察と言う名の市場調査と撮影に繰り出した。
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