お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
165 / 181
オブシディアン領で労働中

サンドバッグ2号爆誕

しおりを挟む
 笑みを浮かべる私と比例して、コレットの表情は硬い。
 あっさりと実母たちを捨てているので情は無いと思っていたが、意外とそうではなかったようだ。
「……何をさせるつもり」
「わたくしの手駒になりなさい。そうね、今のところは貴女が持っている乙女ゲームの知識かしら。私側につけば、貴女の実母たちは守ってあげるわ。ただ、ピューレ現当主は無理ね。貴女がこさえた借金と賠償金で首が回らなくなるでしょうし、そうなれば領地管理能力なしと国に判断されて没収されるわ。彼も貴方も貴族でなくなるの。理解できたかしら?」
 どう転んでも貴族の位を剥奪されるところまでやらかしている。
 その原因はコレットなのだが、私からすればそんなことは関係ない。
 私の手駒となりピューレ当主を捨てて実母たちを守るか、もう一度平民として野に放たれるかだ。
 まあ、コレットがこさえた負債額を考えれば良くて娼館落ち、悪ければ他国へ養子と言う名の奴隷落ち。
「……………少し考えさせて」
 長い沈黙の後に、コレットの絞り出した言葉を一刀両断する。
「嫌です。わたくし、貴女に付き合ってあげるほど暇ではなくてよ。今、この場で決めなさい」
 そう答えを突きつけると、コレットは歯軋りをしながら是と答えた。
「~~~ッ!! 分かったわよ。やるわ! これで良い?」
「その決意表明は何? 馬鹿にしているの? わたくしは、使えるべき主人なのよ。きちんとした言葉遣いをなさい。後、わたくしは口約束など信用していないの。フリック、例の物を持ってきて頂戴」
「どうぞ」
 私の欲しいものをサッと差し出すフリックの仕事ぶりに惚れる!
 本当にうちの執事は、有能過ぎて困る。
 アングロサクソン語で書かれた契約書を受け取り、コレットの前にペンと共に渡した。
 所々、漢文も交じっているが気にしない。
 コレットの学力は、日本の中学1年生くらいだ。
 アルベルトの口車に乗るくらいだもの。
 ちゃんと読まずにサインすると思うが、念には念を入れた方が良いと判断して漢文交りの誓約書を作成した。
「……ねえ、ここの文字は何て書いてあるの? どうして、ここだけ漢字なのよ」
 チッ、引っかからなかったか。
 私の思惑に反して、コレットは漢文のところをしきりに気にしている。
「精霊魔法を使った誓約書だから神言しんごんが所々に使われているんですよ。その程度の文章も読めないのですか? 自称転生者が呆れますわ」
 答えてやっても良いが、そんな義理は無いので煽ってみることにした。
「馬鹿にしないで! ふ、ふん!! これくらい私だって分かるんだからね」
 そう怒鳴り返して、勢いよくサインした。
 やっ・た・ぜ! これでサンドバッグ2号ゲットだ。
「わたくしの命令は絶対順守。コレット、最初の命令よ。四つん這いになり、その場で三回まわってワンと鳴いた後に、『リリアン様、申し訳ありませんでした。私の愚かさをお許しください』と土下座しながら謝罪しなさい!」
 コレットはその言葉に顔を真っ赤にしていたが、私の言葉通り椅子から降りてテーブルの周りを3回まわってワンと鳴いた後に、一言一句違わぬ屈辱的な謝罪をした。
 これが、神言しんごんを使った誓約書の効果だ。
 頭に血が上ってサインをしなければ、こんな無様な姿を晒すことはなかっただろうに。
 本当に残念だ。
「何をしたの!? 魔法で私を操ったのね!」
「金切り声で喋るのを止めて下さる? 言葉遣いも制限した方が良いかしら」
 チラッとコレットを見ると、プルプルと肩を震わせながら口をギュッと噤んだ。
 先程の三回まわってワンと土下座謝罪が利いたようだ。
「誓約書にサインしたでしょう。あの誓約書は、分かりやすく言えば、わたくしに対する絶対服従を結ぶもの。命令すれば、貴女がどう思おうと身体が命令に従うようになるの。だから、口の利き方や態度には気を付けあそばせ。殺生与奪の権利をわたくしが握っていることを忘れないでね。フリック、コレットの教育を頼むわ。後、ピューレ家が没落するまではコレットの所在が分からないように偽装をしておいて頂戴。コレット、貴女が言っていた乙女ゲームの情報を報告書に纏めて1週間以内に提出しなさい。出来るだけ詳しく丁寧に書いて頂戴ね。後、このやかたから出ることは当面禁止するわ。不要なことを喋るのも禁止。必要かどうかはフリックが判断して頂戴」
「畏まりました。お嬢様の希望に沿えるように教育したいと思います」
 ペンと誓約書を回収し終えたフリックは、コレットの襟首を掴むと綺麗な礼をして部屋を出て行った。
 仕事が早くて何よりです。
 まあ、これでコレットの身柄は抑えられた。
 使いようによっては、有効なカードになるかもしれないが、フリックの教育次第と言ったところだろうか。
 サンドバッグ2号が、手に入って少し気分が良い。
 ムカついたら、今度はブタの真似でもやらせようかななどと思っていた。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...