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オブシディアン領で労働中

エリザベート・バーバリーの苦悩1

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 私は、エリザベート・バーバリー。社交界の貴婦人と謳われ、現王妃のマナー講師を務めたこともある。
 そんな私を言葉も理解できない、喋らないと噂の公爵令嬢のマナー講師として指名された時は、怒りで扇子をへし折ってしまったわ。
 実際は、流暢な言葉で挨拶をされて面食らったものだ。
 言葉遣いは直ぐに及第点に届いたものに、仕草や立ち居振る舞いは目を覆いたくなるほど酷かった。
 そこさえ直せば、完璧な淑女になれるというのに。
 当の本人に、その意思があまり感じられず、つい指導に熱が籠ってしまい敵愾心を向けられるとは思いもよらなかった。
 彼女は、多彩で優秀な子だ。
 頭の回転も悪くない。
 時々素を見せる爪の甘い部分はあるが、私が指導した子の中で一番優秀だと太鼓判を押せる。
 将来は婿を取ることを踏まえたうえで厳しく教育していたというのに、王家から横槍が入りお気に入りの扇子を握り潰してしまったのは苦い思い出である。
 リリアンが大精霊の加護を得たことで、彼女を取り巻く環境が一変し急激に物事が回り始めた。
 アンジェリカ妃の二の舞にはしたくない。
 しかし、一介の講師が口を挟めるはずもない。
 せめて、リリアンが苦労しないようにと考えて従姉のエミル・アンダーソン侯爵夫人に王妃教育をして貰うように根回しをした。
 彼女は、リリアンに対し懐疑的な部分がある。
 それで良い。
 リリアンが王妃になることを望んでいない事は、早々にエミルからアンジェカ妃に伝わるだろう。
 あの小賢しく聡い娘の事だ。
 この国の実権を握っているアンジェリカ妃に対し、リリアンは私の予想を上回る行動で応えてくれた。
 寵姫や王など眼中になく、ただアンジェリカ妃のみに忠義を示したのだ。
 アルベルトを次期王と認めないという意思表示を分かりやすく、結果アンジェリカの懐妊で示した。
 アンジェリカ妃の懐妊後も、手を回して警備を厚くしたり、贈り物をしたりと二人の仲は良好と言えるだろう。
 エミルも、アンジェリカ妃の懐妊にリリアンが手を貸したこともあり、懐疑的な目で見ていたのを改めたようだ。
 リリアンの有用性を見出し、欲を出した者達は精霊達によって粛清された。
 その最もたるのは、王だろう。
 アンジェリカ妃が実権を握っていなければ、暗愚王が国を乱し精霊の怒りを買って国が滅んでいただろう。
 リリアンの懇願のお陰で滅亡は免れたが、相応の代償も払うことになったと聞く。
 その辺りは、噂程度で小耳に挟んだくらいで真相は私も知りえない。
 リリアンが立派な淑女になり、王妃教育も順調であるとエミルから報告を受けて一息吐いていた頃に、また呼び出された。
 もう教えることは無いのにと思いつつ足を運ぶと、リリアンの隣にアルベルトがいた。
 どういうことかとリリアンの父ジョーズを問い詰めると、アンジェリカ妃の息子に危害を加えないために隔離しているという。
 ついでにアングロサクソン領に滞在している間、アルベルトが学園に入っても恥ずかしくない程度にはマナーを習得させたいのだとリリアンたっての願いだという。
 断ろうかとも思ったが、リリアンから見てアルベルトのマナーの悪さは目に余るものがあるのだろう。
 私は、渋々その役目を引き受けた。
 引き受けた後で物凄く後悔したのは言うまでもない。
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